日本の妊婦と新型コロナウイルス感染症のこれまで

こんにちは、副院長の石田です。

なんか最近また新型コロナウイルス感染症の患者さんが少し増えてきているのかなという雰囲気がありますが、皆さんは元気にお過ごしでしょうか?2020年から社会全体がパンデミックにより振り回されてきたこともあり、もう名前も聞きたくないという方も多いかもしれませんが、最近の学会誌でこれまでの妊婦さんとコロナの状況についてデータをまとめた論文が出ていたので内容を簡単にご紹介してみようと思います 1)。

妊婦におけるCOVID-19の発生状況

実は国内の妊婦さんにおけるCOVID-19の罹患数についての統計は報告されていません。「あんなに毎日書類書いてどこかに送ってたのに…。」とか思うんですが、全期間を通したレジストリ登録妊婦の重症度別割合を解析すると軽症(咳のみ)が85%、中等症I(呼吸困難あり)が8.2%、中等症II(酸素投与)が6.2%、重症(人工呼吸器やECMOを使用)が0.65%ということでした。ただ、中等症II+重症の割合はデルタ株(第5波)で20%だったものの、オミクロン株(第6波)以降では1%未満と急激に低下したそうです。

妊婦のCOVID-19 重症化リスク

上記の通り、第6波以降で感染した方は明らかに重症度が低いです。ワクチンに関しては接種歴不明を除いて解析すると、中等症II・重症は1回以上接種者で0.39%に対して非接種者10%と有意に差があったようです。そのほか、重症化リスクとしては妊娠前半(21週未満でリスクが6.5倍)、体格(BMI≧30でリスクが2.8倍)、年齢(31歳以上で2.8倍)、妊娠前からの基礎疾患の有無(基礎疾患有りで2.5倍)などが挙げられたそうです。一方で妊娠に伴う産科合併症(妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、切迫流早産など)に関してはCOVID-19の重症化とは関係なさそうということでした。

まとめ

本日は今さらだけど妊娠とコロナについての振り返りをご紹介してみました。どれも皆さんの肌感覚に概ね合うデータなんじゃないかなと思いますがいかがだったでしょうか?コロナだけでなくインフルエンザやマイコプラズマ、最近ではりんご病など様々な感染症が流行っていますが、妊婦さん本人はもちろんご家族も含めて十分注意しながら快適なマタニティライフをお過ごしください。

参考文献
1) Masashi D. Acta Obst Gynaec JPN 2024;76(12):1711-1716.

受動喫煙について

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠女性においてはご本人の喫煙のみならず、周囲の人間による受動喫煙を避けることも同様にとても大切です。しかし受動喫煙について正しい知識を持っている人は意外と少ないような印象です。そこで本日はこれに関して少しお話ししてみようと思います。

受動喫煙とは

受動喫煙とは喫煙者ではない人がタバコの成分を意図せず体内に取り込んでしまうことを言います。タバコの燃えている部分から出る煙や、喫煙者が吐き出す煙を吸い込むことで成立するのが一般的な印象かと思いますが、これらの副流煙による”secondhand smoking”以外にも住宅の壁や家具の表面に付着したり埃に混ざって滞留するタバコの成分やその副産物が、皮膚や粘膜を通して体に吸収されることで健康被害を起こす”thirdhand smoking”の危険が知られています1)2)。これらの化学物質は環境中に数ヶ月から時として数年以上留まる可能性が示唆されており、取り除くのが非常に難しいことも問題とされています。

受動喫煙による健康被害

受動喫煙による非喫煙者の健康被害に関してはこれまでにたくさんの研究があります。妊娠に関係なく、一般的には肺がんの発生率が上昇するほか、乳がん、膀胱がん、うつ症状なんかの原因にもなるとされています 3)4)5)。受動喫煙をするのが妊婦さんの場合は、本人の喫煙同様に早産や低出生体重時、死産、先天奇形の頻度を上昇させたという報告もあります 6)7)8)。また、無事出産されたとしても、赤ちゃんに乳幼児突然死症候群、中耳炎、気管支喘息、発達の遅れなどの影響が出現するというデータもあり、やはり親の喫煙は良くないよねということが改めて確認されます 3)9)10)11)。

まとめ

よく「本人から離れて吸っているから大丈夫」という妊婦さんのご家族がいらっしゃるのですが、上述の通り環境に付着したタバコの成分でも受動喫煙が成立するため、少なくとも妊婦さんや子供がタバコの臭いを感じた段階で健康被害の懸念が生じます。そのため完璧な分煙というのは極めて難しく、家族の健康を考えるとみんなで禁煙する以外に方法は無いということになるんですね。タバコには受動喫煙以外にも子供による誤嚥などの危険もあるので、せっかくの妊娠を機会に是非ご家族みんなで禁煙していただくことをお勧めいたします。

