オーバートリアージを許容できる診療体制

患者さんが急変したと思った時、第一印象で重症かどうかを判断するのは緊張下のなか大変な事です。

救急医療や災害医療では、アンダートリアージ(重症患者を「軽症」と誤判定すること)が患者の生命予後に与える影響が大きいため、ある程度のオーバートリアージは許容されます。これは妊婦の蘇生を含めた周産期救急にもあてはまります。

災害下の患者重症度を判定するトリアージでは、オーバートリアージ率はある程度高いのです。例えば米国の救急医療ではオーバートリアージ率30〜50%を許容し、一方アンダートリアージ率を5%未満に抑えることが目標とされています。

以上、オーバートリアージを許容できる周産期救急における診療体制は産婦さんにとっても大切となりますが、チーム医療としてこの体制を構築できるかが重要です。

オーバートリアージを許容できる条件

・チームスタッフが緊急の状態に対するアルゴリズムを理解している。学習し知識を得て、事前にシミュレーションを繰り返し行なっておくべきです。これらが浅はかだと、何でもオーバートリアージを行なってしまい本来の意義を見失ってしまいます。

・結果オーバートリアージであったとしても、判断したスタッフに過失を求めない。

・オーバートリアージを受け入れるマインドを持っていること。これは前術のアルゴリズムがスタッフに浸透すればする程深まると考えています。

オーバートリアージを許容できる診療体制とは、

重症患者の見逃しを防ぐため、多少の過大評価による資源と気持ちの余剰を受け入れられるだけの人員・設備・教育を備えた診療体制なのです。

執筆 院長

てんかんがある女性の家族計画について

こんにちは、副院長の石田です。

日本ではてんかんのある方は人口の0.5〜1%程度いるとされており、多くの方が日常生活を送りながら治療を続けています。現在は治療法も進歩しており、多くの患者さんは薬によって発作を良好にコントロールできていますが、一方で女性の場合は注意点があります。てんかんの治療薬の中には、避妊・妊娠の両面において影響を考慮しながら使用する必要があるものもあるため、ご自身の今後の家族計画を考える際には早めに主治医へ相談することが大切ですが、実は患者さんたちが十分な情報を得られていないという現実もあります 1)。そこで本日はてんかんをお持ちの女性の家族計画について解説したいと思います。

抗てんかん薬を服用中の避妊について

最も簡便な避妊はコンドームかもしれませんが、一方で不適切な装着や損傷などのリスクから、効果が不確実であるというデメリットもあります。そのためしっかりと避妊を考える場合はホルモン剤が検討されることになります。一番身近な避妊用のホルモン剤は低用量ピルですが、実は抗てんかん薬の一部にはピルの作用を減弱させるものがあるので注意が必要です。例えばカルバマゼピン(テグレトール®︎)、フェノバルビタール(フェノバール®︎)、フェニトイン(アレビアチン®︎)などはピルの作用に対して強力に影響を及ぼすため注意が必要です。また、これらと比べると比較的影響は小さいと言われますが、ラモトリギン(ラミクタール®︎)やトピラマート(トピナ®︎)なども注意が必要です。一方でバルプロ酸(デパケン®︎)、クロナゼパム(リボトリール®︎)、エトスクシミド(エピレオプチマル®︎)などはピルとの相互作用は無いとされています。以上のことからピルとの相性が悪い薬を使用中は、コンドーム以外だとミレーナ®︎という子宮内に挿入する避妊用ホルモン剤が推奨されます。

てんかん治療中の妊娠計画

さて、避妊から一転して妊活に入る場合の注意事項です。まず一般的に勧められるのは葉酸の内服です。抗てんかん薬の中にはバルプロ酸やカルバマゼピンをはじめとして胎児の神経管閉鎖障害という先天性の疾患の原因になることが知られているものがいくつもあります。一方で妊娠前から葉酸を内服しているとこの病気の発生率が下がることが分かっているため、特にてんかんをお持ちの女性は妊活に入る前に服薬指導が入ることが多いです。具体的には日本やアメリカのガイドラインでは0.4mg/日の用量が勧められていますが、実は国や地域によって0.4~5mgとかなり異なっており、どの程度が良いのかは本当のところよく分かっていません 2)3)4)5)6)。そしてもうちょっと言うと、実は葉酸内服は「抗てんかん薬の内服に伴う神経管閉鎖障害」に対する予防効果に関しては本当にあるかどうかが分かっていません 7)。ただ、いずれにしても服薬することのメリットは確実で、かつデメリットはほとんど無いため勧められています。あとはざっくりしてしまいますが、妊活に入る前に神経科の主治医とよく相談して、できるだけ抗けいれん薬の量を少なく、種類を減らして、より安全なものに調整してもらうことも大切です。

