切迫早産(総論)

切迫早産(Threatened Preterm Labor/Delivery)とは

早産期(妊娠22週〜37週未満)に下腹痛、性器出血、破水などの症状に加え規則的な子宮収縮があり、内診では子宮口開大などが認められ早産の危険性が高い状態を切迫早産といいます。

文字通り早産が「切迫」していることを通常示すのですが、実際の臨床ではこの状態におちいらないよう健診での検査や処方、または入院管理などを行います。

早産の原因

絨毛膜羊膜炎による切迫早産と、前期破水が自然早産の約2/3を占めます。

早産のハイリスク群

・早産の既往

・多胎妊娠

・子宮頸部円錐切除後

・子宮頸管長の短縮(妊娠24週の経腟超音波で、頸管長がおおよそ30mm未満だと35週以前の早産リスクが高まる報告があります1))

・細菌性腟症

・前期破水

・喫煙(喫煙本数と早産率が明らかな相関関係があると日本産婦人科医会でも公表しています2))

細菌性腟症から腟炎をきたし、その後絨毛膜羊膜炎となる

乳酸桿菌を主とする腟内の正常細菌叢が複数の菌種に置き換わった状態を細菌性腟症(BV: Bacterial vaginalis)といい、この状態に炎症が起きると細菌性腟炎となるのです。

炎症が起きるとプロスタグランジンという物質が分泌され、子宮が収縮します。

その後蛋白分解酵素である顆粒球エラスターゼが分泌され、頸管熟化の要因となるのです。

子宮頸管熟化機構

子宮頸部は主にコラーゲン線維で構成され、これらが分解することにより組織が軟化・熟化しひいては子宮頸管長の短縮につながります。

炎症によりサイトカインという物質が増加し、これがコラーゲン線維・組織が分解する働きを起こします。加えて先ほど述べたプロスタグランジンが生成・分泌され、子宮収縮をもたらすのです。

(院長執筆)

参考文献

1) Iams JD. NEJM 334(9)567, 1996

2) 左合治彦. 飲酒、喫煙と先天異常 https://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/jigyo/SENTEN/kouhou/insyu.htm

妊娠と腰痛

こんにちは、副院長の石田です。

さて、腰痛は妊娠女性のお悩みとして最もよく聞かれるものの一つです。程度は人によって様々ですが、重いと極端に生活の質(QOL)を損なうことがあるためありふれた訴えだからと言って無視できません。というわけで本日は妊娠中の腰痛についてお話ししようと思います。

腰痛で困っている妊婦さんたち

こちらは報告によってばらつきがあり、かつ人種によっても違いがありそうなので一概には言えませんが、妊婦さんの実に60〜80%近くが妊娠中に腰痛を感じているとされています 1)2)。リスクとしては、妊娠前から腰痛に悩まされている、前の妊娠でも腰痛があった、多胎妊娠(双子とか)、肥満などが挙げられますが、外来で日々診察していると必ずしもこれらのリスクが無くても腰痛を訴えられる人はよくいらっしゃる印象です 3)。ちなみに妊娠が終了すると腰痛は改善する傾向があるみたいです 2)。

妊娠中に腰痛が起こりやすくなる原因

腰痛自体は様々な要因が重なり合って引き起こされますが、妊娠に限って考えると以下のような体の変化が影響しています 4)5)。
①大きくなった子宮とそれによる重心の変化に対応するために背骨の弯曲が強くなる。
②お腹が大きくなり、腹筋が引き伸ばされて弱くなることで背中を支える筋肉に過度な負担がかかるようになる 。
③妊娠によるホルモンの影響で背骨の関節が緩み、それを支えるために周りの筋肉に過度な負担がかかるようになる。
これ以外にも無意識にお腹を庇うような歩き方になって腰に負担がかかっているとか、妊娠して運動量が落ちるため筋肉量も低下して腰痛が悪くなるとか色々と理由は考えられると思いますが、いずれにしても妊娠は体に様々な形で負担を強いているということが分かりますね。

妊娠中の腰痛対策 6)

では、妊娠中に腰痛を患ってしまうのはしょうがないとして、実際にそうなってしまった時にはどうした良いのでしょうか?
まず、ヒールの高い靴は避けるようにしましょう。ヒールが高いと体が前に傾くため、姿勢を保つのに背中の筋肉に大きな負担がかかるようになります。座るときはしっかりと背中を支えてくれる背もたれがある椅子を選ぶのが良いとされますが、しっくり来ない時は小さな枕を腰のところに挟んでみると良いかもしれません。何かを持ち上げる時はしっかりと膝を曲げて屈み、背中を真っ直ぐにしたまま下半身で上げるようにしましょう。寝る際にはベッドのマットレスが柔らかすぎると腰痛を悪化させる傾向があります。また、膝を曲げて寝ると腰の負担が軽減するので抱き枕などを脚で挟んで寝るのが効果的です。運動は妊娠で歪みがちな姿勢を矯正し、各所の関節を支える筋肉を強く保つため腰痛を軽減する効果があるので推奨されています。その他「トコちゃんベルト」のような骨盤を支持するグッズも販売されており、人によってはかなり効くようなので試してみるのも良いと思います。ただ、実は巻き方が結構難しかったりするのでもし効果が実感できない場合には妊婦健診の際にかかりつけの施設で助産師さんに相談してみてください。

