受動喫煙について

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠女性においてはご本人の喫煙のみならず、周囲の人間による受動喫煙を避けることも同様にとても大切です。しかし受動喫煙について正しい知識を持っている人は意外と少ないような印象です。そこで本日はこれに関して少しお話ししてみようと思います。

受動喫煙とは

受動喫煙とは喫煙者ではない人がタバコの成分を意図せず体内に取り込んでしまうことを言います。タバコの燃えている部分から出る煙や、喫煙者が吐き出す煙を吸い込むことで成立するのが一般的な印象かと思いますが、これらの副流煙による”secondhand smoking”以外にも住宅の壁や家具の表面に付着したり埃に混ざって滞留するタバコの成分やその副産物が、皮膚や粘膜を通して体に吸収されることで健康被害を起こす”thirdhand smoking”の危険が知られています1)2)。これらの化学物質は環境中に数ヶ月から時として数年以上留まる可能性が示唆されており、取り除くのが非常に難しいことも問題とされています。

受動喫煙による健康被害

受動喫煙による非喫煙者の健康被害に関してはこれまでにたくさんの研究があります。妊娠に関係なく、一般的には肺がんの発生率が上昇するほか、乳がん、膀胱がん、うつ症状なんかの原因にもなるとされています 3)4)5)。受動喫煙をするのが妊婦さんの場合は、本人の喫煙同様に早産や低出生体重時、死産、先天奇形の頻度を上昇させたという報告もあります 6)7)8)。また、無事出産されたとしても、赤ちゃんに乳幼児突然死症候群、中耳炎、気管支喘息、発達の遅れなどの影響が出現するというデータもあり、やはり親の喫煙は良くないよねということが改めて確認されます 3)9)10)11)。

まとめ

よく「本人から離れて吸っているから大丈夫」という妊婦さんのご家族がいらっしゃるのですが、上述の通り環境に付着したタバコの成分でも受動喫煙が成立するため、少なくとも妊婦さんや子供がタバコの臭いを感じた段階で健康被害の懸念が生じます。そのため完璧な分煙というのは極めて難しく、家族の健康を考えるとみんなで禁煙する以外に方法は無いということになるんですね。タバコには受動喫煙以外にも子供による誤嚥などの危険もあるので、せっかくの妊娠を機会に是非ご家族みんなで禁煙していただくことをお勧めいたします。

参考文献
1) Winickoff JP, et al. Pediatrics. 2009;123(1):e74.
2) Sleiman M, et al. Proc Natl Acad Sci U S A.2010;107(15):6576. Epub 2010 Feb 8.
3) Yu Tong Wang, et al. Biomed Environ Sci. 2023 jan 20;36(1):24-37.
4) Irene Possenti, et al. Eur Respir Rev. 2024 Nov 13;33(174):240077.
5) Taiji Noguchi, et al. J Epidemiol. 2020 Dec 5;30(12):566-573.
6) Leonardo-Bee J, et al. Pediatrics. 2011;127(4):734
7) Crane JM, et al. BJOG. 2011;118(7):865.
8) Leonardo-Bee J, et al. Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed. 2008;93(5):F351. Epub 2008 Jan 24.
9) Wisborg K, et al. Arch Dis Child. 2000;83(3):203
10) Polanska K, ET al. Int J Occup Med Environ Health. 2015;28(3):419-43.
11) Jones LL, et al. Arch Pediatr Adolesc Med. 2012;166(1):18

妊娠蛋白尿に関する考え方

妊娠蛋白尿の定義

・尿蛋白/クレアチニン比が0.3以上

または

・24時間蓄尿で300mg/日以上の蛋白尿が検出された

場合を「妊娠蛋白尿」と定義します。これらは定量検査で

妊婦健診で行う蛋白の出ている尿(蛋白尿)の検査は定性検査

といいます。定性検査は主に陽性か陰性かを判断するもので、蛋白尿が陽性であれば定量検査で妊娠蛋白尿に当てはまるか確認をする必要があります。

蛋白尿の測定法

入院をしており時間的余裕があるなら24時間蓄尿を行いますが、

外来等では尿蛋白/クレアチニン比を検査することで早く結果を得ることができます。尿蛋白/クレアチニン比は、24時間蓄尿による蛋白排泄量とよく相関することが知られています。

尿蛋白/クレアチニン比が0.3~0.5の場合、尿蛋白排泄量は0.3~0.5g/日程度と推定できます。

蛋白尿量で(妊娠高血圧症候群の)重症度の区別は無

蛋白尿の量で妊娠高血圧症候群の重症度をはかるわけではありませんが、

『妊娠中の高血圧+蛋白尿』は妊娠高血圧腎症=子癇前症であること、

まだ高血圧を認めていなくても、蛋白尿を認めれば妊娠高血圧腎症への進展を予測しsFlt-1/PlGF比を測るきっかけとなること

から、妊娠蛋白尿には要注意と言わざる得ないのです。

執筆:院長

妊娠高血圧腎症の新しいマーカー

妊娠高血圧腎症は妊娠高血圧症候群の一種で、妊娠中の高血圧および蛋白尿に伴い、母体の臓器障害や子宮内胎児発育不全をきたす妊娠疾患で、子癇などの重篤な合併症を引き起こすことがあるため、早期に発見することが求められます。
近年の研究成果から、胎盤形成に関わる血管新生因子PlGF(Placental Growth Factor:胎盤増殖因子)および、その阻害因子sFlt-1(soluble Fms-like tyrosine kinase-1:可溶性fms様チロシンキナーゼ-1)は、妊娠高血圧腎症の病態形成に関与していることが明らかになっています。

