妊娠と喘息

こんにちは、副院長の石田です。

小児喘息を含め、気管支喘息の既往がある妊婦さんはたくさんいらっしゃいます。地域差や人種差もあるかもしれませんが、実際にいくつかのデータを見てみると概ね3〜8%の妊婦さんで喘息を合併しているそうでした 1)2)。そのためか喘息を持つ妊婦さんたちから赤ちゃんへの影響やお薬のことまで幅広くご質問を受けることが多いので、本日は妊娠と喘息について少し解説したいと思います。

妊娠が喘息に与える影響

妊娠は体に様々な変化をもたらします。具体的には横隔膜が大きくなる子宮に押し上げられることによる肺換気機能の変化、酸素需要の増加、ホルモンバランスの変化を一因とした免疫系統の変化などがありますが、これらの影響もあってか喘息を持つ女性のうち30~40%程度の方が妊娠すると喘息症状が悪化するというデータもあります 3)4)。一方で喘息のコントロールが良くなる妊婦さんも少なからずいるらしく、必ずしも妊娠が喘息に悪いというわけでもないようです。

喘息が妊娠に与える影響

喘息が妊娠に与える影響には注意が必要です。具体的には、喘息のコントロールが悪い妊婦さんでは妊娠高血圧症候群、早産、赤ちゃんが胎内で育ちにくくなってしまう子宮内発育遅延、低出生体重児、そして帝王切開率の上昇など様々な関連が観察されています 5)6)。一方で発作が起きないようにしっかり治療されている喘息ではこれらのリスクが上昇しない可能性も示唆されており、妊娠中の喘息は積極的に治療されることが推奨されています 6)。

妊娠中の喘息治療

喘息の治療は気管支拡張薬やステロイドの吸入薬を柱として組み立てていきます。妊娠中はお母さんが使う薬の赤ちゃんへの影響を懸念する妊婦さんが多く、実際に自己中断してしまう人も少なくありませんが、吸入薬の多くは胎児への安全性が確立されており、安易に止める必要はありません。むしろ勝手に薬をやめてしまうと発作を起こしやすくなってしまうため妊娠前以上に適切に使用することが大切です。重症の患者さんでは内服薬を使用することもありますが、薬によってはメリットとデメリットを比較して慎重に判断することもありますので、妊婦さんだけでなくこれから妊娠を希望する女性もかかりつけの内科で相談してみてください。

まとめ

というわけで本日は妊娠中の喘息についてのお話でした。喘息はありふれた病気であるものの、妊娠や出産に影響のあるなかなか大変な疾患です。喘息をお持ちの妊婦さんは闇雲にご自身で判断することなく主治医としっかり相談しながら発作が出ないように適切にコントロールしていきましょう。

1) Kwon HL, et al. Ann Epidemiol. 2003;13(5):317
2) Cohen JM, et al. J Allergy Clin Immunol Pract. 2019;7:2672-2680
3) Daniele C Bravo-Solarte, et al. Allergy Asthma Proc. 2023 Jan 1;44(1):24-34
4) Danielle R Stevens, et al. J allergy Clin Immunol Pract. 2022 Mar;10(3):793-802.
5) Pauline Mendola, et al. Am J Obstet Gynecol. 2013;208(2):127.
6) V E Murphy, et al. BJOG. 2011 Oct;118(11):1314-23

出生前遺伝学的検査(概論)

染色体疾患のある児の大部分は流産に終わり、出生できる子はほんのわずかです。

出生児の3〜5%*は先天性疾患をもって生まれます。そのうち25%が染色体疾患による(全出生の0.4%が染色体疾患による)ものです。

(*出生時に確認できるものが2〜3%で、生後に診断・確認されるものも全て含めた場合に3〜5%)

染色体疾患においては50%がDown症候群(21トリソミー)、20%が18トリソミーと13トリソミーを占めます。

先ほど述べましたとおり、全出生の1%にも達しない染色体疾患ですが、高年妊婦さんをはじめ、児についてただ漠然と不安を持つ妊婦さんがいらっしゃるのは当然のことと思います。

そこで児の状況を提供できる検査として出生前検査があります。

出生前検査は必ずしも全ての全ての妊婦さんが受ける検査ではありませんが、検査を受けることで妊婦さんやご家族の不安の一部を解消できる手立てとなり得ます。ただし、わかる病気・疾患は一部であることもご理解いただくことも必要です。

各出生前検査においては行う適切時期があります。当院でも引き続きテキスト、リーフレット、直接のご案内、第1回両親学級を通じて情報を提供してまいります。来年からは初期対応としての遺伝カウンセリング外来枠も設置いたします。妊娠初期の外来で出生前検査についてご質問がございましたら、まずは私院長までお申し付けください。

