熱中症に五苓散

連日暑い日が続きますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

熱中症の身近な対策といえば水分補給(塩分も忘れずに)ですが、ドラッグストアなどで売っている漢方薬も熱中症対策として存在します。それは

『五苓散(ゴレイサン)』

です。

五苓散の効能・効果の中に「暑気あたり」があります。いわゆる熱中症の初期状態に相当します。

五苓散は水滞(本来であれば体内に排出されるべき水分が体内にとどまっている状態)を改善する漢方の一つです。

五苓散は柴苓湯(五苓散+小柴胡湯)とともに、妊娠中の浮腫やめまいに対し使用されるされることも多い漢方薬です。

配合生薬の一つに猪苓(チョレイ)が含まれています。これは水液代謝を調節し不要な水分を排泄する作用を持ち、膀胱炎に対する漢方薬にも多く含まれています。

五苓散は高山病による頭痛や二日酔いにも症状の軽減効果があるようです。熱中症の軽〜中等度以内の症状での頭痛にも効果があるかもしれませんね。

文責 院長

ストレス関連症状に使用される漢方

漢方の構成生薬のうちの一つである『柴胡(サイコ)』剤は、

苛立ち・不安・抑うつ・不眠などストレスに関連した症状に対し処方されます。

本日は、柴胡が含まれる漢方を4つご紹介しましょう。

柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)

疲労倦怠感があり、体力が低下し

動悸、息切れ、不眠などの精神神経症状を伴う方

に処方します。

『乾姜(カンキョウ)』の文字からお分かりのとおり、もともと冷え性・体質の方に効果があります。

柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)

苛立ち、不眠があり比較的体力がある方

に処方します。

上記2剤は柴胡のほか、精神を安らかにするといわれる『牡蛎(ボレイ)』も含まれています。

四逆散(シギャクサン)

体力が中等度で、神経質で胃炎などを起こしやすい方

に処方します。

芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)の成分も含まれているので、筋肉のけいれん、例えば胃や胆嚢のけいれんなどの緩和も期待できます。

*術後の頭痛対策のために院内ストックしている当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)にも「四逆」という文字があります。これは何しかしらの原因により「四」肢が冷えるため、「逆」冷が起きる、ことを意味します。例えば妊娠・帝王切開により体力が低下したため冷えが起き、下腹部痛腰痛、ひいては頭痛を起こす方に、と捉えることができます。

四逆散は感情や神経の乱れにより体力が低下したため冷えが起き、消化器の炎症を起こす方に、と捉えることができます。

抑肝散(ヨクカンサン)

神経過敏で興奮しやすく、苛立ち、怒りやすい方

に処方します。

興奮をおさめる『釣藤鈎(チョウトウコウ』も含まれています。

眼のけいれん・ピクつきが気になる方に効果があります。

漢方になじみのない方々は、最初は漢方の効果に抵抗があるかもしれません。ですが私院長は、漢方はいわゆるコーヒーや紅茶などと同じだと思っています。例えば産地や銘柄にこだわりがある人には是非ともおすすめします。そもそも漢方は症状に合わせて生薬を調合したものが製品となっているわけで、それらは何百種類もあるわけです。それらから自分のお気に入りを見つける、または担当医から勧めてもらう、このことは『お気に入りのお店へ好きなものを飲みにお茶しに行く』と似ていませんか?

勿論、にしじまクリニックではストレス関連症状にお困りの方々をいつでもお持ちしております。

今年もよろしくお願い申し上げます。

妊娠中のこむらがえり

妊娠中によく経験される『こむらがえり』について本日はお話しします。

妊娠により子宮は横隔膜を押し上げます。その分代償性に胸郭の前後径が拡大するので肺活量の変化はありませんが、妊娠による基礎代謝量の増加により非妊娠時に比べ酸素消費量は増大します。

そうなると妊婦さんは換気量が増加する必要があり、就寝時、夜間は過換気になりやすく、呼吸性アルカローシスとよばれる状態になり血中のカルシウムが低下傾向をきたし、こむらがえりを起こしやすくなります。

また妊娠により下肢の筋肉および靭帯の過伸展が、ひいては筋肉の過剰収縮をも引き起こします。

こむらがえりの予防および対処法としては

・カルシウムの摂取する

・長時間の座位を避ける

・就寝前にも水分摂取を心がけ、芍薬甘草湯を内服する

ことを私の外来では妊婦さんへよくアドバイスしています。

妊娠中はほぼ全ての妊婦さんは血中のカルシウムが低くなる傾向にあるので、妊娠初期からサプリメントなどで積極的にカルシウムを摂っていただくことをお勧めします。

(エレビットは1日分としてカルシウム125mg)

前回妊娠時に妊娠高血圧症候群となった方は1日約1.5g相当のカルシウムを摂取されても構いません。カルシウムの摂取は妊娠高血圧症候群の予防の一つとされています。

漢方の『芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)』は筋肉組織細胞のイオンバランス(カルシウムイオンとカリウムイオン)を正常化に導くことで過剰な神経伝達を遮断し、筋肉の過剰収縮を抑えることができます。

カルシウム製剤も芍薬甘草湯も処方が可能ですので、こむらがえりが気になる方は外来でぜひご相談してください。

今年のブログはこれで最後となり、次回のブログは来年1月4日(月)に予定しております。

私がにしじまクリニックで仕事を専念するようになって約5年が経過しました。おかげさまで分娩件数、外来患者数ともに右肩上がりの状態となっています。今年はコロナ禍にもかかわらず多くのご支持をいただき、本当にありがとうございました。叱咤激励をいただきながら、患者様のために、スタッフのために私が何ができるを考え続け、少しずつではありますが『にしじまクリニック』を重ねてアップデートし続けてまいります。まだまだ伸びしろのある当院です。来年もよろしくお願い申し上げます。

