安全な無痛分娩のための講習会

副院長の石田先生がにしじまクリニックに加わり、先代院長(顧問)も含めて当院での無痛分娩の拡充を今年から始めることができています。具体的には当院での無痛分娩管理マニュアルのアップデート、スタッフ教育、関連する協議会や学会の参加です。

おかげさまで、無痛分娩および帝王切開術後の術後鎮痛を目的とした硬膜外麻酔の件数が増えています。

だからこそ皆さまの安全を確保するために、産科麻酔である無痛分娩・硬膜外麻酔の手技・知識・対策を『整え』続けていかなければなりません。

先日、日本産科麻酔学会へ出席し、JALAによる講習を受けてきました。

JALAとはJapanese Association for Labor Analgesia(無痛分娩関係学会・団体連絡協議会)のことで、昨今の無痛分娩による事故から積極的な研修体制の構築や情報共有のために発足した協議会で、産科系の学会だけでなく、麻酔系の学会もマルチリンクした会となっています。

にしじまクリニックはJALAの考えに賛同し、昨年からJALA認定基準相当の体制を整え、埼玉県で初めてJALA公開事業ウェブサイトの無痛分娩施設として掲載されました。

JALAウェブサイト上現時点では全国で81施設が登録されており、最終的には300施設以上の掲載を目指しているそうです。ちなみに埼玉県内では当院を含め4施設が登録されています。

https://www.jalasite.org/area/3_11_0

JALAは安全な産科麻酔を提供するため積極的な講習会の受講を義務づけており、その講習会は4つのカテゴリーから成り立っています。

先日の学会内の講習では私と石田副院長がカテゴリーA講習を受講、D講習は遠藤師長が受講しました。

カテゴリーBの急変対応コースは、今年の日本産科婦人科学会にて私院長が受講・合格しました。

Cについては私を含め、当院全助産師がJ-MELSの母体急変時の初期対応コースを受講・合格しております。

参考)

第123回日本産科麻酔学会学術集会 JALA主催カテゴリーA講習

(2019年11月25日作成後公表)

糖質制限食

こんにちは、副院長の石田です。

近年空前の筋トレブームということでそれに伴い健康的な食べ物がコンビニなんかでも手軽に手に入るようになってきました。玄米や雑穀、全粒粉なんかを用いた主食や、ライザップ監修の食品、そしてみんな大好きサラダチキンなんかもどこでも置いている勢いです。そんな中でここ数年、糖質制限食が「ロカボ」の名のもと広く知られるようになりました。今日はそんなロカボがどうなのかというお話です。

糖質制限食とは

日本では最近火がついた感じがありますが、実は減量方法としての歴史は古く、1860年くらいから言われていました 1)。考え方としてはインスリンの分泌を抑えることで細胞内への糖や脂肪の取り込みなどを防ぎ、太らないようにしようというものです。実際にロカボを実行すると最初の1年間で急激に体重が落ちていくことがデータでも示されています 2)3)。

実際体にいいのか

糖質制限食は糖尿病患者の血糖コントロールを改善するといった前向きな研究結果が出ていますが 4)5)、その一方で長期的な健康に対する影響は必ずしも楽観的なものではないようです。これまでたくさんの研究がなされてきたようですが、それらをまとめて分析したメタ解析では糖質制限をすると将来的に心血管疾患、脳血管疾患、悪性腫瘍、そしてその他もひっくるめた全ての死亡リスクが高いことが示されました(しかも制限すればするほどリスクが上がる) 6)。また、別のメタ解析では糖質制限をするのと糖質を過剰摂取するのは共に長期的な死亡リスクを増加させることを示しましたが、逆に最も死亡リスクが低いのは糖質が摂取カロリーに占める割合が50〜55%であるとしました。ちなみに同研究では糖質を動物由来のタンパク質と脂質に置き換えると体に悪いけど、植物由来のタンパク質と脂質で補った場合はむしろいいかもしれないとしています 7)。

糖質制限をすると赤ちゃんに影響があるのか

正直ここはよく分かっていない部分が大きいようです。ただ、日本でも海外でも、妊婦さんの安易な糖質制限は全然お勧めしていません。特に日本では先進諸国の中でも低出生体重時の割合がここ数十年で大きく上昇しており、アメリカ:8.2%、ドイツ:6.6%、オーストラリア:6.5%などと比べると日本:9.2%と高いことが分かりますが 8)、日本ではこの20年くらいでBMI <18.5の女性の割合が妊娠の適齢である20代から30代で増加していることもあり 9)、女性のやせとの関連が示唆されています。もちろん妊娠女性の高齢化や医学の進歩による早期の医療介入など様々な要因は考えられますが、ダイエットに注意が必要である可能性は十分にありますね。また、Barkerの成人病胎児起源説といって、赤ちゃんが大人になった時に成人病になるかどうかの要因の一つとして胎児期の環境が影響しているという学説があります。ある研究では妊娠中に糖質制限を行った妊婦さんの子供を約30年間フォローしたところ、大人になった時の血圧が高くなる傾向が指摘されました 10)。

