赤ちゃんの青あざ(蒙古斑)について

こんにちは、副院長の石田です。

生まれたての赤ちゃんの全身を観察するとほぼ必ずお尻を中心として青あざが見られます。国際的には(恐らく特定地域や人種に対する差別等への配慮もあり)先天性真皮メラノサイトーシスと呼ばれる変化ですが、日本ではいまだに「蒙古斑」という呼び方が一般的ですね。さて、この蒙古斑ですがいかにも赤ちゃんという見た目が可愛らしい一方で、残ってしまうのではないかと心配される親御さんが少なくありません。そこで本日は蒙古斑についてお話ししたいと思います。

蒙古斑とは

蒙古斑とは新生児に最もよく見られる先天性の色素沈着です。蒙古斑の出現率には明確に人種差があり、アジア人で81~100%の確率で見られる一方で白人の子供では10%未満ともされています 1)2)3)。そのためひと昔前のアメリカでは虐待のあざと勘違いされて赤ちゃんが保護施設に入れられてしまったなんてこともあったそうです。最もよく見られるのはお尻の辺りですが、続いて肩なんかも好発部位として知られている一方で 逆に頭や顔などには出にくいとされています。3)。(実際うちの子も産まれた時は肩にありました。)1~2歳までに消え始めて10歳くらいまでで大部分が消失されると言われていますが、一方で3%程度は大人になっても残存する可能性が示唆されています 4)。

治療

蒙古斑はほとんどの場合で自然に消失する変化であり、残存したとしても皮膚がんなど悪い病気にはならないとされていることから一般的には治療を必要としません。ただ、出ている場所によっては見た目の問題でレーザー治療を行う場合があります 5)。また、やや似ている病変で主に頭頸部に出現する太田母斑や伊藤母斑などは実際に病気に発展していく可能性があるので疑われる場合には専門科の診察が必要になる場合があります。

まとめ

本日は蒙古斑について説明しました。上記の通り日本人にはよく見られる所見であり、昔から転じて未熟な人を示すのに「尻が青い」という言葉も使われます。多くの場合は気にせず消えるのを待っていただければと思いますが、蒙古斑とは印象が違う色素沈着や気になる場所に出ているという場合には気軽に主治医にご相談ください。

1) A K Leung. Int J Dermatol. 1988 Mar;27(2):106-8
2) A H Jacobs. et al. Pediatrics. 1976 Aug;58(2):218-22
3) A Cordova. Clin Pediatr (Phil’s). 1981 Nov;20(11):714-9
4) Divya Gupta, et al. Pediatr Dermatol. 2013 Nov-Dec;30(6):683-8
5) Kanlaya Tanyasiri, et al. J Dermatol. 2007 Jun;34(6):381-4

プライマリーサーベイ

プライマリーサーベイ(Primary Survey)とは

外傷の救急初期診療では患者の生命を守るために、生理学的徴候の異常を迅速に評価し、直ちに蘇生を開始するアプローチを定めており、これをプライマリーサーベイ(Primary Survey)といいます。

現在、妊産婦における周産期救急初期治療においてもPSに基づいた対応が重視されています。

周産期救急におけるプライマリーサーベイの実際

患者に生命の危険性がある・重症である状態を覚知した場合(この時を「第一印象」と呼びます)、他のスタッフの応援を呼び、ABCDEFアプローチに沿って、患者のどこに問題があるのかを評価し対応していきます。

ここではABCDEFアプローチのうち、A(Airway), B(Breathing), C(Circulation)の重症と判断する状態とその処置・治療をご紹介します。

Airway:気道の評価

気道が閉塞(声が出せない状態など)→気道確保

Breathing:呼吸の評価

呼吸数、呼吸様式、酸素飽和度、聴診に異常あり。酸素投与でも改善しない→補助換気など

Circulation:循環の評価

ショック状態→循環動態の補正:出血性ショックの状態なら輸血投与、

産後異常出血に応じた子宮収縮剤の投与や止血など

プライマリーサーベイの原則

・バイタルサインが表示される前に、患者のどこが重症なのかを系統立てて評価する。

例えばC(Circulation)では、血圧・脈拍を測る前に四肢末梢の冷感や湿潤がある、橈骨動脈を触知し脈が弱く早ければ「C」が重症と判断し、それを対処していきます。

・患者が急変した場合はA(Airway)から戻って対応する

・妊婦の心肺停止の場合、ABCDEFアプローチと並行して心肺蘇生、

(死戦期)帝王切開。通常の帝王切開と異なり、産婦(と新生児の)救命目的の死戦期帝王切開は一次施設等では完結できないため、その場合は質の高い蘇生(プライマリーサーベイと心肺停止時の対処を理解・共有し、妊婦の胸骨圧迫や人工呼吸が行える多くのスタッフの協力を得て)を行いながら高次施設へ紹介する。

ブログを読んでいただいている妊産婦さんやご家族は難しい内容かと思いますが、にしじまクリニックでは妊産婦さんや新生児の救命処置においては、やみくもに処置を施すのではなく、皆様の生命を守るためこのような系統立てた蘇生を全スタッフと共有しながら行なっている、とご理解いただければ幸いです。

