黄体ホルモン製剤エフメノ®︎カプセル

更年期障害のホルモン補充療法として、天然型黄体ホルモン製剤の「エフメノ®︎カプセル」が昨年発売となりました。

ホルモン補充療法(HRT: Hormone Replacement Therapy)とは、エストロゲン欠乏に伴う症状の治療で、閉経移行期以降(周閉経期)の女性にエストロゲン製剤を投与する治療の総称をいいます。

子宮を有する女性ではホルモン補充療法を行う際、エストロゲン製剤のみでは子宮内膜増殖症のリスクを伴います。そこで黄体ホルモン製剤を併用することで子宮内膜増殖症、ひいては子宮内膜癌のリスクを抑えつつホルモン補充療法を行うことが可能となります。

今までも黄体ホルモン剤(類縁化合物)はありましたが、今回のエフメノ®︎カプセルは初の天然型製剤で、継続投与による乳がんリスクや血栓症リスクを減らすことが期待されています。

今は卵胞ホルモン+黄体ホルモン一体型のパッチ製剤が更年期障害に対しホルモン補充療法の主流となっていますが、貼付し続けることで皮膚トラブルを訴える方がいらっしゃるのも事実です。そこで今回の新たな黄体ホルモン内服薬はホルモン補充療法におけるもう一つの選択肢と言えるでしょう。

用法

卵胞ホルモン剤(エストロゲン製剤)とともに、エフメノ®︎カプセル100mg(1錠)を

・持続的投与法:1日1錠を就寝前に内服

・周期的投与法:卵胞ホルモン剤投与15〜28日目に2錠を就寝前に内服

(院長執筆)

経口中絶薬について

こんにちは、副院長の石田です。

先日ラインファーマというイギリスの製薬会社が厚生労働省に経口中絶薬の承認申請をしたことが話題になりました。これまで日本では中絶を希望される女性は外科処置を受けるしかありませんでしたが、本薬剤が使用できるようになると色々な意味で患者さんの負担が軽減すると期待されており注目を集めています。ただ、その一方で国内での経口中絶薬の是非をめぐっては賛否両論あり、さらにそこにイデオロギーやポジショントーク、果ては陰謀論めいたものまで飛び交うことで議論はすっかりカオスになっている印象です。そこで本日はこのお薬がどういうものなのかお話ししてみたいと思います。

2種類のお薬を組み合わせて使います

今回経口中絶薬として承認申請が行われたのはミフェプリストンとミソプロストルという2種類のお薬です。妊娠中は様々なホルモンが分泌されて体が妊娠状態を維持できるように働いていますが、ミフェプリストンはその中でもプロゲステロンという最も重要なホルモンの働きを阻害します。さらに子宮収縮作用を持つミソプロストルという薬を組み合わせることで妊娠が効率よく終了するように設計された治療です。海外のデータでは、これにより95~98%程度の中絶成功率が確認されていますが、日本でも同様の成績が報告されているようです 1)2)3)。ちなみに妊娠10週を超えると成功率が落ちる傾向があるようです 4)。

産婦人科以外や薬局などでも手軽に手に入るようになるのか

薬が使用できるのは初期の正常妊娠であり、それ以外の例えば異所性妊娠(子宮外妊娠)などで使ってしまうと命に関わることがあります。加えて中絶前には医学的な理由で血液検査などが必要になるため処方は産婦人科での診察後にのみされるべきであり、妊娠反応が陽性に出たら安易に薬局で風邪薬みたいに購入できるとは考えない方が良いでしょう。さらに言うと、現在中絶処置ができるのは母体保護法指定医の認定を受けた産婦人科医がいる、入院設備を持った医療施設に限定されていますが、内服薬が承認された場合にそれがどこまで緩和されるのかは議論があるかと思います。

実際、安全なのか?

