クアトロテストとNIPT

今回は出生前遺伝学的検査のクアトロテスト(母体血清マーカー検査)とNIPTについて、あらためて要点をまとめたものを公開します。

クアトロテストTM

・実施時期:妊娠15〜17週

確率に影響を与えるので、妊娠15週未満は実施(採血)できません。

結果判明は採血後1週間です。

・ダウン(Down)症候群の感度:80数%

・40歳妊婦におけるDown症候群の陽性的中率:9.2%

35歳妊婦は3.2%

・特徴:4つの母体血清マーカーから得られるDown症候群の可能性を分数(確率)にて表示されます。NIPTと異なり、胎児由来の細胞やDNAをみているわけではありません。

・注意事項:偽陽性率が高い(5%)

・費用:27,500円(当院)

羊水検査は別途費用が生じます。

NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing)

・実施時期:妊娠10週以降

NIPTも非確定的検査なので、羊水検査を実施する妊娠16〜17週までには結果が判明しておくようにします。

結果判明は採血後2週間です。

・Down症候群の感度:99%以上

3つのトリソミーによるNIPTの偽陰性は0.01%です。

・40歳妊婦におけるDown症候群の陽性的中率:97%

35歳妊婦は91%

・特徴:母体血液中の胎児・胎盤由来の浮遊DNAを解析します。偽陽性率が少ないため、確定検査の羊水検査の機会を減らす事ができます。

陽性の場合は羊水検査が必要です。

・注意事項:胎盤性モザイク(胎児は正常核型でも、胎盤に異常核型細胞が混在している状態)の検出の可能性があります。これがNIPTは確定診断となりえない理由でもあります。また母体血を解析しているため、子宮筋腫などの腫瘍由来DNAによって判定が評価不能、と出ることがあります。

・費用:126,500円(当院)

執筆 にしじまクリニック院長

「お産の時に会陰切開してほしくないな」と思っているみなさんへ

こんにちは、副院長の石田です。

お産が近づいてくると気になることの一つに会陰切開があります。会陰切開が分娩時に行われることがある、ということ自体は初産婦の方でも多くが知っているものの、実際に「切る」と想像すると不安や恐怖を感じてしまう人もいるでしょう。そこで本日は、会陰切開をどう考え、どのように向き合っていけばよいのかについて一緒に考えていきたいと思います。

会陰切開とはなんなのか

会陰切開とは、赤ちゃんが産道を通りやすくするために会陰部(腟と肛門の間)をハサミで切開する医療手技のことを指します。経腟分娩を経験する女性のうち、会陰切開の有無にかかわらず実際にはおよそ90%前後の方に何らかの会陰裂傷が生じるといわれていますが、切れ方によっては複雑に広がり治りにくくなるケースもあるため、自然に裂けてしまうよりも重症化しにくい方向へ誘導したり、後で縫合しやすいきれいな傷を作る目的であらかじめ会陰切開を行うことがあります 1)。また、母体や赤ちゃんの状態が悪化し分娩を急ぐ必要がある場合、あるいは吸引分娩・鉗子分娩など補助的な器具を使用する場面でも、安全性を高めるために会陰切開が必要となることがあります。切開を入れるタイミングは、赤ちゃんの頭が降りてきて出そうになる直前で行われるのが一般的です。

