腹帯はした方が良いのか

1ヶ月が経過し、やっと背中と首の痛みがとれました。最近は忙しく、PCを操作している姿勢が続いたり、処置中はどうしても「巻き肩」姿勢が続いていたのが痛みの原因だったようです。最近はストレッチや正しい姿勢の保持を心がけています。

姿勢に関連するトピックということで、妊娠中に訴えの多い腰痛についてご説明します。

妊娠の腰痛の機序

妊娠によりおなかが大きくなってくると、体の重心が前に移るため、上半身を反らした反り腰の姿勢で立ったり座ったりするようになります。

そのため背中から腰にかけて負担が大きくなり、腰痛をきたすのです。

対策

腹帯を着用し、腹部・腰部を支持することで姿勢の安定を取るとよいでしょう1)。

私がいう「腹帯」とは、戌の日に安産を願うためのものではなく(腰痛が出やすい時期と関係はします)、骨盤を引き締め腹部・腰部を支えるためのタイプのものを言っております。腰痛の時期によって腹帯の形は異なりますので、ご質問あれば外来助産師と是非相談なさってください。

腰痛に対し、湿布は推奨しません。どうしても薬剤等に頼りたい場合は、漢方の「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」を処方することがあります。

ACOG(American College of Obstetricians and Gynecologists)は

・ヒールの低い(全てフラットのものではなく)シューズを履く

・重い荷物を持ち上げる時は誰かにお願いする

・ベッドは柔らかすぎないようにする

・立ち上がる時は背筋が真っ直ぐに保持する

・椅子に背中をサポートする用具を付ける

・痛みのある部位を把握し、マッサージをしてもらう(整体など)

ことらを推奨しています2)。

引用文献

1) 産婦人科ファーストタッチ

2) Maternal adaptations to pregnancy: Musculoskeletal changes and pain, UpToDate

文責 院長

妊娠中の体重は適切に増やしましょう

こんにちは、副院長の石田です。

当たり前ではありますが、妊娠すると赤ちゃん、胎盤、羊水や、大きくなる子宮とそれを維持するために増加した母体血液量など様々な重さが加わってくるため自然と体重は増加します。しかし頭ではそれが分かっているものの、数値として客観的に評価できてしまう“体重“を見せられてしまうとついつい太ったような気になり痩せようとしてしまう妊婦さんが少なくありません。もちろん体重が増え過ぎてしまうのが良いわけではありませんが、最近では増えなさすぎることの弊害が注目されています。そこで本日はこの問題について解説したいと思います。

日本の妊婦さん、せ過ぎ問題

突然ですがみなさんは、日本では小さく生まれる赤ちゃんがとても多いことをご存知でしょうか?2017年のOECD(経済協力開発機構)のデータによると、主要先進国の中で日本における2500g未満で生まれる低出生体重児の割合は9.4%と最も高い国の一つになっていますが、その原因として現在有力視されているのが日本人の成人女性における“やせ“です 1)。厚労省がまとめた2016年のデータでは、BMI <18.5 kg/m2の痩せている女性の割合が日本では9.3%とOECDにおいては2位の韓国(5.2%)を大きく引き離して1位になっています 2)。この数字は成人女性全般での話なので妊婦さんに限定するとどう変わるかは分かりませんが、もともと妊娠中の体重増加が小さいと早産や赤ちゃんの体重が小さくなるリスクは指摘されているため上記の傾向から言ってもこれが原因なのではないかと考えられているわけです 3)。

増やした方が良い体重の目安

妊娠中の体重増加量の目安は以下の通りです。ひと昔前は妊娠中の体重増加と妊娠高血圧症候群の発症リスクに関係があるのではないかという見解のもと日本では「増やし過ぎないでね!」という意識で指導がされることが多かったのですが、その後の研究で肥満女性以外は体重制限をしても周産期予後が改善しなさそうだということが明らかになってきたため、生まれてくる赤ちゃんのためにも「このくらいは増やしましょうね」というトーンで、より体重増加に寛容な形で2021年3月に新たな基準へと改訂されました。最近では低出生体重児で生まれた子は成長の過程で高血圧、糖尿病、精神疾患など様々な面で健康への影響が出てくる可能性が少しずつ明らかになっているため 、胎児をしっかりと育ててあげる意味でもご自身が増やす必要のある体重をしっかり確認していただき、妊娠中の無理なダイエットは控えることが大切です 4)5)。

