ファモチジンの妊娠・授乳中の服用

ファモチジンは胃・十二指腸潰瘍や逆流性食道炎などで処方される薬です。商品名は「ガスター®︎」と言えばわかりやすいでしょうか。

実際の処方としては1回20mg, 1日2回(朝・夕食)となります。

作用機序

胃酸は胃の壁細胞にあるヒスタミンH2受容体にヒスタミンが作用することで分泌されます。

ちなみに胃酸の分泌を高める食品は脂肪分の多い物、柑橘類、香辛料、コーヒー・紅茶が挙げられます。

ファモチジンはH2ブロッカーと言われ、作用(ヒスタミンがH2受容体に結合すること)を妨害することで、胃酸の分泌を抑えます。

妊娠・授乳中の服用

一般的にH2ブロッカーは腎機能正常者での副作用発現は低く、まれに血小板減少をきたすことが報告されています。

妊娠中は「有益性投与」です。ただし、催奇形性が報告されていないことから実際の現場では妊婦さんに処方されることはよくあります。褥婦さんにとっても”HALE’S MEDICATIONS & MOTHERS’ MILK 2021″によるとRID(Relative Infant Dose:薬物の新生児へ影響を示す指標)は1.9%とかなり低く「最も安全:L1」の位置づけですので、ファモチジンの内服後に授乳を控える必要はありません。

文責 院長

臨月に入ってからの過ごし方

こんにちは、副院長の石田です。

妊婦さんは初期のつわりに始まり様々なイベントを乗り越えて週数を重ねていきますが、36週に入るとついに「臨月」と言われる期間に入ってきます。医学的に正期産と言われるのは37週からで36週の間に生まれてしまうと早産児になってしまうのには注意が必要ですが、ともあれやっと最終段階に入ってきたかと感無量の人も多いのではないでしょうか?ここからはいつ陣痛や破水が始まるかとドキドキしながら過ごす時期なわけですが、よく外来で聞かれるのは「どうやって過ごしたらよいですか?」というご質問です。そこで本日はこのことについてお話ししてみたいと思います。

陣痛が早く始まるためにはどうしたらよいですか?​

これ、本当によく聞かれます。インターネットで調べると一番出てくるのは「どんどん体を動かしましょう」みたいなご提案だと思いますが、実際にかかりつけの産婦人科でこのように言われることも多いですよね。でも実際は運動と陣痛発来の関係性はあるともないともどっちの意見もあってよく分かっていません 1)2)。また、鍼やマッサージに行く方も少なくありませんが、こちらの効果は否定的とされています 3)。運動は分娩や産後のコンディションによい影響が知られていますし、鍼やマッサージもご本人がリラックスや気分転換ができるのであればむしろ素晴らしいことですが、陣痛が早くくるようにという目的であればあまり期待しすぎない方がよいかもしれません。

ではどう過ごしたらよいのか

私はこのご質問に対して決まって「ご本人が楽しく過ごせてればよいと思いますよ」とお伝えしています。予定日が近づいてくると周りからも「いつなの?」とかプレッシャーがかかるかもしれませんが、陣痛がいつくるかは誰にも分からないし、焦ってもどうにもなりません。であればお産の時にかけたい曲のプレイリストを作ったり、赤ちゃんが生まれたら一緒に行きたい公園を調べたりしてのんびり過ごすのがご家族にとってリラックスできてよいと思うわけです。出産後はしばらく行けなくなるからその前に外食を楽しんだり、上のお子さんがいれば今のうちに「赤ちゃんが生まれたら時間が取れなくなるかもしれないけど、それでもあなたのことが大好きだよ」って伝え続けてあげるのももしかしたらよい過ごし方かもしれません。なんで私がこんなエモいご提案をするかというと、出産に対する恐怖が強いと陣痛をより強く感じるというデータがあるからです 4)5)。なのでこの時期にお産に対してより前向きになれるような環境を整えることは、陣痛に神経を尖らせるよりもずっと大事だと思うんですね。