臨月を過ごす時間におすすめの本

こんにちは、副院長の石田です。

以前このブログで臨月の過ごし方について「好きなように過ごしてもらって大丈夫ですよ」という記事を書かせていただきました。

しかし、そうは言っても時間を持て余してしまうご夫婦も多いようで、毎日「どうやって過ごせばいいか悩んでます」という相談を受けます。そこで本日は(別に読むのが妊娠末期である必要は全く無いんですけど)臨月を過ごすのにおすすめの本を実用書と小説から1冊ずつご紹介したいと思います。
(以下、小見出しがAmazonのリンクになっています。)

RANGE 知識の「幅」が最強の武器になる

いよいよ親になるという時期に気になることの一つは子供の教育ではないでしょうか。巷にはスポーツや芸術、語学などできるだけ早くから分野を絞って子供に教育することを勧める言説が溢れていますが、本書は様々なデータや具体例を用いてステレオタイプな早期教育礼賛の危うさを訴えるとともに、浅くても広い「幅」のある知識や経験を子供に与えることこそが社会で成功するためにより強力な武器になるのだと主張しています。内容には賛否があるでしょうが、確かに本業の仕事をする中で昔のバイトの経験や趣味の分野での技術が思わぬ形で活きることってありますよね。VUCAという表現が流行るほど未来予測が難しい社会にあって、子供の将来像を決めてから帰納的に習い事を決めてみても思い通りにいかないことが多いでしょうし、とりあえず色々と経験させてみるという教育手法も十分合理的なのかもしれません。そういう意味では子供の教育に多角的な視点を持つ機会を得るのに参考になる本だと思います。要旨は少しズレるかもですが、様々なことに興味を持って触れておくことの大事さや、専門に特化しすぎることのリスクについては、スティーブ・ジョブズ氏のスタンフォード大学卒業式でのスピーチや、武井壮さんの「大人の学校」という企画でのお話が同様に示唆に富む内容かもしれません。これらはいずれもYouTubeで見ることができます。

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

筆者のブレイディみかこさんはイギリス人の旦那さんと長男との3人家族です。本書はイギリス社会で生活する中学生の息子さんが身の回りに起こる格差問題や人種差別を通して自分のアイデンティティを模索しながら成長していく姿を、母親目線で描いたノンフィクションの小説です。というと、なんだか重い話を読まされるのかと身構えてしまいそうですが、それらの根が深い問題に正面から突っ込んでいく割には無傷じゃないけど明るく逞しく前進していく彼の姿にスカッと感があるし、さらには親としてあるべき姿や子供を信じて見守ることの大切さ、自分は社会に対してどのように向き合うべきなのかなど、たくさんのことも考えさせてくれる1冊だと思います。かくいう私も小学生の息子が二人いますが、彼らの言動や行動からこれまで多くのことを学んできたことを思うと「この子達が自分を親にしてくれているんだな」と本書を読んだ後に改めて痛感した次第です。世間の評価も極めて高いですが、実際とても面白い本ですので是非手に取ってみてください。ちなみに私はまだ読んでいませんが、続編もあります。

まとめ

というわけで本日は私が読んだことのある本の中から2冊をご紹介させていただきました。どちらもとても有名な本なので、もう読んだよって方もたくさんいらっしゃるかもですね。もし当院かかりつけの患者さんで、他にもご自身のお勧め本があるという方は是非外来で私に教えてください。

バイオフィジカル・プロファイルスコア

赤ちゃん(胎児)の健常性を評価する項目として「バイオフィジカル・プロファイルスコア(BPS)」があります。これは

・筋緊張

・胎動

・呼吸様運動

・CTG(胎児心拍数陣痛図)

・羊水量

の5項目を評価します。

筋緊張は妊娠8週頃、胎動は妊娠12週頃、呼吸様運動は妊娠20週頃に、一過性頻脈は妊娠28週頃に出現します。よってこれら全てを評価する時期としては妊娠末期(妊娠28週)以降ということなります。

筋緊張と胎動は一見同じようにも思われますが実は異なり、

筋緊張は体に力が入っているかどうか、

胎動は体に力が入り、かつしっかり動かすことができるか

をみています。

胎児心拍数は自律神経の交感神経と副交感神経のバランスで制御されています。胎児が低酸素状態になると、CTGで一過性頻脈や基線細変動消失などの変化がみられます。基線細変動は胎児心拍数モニタリングの判読において重要な要素で胎児アシドーシスの有無と関連があります。

さらに低酸素状態が続けば呼吸様運動、胎動、筋緊張が行われなくなってくるのです。

上記4項目に対し、羊水量は急性の低酸素状態の環境では変化しません。主に胎盤機能不全から、長期にわたる低酸素状態に胎児が曝されることで羊水量の減少が起こります。

よってBPSは胎児の直接の観察を行う超音波検査のみならずCTG検査で胎児の自律神経を確認し、また羊水量の評価で胎児の時間的ストレスの把握を推移することができます。胎動に関しては妊娠末期で妊婦さんご自身でも確認が可能な項目ですので、これら5項目は胎児管理において多岐にわたる適切な評価法と言えるのではないでしょうか。

執筆 院長