会陰切開の実際

いや、会陰切開が医療的に大切な処置なのは知っているんだと。それは分かるんだけどハサミでお股を切るなんて想像するだけで怖いから、できればそんなことしないで欲しいんだよってみなさん思っていることでしょう。そんなお母さんたちにここからは私の超主観的なアンサーになるんですけど、自分はお産前から会陰切開のことなんてあまり気にしなくてよいと考えています。というのも、前提として赤ちゃんが生まれる直前は陣痛もさることながら、腟と会陰も赤ちゃんの頭にゴリゴリ押し広げられてとても痛いんですよ。そんな中で「会陰切開すれば赤ちゃんがすぐ出てくる」「これでお産にしましょう」って伝えて「やらないで!」って断られたことは1回も無いです。というか、なんなら喰い気味に「いいから早く切って!!」って怒られたことは数えきれないほどあります。そのぐらいお産の瞬間って大変なんですよね。もちろん無痛分娩なら切開やその後の縫合も痛くないので気にする必要はないでしょう。会陰切開のリアルな現場はそんな感じなので、お産前からそれを気にし過ぎるよりはもっと分娩中の過ごし方とか楽しいことを考えた方が建設的なのかなというのが私の意見でした。

まとめ

ということで本日は会陰切開について少しお話ししました。たまに会陰切開を入れなければ縫わなくて済むと誤解されている妊婦さんもいらっしゃるのですが、お股を3kg近い赤ちゃんが通過するわけですから、上記の通り会陰切開の有無に関わらずほとんどのお産で大なり小なり切れます。そしてそもそも我々産婦人科医としても、切らなくて済むなら切りたくないんですよ。切らずに裂傷なしでお産になればそれで仕事が終わる上に、患者さんからは(何もやってないのに)名医的な雰囲気ですごく感謝されることが多いからです。それでも時にはお母さんの会陰を深刻なダメージから、そして赤ちゃんの健康を重大なリスクから守るためには躊躇なく行わなければなりません。もちろんその時の声掛けなどを打ち合わせるために当院のバースプランにも会陰切開の項目がありますが、とは言え妊婦さんたちはあまりそこに固執することなく、楽しく分娩に臨んでいただければと思います。

参考文献
1) Nicola Adanna Okeahialam, et al. Am J Obstet Gynecol. 2024 Mar;230(3S):S991-S1004.

妊娠中の向精神薬について

こんにちは、副院長の石田です。

ストレスが多く、未来に見通しが効きにくい現代社会において、精神疾患を治療しながら妊娠される女性は少なくありません。複数の薬剤を併用している方も多いですが、みなさん決まって薬による赤ちゃんへの影響を気にされており、中には妊娠が判明したら自己判断で内服をやめてしまう人もいます。そこで本日は妊娠中の向精神薬について少しお話ししたいと思います。

気をつけるべき薬剤

みなさんを不安にさせたくはないのですが、向精神薬の大部分は大小あれど赤ちゃんに影響する可能性があります。その中で最も気にされるのが「催奇形性」といって赤ちゃんの奇形の原因になるかどうかですが、これに関しては躁うつ病などによく使われる炭酸リチウムや抗てんかん薬が有名です。具体的には炭酸リチウムで心奇形などのリスクが2倍になるほか、バルプロ酸やカルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタールといった抗てんかん薬では胎児神経奇形をはじめとする胎児奇形の発生リスクが上昇することが知られています 1)2)。また、向精神薬全般に言えることですが、胎盤を介して赤ちゃんに届いていた薬が原因で分娩後の新生児に嗜眠、痙攣、哺乳不良などを発症する新生児不適応症候群なども知られており、メンタルのお薬を使用中の妊婦さんは慎重に妊娠・出産を見守っていく必要があります 3)。

対策

妊活を始める前に精神科の主治医とよく相談し、服薬内容をより安全な形に調整しておくことが理想です。ただし妊娠は「授かりもの」ですから、思いがけず妊娠することもあれば、病気の状態によっては薬を変えることが難しい場合もあります。そのため炭酸リチウムやバルプロ酸など、比較的リスクが高いとされる薬を服用中に妊娠が分かることもあります。では、その場合はどうすればよいのでしょうか。実は、薬を中止せずに妊娠を続けるよう提案されることも少なくありません。たとえば炭酸リチウムでは「エプスタイン奇形」という先天性の心臓病が心配されますが、その発生率はおよそ2万人に1人と非常にまれです 4)。特に奇形が発生しやすい妊娠初期に薬が投与されていた場合、このリスクが数十倍になることを示唆する研究もありますが、それでも絶対的な確率は依然として低いため、妊婦さんご本人とよく話し合ったうえで妊娠を継続する選択がなされることもあります 5)6)7)。他の薬についても同様で、「確かにリスクは上がるが、それでも絶対的な確率は小さい」というケースでは、慎重に相談しながら妊娠を続けることが選択肢のひとつになるのです。