執筆 院長

NIPTについて

こんにちは、副院長の石田です。

先日クアトロテストの解説をいたしましたが、最近は同じく母体血を用いたNIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)という出生前検査もよく知られており、多くの妊婦さんとそのご家族にとって有力な選択肢となっています。ただその一方でNIPTがどのような検査なのか、また受ける時の注意点などは意外と知られていないかもしれません。そこで本日はNIPTの基礎知識についてお話ししたいと思います。

NIPTの概要

クアトロテストが母体中の4種類のタンパク質を測定し、そのバランスで胎児疾患の罹病確率を計算していたのに対して、NIPTは母体血中に含まれる胎児由来のcell free DNAという遺伝子の断片を解析して染色体異常の有無を調べています。このcell free DNAは、厳密には胎盤(正確には胎盤の絨毛組織)の細胞が新陳代謝で壊れて母体血中に溶け出たDNAなのですが、その細胞は理論上胎児と同じ遺伝子を持っているためそれを調べることにより染色体異常の有無がわかるということになります。
より直接的に胎児の遺伝情報を見ているという点で検査精度が高いのが特徴で、実際ダウン症候群について言うならばクアトロテストの感度が80~85%なのに対しNIPTでは99%とされています。また、検査時期もクアトロテストが妊娠15週以降なのに対してNIPTでは妊娠9~10週以降と比較的早くから利用できるためとても使いやすい検査となっています。

NIPTの注意点

NIPTでは母体血中を漂うcell free DNAを集めてきて、それぞれの塩基配列を見ながら何番染色体由来かで選り分けていきます。その結果、仮に21番染色体由来のcell free DNAが普通より多く検出される場合にはダウン症候群が疑われることになります。(ダウン症候群では21番染色体が1本多いため、検出されるDNAも必然的に多くなるからです。)しかしダウン症候群を疑うDNA量の差は、「普通なら1.3%なのに1.42%もある!」という程度のものであり、加えて直接染色体を見ているわけではないのでNIPT陽性となった場合は羊水検査などの確定検査で診断を確認する必要があるのです。

NIPTを受けるときに気をつけたいこと

現在NIPTは産婦人科だけでなくNIPT専門施設や美容外科、皮膚科など幅広い施設で取り扱われていますが、中には日本産科婦人科遺伝診療学会の認証を受けていない施設も多くあります。非認証施設での検査は安価な傾向がありますが、その一方で21、18、13番染色体以外にも本来NIPTでの正確な診断が難しい性染色体やその他の遺伝病の検査がされていたり、検査結果が送られてくるだけで説明やカウンセリングが無かったりと、患者さんをかえって混乱させてしまう検査体制の施設が少なくありません。NIPTに限らず出生前診断で最も大切なのは検査そのもの以上に患者さんの気持ちに寄り添いつつも客観的かつ正確な情報を共有してくれる適切なカウンセリングです。検査施設を選ぶときは値段や場所だけでなく、アフターフォローも考慮されると良いでしょう。

まとめ

ちょっと長くなりましたが、本日はNIPTについてご説明しました。NIPTは万能ではありませんが、低リスクで赤ちゃんの状態を知ることができる良い検査だと思います。ご希望の妊婦さんは気軽に最寄りの産婦人科で相談してみましょう。

羊水塞栓症

羊水は夫抗原由来の異種蛋白を含んでおり、羊水が母体血中に流入すると免疫系が反応します。その反応が過剰に発生すると、子宮や肺を中心に急激に血管透過性が亢進し、子宮の弛緩や肺水腫を起こします。主に産後の出血量に見合わない低血圧や血液凝固異常が発生した時に「羊水塞栓症」を疑うのです。
羊水塞栓症の発症リスクとして、羊水成分が母体血中に流入しやすい状況が考えられます。例えば常位胎盤早期剥離、誘発分娩(子宮頻収縮)、器械分娩、産道裂傷、帝王切開などが羊水塞栓症の原因となり得ます。

羊水塞栓症が起こった場合、非常に急激な進行を呈するため、産婦は命の危険性があります。よって早期に臨床的に本症を疑い、かつ迅速な対処を行うことが必要です。

前述したとおり、一見弛緩出血にみえるが子宮収縮剤に反応しなかったり、採血で血液凝固因子の一つであるフィブリノゲン値の低下が見られます。

産婦に起こる症状としては突然の呼吸不全(あえぎ呼吸などの呼吸困難やチアノーゼ)、急激な低血圧・心停止、痙攣発作、産道からの多量出血などが挙げれます。

初期対応は症状に応じたものとなります。迅速な対処、特に生理学的徴候の異常を迅速に評価し、直ちに蘇生を行うABCDEF(Airway, Breathing, Circulation, Dysfunction of CNS, Exposure, Fetal assessment)アプローチは、産婦の予後を大きく左右するといわれています。

執筆 院長