簡単に説明すると、母体と胎児をつなぐ胎盤は、子宮へ張りめぐらされた血管があり、胎児胎盤循環が成り立っています。それら血管を作る因子PlGFに対し、阻害する因子sFlt-1の数が多い状態は胎児胎盤循環の悪化、すなわち妊娠高血圧腎症を引き起こす、ということなのです。
よって妊娠高血圧腎症を発症する妊婦は、発症前に血清中のsFlt-1のPlGFに対する比率が上昇することから、 「sFlt-1/PlGF比」(読み方:エスフルトワン/ピーエルジーエフ)比が妊娠高血圧症候群の発症を予測する補助マーカーとして保険適応となりました。

sFlt-1/PlGF比は採血検査となります。適応と対象者は妊娠18週から妊娠35週の妊娠高血圧腎症が疑われる妊婦さんで、結果sFlt-1/PlGF比が38を越える(39以上)と以後4週間以内の妊娠高血圧腎症を発症する可能性(陽性的中率36.7%)があり、高次医療連携施設との連携を図る必要があります。

このsFlt-1/PlGF比については昨年改訂された「産婦人科診療ガイドライン産科編2023」にも新規の記載として追加されました。

文責:院長

風疹って何ですか

風疹は、ウイルスによる感染症です。

風疹ウイルスによって引き起こされる、急性の発疹性感染症で、飛沫感染後、2〜3週後の潜伏期を経て発熱発疹、耳介後部リンパ節腫脹の主要症状が現れます。

風疹ウイルスはトガウイルス(Togavirus)科に属する直径60〜70nmのRNAウイルスです。新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスの直径は約100nmなので、風疹ウイルスはそれらより小さいウイルスと言えます。小さいウイルスのため、マスク着用でも風疹の感染予防効果は乏しいのです。

ヒトに感染性のあるエンベロープRNAウイルスとしては風疹のほか、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルスも同様です。

風疹に対する免疫がない集団において、1人の風疹患者から5~7人にうつす強い感染力があります。よって胎児感染、先天性風疹症候群の発生を起こさないためにも妊婦さんはご自身の風疹抗体価を有している事、また風疹の感染予防に努める事が大事なのです。

風疹の予防には、予防接種が最も有効ですが、いわゆる「生ワクチン*」のため、妊婦さんは風疹ワクチン接種は受けることができません(産後の接種は可能です)。

*生ワクチンは病原体となるウイルスの毒性を弱め、病原性をなくしたものを原材料として作られます。

風疹抗体価が低く免疫が不十分な妊婦さんが妊娠20週頃までに風疹のかかると、眼や心臓、耳などに障害をもつ先天性風疹症候群を有する赤ちゃんが産まれてくる可能性があります。

妊婦さんの風疹初感染において、先天性風疹症候群は妊娠8週までに約50%、妊娠12週までに約40%、妊娠16週までに約30%、妊娠20週まででは数%起こるといわれています。

風疹抗体価を十分にもっていない(風疹HI 16倍以下)場合、特に妊娠20週までにおいて外出をする際には可能な限り人混みを避けましょう。また夫が風疹抗体価があるかの確認し、必要あれば夫の風疹ワクチン接種を検討するとよいでしょう。

院長執筆

参考文献;

Rubella (German Measles, Three-Day Measles). CDC

風疹とは. 国立感染症研究所

胎児診断・管理のABC(第6版). 金芳堂

リトドリン塩酸塩の内服方法と副作用

今回は、切迫流早産時に用いられるリトドリン塩酸塩(以下、リトドリン)についてです。

・処方の適応:妊娠16週から36週までとなります。

よって妊娠15 週以内の切迫流産に用いることはできず、それでも子宮収縮の抑制をはかりたい場合は別の薬を処方することになります。

・薬理学機序:リトドリンは子宮筋選択性のβ2刺激薬です。

子宮収縮を抑制をするほか、β2刺激薬であるため動悸を自覚される方も少なくありません。

・内服方法:内服薬は1錠5mg、原則1日3錠(計15mg/日)です。

子宮収縮の時間帯や状態によっては1日4回の内服を指示することもありますが、上記の動悸などを考慮し、4時間の間隔をあけて内服するとよいでしょう。

・効果:妊娠24週から37週未満の切迫早産118例を対象としたランダム化比較試験では、1日3回内服、14日間の内服で切迫早産に対する有用性が確認されています。

・特に注意すべき副作用:横紋筋融解症、汎血球減少、血清カリウム値低下、高血糖らがあります。

高血糖の懸念から妊娠糖尿病においては原則、リトドリンを用いることはできません。

長期内服の場合は副作用対策にて定期的な経過観察が必要です。特に入院管理でリトドリンの注射薬を用いる場合は定期的な採血を行い、

白血球の減少、血小板の減少、肝機能障害などがないか、を確認します。

院長執筆

参考資料;

今日の治療薬

早産のすべて. メジカルビュー社