まとめ

というわけで本日は臨月の過ごし方に対するご提案でした。別に正解がある話ではないので皆さんの思うように過ごしていただくのが最良ではあるのですが、もしこのブログ記事が気を張り過ぎてしまっているお母さんの緊張を少しでも取れたなら幸いです。もちろん予定日を過ぎすぎてしまうと誘発分娩となることもありますが、ルートはどうあれ陣痛は必ず迎えることになります。いずれにしてもお産は長時間の高負荷運動ですので、是非しっかり体と心を整えて来たるべき日に備えていただければと思います。

1) N Fox, et al. The Internet Journal of Gynecology and Obstetrics. 2006;8(1)
2) Isabel Barros Pereira, et al. J Matern Fetal Med. 2022 Feb;35(4):775-779
3) Caroline A Smith, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Oct 17;10(10):CD002962
4) Carolin Junge, et al. Birth. 2018 Dec;45(4):469-477
5) Y Deng, et al. Int J Nurs Sci. 2021 Oct 10;8(4):380-387

CAOS(慢性胎盤剥離羊水過少症候群)

今回は、慢性胎盤剥離羊水過少症候群(CAOS: Chronic Abruption Oligohydramnios Sequence)について説明します。

妊娠20週未満の性器出血が続き、明らかな破水がなくとも次第に羊水が少なくなる病態をさします。

CAOSは慢性の胎盤早期剥離の状態であり、胎盤血流の虚血状態から羊水過少になると考えられています1)。

胎盤血流の虚血状態は胎児発育不全を、羊水過小により児は肺の未成熟や四肢の拘縮をきたし、予後(intact survival)として良くないことが多くの報告であがっています。

CAOSの検査所見として、超音波検査では羊水が少なめであること以外に胎盤血腫がみられることがあります。妊娠末期に起こりうる常位胎盤早期剥離と異なり、母体の採血異常が表れることは少ないです。

臨床所見として、妊娠中期の性器出血が続く場合はCAOSの可能性も念頭において経過をみる必要があります。

CAOSは発症週数の観点から妊娠継続についてセンシティブな病態・病状の一つです。当院で疑った場合は高次施設へご紹介する運びとなります。

引用文献

1) Acute placental abruption: Pathophysiology, clinical features, diagnosis, and consequences. UpToDate.

文責 院長

無痛分娩を選んだ方がよい人の特徴、1選

こんにちは、副院長の石田です。

外来でよく聞かれる相談の一つに「無痛分娩にするか悩んでいます」というものがあります。心臓や精神の疾患、高血圧などをお持ちの方では医学的におすすめされることもありますが、そうでない場合はどうしたらいいか悩みますよね。旧約聖書の創世記第3章では「陣痛は人類の原罪だから頑張れ」的な解釈がされる記述があるそうですが、実際どうしたらよいのでしょうか?そこで本日は無痛分娩の選び方について改めてお話ししてみようと思います。

無痛分娩、みんなはどうしてるの?

自分の無痛分娩を考える際にまず気になるのは他の妊婦さんがどうしているかだと思います。厚生労働省の調査によると全分娩のうち無痛分娩が占める割合は2008年には2.6%でしたが、2014年で4.6%、2016年で6.1%と少しずつ増えており、無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)の発表によれば2020年では8.6%にまで上昇しているということでした 1)2)。欧米と比べるとまだまだ低いですが、本邦でも選ぶ人が増えてきているようですね。

無痛分娩のメリット

メリットはなんと言っても痛みが軽減することです。文字通りの「無痛」までいくことはあまりありませんが、ほとんどの方が分娩をより楽に過ごせるようになります。痛みが楽になると妊婦さんの呼吸が整えられるため、胎盤の血流が良くなり赤ちゃんが苦しくなりにくくなる可能性が示唆されています 3)。また、過度な陣痛は産後うつの発症リスクと考えられているため、それを抑える効果もあるかもしれません 4)。