ホルモン剤ゆえの気持ち悪さとか頭痛なんかはざっくり半分くらいの人に見られますが、重篤な有害事象はおよそ0.1%程度とという統計があります 5)6)。また、帝王切開の既往歴がある女性であっても有害事象や成功率に影響は無いようです 7)。世界的に見れば長い使用実績があることからもとても安全な治療であるということは間違いありません。ただ、これは薬での中絶だからというわけではないのですが、医療介入である以上ゼロリスクということもあり得ません。中絶処置は胎児組織を子宮から剥がしてくる時にごく稀に大出血を伴うことがあります。その他薬に対するアレルギーや処置後に感染症を起こすことなんかもあるので夢の治療と盲信しないこともとても大切です。

まとめ

というわけで本日は経口中絶薬に関する一般的な知見についてご紹介いたしました。上記を読むと安全で有効で便利な治療なんだったら早く導入して!という声が強いのはもっともですね。その一方で、当院で言うと院長や私はそれぞれ海外でのキャリアからミソプロストルを使って誘発分娩や流産処置をした経験があるため導入に対してそれほど抵抗感はありませんが、日本では使用経験が無い医療者の方が多いため慎重になる背景も理解できます。(どんな医療者でも使ったことのない薬や道具を患者さんに導入するのは緊張するもんです。)加えて日本での中絶処置は設備が整った大病院は行っていないことが多く、街のクリニックでの処置がメインとなるため夜間休日に人がいないような診療所では不測の事態にどのように対応するかなど詰めるべき点も多いでしょう。いずれにしても患者さんにとって良い選択肢が増えるのは歓迎すべきことですので、この件についての議論が煽られすぎることなく建設的に進むことを期待しています。

1) Ashok PW, et al. Hum Reprod 1998;13:2962-2965
2) Goldstone P, et al. Aust N Z J Obstet Gynecol 2017;57:366-371
3) Osuga Y, et al. Acts Obst Gynaec Jpn 2021;73(12):1735-1739
4) Hamoda H, et al. Am J Obstet Gynecol. 2003;188(5):1315
5) Chen MJ, et al. Obstet Gynecol. 2015;126(1):12
6) Cleland K, et al. Obstet Gynecol. 2013;121(1):166
7) Dehlendorf CE, et al. Contraception. 2015;92(5):463

コーチングとティーチングの使い分け

皆様も職場で上の立場の場合、リーダー役または他スタッフをまとめる事があるかと思います。そこでコーチングとティーチングを使い分けをされているでしょうか?

コーチング(Coaching)の基本概念

コーチングは『人の目標達成を支援する』事を理念としています。問いかけて聞く事を中心とし、双方向のコミュニケーションを通して相手がアイディアや選択肢に自ら気づき、自発的に答えを導き出す手法・スキルとなります。

ティーチングとは

学校教育など「教える側」が存在し、知識や経験が少ない相手にルールやノウハウを教える事をいいます。

コーチングとティーチングの使い分け

相手をよく観察し、習熟度を知り、コーチングとティーチングの使い分けを行う事が可能となります。

ティーチングは『答えは教える側が持っている』

コーチングは『答えは相手の中にある』

のです。

コーチング原則

・アドバイスをしない:上記のとおり、『答えは相手の中にある』、『人の目標達成を支援する』事が重要のため、一方通行のアドバイスは行いません。

(私院長の個人的意見としては、価値観を押し付けてはいけませんが、到達目標をはっきり共有していないとコーチングはブレてしまうと思います。また、コーチングを行う人が知識と経験が豊富で、何よりコーチングを受ける人達に対し、なんでも言いやすい(話しやすい)環境『心理的安全』を整えることが重要です。)

・カウンセリングをしない:相手の過去の問題を扱い、問題を解決するようなことをしないのがコーチングの一原則です。

・相手の行動を制限しない:繰り返しますが、自分の価値観を押し付けて「この人には無理」と判断する事は危険です(そう思ってしまうなら、インストラクターとして担うのは難しいでしょう)。

このコーチングやティーチングは、医療従事者のみならずどの職業でも必要なスキルだと思います。にしじまクリニックでは、上の立場を目指すスタッフにはこのスキルを習得し、インストラクションしてもらうようにしてもらっています。

(院長執筆)

参考文献;

2022年1月8日ALSO/BLSOインストラクターコース資料から

性交痛(セックスの痛み)について

こんにちは、副院長の石田です。

産婦人科ではよくセックスの痛みについてご相談を受けますが、プライバシーに踏み込んだ内容なので周りにも相談しにくいでしょうし、もしかしたら「相談する」という選択肢が無い方も多いかもしれません。しかし性交痛は統計に出るだけでも1%以上の女性に発症しており、潜在的な患者さんも含めるとかなり多くの方のお悩みになっている可能性があります 1)。そこで本日は性交痛とその診察について解説いたします。