まとめ

というわけで、今後色々と考え方が変わってくる可能性はありますが、今のところ糖質制限食は「手っ取り早くやせるために行って、ある程度のところで早々に切り上げる」くらいの受け止め方がいいのかもしれません。そもそも神様が生物にエネルギーとして糖と脂質とタンパク質を用意してくれたのには意味があるんでしょうし、摂り過ぎは問題外にしても、勝手に減らすのも良くないのかもしれませんね。

「及ばざるは過ぎたるがごとし」ということで今日の記事を終わりにしたいと思います。

1) Oh R, et al. In: StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2019 Jan-

2) Bueno NB, et al. Br J Nutr. 2013 Oct; 110(7): 1178-87

3) Tobias DK, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2015 Dec; 3(12): 968-79

4) Huntriss R, et al. Eur J Clin Nutr. 2018 Mar; 72(3): 311-325

5) Ole Snorgaard, et al. BMJ Open Diabetes Research and Care. 2017; 5: e000354

6) Mohsen Mazidi, et al. European Heart Journal. 2019; 0: 1-10

7) Sara B Seidelmann, et al. Lancet Public Health 2018; 3: e419-28

8) OECD.Stat: https://stats.oecd.org

9) 厚生労働省 国民健康・栄養調査

10) Shiell AW, et al. Hypertension. 2001 Dec 1; 38(6): 1282-8

妊娠糖尿病(序論)

妊娠糖尿病とは「妊娠中はじめて発見された糖代謝異常」1)のことをいいます。妊娠におけるホルモンのバランス変化などにより2)、妊娠中は血糖値が上がりやすいのです。採血の値で妊娠糖尿病を診断します。

実際の妊娠と出産に関して、血糖および体重管理がなされていない場合は、難産のリスクが高まります。例えば陣痛・分娩時間が長引いたりすることです。児(赤ちゃん)が大きくなりすぎて産道に対し児の頭が大き過ぎたり、児が姿勢を変えながら出口に到達するのに位置(回旋)異常を起こしたり、ご本人の腟および会陰の一部を含む軟産道3)が相対的に狭くなり、傷を深く負ってしまうこともあります。

私院長が国境なき医師団の医師としてナイジェリアへ派遣された時、妊娠糖尿病の管理がなされていないための産道通過障害と、おそらく妊娠糖尿病に伴うものであろう赤ちゃんの奇形が多いのに驚きました。これらは母児の命に関わることがあるのです。

無痛分娩・硬膜外麻酔を希望されている方は、体格から麻酔処置が困難な場合があります。

切迫早産薬として使われている塩酸リトドリン(商品名ウテメリン)も、糖尿病合併の場合は原則禁忌4)なので、早産のリスクも高まります。

妊娠糖尿病、まずはご自身の食生活から見直されてみる事をおすすめします。ただ何事も『バランス』が大事ですので、気になった方は当院スタッフへお声かけください。

1)妊娠の糖代謝異常 診療・管理マニュアル(メジカルビュー社)

2)妊娠・分娩・産褥の生理(メディカ出版)

3)西島重光 コンパス産婦人科(メック)

4)今日の治療薬(南江堂)

妊娠中の体重管理

こんにちは、副院長の石田です。

妊婦健診ではお母さんや赤ちゃんのコンディションを様々なデータを使って評価しています。エコーや血液検査だけでなく診察前に皆さんに行っていただく血圧、体重測定や尿検査などは重い妊娠合併症を防いだり見つけたりするのに非常に有用です。そんな中で皆さん女性ということもあり体重はとても気にされている項目の一つだと思いますが、実際にどのくらいなら増えてもいいんだろうと悩んでいる方も少なくないようです。というわけで本日は妊娠中の体重管理に関してお話ししたいと思います。

妊娠中の体重増加の内訳

多くの方がご存知の通り妊娠末期には妊娠前に比べて平均で10kgくらい重くなりますが、この内訳としては半分くらいが赤ちゃん、羊水、胎盤などで、残りの半分はお母さんの血液を含めた水分や脂肪の増加分、それに子宮が大きくなった分だと言われています。なので出産直後に妊娠前の体重まで落ちるかと聞かれればそうはならないということになります。

実際にどのくらいまで増えていいのか

これはお母さんの妊娠前の体型によって決められます。具体的にはBMI(体重(kg)÷身長(m)÷身長(m))の数値によりやせ〜肥満までが国際的に定義されており、それに基づいて日本ではBMIが18.5未満のやせている人は9〜12kg、18.5以上25.0未満の普通体型の人は7〜12kg、そしてそれ以上の肥満体型の人は個別対応となっています 1)。個別対応というのは分かりにくいですが、一応5kgぐらいを目安にすることになっているものの、実際には妊娠終了までほとんど体重が変わらない人もいたりします。体重増加基準は国が違えば数字も変わってきます。例えばアメリカではやせの人は12.5〜18kg、普通の人は11.5〜16kg、肥満の人は5〜11.5kgということになっており、日本よりもやや甘めです 2)。上記を考慮すると、妊娠の時期によって違いはあるものの、1ヶ月に2kg以上体重が増える場合には気をつけなければいけません。