まとめ

というわけでいかがだったでしょうか?妊娠中の腰痛にお悩みの皆さんにとって少しでも参考になれば幸いです。ちなみに腰痛が夜間に悪化する、足の痺れや動かしにくさがある、発熱や体重減少など他の症状がある、排尿・排便などがスッキリしなくなってきたなどが見られる場合には、何か妊娠とは別の深刻な腰痛の原因が見つかることもありますので速やかに主治医に相談してみてください。

1) Wang SM, et al. Obstet Gynecol. 2004;104(1):65

2) Thorell E, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2012;12:30. Epub 2012 Apr 17

3) Biddal M, et al. Arthritis Rheumatol. 2016;68(5):1156

4) Katonis P, et al. Hippocratia 2011;15(3):205-210

5) Marnach ML, et al. Obstet Gynecol. 2003;101(2):331

6) American College of Obstetricians and Gynecologists. Frequently asked questions: Back pain during pregnancy

妊娠中の消化器系の変化

妊娠に伴い、女性ホルモン量の変化により体調の様々な体調変化が生じます。本日は消化器系にフォーカスしたいと思います。

女性ホルモンの一つである黄体ホルモン(プロゲステロン)が増加することにより、

消化器平滑筋が弛緩し、消化管の運動が低下します。

腸の運動機能が低下します。食物の消化管通過時間は延長し、

胃もたれや便秘を引き起こします。

また食道括約筋が緩んで逆流性食道炎を起こしやすくなります。

子宮も平滑筋からできており、プロゲステロンの作用により子宮壁を大きくするため、妊娠子宮は胃を圧迫し、胃内容自体も縮小します。そして大腸をも圧迫し便秘を助長するのです。

これらの症状に加え、妊娠によるホルモン変化から、つわりが妊娠5週〜16週頃まで続きます。妊娠16週頃になるとプロゲステロンの上昇は前に比べて漸増・上昇が緩慢となるので、その頃につわりが落ち着いてくる一つの要因とされています。

上記症状の対策としては、(つわりがある程度落ち着けば)バランスのとれた食事を行います。生活リズムを整え、規則的な時間に食事を摂ることも重要です。

下剤として酸化マグネシウムは腸管内容を軟化し、腸管を刺激して内容を排泄させる効果のある機械的下剤の一種です。適応は便秘症はもちろんのこと、制酸作用があり胃炎に対しても効果があることをお知らせしておきます。

逆流性食道炎に対しては1回の摂取量を少量にして、食事回数を増やす(3食から4分割食にする)ことをお勧めします。

(院長執筆)

睡眠と妊娠しやすさについて

こんにちは、副院長の石田です。

子供2人の寝かしつけをしていると必ず自分が最初に寝てしまいますが、そのお陰でずいぶん健康になってきた気がします。皆さんは良い睡眠が取れていますでしょうか?さて、当院では不妊相談もお受けしていますが、今日は睡眠と妊娠しやすさについての話題です。

そもそも何故人は寝るのか?

実はよく分かっていないそうです。レオナルド・ダ・ヴィンチが「眠りは死に似たものである」と言ったそうですが、その本意はさておき1日の1/3も完全に無防備な状態になることが生物的にリスクなのは間違いありません。それでも寝なくて済む体に進化しなかったということは、それを上回る必要性が睡眠にあるということでしょう。不眠のギネス記録は11日間ということですが、ある程度の時間を過ぎると幻覚や言語障害が出現し、危険な状態になったということです。脳のメンテナンスやホルモンバランスの調整、免疫機能の維持・強化などが睡眠不足により損なわれる可能性が示唆されています。

睡眠と妊娠しやすさには関係があるのか

では、産婦人科のブログということで睡眠と妊孕性(妊娠しやすさ)について何か関係があるか調べてみました。

まず、女性でみると、いくつかの研究で睡眠不足と不妊の因果関係が示唆されていました。睡眠不足により日内リズムが変動するとそれを司る視床下部ー下垂体ー副腎系統に作用し、同じ系統内で制御されている性ホルモンのバランスにも悪影響が出るとか、睡眠不足のストレスにより炎症反応が起こることがメカニズムとして考えられているようです1)2)。

では、男性の方はどうでしょうか?実は男性の睡眠時間が減ることでも夫婦の妊娠率が下がるというデータが出ています。ブラジルのチームによるラットを使用した研究では睡眠不足と精子の質の低下に因果関係が確認されました3)。また、ボストン大学の研究チームの発表では、1176組の夫婦を対象に男性の睡眠時間別に調べてみたところ6時間以下の場合で妊娠率が下がったことが報告されました4)。チームは本研究が必ずしも結論的ではないこと、また妊娠率が下がる原因は不明のままだが、やはり精子の質の低下やホルモンバランスの乱れがこの結果の要因として疑われるとしています。

まずは生活習慣を改善してみましょう

もちろん不妊の原因は様々ですが、睡眠以外にも肥満や喫煙なども妊娠しやすさを妨げる要因として有名です。なかなか赤ちゃんができないなーとお悩みのご夫婦は、試しに生活習慣を見直してみてもよいかもしれません。もちろん最寄りの産婦人科にも気軽にご相談されることをお勧めいたします。

1) Kloss JD, et al. Sleep Med Rev. 2015 Aug; 22: 78-87

2) Nicole D. White, te al. Am J Lifestyle Med. 2016 Jul-Aug; 10(4): 239-241

3) Alvarenga TA, et al. Fertil Steril. 2015 May; 103(5): 1355-62

4) Wise LA, et al. Fertil Steril. 2018 Mar; 109(3): 453-459