多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されたときに読む話

こんにちは、副院長の石田です。

生理不順や妊娠相談などで産婦人科を受診して多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)という診断を受けたことのある患者さんは少なくありません。しかしPCOSは少し複雑な病気であり、患者さんたちも体に何が起きているのか、どう対処するべきなのかについての理解が曖昧なことも多いです。そこで本日は病院でPCOSと診断された時のことについて少し解説したいと思います。

PCOSとは

PCOSの原因は完全に解明されているわけではありませんが、ホルモンバランスの変化により卵巣に小さな水たまりである嚢胞をたくさん作ったり(以下画像参照)排卵が障害されることで生理不順・無月経や不妊になる病気です。また、男性ホルモンが増加することで毛深くなったりニキビができやすくなることもあります。

黒くて丸い嚢胞が卵巣内にたくさん見えています。 1)

「多嚢胞卵巣」と言われるとあたかもこの嚢胞が何か悪さをしているように感じてしまいますが、実はこの病気の本質は月経異常と不妊であり、治療に関してもこれらの症状の解決を目指すことになります。

PCOSの診断

PCOSは患者さんの病歴に加え、超音波検査や採血検査を用いて診断します。すごく大雑把に説明すると、生理不順で受診された方で上の写真のような卵巣が超音波で見られて、かつ採血でホルモン値の異常も確認された場合に「あなたはPCOSです」となるわけです。ただ、実際には厳密に診断基準を満たしていない状況でも診断を伝えられている現場がありそうな印象です。

PCOSの治療

治療の目的は適切な排卵周期を回復して妊娠ができる状態にすること、また無月経が続くことによる子宮体がんリスクの上昇を防ぐことにあります。医学的に肥満との関係が示唆されておりBMI(体重kg÷身長m÷身長m)が25以上の方に関しては適切な減量によって治ることがあります。また、状況によってピルなどの薬でホルモンバランスと生理周期を整えてみたり、積極的に妊娠を考えている場合は排卵誘発を行います。PCOSにかかると血糖値が上がりやすくなりますが、その際には糖尿病治療薬であるメトホルミンを併用することも検討されます。

まとめ

本日はPCOSについての一般的なお話でした。名前が漢字だらけでいかつい上にインターネットなどでみると不妊症とか子宮がんとか書いてあって怖くなってしまう人もいると思いますが、実はとても一般的な病気で治療も確立しているため心配しすぎる必要もありません。自分がPCOSかなと思ったら、まずは落ち着いて最寄りの産婦人科を受診してみましょう。

1) Saika Amren. EMJ Radiol. 2022

女性の尿もれについて

こんにちは、副院長の石田です。

普段外来をやっていても思うのですが、ご年齢や妊娠の有無に関係なく尿もれに悩む女性は多いです。人種や社会環境によってばらつきは大きいものの、実際に20〜40%程度の女性が尿もれを経験しているというデータもあり、どの女性にとっても他人事ではないのかもしれません 1)2)。そこで本日は女性の尿もれについて少しお話ししてみようと思います。

尿もれの種類

尿もれは医学的にいくつかの型に分類されますが、女性によくみられるのは腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁です。腹圧性尿失禁とは咳、くしゃみ、笑う、重いものを持ち上げるなどでお腹に力が入った時に尿が漏れてしまう状態で、原因としては膀胱の出口の開け閉めを行なっている括約筋の機能低下だったり、尿道を支える力が弱まってしまう尿道過可動などがあります。一方で切迫性尿失禁は突然強い尿意が出現し我慢できずに出てしまうというもので、膀胱炎や脊髄損傷などの原因により排尿筋が過剰に収縮する過活動膀胱が有名です。他には腹圧性と切迫性が混ざった混合性尿失禁というのもあり、女性においてはこれらの3種類が主な病態となります。

尿もれの治療

上記の通り尿もれの型によって原因が違いますが、いずれにしてもまずは生活習慣を見直すことである程度の症状改善が期待できます。肥満、喫煙はリスクとして知られているため適度な運動と減量、そして禁煙は尿失禁の症状改善に効果があると考えられています 3)4)5)。特にKegel体操という骨盤底筋群の強化に使われる運動はお勧めされますが、効果が出るまで2ヶ月前後かかるともされているため根気よく取り組む必要があります。また、アルコールやカフェインは症状を悪化させる可能性が指摘されているため心当たりがある方は試しに控えてみるのもいいかもしれません 3)。これらに加えて膀胱訓練などの行動療法や各患者さんの病態に合うと思われる薬剤を選んで併用することでできるだけ患者さんが快適に暮らせるように治療を進めていきます。