参考文献
1) Winickoff JP, et al. Pediatrics. 2009;123(1):e74.
2) Sleiman M, et al. Proc Natl Acad Sci U S A.2010;107(15):6576. Epub 2010 Feb 8.
3) Yu Tong Wang, et al. Biomed Environ Sci. 2023 jan 20;36(1):24-37.
4) Irene Possenti, et al. Eur Respir Rev. 2024 Nov 13;33(174):240077.
5) Taiji Noguchi, et al. J Epidemiol. 2020 Dec 5;30(12):566-573.
6) Leonardo-Bee J, et al. Pediatrics. 2011;127(4):734
7) Crane JM, et al. BJOG. 2011;118(7):865.
8) Leonardo-Bee J, et al. Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed. 2008;93(5):F351. Epub 2008 Jan 24.
9) Wisborg K, et al. Arch Dis Child. 2000;83(3):203
10) Polanska K, ET al. Int J Occup Med Environ Health. 2015;28(3):419-43.
11) Jones LL, et al. Arch Pediatr Adolesc Med. 2012;166(1):18

新生児の問題ない皮疹

あけましておめでとうございます、副院長の石田です。

お産が終わった後も1ヶ月健診までは産婦人科に通うのが一般的ですが、産後健診で永遠に聞かれる質問シリーズの一つが赤ちゃんの皮疹です。以前もこのブログの何かの記事で言及しましたが、私は「永遠に聞かれ続ける質問には永遠に答え続ける」と決めているので毎度外来でもお話しさせていただいています。しかし外来の限られた時間では言葉が足りないこともあるかと思うので、本日は新生児に見られるあっても問題ない皮疹についていくつかご紹介したいと思います。

新生児中毒疹

もう言葉が怖いですよね、中毒疹。英語でもerythema ”toxicum” neonatorumという「中毒」的な名前がついているのでこれを日本語訳してそう呼ばれているってことなんだろうか。
周りに赤くて丸い班を伴うニキビのような盛り上がりのある皮疹で、生後72時間以内に20%~70%程度の赤ちゃんにできると言われています 1)2)。出生体重が大きかったり出生時の妊娠週数が進んでいるほどよく見られるとされている一方、低出生体重児や早産児では少ないことが分かっています 2)3)。原因は不明ですが、一説によると無垢な皮膚に常在細菌叢を形成し始める時の免疫反応とも言われており、通常は2週間以内に勝手に消失します 4)。

脂腺増殖症

産まれたばかりの赤ちゃんの鼻の頭をよく見ると1mm程度の白い平坦なポツポツが無数に見られることがあります。これは脂腺増殖症と言って、中高年にも見られる皮膚変化ですが、一方で新生児の半数程度にも出現することが知られています 5)。こちらも多くの場合で生後数週間で消失することが知られており、治療は不要です。

稗粒腫(ひりゅうしゅ / はいりゅうしゅ)

小さなニキビの白いとこみたいなやつが主にほっぺや鼻にできることがよくあります。これは稗粒腫といって、雑に説明すると毛穴にケラチンとか皮脂が詰まるのが原因です。こちらは生後数ヶ月程度で勝手に消えるので心配要りません。

まとめ

本日は赤ちゃんのによく見られる心配ない皮疹について解説しました。本当は写真とか載せられれば良かったんですが、著作権とか大丈夫そうなのが見つからなかったので、それっぽい皮疹を我が子に見つけたらかかりつけの施設で「これ何?」って聞いてみてください。

参考文献
1) Roques E, et al. Treasure Island (FL):StatPearls Publishing;2024 Jan-.
2) Reginatto FP, et al. Pediatr Dermatol. 2017;34(4):422. Epub 2017 May 25.
3) Harshita B Reddy, et al. Curr Pediatr Rev. 2017;13(2):136-143.
4) Marchini G, et al. Pediatr Res. 2005;58(3):613.
5) Fabiola Farci, et al. Treasure Island (FL):Stat Pearls Publishing;2024 Jan 2023 Sep 4.

うちの赤ちゃん、男の子なのにおっぱいがある?って思った時の話

こんにちは、副院長の石田です。

年に何回か、産後健診でご両親から「うちの子、男の子なのにおっぱいがあるんですけど…。」とご相談をいただくことがあります。触ってみると少しコリコリしてて、ひょっとして何かの病気じゃないかとご心配になる方も少なくないでしょう。そこで本日はこの件について解説したいと思います。

女性化乳房とは

皆さんは女性化乳房という言葉をご存知でしょうか?乳汁を分泌するための乳腺組織は女性ほどではないにしても、実は男性の胸にも存在しています。この男性の乳腺組織が乳首を中心に増殖し、ゴムのような硬い塊として触れるようになるのが女性化乳房です。新生児から高齢者まであらゆる男性に発症するとされていますが、新生児に関して言うと統計的には65〜90%に女性化乳房が見られるとも言われており、比較的よくあることのようです 1)。