まとめ

本日はてんかんをお持ちの女性の家族計画についてお話ししてみました。てんかんに限らず、持病をお持ちの方はできればしっかりと準備してから妊娠に臨むことが、母子の安全を確保しながら妊娠・出産を楽しむのにとても大切です。これから妊活に入ろうと考えている方は、是非普段の主治医に加えて最寄りの産婦人科にも、どんな準備が必要なのか相談してみてください。

参考文献
1) Makiko Egawa, et al. Epilepsy Behav. 2020 Oct:111:107176.
2) 日本神経学会:てんかん診療ガイドライン 2018
3) Anne L Dunlop, et al. Am J Obstet Gynecol. 2010 Jan;202(1):e18.
4) Yi Li, et al. Epileptic Disord. 2025 Dec;27(6):1209-1216.
5) C L Harden, et al. Neurology. 2009 Jul 14;73(2):142-9.
6) Royal College of Obstetricians & Gynecologists. Epilepsy in Pregnancy. Green-top Guideline No. 68. June 2016.
7) Stephen M Kerr, et al. Birth Defects Res. 2020 Nov;112(18):1526-1540.

産後のシッツバス

こんにちは、副院長の石田です。

経腟分娩の際には90%前後の女性で会陰裂傷ができることが知られています。もちろん傷の大きさや深さは人それぞれですが、いずれにしても産後はその痛みと付き合わなくてはなりません。痛みは時間とともにどんどん良くなっていくのが一般的ですが、当院では少しでも早く回復できるように産後の入院中にシッツバスをご提供しています。そこで本日はこのシッツバスについてご紹介させていただこうと思います。

シッツバスとは

シッツバスは暖かいお湯を溜めた浅いタブにお尻から腰を浸からせる入浴のような療法です。筋肉の緊張を取り、血行を改善することで会陰部の創傷治癒を促進し、痛みを改善する効果があるとされています。19世紀に欧米で始まったとされるこの治療は、現在でも分娩後の会陰裂傷以外だと、痔などに対して用いられることがあります。シッツバスは必ずしも有効性を示すエビデンスが豊富にあるわけではありませんが、会陰のむくみを取ることで創部の緊張が軽減されて、楽に過ごせるようになる人が多い印象です。

当院のシッツバス

当院ではシッツバス専用のタブを使用して、15分間のメニューとして産後にご提供しています。お湯は40℃を基本としていますが、それぞれの女性が気持ち良いと感じる温度に適宜調整可能です。(ちなみにお湯よりも水の方が痛みの改善効果があったという、少し古い文献もありました 1)。)シッツバスだけでも上記の効果が期待できますが、当院では筋肉の緊張をほぐし、消毒・殺菌作用があり、傷の治癒を促進する効果があるとされるラベンダーとサイプレスのエッセンシャルオイルもお湯に加えています。ちなみににしじまクリニックで使用しているエッセンシャルオイルは、少しでも皆さんの体に良いものをとの想いから、世界で最も権威のあるECOCERTのオーガニック認証を取得したフランスのvie arome社のものを取り寄せています。なお、一度使用した機材は次亜塩素酸を含む複数の洗剤で全て入念に洗浄した後、5分間の強換気を行うことで、皆さんに安全に使っていただけるよう配慮しています。

まとめ

本日は当院で産後にご提供しているシッツバスについて解説しました。日本では一般的に「入浴解禁は1ヶ月健診が終わってから」という風潮があるためご心配になる方もいらっしゃるかもですが、当院の患者さんたちがシッツバスにより子宮内感染を起こしたことは一度もありませんし、最近になって成育医療センターのチームから「産後の入浴って制限しなくてもよくない?」という内容のデータも発表されているため安心して楽しんでいただきたいと思っています 2)。にしじまクリニックでは他にも、お産で消耗した体の回復を促進するための様々なアロマテラピーを取り揃えておりますので、もっと詳しく知りたいという方は是非スタッフにお声掛けください。

参考文献
1) D Ramler, et al. J Obstet Gynecol Neonatal Nurs. 1986 Nov-Dec;15(6):471-4.
2) Rinko Ibi, et al. Int J Gynaecol Obstet. 2026 Feb 24.

クアトロテストとNIPT

今回は出生前遺伝学的検査のクアトロテスト(母体血清マーカー検査)とNIPTについて、あらためて要点をまとめたものを公開します。

クアトロテストTM

・実施時期:妊娠15〜17週

確率に影響を与えるので、妊娠15週未満は実施(採血)できません。

結果判明は採血後1週間です。

・ダウン(Down)症候群の感度:80数%

・40歳妊婦におけるDown症候群の陽性的中率:9.2%

35歳妊婦は3.2%

・特徴:4つの母体血清マーカーから得られるDown症候群の可能性を分数(確率)にて表示されます。NIPTと異なり、胎児由来の細胞やDNAをみているわけではありません。

・注意事項:偽陽性率が高い(5%)

・費用:27,500円(当院)