まとめ

本日は女性の尿失禁について解説してみました。尿失禁は加齢による肉体変化に伴って起こることも多く根治が難しいことも少なくありませんが、その一方で治療による改善は十分に見込めます。羞恥心を持ちやすい症状のためずっと一人で悩んでしまう方も多いですが、気軽に最寄りの専門医にご相談いただけると良いと思います。

1) Dragana Živković et al. Acta Clin Croat. 2022 Mar;61(1):115-123
2) I Milsom, et al. Climacteric. 2019 Jun;22(3):217-222
3) Mari Imamura, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Dec 2;2015(12):CD003505
4) Leslee L Sudak, et al. N Engl J Med. 2009 Jan 29;360(5):481-90
5) Riikka M Tähtinen, et al. Obstetric Gynecol. 2011 Sep;118(3):643-648

CIN2の管理

子宮頸がん検診は「細胞診」と呼ばれる検査を行います。その後、精密検査が必要と判断された場合は拡大鏡にて子宮頸部をみる「コルポスコピー」と、「組織診」を行います。

がん検診の子宮頸部細胞診は、子宮頸部を擦過して検体を採取するので痛みはありません。

一方、精密検査の子宮頸部組織診は「punch biopsy」とも呼ばれ、コルポスコピーにて疑う病変部位の肉片を専用の器具を使って採取します。よって痛みを伴ったり、止血に時間がかかることをご承知ください。

組織診では子宮頸部上皮腫瘍(CIN)として(大まかに)3とおりの結果が出ます。CIN 1, CIN 2, CIN 3といわれます。

CIN 3[高度異形成もしくは上皮内癌]に関しては子宮頸部円錐切除などの診断・治療を行います。

CIN 1[軽度異形成]またはCIN 2[中等度異形成]と判断された場合、

・CIN 1→6ヶ月ごとの経過観察(フォローアップ)

・CIN 2→3〜6ヶ月ごとの経過観察(フォローアップ)

となります。ただし子宮頸がん発症のリスクであるヒトパピローマウイルス(HPV)のハイリスク型、以下

HPV 16, 18, 31, 33, 35, 45, 52, 58が事前に見つかっている場合は、病変の進展リスクが高いので注意が必要です。それらHPV型でCIN 2の場合は経過観察とせずレーザー蒸散や円錐切除も考慮されます。

また上記型でなくともCIN 2において患者が心配な場合や1〜2年の経過観察でも病変が消失しない場合は、診断・治療を推奨される状態と言えるでしょう。

この方針に関しては現2023年のガイドラインにおいて、2020年のガイドラインと変化はありません。

ちなみに上記のHPVハイリスク型HPV 16, 18, 31, 33, 35, 45, 52, 58に対し、HPVワクチンのシルガード9は(性交未経験のうちに接種すれば)上記型の感染を予防でき、ひいては子宮頸がんの90%を防げるのです。いかにHPVワクチンの接種が重要か、おわかりいただけると幸いです。

執筆 院長

参考資料

産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023, CQ204

子宮体がん検査はいつ受ければいいのか

こんにちは、副院長の石田です。

今年も気がつけば11月になりますね。毎年この地域では6〜11月に市町村の助成による子宮頸がん検診があり、当院でも多くの患者さんが検査を受けていかれますが、その際によく聞かれるのが「子宮体がんの検査もした方がいいですか?」というご質問です。結論から申し上げると子宮頸がんと違い、体がんは定期的な検査は不要とされているのですが、詳しい説明を外来で行うのはなかなか大変です。そこで本日はこの病気と検査について解説したいと思います。

子宮体がんの特徴

子宮に発生するがんは大きく分けて子宮頸がんと子宮体がんの2種類があります。子宮頸がんはパピローマウイルスの感染による子宮の出口付近における扁平上皮細胞の変性なのに対して、子宮体がんは子宮内膜組織を構成する腺細胞の変性であり、同じ子宮という臓器のがんであるにも関わらず全く違う性質を持っています。日本では40代以降で患者数が急増し50代でピークとなりますが、60代以降の患者さんも少なくありません 1)。加齢(特に閉経後)、肥満、糖尿病、妊娠経験がない、タモキシフェンによる乳がん治療などがリスク因子として有名ですが、そのほかLynch症候群などの遺伝要因も指摘されています。