新生児の女性化乳房

新生児が女性化乳房になる理由は、主に子宮内環境が原因と言われています。ちょっと難しい話をすると、胎児の副腎から分泌されたデハイドロエピアンドロステロンという物質が胎盤を経由してエストロゲンという女性ホルモンに変換されて大量に生成されます。このエストロゲンが胎児に影響を及ぼすため、男の子であっても女性のようにおっぱいが大きくなってしまうんですね。しかも、5%くらいの子では実際に乳汁が出ることもあるようです 2)。ただ、新生児の女性化乳房は通常、生後数週間〜1年程度で退縮すると言われており、ずっと戻らなかったり、後遺症が残ったりということはほとんど無いと言われています。

まとめ

本日は男の子のおっぱいについてお話ししました。そんなわけで赤ちゃんのおっぱいが腫れていてもあまり気にする必要はありませんが、それでも心配になってしまう場合にはかかりつけの産婦人科や小児科に気軽にご相談ください。

参考文献
1) GA Kanakis, et al. Andrology. 2019Nov;7(6):778-793.
2) Madlon-Kay DJ. Am J Dis Child. 1986;140(3):252.

出産時に立ち会うお父さんたちに写真撮影のアドバイス

こんにちは、副院長の石田です。

出産の立会いに臨まれるお父さんたちの最も重要な役割の一つに写真撮影があります。その日、その時間にしかない最高の瞬間を切り取って思い出として残しておくことはお産の痛みを代わることができない我々男性にとって、妻と子供のためにできる数少ない大切な仕事の一つですよね。しかしその一方で、(自戒の意味でも)これほど男性がしくじることが多い場面もありません。そこで今回は何一つ客観的な根拠はありませんが、私の個人的な思いのみで皆さんにアドバイスを送りたいと思います。

撮影量が少ない

まず99%くらいの男性に言えるのですが、撮影量が圧倒的に少ないです。自分では結構撮ったつもりでも、後で見返してみるとよく撮れている写真は思った以上に少ないんですね。でも後悔してもあの瞬間は撮り直すことができません。だから皆さんには是非自分で思っているのの10倍くらいは撮影して欲しいです。
とは言え自分も男性ですし、正直皆さんの気持ちも分かる気はするんですよ。一部の医者を除けば自分以外は全て女性なうえに、分娩中の奥さんは一人称の当事者で、それを囲む医療者は全て出産の専門家です。一通りの両親学級は受けたし本も何冊か読んだけど、それでも圧倒的なアウェー感を感じながらどう振る舞ったら良いか分からない男性がほとんどだと思います。ましてや写真と動画を撮りまくって妻や赤ちゃんの処置の妨げになったらどうしよう?写真や動画を夢中で撮りすぎた結果、後で医者や助産師から笑われてたらどうしよう?などご不安は尽きないかもしれません。でも大丈夫、写真も動画もいっぱい撮ってあげてください。もし撮影に適さないような、医学的に危険だったり緊迫した状況になる時はちゃんとお伝えするのでご安心ください。もちろんご自身の肉眼で赤ちゃんを見てあげることも大事ですが、家で固唾を飲んで待っているご家族や友人のためにもその瞬間をできるだけ記録して持って帰ってあげましょう。

奥様の撮影

出産直後の奥様の姿を撮影する方も非常に多いです。こんなに可愛い赤ちゃんを産んでくれた最愛の女性の勇姿を残したいと考えるのは当然ですよね。でもちょっと待っていただきたい。我々男性にとって命を賭けて出産をやり遂げた妻の姿は、美と戦の女神であるアフロディーテを凌駕するほど美しいと感じるでしょうが、一方で女性側からすると滝汗+髪ボサ+ノーメイクという極めて無防備な状態です。人によっては最も撮影されたくない瞬間かもしれません。そのためかお産でぐったりしている奥様を無断撮影して強めの怒られが発生していることが少なくないです。男性の皆様におかれましては臨月に入ったら奥様に分娩直後の撮影許可を得ておくか、あるいは最低限その場で「写真、撮っていい?」と聞くようにしましょう。くれぐれもいきなりレンズを向けることのないようにしていただくのが無難です。

まとめ

本日は分娩立会い時の男性へのアドバイスを書かせていただきました。色々と書きましたが、分娩室の父親は身の置きどころの無い中でそれでも必死に妻と子の無事を祈り続けていますし、にしじまクリニックはそんなお父さんたちが少しでもお産の輪に入りやすいようにマッサージなどのお手伝いをお願いしたり、写真撮影のタイミングで積極的にお声掛けしたりしています。当院で立会されるお父さんにおかれましては、分娩室での過ごし方について分からないことや不安なことがあればいつでもスタッフにお声掛けください。