無痛分娩のデメリット

硬膜外麻酔という医療介入を行う以上、やはりノーリスクということはありません。当院でもご希望の妊婦さんには必ず文面を用いてご説明しますが、出血や感染、アレルギー、そして神経障害などの有害事象が極めて低い確率ではあるものの存在します。また、子宮口が全開してからの分娩時間が長くなる可能性や、力が入りにくくなるためか産みきれずに吸引・鉗子分娩の確率が高まる恐れも指摘されています 5)6)。

無痛分娩を選んだ方がよい人

結論から言うと、私がこの相談をされた時は決まって「陣痛が怖いかどうかで決めていただくのがよいと思います」とお伝えしています。
実は上記のメリットとデメリットは医学的にまだ議論の余地があるのが事実です。無痛分娩を使用することで母児の予後が改善するという確実なデータも無ければ、分娩時間もそんなに長くならないかもという研究結果があったりもするんですね 7)。加えて一人ひとりの患者さんレベルで言えば、痛みへの耐性やお産の進行具合など違いは様々ですのでお産が終わるまではやってよかった、やればよかったは分かりません。そのため冒頭で触れたように明確な医学的適応がある方でなければご自身の心の声に従っていただくのが一番シンプルだし結局満足度も高いのかなと思っています。

まとめ

というわけで飽くまで私個人の見解ではありますが、無痛分娩を選ぶときの考え方についてお話しいたしました。世間には無痛分娩派、もしくは反無痛分娩派みたいな医療者もいるので人によって言うことが違ったりもしますが、多くの妊婦さんにとってそれがないと絶対にお産にできないという性質のものでもないので無理に選ぶ必要はありません。その一方でゼロリスクではないものの極めて安全に陣痛を軽減できる素晴らしい技術であることも確かです。妊娠中は決めることが多くて大変ですが、主治医ともよく相談しながらバースプランの一環としてご検討ください。

1) 厚生労働省. 無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築について:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000203217.pdf
2) JALA. わが国の無痛分娩の実態について:https://www.jalasite.org/archives/mutsuu/
3) Reynolds F, et al. BJOG. 2002;109(12):1344
4) Hiltunen P, et al. Acta Obstet Gynecol Scand. 2004;83(3):257
5) Erica NG, et al. BJOG. 2015;122(3):288-293
6) Cheng YW, et al. Obstet Gynecol. 2014;123(3):527
7) Wang TT, et al. Anesth Analg. 2017;124(5):1571

染色体異常と流産

産科を受診して確認された妊娠の10〜15%が流産となります。今回は数から流産の頻度と染色体異常について触れていきます。

妊娠が判明する前に妊娠が終了している方が流産に比べ多い

規則正しく月経がある女性100人が1ヶ月間避妊をせず夫婦生活を続けたとき、そのうち84人が受精します。ところが7日後に受精卵が着床するのは67人で、17個(20%)は着床前に到達しません。その後月経の遅れを自覚する人は38人で、産科を受診し臨床検査で妊娠と診断される人は30人です。

つまり、受精した84人のうち54人(64%)が産科で妊娠を知らされる前に妊娠が終了しているのです。妊娠がわかった後に妊娠12週以前に3人ほどが早期流産します。妊娠12週以降の流産はごくわずかです。このように、妊娠が判明する前に多くの妊娠が終了しているのです。

相当な数の染色体異常が自然淘汰されている

精子には10〜15%程度、卵子には20〜25%程度の染色体異常があることがわかっています。また受精卵の段階で30〜45%に染色体異常が存在するのです。

染色体異常の受精卵は着床障害を起こしやすく、着床できた卵の染色体異常率は約25%にまで低下します。

さらに妊娠反応陽性となり、超音波検査で胎嚢がみられる前の段階で化学的流産を除くと、胎嚢を認める段階での染色体異常率は約10〜15%にまで減少します。

その後妊娠初期の流産が起こったり、また子宮内胎児死亡などを除くと最終的に出産に至る児の染色体異常率は約0.4〜0.6%にまで低下します。

流産のすべて. 研修ノートNo.99 日本産婦人科医会

つまり、かなりの数の染色体異常が出生前に自然淘汰されているのです。

文責 院長