カテーテル先端を適切な位置に留置する

昨冬から導入した無痛カクテルにより、局所麻酔薬単独に比べ「麻酔の片効き」は圧倒的に減りました。その点では麻酔の質として産婦さんの満足度は上がっています。

麻酔の片効きの他要因として硬膜外カテーテル先端の留置位置があります。

硬膜外カテーテルは、黄靱帯と硬膜の間にある『硬膜外腔』に留置されます。カテーテルを入れる外針が、腰椎に対して正中に入ればカテーテルの先端の迷入のリスクは少なくなります。

もう少し詳細に述べると外針が皮膚、靱帯を正中かつ垂直に貫き硬膜外腔に達するのが理想です。しかしながら胸椎と腰椎はまっすぐな構造ではなく、また棘突起(椎体から出っ張る様に付いている骨)間は斜めなので、外針が真っ直ぐ入れる事が難しい場合もあるのです。

カテーテルを挿入し先端が腹側の硬膜外腔に位置してしまうと、正中の柱状構造や怒張した静脈叢により局所麻酔薬が反対側へ浸潤しにくくなり、麻酔の片効きとなります。解決策として、カテーテルを引き戻して正中の位置へ矯正されれば麻酔の片効きを解消できる可能性があります。

執筆 院長

PIBとは

今回は、無痛分娩における「PIB」と言う痛み止めの投与システムを説明します。

PIBとは

PIB(Programed Intermittent Bolus)は、産婦さんがPCAボタン(スイッチ)を押さ(プッシュし)なくても一定の時間が経過したら痛み止め(無痛カクテル)がボーラス投与されるシステムです。

ボーラス(Bolus)投与とは、点滴の様にゆっくりと投与するのではなく、薬を短時間で一気に投与する方法です。

PIBとPCAの両方のシステムを利用すると、産婦さんがPCAボタンをプッシュしなくても、設定時間間隔(45〜60分の設定が多い)に無痛カクテルが自動的に硬膜外カテーテルにボーラス投与されます。この仕組みにより鎮痛の維持において麻酔範囲を保つことが可能で、また突発痛の発生を防ぐ事も期待されます。

PIBとは異なり、痛み止めを持続投与しかつPCAを利用するシステム(持続投与+PCA)もあります。持続投与の場合はPIBより麻酔の広がりが少ないとされています。よって持続投与+PCAの場合は痛み止めの流量をPIBより多くする必要があります。

執筆 院長

当院の無痛分娩薬剤量

無痛分娩の痛みどめ薬は、当院としては量を定めています。

当院で使う無痛分娩の薬剤量は100mL

にしじまクリニックで用いる痛みどめの薬は、以前ご紹介した局所麻酔薬を希釈し医療用麻薬を添加した『無痛カクテル』となります。この無痛カクテルの組成はスタンダードなもので、当院他多くの施設でも採用されています。

無痛カクテル(0.1%アナペイン®︎+フェンタニル200μg)の使用量としては1時間あたり10〜20mLです。陣痛が始まり、痛みが強くなってきてから無痛カクテルを使用するにあたり、単純計算で5〜10時間使用できる事になります。

分娩の所要時間は大まかに

・初産婦さんは12〜16時間

・経産婦さんは6〜8時間

といわれています。となると初産婦さんにとっては無痛カクテル100mLのうち、使用するタイミングが重要となります。当院の無痛分娩体制で原則計画出産をお願いしているのは、分娩の進行を手助けしつつ、当院規定の局所麻酔量(100mL)におさめる目的もあるのです。局所麻酔中毒は使用量と時間に依存するので、規定量を設けずに漫然と局所麻酔薬を投与し続ける事は『安心安全なお産』に逸脱してしまうと私院長は考えています。

でもご安心ください。初産婦さんであっても無痛カクテル100mLを使い切る症例はさほど多くありません。

今後は産婦さん主体の鎮痛へ

当院は以前から局所麻酔・無痛カクテルの間隔投与(薬を30分毎に投与)を担当助産師または医師が行なっていました。

今後は初期投与で鎮痛を確認した後、産婦さんに疼痛時に薬を自らプッシュしてもらう鎮痛様式にシフトしていきます。これを『PCA』(Patient Controlled Analgisia)と言います。PCAを採用する事で産婦さんの鎮痛の満足度のみならず過度な局所麻酔薬の投与を防ぎ、ひいては局所麻酔薬の総使用量の適正化につながっていくものと考えています。