まとめ

本日は妊娠中の向精神薬についての考え方についてお話ししました。改めて確認ですが、これらのお薬を服用中の方の最適解は妊活を始める前に主治医に相談し、服薬内容を確認した上でハイリスクな薬は止める、より安全なものに変更する、減量するなどの対策を取ることです。しかし万が一それらが間に合わなかったとしても、パニックになったり慌てて妊娠を諦めようとする前に、精神科と産科の主治医によく相談していただくと良いかもしれません。
当院は有償診療所としてはかなり珍しいことに、月イチで周産期専門の精神科医師が出張に来てくださっています。当院にかかりつけの患者さんは必要に応じて受診が可能ですので、もしお悩みの方はスタッフにご相談ください。

参考文献
1) Fornaro M, et al. Am J Psychiatry. 2020;177(1):76. Epub 2019 Oct 18.
2) Torbjorn Tomson, et al. Lancet Neurol. 2018 Jun;17(6):530-538
3) Noera Kieviet, et al. Neuropsychiatr Dis Treat. 2013 Aug 28;9:1257–1266.
4) Liu Y, et al. Int J Epidemiol. 2019;48(2):455.
5) LL Altshuler, et al. Am J Psychiatry. 1996 May;153(5):592-606.
6) C Armstrong. Am Fam Physician. 2008;78(6):772-778
7) I Romero Garechter, et al. Eur Psychiatry. 2023 Jul 19;66(Suppl 1):S198.

産科医による麻酔と麻酔科医任せの産科医

先日、日本母体救命システム普及協議会(J-MELS)の硬膜外鎮痛急変対応コースを受講してきました。

にしじまクリニックのHPをご覧になっていただければと思いますが、私院長と石田副院長は医師資格のみならず、多くのサブスペシャリティー(専門)資格を有しています。

私が院長となってからスタッフに一つお願いしているのは、『患者さんの安全な医療やサービスを提供するために自己研鑽を積んでもらう』事です。エクスペリエンスだけでなく、エビデンスをベースとした医療やサービスを提供する事を掲げている当院では、当院での診療やサービスに有益な学会や団体の専門資格を取得する努力を、多くのスタッフが行なっています。

さて、先日受講した硬膜外鎮痛急変対応コースについてのお話です。にしじまクリニックは担当医師が分娩と麻酔の両方の管理を担います。これは無痛分娩だけでなく、帝王切開分娩についてもです。この診療方針で最大のメリットは

柔軟かつ迅速な対応がとれる」事です。

例えば、ある産院で無痛分娩は麻酔科医が担当しているとしましょう。

そうすると事実上一つのお産に対して分業(分娩と麻酔)となります。その産院の産科医は、無痛分娩の知識は自身で麻酔を担当する施設より長けてはいないでしょうし、それらの知識の提供や経過は麻酔科医任せになってしまう可能性があります。

無痛分娩では胎児の回旋異常が起こりやすくなります。その原因が硬膜外麻酔による産道の弛緩作用によるものか、または微弱陣痛のためか、分娩担当の産科医は評価と対応をしなければなりません。

一方、当院のように産科医師が分娩と麻酔の両方を担当していれば、

分娩進行も麻酔も同時に評価を行い、先を見越した対応を行える可能性があります。

ご希望された無痛分娩自体にフォーカスする事も大事ですが、何より『安心安全なお産』が最大のゴールです。例えば緊急帝王切開行う場合、産科医が麻酔も担当するなら準備と実施が迅速であるのは容易に想像がつくと思います。