まとめ

というわけで本日は妊娠中の体重に関するお話でした。実は本邦におけるこの問題は、2018年にもScienceという科学雑誌で日本ご指名にて指摘され、世界中に晒されたという経緯もあり見直されるに至りました 6)。「スリム=きれい、かわいい」というイメージを持つ日本人女性が多いことが問題なわけですが、その根源は女性のみならず男性側の需要が強いこともまた一因であることは疑いようもなく、それが日本人の赤ちゃんたちにご迷惑をおかけしてしまっているのはとても心苦しいことです。このような美に対する意識を変革することは容易ではありませんが、妊婦さんにおかれましては是非とも我が子の健康がかかっているのだという視点から、愛情をもってご自身の体重と向き合っていただければと思います。

1) OECD Family Database: https://www.oecd.org/els/family/CO_1_3_Low_birth_weight.pdf
2) 厚生労働省. 活力ある持続可能な社会の実現を目指す観点から、優先して取り組むべき栄養課題について:https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000761522.pdf
3) Goldstein RF, et al. JAMA. 2017;317(21):2207
4) Davies AA, et al. Hypertension. 2006;48(3):431
5) Christian Loret de Mola, et al. Br J Psychiatry. 2014 Nov;205(5):340-7
6) Dennis Normile. Science. 2018 Aug 3;361(6401):440

血圧測定法と高血圧の定義

「外来だといつもより血圧が高い」、そんな声を度々耳にしますので、今回は血圧の測定方法と高血圧の定義に触れようと思います。

血圧測定法

5分以上の安静後、上腕に巻いたカフが心臓の高さにあることを確認し、座位で1〜2分間隔にて2回血圧を測定し、その平均値をとります。通常院内にある自動血圧計は、計測機の高さや測り方はそのまま指示どおり行ってください。

測定の30分以内はカフェインや喫煙は控えましょう

・初回の測定時には左右の上腕で測定し、10mmHg以上異なる場合は高い数値を採用します。もちろん何かしらの合併症を見落とさないためです。

定義①高血圧とは収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHgです。この数値は妊婦も一般成人も同様です。

定義②:妊娠時に高血圧を認めた場合、妊娠高血圧症候群と定義されます1)。

妊娠高血圧症候群は

・妊娠高血圧腎症

・加重型妊娠高血圧腎症

・妊娠高血圧

・高血圧合併妊娠

に分類されます。各詳細はまた今後のブログでお話させていただきます。

健診において高血圧(140/90mmHg以上)を認めた場合

・家庭でも血圧測定を行ってもらい、白衣高血圧との鑑別を行います。

・家庭血圧でも135/85mmHg以上の場合はやはり高血圧を疑います。

*白衣高血圧と判断された場合でも、妊婦さんは注意が必要です。その後約40%の妊婦さんが妊娠高血圧を発症したとの文献もあるのです2)。

文責 院長

引用文献

1) 妊娠高血圧症候群の診療指針2021. メジカルビュー社

2) Brown MA, et al: The natural history of white coat hypertension during pregnancy. BJOG 2005

産婦人科ファーストタッチ. じほう, 2022

抗ミュラー管ホルモン(AMH)について

こんにちは、副院長の石田です。

当院は産婦人科なので、妊娠を希望しているけどなかなか授からないという患者さんのご相談も日々お受けしています。その中でたまに聞かれるのが抗ミュラー管ホルモン(AMH)についてです。「測定してみたいんですが、採血してもらえますか?」ということで聞かれるのですが、実はこの数値は扱いが少し難しいんですね。そこで本日は抗ミュラー管ホルモンについてちょっと解説したいと思います。

抗ミュラー管ホルモンとは?

