妊娠中に血小板が少ないと言われた時の話

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠中は体にさまざまな変化が起こりますが、その中でもたまにあるのが「血小板が低いです」という異常です。人気マンガの『はたらく細胞』なんかでも可愛らしいキャラとして描かれている血小板は、分娩時に伴う出血をコントロールするための重要な細胞なので足りないと言われると心配になりますが、そうなった時はどうしたらよいのでしょうか?
ということで本日は妊娠中の血小板減少について解説したいと思います。

妊娠性血小板減少症

実は妊婦さんの体は分娩時の出血に備えて血小板を増産しています 1)。しかし、同時に血液量も妊娠前と比べると妊娠末期に1.5倍ほどに増えているため結果的に血小板は薄まって濃度を表す数値が低下してしまうんですね。加えて妊娠すると血小板の消費が増加するとも言われており、それらが複合的に作用しているのが実態のようです 2)3)。このような状態を妊娠性血小板減少症と言い、全妊婦の7〜12%が発症すると言われています 1)4)。15万〜45万/μLが正常値とされる血小板数が10万くらいまでの範囲で下がるのが一般的ですが、逆にこの程度であれば実際に出血が増えるなどの実害に発展しないとされており、分娩終了後は自然と元の血小板数に回復するので治療も必要としません。統計的には妊娠後期に多いとされていますが、妊娠初期から血小板が低下することもあります。

どんな時に心配か

上記のように無害な血小板減少の場合は10万以上で減少が止まりますが、時にそれを下回って低下していくことがあります。この場合は妊娠高血圧症候群に関連した疾患や自己免疫による血小板の破壊など危険な病気を考える必要があるため、状況に応じて周産期センターなどの高次施設への転院や、臨月であれば分娩による妊娠の終結を検討する必要があります。そのため通常の妊婦健診で血小板の低下を確認した場合はしばらく頻回の血液検査を提案されるかもしれません。

まとめ

本日は妊娠中に血小板が少なくなってしまった時のお話でした。妊娠中の血小板減少の75%は心配の要らない妊娠性血小板減少症と言われていますが、その一方で注意が必要な疾患のこともあります。もし妊娠中に血小板が少ないと言われたら、主治医の先生とよく相談をしながらしっかり見守っていきましょう。

1) 森川 守. 日医雑誌 第152巻・第12号/2024年3月
2) Simone Filipa Carrasqueira Subtil, et al. Rev Bras Ginecol Obstet. 2020 Dec;42(12): 834-840.
3) Douglas B Cines, et al. Blood. 2017 Nov 23;130(21): 2271-2277
4) Anca Marina Ciobanu, et al. Maedica (Bucur). 2016 Mar;11(1):55-60.

妊娠蛋白尿に関する考え方

妊娠蛋白尿の定義

・尿蛋白/クレアチニン比が0.3以上

または

・24時間蓄尿で300mg/日以上の蛋白尿が検出された

場合を「妊娠蛋白尿」と定義します。これらは定量検査で

妊婦健診で行う蛋白の出ている尿(蛋白尿)の検査は定性検査

といいます。定性検査は主に陽性か陰性かを判断するもので、蛋白尿が陽性であれば定量検査で妊娠蛋白尿に当てはまるか確認をする必要があります。

蛋白尿の測定法

入院をしており時間的余裕があるなら24時間蓄尿を行いますが、

外来等では尿蛋白/クレアチニン比を検査することで早く結果を得ることができます。尿蛋白/クレアチニン比は、24時間蓄尿による蛋白排泄量とよく相関することが知られています。

尿蛋白/クレアチニン比が0.3~0.5の場合、尿蛋白排泄量は0.3~0.5g/日程度と推定できます。

蛋白尿量で(妊娠高血圧症候群の)重症度の区別は無

蛋白尿の量で妊娠高血圧症候群の重症度をはかるわけではありませんが、

『妊娠中の高血圧+蛋白尿』は妊娠高血圧腎症=子癇前症であること、

まだ高血圧を認めていなくても、蛋白尿を認めれば妊娠高血圧腎症への進展を予測しsFlt-1/PlGF比を測るきっかけとなること

から、妊娠蛋白尿には要注意と言わざる得ないのです。

執筆:院長

出生前診断の注意点

こんにちは、副院長の石田です。

産婦人科で正常妊娠を診断された後、夫婦によって検討が始まるのがNIPT、クアトロ検査、羊水検査などの遺伝学的な出生前診断を受けるかどうかです。これらの検査は赤ちゃんが産まれてくる前に染色体異常を主とした病気の有無が分かるため、夫婦の取れる選択肢が増えるという点で魅力的である一方、実は小さくない落とし穴がいくつもあることは意外と知られていません。そこで本日は出生前診断を受けるか悩んでいるご夫婦に知っておいていただきたい注意点について解説したいと思います。

遺伝情報がもつ注意すべき特殊性

遺伝情報の注意すべき特徴の一つは「あいまいである」ということです。例えばダウン症候群は出生前診断で気にされる最も有名な疾患ですが、もし診断されてもその子が実際にどの程度の重症度で産まれてくるか、将来どのような病気にいつかかるかなど具体的な未来を正確に知ることはできません。加えて染色体異常の中には病気ではない子供が産まれてくる変異がいくつもありますが、その全てが把握されているわけではないため未知の異常が見つかった時にどのように対処すれば良いか専門家ですら答えられないということも起こり得ます。しかもこれらの異常は家系に由来していることもあるため、安易に検査をするとその影響が意図せず広範囲の家族に広がる可能性があるほか、そもそも個人の遺伝情報は変更不可能なため一度知ってしまうと二度と知らなかった状態には戻れないということにも注意が必要です。