羊水検査は別途費用が生じます。

NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing)

・実施時期:妊娠10週以降

NIPTも非確定的検査なので、羊水検査を実施する妊娠16〜17週までには結果が判明しておくようにします。

結果判明は採血後2週間です。

・Down症候群の感度:99%以上

3つのトリソミーによるNIPTの偽陰性は0.01%です。

・40歳妊婦におけるDown症候群の陽性的中率:97%

35歳妊婦は91%

・特徴:母体血液中の胎児・胎盤由来の浮遊DNAを解析します。偽陽性率が少ないため、確定検査の羊水検査の機会を減らす事ができます。

陽性の場合は羊水検査が必要です。

・注意事項:胎盤性モザイク(胎児は正常核型でも、胎盤に異常核型細胞が混在している状態)の検出の可能性があります。これがNIPTは確定診断となりえない理由でもあります。また母体血を解析しているため、子宮筋腫などの腫瘍由来DNAによって判定が評価不能、と出ることがあります。

・費用:126,500円(当院)

執筆 にしじまクリニック院長

「お産の時に会陰切開してほしくないな」と思っているみなさんへ

こんにちは、副院長の石田です。

お産が近づいてくると気になることの一つに会陰切開があります。会陰切開が分娩時に行われることがある、ということ自体は初産婦の方でも多くが知っているものの、実際に「切る」と想像すると不安や恐怖を感じてしまう人もいるでしょう。そこで本日は、会陰切開をどう考え、どのように向き合っていけばよいのかについて一緒に考えていきたいと思います。

会陰切開とはなんなのか

会陰切開とは、赤ちゃんが産道を通りやすくするために会陰部(腟と肛門の間)をハサミで切開する医療手技のことを指します。経腟分娩を経験する女性のうち、会陰切開の有無にかかわらず実際にはおよそ90%前後の方に何らかの会陰裂傷が生じるといわれていますが、切れ方によっては複雑に広がり治りにくくなるケースもあるため、自然に裂けてしまうよりも重症化しにくい方向へ誘導したり、後で縫合しやすいきれいな傷を作る目的であらかじめ会陰切開を行うことがあります 1)。また、母体や赤ちゃんの状態が悪化し分娩を急ぐ必要がある場合、あるいは吸引分娩・鉗子分娩など補助的な器具を使用する場面でも、安全性を高めるために会陰切開が必要となることがあります。切開を入れるタイミングは、赤ちゃんの頭が降りてきて出そうになる直前で行われるのが一般的です。

会陰切開の実際

いや、会陰切開が医療的に大切な処置なのは知っているんだと。それは分かるんだけどハサミでお股を切るなんて想像するだけで怖いから、できればそんなことしないで欲しいんだよってみなさん思っていることでしょう。そんなお母さんたちにここからは私の超主観的なアンサーになるんですけど、自分はお産前から会陰切開のことなんてあまり気にしなくてよいと考えています。というのも、前提として赤ちゃんが生まれる直前は陣痛もさることながら、腟と会陰も赤ちゃんの頭にゴリゴリ押し広げられてとても痛いんですよ。そんな中で「会陰切開すれば赤ちゃんがすぐ出てくる」「これでお産にしましょう」って伝えて「やらないで!」って断られたことは1回も無いです。というか、なんなら喰い気味に「いいから早く切って!!」って怒られたことは数えきれないほどあります。そのぐらいお産の瞬間って大変なんですよね。もちろん無痛分娩なら切開やその後の縫合も痛くないので気にする必要はないでしょう。会陰切開のリアルな現場はそんな感じなので、お産前からそれを気にし過ぎるよりはもっと分娩中の過ごし方とか楽しいことを考えた方が建設的なのかなというのが私の意見でした。

まとめ

ということで本日は会陰切開について少しお話ししました。たまに会陰切開を入れなければ縫わなくて済むと誤解されている妊婦さんもいらっしゃるのですが、お股を3kg近い赤ちゃんが通過するわけですから、上記の通り会陰切開の有無に関わらずほとんどのお産で大なり小なり切れます。そしてそもそも我々産婦人科医としても、切らなくて済むなら切りたくないんですよ。切らずに裂傷なしでお産になればそれで仕事が終わる上に、患者さんからは(何もやってないのに)名医的な雰囲気ですごく感謝されることが多いからです。それでも時にはお母さんの会陰を深刻なダメージから、そして赤ちゃんの健康を重大なリスクから守るためには躊躇なく行わなければなりません。もちろんその時の声掛けなどを打ち合わせるために当院のバースプランにも会陰切開の項目がありますが、とは言え妊婦さんたちはあまりそこに固執することなく、楽しく分娩に臨んでいただければと思います。

参考文献
1) Nicola Adanna Okeahialam, et al. Am J Obstet Gynecol. 2024 Mar;230(3S):S991-S1004.