子宮体がんに定期的な検査がいらないワケ

子宮体がんに定期検査が不要な理由の一つ目は、感度の高い検査が存在しないことです。感度というのは検査が病気の人を見落とさずに陽性と診断する能力のことで、定期検診のように一般的な集団の中から病気の人を探す時には高感度の検査が必須です。ところが子宮体がんの細胞診では感度が40〜60%程度と考えられており、間をとって50%と考えても病気の人を半分見逃してしまうことになります 2)3)。子宮内膜生検という精度の高い検査もありますが、状況によっては麻酔下で行われることもある手技であり、これを全ての人に定期的に行うのは無理があります。
また、子宮体がんは初期ステージにおいて70〜90%の治癒率(5年生存率)が期待できる“治りやすい“がんとして有名ですが、多くの場合早期に性器出血で発症するため、放っておきさえしなければ症状が出てから診断しても良好な治療成績が期待できるというのが定期検査が不要とされる二つ目の理由です 4)。

まとめ

少し長くなりましたが、子宮体がんに定期検査が勧められていない理由について解説いたしました。そうは言っても症状が出ないうちに発見された子宮体がんの予後はさらに良いかもというデータもあり、ご不安な方には上記のようなリスク因子の有無を確認した上で検査を提供することもあります 5)。性器出血がある方はもちろんですが、自分が検査するべきか心配になった方は気軽に最寄りの産婦人科に相談してみてください。

1) 国立研究開発法人国立がん研究センター. がん情報サービス.
2) Schorge JO, et al. Cancer. 2002;96(6):338.
3) Gu M, et al. Acts Cytol. 2001;45(4):555.
4) Emma J Crosbie, et al. Lancet. 2022 Apr 9;399(10333):1412-1428.
5) T Kimura, et al. Int J Gyneacol Obstet. 2004 May;85(2):145-50.

カンジダ腟症のリスク因子

こんにちは、副院長の石田です。

男性はあまりピンと来ない人も多いかもしれないですが、女性にとって「カンジダ」はとても一般的で煩わしい病気の一つです。カビの一種であるカンジダ菌による腟内の感染症で、人によっては夜も眠れないくらいの強い痒みを引き起こすため生活の質に大きなインパクトがあります。そこで本日はカンジダ腟症のリスクについて少しお話ししたいと思います。

カンジダ腟症のメカニズム

Candida albicansという菌が原因の90%を占めるとされていますが、この菌は直腸や皮膚に普段からいる常在菌であり、これらが腟に紛れ込んで増殖することにより発症すると言われています 1)。ただ、年齢層によって違いはあるものの症状がない女性でも10%以上で腟内にカンジダ菌が検出されることから、必ずしもそこにいるからと言って悪さをするわけでもなさそうです 2)。

カンジダ腟症のリスク因子

最も有名なリスク因子に抗菌薬の使用があげられます。元々腟内には常在菌と言って色々なバイキンが仲良く暮らしていますが、何かの病気の治療として抗菌薬を投与されると腟内にも効いてしまい常在菌のバランスが崩れるため、カンジダが入ってきた時に増殖しやすくなると言われています 3)。また、糖尿病の患者さんでは血糖コントロールが不良だったり、治療薬としてSGLT2阻害薬(スーグラ®︎、フォシーガ®︎など)を使用していると、尿糖上昇の影響でカンジダが免疫による排除を受けにくくなるため発症しやすくなります 4)5)6)。妊娠やホルモン補充療法により女性ホルモンの量が増えるような状況もカンジダのリスクになると考えられています。この機序については不明なことも多いですが、やはり免疫系への影響が考えられているようでした 7)。そのほか、低容量ピルの使用や食事、(性病ではないものの)性生活のあり方などもカンジダ発症への影響について議論があるようですが、結論には至っていないようです。

まとめ

本日は女性のよくあるお悩みとしてカンジダについて簡単に解説しました。上記のように因果関係が示唆されるリスクは複数確認されているものの、明らかな原因がなく発症することも多いです。いずれにしても世の女性におかれましては外陰部の清潔を適切に保ちつつ規則正しい生活を送っていただきながら、それでも痒くなってしまった時には最寄りの産婦人科に相談してみてください。

1) Gonçalves B, et al. Crit Rev Microbiol. 2016 Nov;42(6):905-27.
2) C Tibaldi, et al. Clin Microbiol Infect. 2009 Jul;15(7):670-9.
3) Wilton L, et al. Drug Saf. 2003;26(8):589.
4) Hostetter MK. Diabetes. 1990;39(3):271.
5) Donders GG. Curr Infect Dis Rep. 2002;4(6):536
6) Nyirjesy P, et al. Curr Med Res Opin. 2014;30(6):1109.
7) Pizga Kumwenda, et al. Cell Rep. 2022 Jan 4;38(1):110183.