抗ミュラー管ホルモンは名前からだと分かりにくいですが、簡単に言うとその女性の卵巣の中にどれだけの卵子が残っているのかの目安となる物質です。常に新しく作られ続けている精子と違い、卵子は女性がまだ胎児の頃から左右の卵巣の中に原子卵胞と言われる状態で蓄えられていて、思春期に入り月経周期が開始するとその一部が発育し始めて順番で排卵されていきます。と言われると、まるで卵子が排卵のたびに一つひとつ無くなっていくような印象になるかもですが、実際は排卵による喪失以上に自然に無くなる卵子の方が多いです。具体的には女性が胎児の際に卵巣に500〜700万個あった原子卵胞は出生時には100~200万個程度まで減少、思春期を迎える頃には30万個程度となっています。その後も自然減少は続き、閉経ごろには1000個くらいになっていると考えられています 1)。そしてすごく大雑把なことを言うと、抗ミュラー管ホルモンはこの原子卵胞が排卵に向けて成熟卵胞へと発育する過程で分泌されるため、この数値を見ることであとどのくらい卵胞が残っているかがなんとなく分かるわけです。通常は1 ng/mlを下回ると卵胞の数がかなり低下していると解釈されます 2)。

抗ミュラー管ホルモンの限界

上記のような話になると便利じゃんAMH!となりそうですが、実は色々な意味で有用性に限界があるのも悩ましいところです。まず、AMHは測定誤差や個人差が大きいことから正常値が定まっていません。また、AMHが示すのは飽くまで卵胞数の目安であって、卵子の質は反映していないため妊娠しやすさと相関するわけでもないのです。(すごく低くても普通に妊娠できたりします。)また、多嚢胞性卵巣をはじめとして様々な要因がAMHの数値に影響を及ぼすとされているもののその全てが解明されているわけでもなく、数値の解釈や使い方そのものが現在進行形で議論されながら進化している物質であり、現時点でこれを測定しても何かがズバッと分かるというものではないんですね 3)。

まとめ

結局役に立つのか立たないのかどっちなの!?って怒られてしまいそうですが、残りの卵胞数の目安がざっくりと分かることで「不妊治療にあとどのくらいの時間がかけられそうか」や「採卵が難しそうかどうか」などの目安になるとされており、生殖医療分野の大事な検査の一つであることは間違いありません。ただ、どんな検査もそれだけで役に立つことはあまりなく、病歴や身体診察、他の様々な検査との組み合わせの中で初めて意味を持つことがほとんどです。何かで抗ミュラー管ホルモンのことを聞いて測ってみたくなった方も、まずは最寄りの産婦人科で今のご自分にはどんな診察や検査が必要なのか相談してみましょう。

1) 百枝幹雄 編. 女性内分泌クリニカルクエスチョン90
2) L Shrikhande, et al. J Obstet Gynaecol India. 2020 Oct;70(5):337-341
3) Lose M E Moolhuijsen, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2020 Nov 1;105(11):3361-3373

骨盤位に対するお灸による頭位回転の可能性

最近、首から背中にかけての痛みが日常生活に支障をきたすほどひどいので、接骨院で鍼療法をしてもらっています。

偶然にも担当の方がにしじまクリニックで生まれた方で、びっくりしましたが嬉しい出来事でした。

今回はそれと関連し、

「お灸は骨盤位を頭位へ矯正できるか 1)」

コクランレビューを確認しました。

https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD003928.pub3/full#CD003928-abs-0001

コクランレビューでは、

・お灸による骨盤位の矯正のエビデンスは限定的

・鍼療法と併用した場合は、帝王切開による出生が少なくなる。胎位矯正(いわゆる逆子体操)と併用した場合は出生時の骨盤位数が減少する可能性がある。

・骨盤位に対するお灸の可能性を評価するため、臨床的に関連性のあるアウトカムおよび介入の安全性について報告され、適切にデザインされたランダム化比較試験が必要

としています。

と言っても、私のように困ったら何かに頼りたくのは事実かと思います。さらに妊婦さんに至っては治療や療養は限定的の事が多くなってしまいますので、私院長としてはお灸/鍼の他、漢方やアロマテラピーなど、いわゆる「remedy(レメディー)」を利用することは周産期管理として賛成です。

当院では骨盤位に対する外回転術は行いません。その変わり、帝王切開を選択されても次回の妊娠がTOLACが可能な要件を満たすため考慮した術式を行なっています。

現在は大変ありがたいことに外来・分娩件数が増えていますのでTOLACに関しては「当院で骨盤位のために初回帝王切開を行った方」が考慮・対象とさせていただいています。骨盤位でも当院で帝王切開なさった方は、次回の妊娠に向けて一つの価値を見い出していただければ幸いです。

文責 院長

引用文献

1) Meaghan E Coyle, et al: Cephalic version by moxibustion for breech presentation. Cochrane Library