体重が増えすぎると何がいけないのか

まず、イメージ通りかもですがお母さんの体重が増えすぎると赤ちゃんも育ちすぎることがあります 3)4)5)。また、妊娠高血圧症候群や帝王切開の可能性が高くなったりもしますし、その他出産後にお母さんの体重が戻りにくくなったり、赤ちゃんが生まれた後肥満児に育つ危険まであるようです 4)5)6)。また、体重が増えなさすぎた場合も逆に赤ちゃんが小さくなるようで注意が必要です 3)。

まとめ

妊娠中の体重増加は頑張っている方でも思ったようにいかないことがあります。ただ、体重増加は理論的には摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスで決まるので、病気とかでなければ意識せずに間食などで食べすぎていたり、糖質や脂質の多いバランスの悪い食事を摂っていることが多いです。逆にもともと運動習慣のある女性では筋肉量が多いため基礎代謝が高く太りにくい素養ができており妊娠に有利と言えるでしょう。今妊娠されている方はバランスの良い食事と適度な運動を心がけていただくことが大切ですが、今後妊娠をご希望されている方も是非、自分とまだ見ぬ赤ちゃんのために健康的な生活を心がけてみてください。

ところで今回の記事を書くにあたって色々と調べていたら、海外で書かれた論文の一つに「巷では自分と赤ちゃんの2人分食べなきゃ!と言って好きなだけ食事を摂る妊婦がいるが…」という前置きが書かれたものがあって、これ言うのって日本だけじゃないんだなーとちょっと微笑ましくなりました。

1) 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/dl/h0201-3a4.pdf

2) Institute of Medicine (US). Weight gain during pregnancy; 2009

3) Siega-Riz AM, et al. Am J Obstet Gynecol 2009; 201: 339. e1-14

4) Langford A, et al. Matern Child Health J 2011; 15: 860-5

5) Nohr EA, et al. Am J Clin Nutr 2008; 87: 1750-9

6) Emily Oken, et al. Am J Epidemiol. 2009 Jul 15; 170(2): 173-180

チームビルディング

皆さまの中でも会社勤めの方がいらっしゃるかと思います。会社、または部署として各チームはうまく成り立っているかを考えたことはございますか。

以前、チームSTEPPSの取り組みについてお話しさせてもらいました。

https://nishijima-clinic.or.jp/blog/2019/09/17/patient-safety-day/)

私が解釈するチームSTEPPSとはチームに患者さんを含め、もしくは患者さんを取り囲むようにスタッフ・部署がチームを構成し、垣根のないチーム医療を行うことだと思っています。

私院長はこれがチームを整える(チームビルディング)ための基準とし、にしじまクリニックに浸透させたいと考えています。

当院は月1回、スタッフ全員を対象としたミーティングを行っています。先月は、チームビルディングの重要性と各スタッフ・部署の協調性の程度を感じてもらうため、レクチャーを行いました。

このレクチャーは、まずチームスタッフとして構成される各スタッフ・部署および業種を挙げてもらいます。その後患者さんを起点に、医療提供を行う際に誰に頼りたいか、必要なのかを紐付けていくのです。

例えば患者さん→医師→助産師→、、、といった具合に進んでいきます。

紐付けていく中で、部署および業種によっては重複する場合があり、これがポイントで、今回は

・助産師

・看護師

・看護助手

・医療事務

が紐付けにおいて重複した結果となりました。

重複したこの4つの業種は当院の各スタッフが、医療提供を行う際に必要としている、されている所であり、そしてこの紐付けの結果は、にしじまクリニックでチーム医療を行う際の『縮図』でもあります。

直接お産に関わることはない看護助手が重要視されていることを確認でき、私は大変嬉しく思いました。当院の看護助手は基準とマニュアルに沿って感染予防のための清掃や物品の整理、ひいては医療業務全般を支えてもらう職種で、私自身もチームビルディングにおいて看護助手はなくてはならない構成だと考えます。

どんなに個人一人が優秀でも、適切な医療を提供することは不可能です。お互い支えて合って医療を行っている事を決して忘れてはいけません。場合によっては、職種を超えて助け合えばよいのです。スタッフ間も患者さんもチーム内で何でも言い合える(隔たりなく主張ができる)アサーティブなコミュニケーション環境がチームビルディングにおいて一番重要な要素なのです。それは患者安全・医療安全につながります。

クリニックならではのチームの結束と強み、これを生かせる『にしじまクリニック』を作ってまいります。