「知っておきたいだけ」というご夫婦も注意が必要

中には「何があっても産むことは決めているけど、事前に赤ちゃんの状態が知りたいから検査します」というご夫婦もいらっしゃいますが、そういう場合でも注意が必要です。そもそも胎児にとって出生前診断はやらなければ通常どおり産まれることができる一方で、行った場合は陽性からの中絶や検査による有害事象(破水など)の発生によって流産になる可能性があるイベントであり、赤ちゃん側の視点に立つと受けるメリットが乏しい検査なのかもしれません。そのため検査で期待できることと赤ちゃんが背負うリスクのバランスについては慎重な判断が必要です。さらには検査結果を知らなければ産んだ赤ちゃんも、異常結果を知ってしまったがために決心が揺らぐ可能性は十分にあります。結果に関わらず産むと決めているご家族であっても検査のメリットやデメリット、そして異常結果となったときのことについてはよく話し合っておくことが大事です。

検査で検出できる病気には限界がある

新生児の3〜5%は大小何かしらの先天性疾患を持って産まれてくると言われていますが、遺伝学的検査で検出できる染色体異常は全先天異常のうちの1/4しかありません。しかも遺伝子疾患の中には出生直後は正常でも年単位の時間をかけてゆっくり発症してくるような病気もありますし、そもそも産まれた後も人間はさまざまな病気にかかる可能性があります。それらを踏まえた上で染色体異常の有無だけを事前に知ることがご夫婦にとって必要十分なのかは吟味が必要でしょう。

まとめ

本日は出生前診断を受ける前に知っておくべきことについて解説いたしました。ここまで出生前診断についてネガティブな面ばかりに焦点をあててきましたが、もちろん上手に使えば多くのメリットが受けられる便利な検査であることは間違いありません。検査の利点欠点を総合的に判断するのは簡単な作業ではありませんが、お困りの際にはまずかかりつけの産婦人科で相談してみてください。

風疹って何ですか

風疹は、ウイルスによる感染症です。

風疹ウイルスによって引き起こされる、急性の発疹性感染症で、飛沫感染後、2〜3週後の潜伏期を経て発熱発疹、耳介後部リンパ節腫脹の主要症状が現れます。

風疹ウイルスはトガウイルス(Togavirus)科に属する直径60〜70nmのRNAウイルスです。新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスの直径は約100nmなので、風疹ウイルスはそれらより小さいウイルスと言えます。小さいウイルスのため、マスク着用でも風疹の感染予防効果は乏しいのです。

ヒトに感染性のあるエンベロープRNAウイルスとしては風疹のほか、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルスも同様です。

風疹に対する免疫がない集団において、1人の風疹患者から5~7人にうつす強い感染力があります。よって胎児感染、先天性風疹症候群の発生を起こさないためにも妊婦さんはご自身の風疹抗体価を有している事、また風疹の感染予防に努める事が大事なのです。

風疹の予防には、予防接種が最も有効ですが、いわゆる「生ワクチン*」のため、妊婦さんは風疹ワクチン接種は受けることができません(産後の接種は可能です)。

*生ワクチンは病原体となるウイルスの毒性を弱め、病原性をなくしたものを原材料として作られます。

風疹抗体価が低く免疫が不十分な妊婦さんが妊娠20週頃までに風疹のかかると、眼や心臓、耳などに障害をもつ先天性風疹症候群を有する赤ちゃんが産まれてくる可能性があります。

妊婦さんの風疹初感染において、先天性風疹症候群は妊娠8週までに約50%、妊娠12週までに約40%、妊娠16週までに約30%、妊娠20週まででは数%起こるといわれています。

風疹抗体価を十分にもっていない(風疹HI 16倍以下)場合、特に妊娠20週までにおいて外出をする際には可能な限り人混みを避けましょう。また夫が風疹抗体価があるかの確認し、必要あれば夫の風疹ワクチン接種を検討するとよいでしょう。

院長執筆

参考文献;

Rubella (German Measles, Three-Day Measles). CDC

風疹とは. 国立感染症研究所

胎児診断・管理のABC(第6版). 金芳堂

悪露はどの位でなくなるのか

産後の出血を「悪露(オロ)」といいます。

子宮の中に溜まった出血や卵膜の残りが、子宮復古(子宮収縮)とともに排泄されます。

量の変化

悪露の量は通常分娩3日目までがピークといわれています1)。出血は通常産後5日目あたりから減少します。

帝王切開の場合は元々子宮口が開大していないため、少量の悪露がしばらく続く場合があります。

色の変化

一般的には産後4週目には透明な帯下になる、といわれてますが、診察の経験上、産後1ヶ月健診でもまだ赤〜茶色の悪露はあり得ます。ポイントとしては産後1ヶ月健診において子宮内腔に悪露の滞留がほとんどない状態を確認する方が大事かな、と思います。

再診察の目安

産後6週間が経っても悪露の量が減らなければ再診察をお受けになった方が良いでしょう。

また産後日数に関わらず、発熱または悪露の悪臭がある場合は子宮復古不全を伴った産褥熱・子宮内膜炎の可能性があります。その場合は産院へ連絡し、早めに受診を受けてください。

院長執筆

参考文献

1)Essential obstetric and newborn care. MSF