性交痛の原因

性交痛と一口に言っても原因疾患は多岐にわたります。その中でも臨床現場で遭遇する頻度が高いものでは感染症や子宮内膜症が挙げられます。感染症で多いのはカンジダというカビ菌の繁殖によるものですが、こちらでは主に陰茎が腟に挿入された時に痛みを感じやすいのと、それとは別に強力な痒みやカスのようなおりものを伴うのが特徴的です。一方で淋病やクラミジアなどの性感染症が原因になる場合もありますが、どちらかというとその場合は深いところで炎症が起こるため腟の奥で摩擦された時に痛みが出ることが多いとされています。また、月経痛の原因としてもよく知られている子宮内膜症では子宮や卵巣の周りに癒着という炎症性の“ひきつれ“が起こるため性交時にそれが強い痛みが出る原因となります。他には抗アレルギー薬による粘液の減少や、乱暴な性交渉での外傷、パートナーとの関係不良や性暴力被害の経験が原因での心理的影響なども比較的よく見かけます。

対処方法

もちろん婦人科を受診するのがベターですが、もし自分で対処してみたいと思うのであれば薬局などで販売している潤滑ローションを使用してみると良いかもしれません。特にお勧めのブランドとかはありませんが、お二人の肌に合うものを選んでみましょう。また、巷で言われるスローセックスを試してみるのもありです。これに関してはネットとかで検索しても色々出てくると思いますが、端的に言うとあまり動きすぎずに挿入後もゆったりと時間を使うイメージです。経験的にもこの二つを患者さんにお勧めすると改善を認めることが多いので、試してみる価値はあると思います。

まとめ

と言うわけで、超簡単にではありましたが性交痛についてお話ししました。実際の診察ではより細かく状況を伺ったり、いくつかの検査を組み合わせてより広範囲の疾患群から診断を探っていく作業になります。ただ、性交痛に関してはそもそも原因が特定できないことも多く、できたとしても治療に時間がかかることもしばしばです。そのため必ずしも婦人科を受診することで全部うまくいくようなスッキリとした話ではありませんが、お悩みの方は試しに相談してみていただければと思います。

1) Hayes RD, et al. J Sex Med. 2008 Apr;5(4):777-87

ストレス関連症状に使用される漢方

漢方の構成生薬のうちの一つである『柴胡(サイコ)』剤は、

苛立ち・不安・抑うつ・不眠などストレスに関連した症状に対し処方されます。

本日は、柴胡が含まれる漢方を4つご紹介しましょう。

柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)

疲労倦怠感があり、体力が低下し

動悸、息切れ、不眠などの精神神経症状を伴う方

に処方します。

『乾姜(カンキョウ)』の文字からお分かりのとおり、もともと冷え性・体質の方に効果があります。

柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)

苛立ち、不眠があり比較的体力がある方

に処方します。

上記2剤は柴胡のほか、精神を安らかにするといわれる『牡蛎(ボレイ)』も含まれています。

四逆散(シギャクサン)

体力が中等度で、神経質で胃炎などを起こしやすい方

に処方します。

芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)の成分も含まれているので、筋肉のけいれん、例えば胃や胆嚢のけいれんなどの緩和も期待できます。

*術後の頭痛対策のために院内ストックしている当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)にも「四逆」という文字があります。これは何しかしらの原因により「四」肢が冷えるため、「逆」冷が起きる、ことを意味します。例えば妊娠・帝王切開により体力が低下したため冷えが起き、下腹部痛腰痛、ひいては頭痛を起こす方に、と捉えることができます。

四逆散は感情や神経の乱れにより体力が低下したため冷えが起き、消化器の炎症を起こす方に、と捉えることができます。

抑肝散(ヨクカンサン)

神経過敏で興奮しやすく、苛立ち、怒りやすい方

に処方します。

興奮をおさめる『釣藤鈎(チョウトウコウ』も含まれています。

眼のけいれん・ピクつきが気になる方に効果があります。

漢方になじみのない方々は、最初は漢方の効果に抵抗があるかもしれません。ですが私院長は、漢方はいわゆるコーヒーや紅茶などと同じだと思っています。例えば産地や銘柄にこだわりがある人には是非ともおすすめします。そもそも漢方は症状に合わせて生薬を調合したものが製品となっているわけで、それらは何百種類もあるわけです。それらから自分のお気に入りを見つける、または担当医から勧めてもらう、このことは『お気に入りのお店へ好きなものを飲みにお茶しに行く』と似ていませんか?

勿論、にしじまクリニックではストレス関連症状にお困りの方々をいつでもお持ちしております。

今年もよろしくお願い申し上げます。