院長 西島翔太

柴苓湯(サイレイトウ)はマルチパーパス漢方

前回私院長がブログにポストした、『当帰四逆加呉茱萸生姜湯』についての反応が良かったので、今回は引き続き漢方のお話で、”柴苓湯(サイレイトウ)”について解説します。

柴苓湯は小柴胡湯(ショウサイコトウ)と五苓散(ゴレイサン)を合わせた合剤漢方になります。

小柴胡湯の成分はステロイド類似作用を持ち、炎症や自己免疫が関与する疾患(*)に処方されます。

また、炎症の多くは臓器、組織の浮腫を伴います。五苓散の成分は利水作用を持ち、浮腫に対し有効に働きます。例えば妊娠後半期の循環血流量増加に伴う単純性浮腫であれば、五苓散を単独処方します。

(ちなみに五苓散は二日酔いや、めまいにも大変有効です)

従って、柴苓湯は手のしびれを主訴とする手根管症候群に適応となります。

手根管症候群とは、浮腫によって手首の手根管という腱が腫れ、そこを通る正中神経が圧迫され手のしびれや痛みが起こる病態です。先ほど申し上げた通り妊娠は赤ちゃんに血液を送るために循環血液量が増加するので手根管症候群が起こりやすいのです。

対処法としては末梢神経障害に適応のあるビタミンB12などの内服、そして漢方の内服です。また運動や仕事の軽減、シーネ固定などの局所の安静、ひどい時は腱鞘炎を治めるための手根管内腱鞘内注射が行われます。1)

ちなみにこの腱鞘内注射、トリアムシノロンアセニド(ケナコルト®)2)というステロイドを打つのですが、すごく痛いそうです。

であれば浮腫を抑えてステロイド成分のある柴苓湯は、手根管症候群の対処法として理にかなっていると言えます。

また、関節痛・神経痛に桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)という漢方があります。これも手根管症候群に有効とされ、小林製薬が市販薬として販売しています。

話を柴苓湯に戻します。新潟大学産婦人科などでは柴苓湯のステロイド類似作用を利用し、自己免疫(*)疾患の抗リン脂質抗体症候群などの不育症に対して、柴苓湯を積極的に用いています。3)

柴苓湯はその他の適応として術後のケロイド・肥厚性瘢痕に対しても有効とされています。Multipurposeな漢方である柴苓湯をぜひ皆さんも知っていただきたいです。

参考)

1) 日本整形外科学会 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/carpal_tunnel_syndrome.html

2) 今日の治療薬

3) 新潟大学医学部産婦人科教室 http://obs-niigata.jp/patient/reproductive/

妊娠分娩に関わる頭痛に当帰四逆加呉茱萸生姜湯

妊娠してから出産後7日までのことを『周産期』と定義します。この期間は頭痛や腰痛に悩まされる方々が多いのは事実です。

特に妊娠中は胎児のことを考え、頭痛薬が処方しにくい状態です。そこで漢方の出番となります。私院長は”当帰(トウキ)”や”呉茱萸(ゴシュユ)”が入った漢方をよく処方します。

“当帰”はセリ科の植物で、体を暖めながら血行を良くするほか、妊娠に適した体内環境へ整える作用があるといわれます。血流改善を行うことで、血流の『よどみ』による痛みを軽減するのです。当帰は海外では”Angelica”と呼ばれ、語源は”Angel”、つまり天使のような薬という意味で、日本のみならず海外でもハーバルエッセンスとして用いられています。

上記サイトでは”Chinese Angelica Root”となっておりますが、当帰に関しては、ツムラでは日本で一貫生産が可能な、質の高い”Japanese Angelica Root”と私は呼びたいところです。

https://www.jadea.org/houkokusho/yakuyou/documents/H29yakuyou_hokkaido_4.pdf

当帰は漢方薬の名前になくとも成分によく入っており、例えば、婦人科3大漢方の一つでもある”加味逍遙散(カミショウヨウサン)”にも当帰が含まれています。

またミカン科の植物である”呉茱萸(ごしゅゆ)”は習慣性頭痛によく処方します。実際ツムラの医療用漢方製剤本にも効能効果として記載されています。1)

この”当帰”と”呉茱萸”が合わさったのが”当帰四逆加呉茱萸生姜湯”です。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯はトウキ シギャクカ ゴシュユ ショウキョウ トウ と呼びます。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯は体質虚弱で普段から四肢冷感のある、腹力がやや弱い女性に、また下腹部や腰部に外科的手術の既往があり頭痛を訴える症例に適しているとされています。2)

多くの女性が妊娠すると、体も気持ちも”寒”の病証に移行されることが多いです。名前の通り、”当帰”の他、”生姜”の入っているこの漢方は”寒”から”温”へ向かうように体を整えてくれ、しかも下腹部手術の頭痛に効果がある、まさに帝王切開後の頭痛にぴったり当てはまる薬なのです。3)

にしじまクリニックでは帝王切開の麻酔時にできるだけ細い針を使用したり、術後の疼痛管理を昨年アップデートしたり工夫を凝らしています。それでも帝王切開術後の頭痛、もしくは妊娠中の頭痛が辛い場合は漢方を利用するのも一手です。是非ご相談ください。

参考文献;)

1) TSUMURA KAMPO MEDICINE FOR ETHICAL USE

2) 高山宏世. 腹証図解 漢方常用処方解説. 日本漢方振興会漢方三考塾(泰普堂), 1988

3) 西島翔太. 帝王切開術後の頭痛における”当帰四逆加呉茱萸生姜湯”とロキソプロフェンナトリウムの服用比較. 産婦人科 漢方研究のあゆみ No.27, 2010