PIB: Programed Intermittent Bolus. 産婦がPCAをプッシュしなくても一定の時間が経過したら痛み止め(局所麻酔/無痛カクテル)が自動投与されるシステム

次回私のブログでPIBについて説明します。

執筆 院長

CSEAについて

無痛分娩は従来どおり硬膜外麻酔を用いるものが主流ですが、最近はCSEAを行なっている施設もあります。

CSEAとは

CSEA(Combined Spinal-Epidural Anesthesia)とは、

硬膜外麻酔+脊髄くも膜下麻酔と理解していただければよいです。

脊髄くも膜下麻酔は帝王切開に用いられる麻酔で、帝王切開をお受けになった方々はご想像いただけれと思いますが、足まで動かなくなる麻酔です。硬膜外麻酔と比べ穿刺位置も含め「深い」麻酔となります。

CSEAの利点としては、『鎮痛効果が早い』という事です。計画出産での無痛分娩ではなく、自然に陣痛が発来し分娩の進行が早い場合に効果的です。

Open AIを用いて作成

当院の無痛分娩体制と考え方

当院として現在提供する無痛分娩体制を考えると、CSEAのメリットは現在感じていません。当院は現在計画出産で無痛分娩体制をお願いしています。理由としては、無痛分娩希望の方々を全て陣痛発来待ちにしてしまうと、もし、とある時間帯に無痛分娩を希望する産婦さんの入院が重複してしまうと処置を行う適切なタイミングを逃してしまう可能性があるからです。

またCSEAを行なった場合、移動はリスクを伴いますので処置後の移動は困難です。『移動が困難』という事は転倒のほか、長時間の臥床による血栓塞栓症にも注意しなければなりません。

CSEAに対する胎児の影響については、深い麻酔の影響から硬膜外麻酔単独(EA)より胎児ジストレスがCTGに現れる可能性があります(胎児一過性徐脈)。

そしてコストです。CSEAを行う場合は専用の針キットらが必要になり、これは無痛分娩料にも反映されてしまいます。

以上から、にしじまクリニックでは現在の硬膜外麻酔(EA)での無痛分娩をより質を上げていく所存です。

(予定の帝王切開ではCSEAをお受けしています)

執筆 院長

無痛カクテル

当院の無痛分娩体制において、昨年(2025年)冬から大きなアップデートがありました。

無痛分娩で使う痛みどめは局所麻酔薬です。局所麻酔薬は使えば使う程中毒を起こす可能性があるので、時間あたりどの位まで使用する、と量を定めています。鎮痛効果は痛みどめの量が要因として大きいのですが、安心安全なお産が当然ながら第一なので、無痛分娩は「痛みを取りつつ副作用を減らす」工夫が必要となります。

当院では母体安全の提言やJ-MELSの硬膜外鎮痛急変対応コースをふまえ、局所麻酔薬に少量の麻薬を添加する『無痛カクテル』を導入しました。

無痛カクテルとは医療麻薬、「フェンタニル」を添加した麻酔レシピのことです。現在最も一般的と考えられるレシピは

『局所麻酔薬の0.1%アナペインに医療麻薬のフェンタニル2μg/mLを追加したもの』になります。

医療麻薬を添加することで、局所麻酔薬単体より濃度を10分の1まで薄めることができます。局所麻酔薬の濃度を薄めることができると中毒発症の可能性を減らせたり、足の動きの制限が減るので血栓塞栓症や転倒のリスクも減らす事ができます。

また医療麻薬の添加により、お産間際の体性痛(児下降による主に骨の痛み)の鎮痛をより期待できるほか、無痛カクテルの導入例では局所麻酔薬単体例に比べ、当院では児の回旋異常率が圧倒的に減りました。また麻酔の片効ぎも減り、無痛分娩の質が上がっていると感じています。

医療麻薬に関して在庫の確保が昨年まで難しかったのですが、現在は安定確保が可能となりました。以前当院で無痛分娩を経験された方は、アップデートされた無痛分娩体制により、鎮痛効果をさらに感じることができるかもしれません。

執筆 院長