しかしながら、産科医が麻酔を担当するならば、産婦の急変について対応をしっかり取らなければなりません。先日受講した硬膜外鎮痛急変対応コースのみならず、当院の無痛分娩管理マニュアルのアップデートやスタッフの勉強会を通じて、より安心安全な無痛分娩体制を構築していきます。

執筆 院長

妊娠初期の流産に向き合う治療方法の選択肢

こんにちは、副院長の石田です。

当院では多くのご家族が毎日のように新しい命を迎え入れている一方で、残念ながら流産を経験される方も一定数いらっしゃいます。流産とは、妊娠21週6日までに何らかの理由で妊娠が終わってしまうことを指します。妊娠22週が一つの区切りになっているのは、それ以前では新生児の生存そのものが極めて難しいからですが、かつて妊娠28週だったこの境界は医学の進歩によって徐々に引き下げられ、1993年から現在の週数に至っています。このうち妊娠12週までに起こるものを「初期流産」と呼びますが、本日はそうなってしまった時の治療方法について解説したいと思います。

初期流産について

統計によりバラツキがありますが、診断された妊娠のうち15%前後は流産になるとされています 1)。しかし、実は妊娠と診断される前に流産が起きる場合もあることが知られており、そういったケースでは月経が少し遅れただけと勘違いされたまま人知れずに流産となっています。こうした妊娠初期のごく早い段階のも含めると、全妊娠の約40%近くが流産に至るという報告もあります 2)。初期流産の多くは胎児の染色体異常や絨毛形成の異常など偶発的で防ぐことができない要因によるものであり、お母さんの生活習慣や行動が直接の原因になることは多くありません 3)。

初期流産の治療方法

初期流産と診断された場合の治療には、大きく分けて「自然排出を待つ方法(待機的管理)」と「手術による方法(外科的治療)」があります。
待機的管理は子宮の中の内容物が時間の経過とともに自然に排出されるのを待つ方法です。自然排出が成功すれば手術による子宮損傷や麻酔の合併症などを避けられます。また、手術費用がかからないため経済的負担も少なく済みます。ただし自然排出が必ず起こるとは限らず、長く待っても排出が始まらないこともあります。その場合、出血や感染のリスクを考慮して手術に切り替えることがあります。
外科的治療は手術で子宮内容物を取り出す治療です。取り出した胎児や胎盤の組織を確実に病理検査に出せるため、まれに見られる胞状奇胎などの異常妊娠を早期に発見できるという利点があります。また、流産を診断後のスケジュールを立てやすく、心身の切り替えもしやすいという特徴もあります。ちなみに当院ではWHOの推奨に基づき真空吸引法という患者さんの体にやさしい手術法を採用しています。
ガイドライン上はどちらの選択肢も理にかなっているとされており、どちらか片方に絶対的な優位性があるということはありません。

まとめ

本日は初期流産の治療に関してお話ししました。これら以外に外国では薬物治療も選択肢に入ります。院長も私も海外医療での使用経験があるためその有用性を知っていますが、残念ながら日本では使えません。
待機と手術、どちらの方法にもメリットと注意点がありますが、流産手術は保険適応であり民間の医療保険も適用される可能性があるため経済的に重い負担になりにくいこと、また待機療法において先々の目処が立たないことが患者さん本人の心に思った以上に負担となりやすいことから、特にご希望がない方には当院では手術を勧めることが多いです。ただ、これに関しては医師や病院によって考え方が分かれる部分ではありますので、残念ながら流産となってしまった方におかれましては主治医とよく相談して方針を決めていただければと思います。

参考文献
1) 日本産科婦人科学会. 産婦人科診療ガイドライン産科編 2023 CQ202
2) Toni Jackson, et al. JAAPA. 2021 Mar 1;34(3):22-27.
3) Clark Alves, et al. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025 Jan-