豊胸手術と妊娠、授乳

こんにちは、副院長の石田です。

豊胸手術はご自身の胸に対してコンプレックスを持つ女性だけでなく、乳がんでおっぱいを失ってしまった女性やトランスジェンダーで悩む男性など多くの人にとって心を救う医療です。というわけで今日は豊胸手術と妊娠から出産、授乳までのことに関してお話ししようと思います。

豊胸手術ってどんな手術?

豊胸手術の歴史は意外に浅く、Wikipedia先生によると1950年代にシリコンを胸に注射したのが始まりだそうです。しかし異物を直接肉体に注入して無事でいられるはずもなく、その後技術の改良を繰り返した後バッグを挿入したり自分の脂肪組織を移植したりする現在の方法まで進化してきたということでした。日本美容外科学会のデータによると2017年に日本で行われた豊胸手術は調査対象となった病院だけでも11,486件だそうです 1)。顔面などその他の部位を合わせた外科手術による美容形成術が全部で278,507件、注射やレーザーなどの美容処置も入れると全部でおよそ160万件ということを考えると全体としての割合はまだまだ低そうですが、アメリカでは年間31万件以上行われており2000年と比較しても48%増ということですので今後日本でも増えてくるかもしれません 2)。バッグ挿入法による早期の副作用としては感染、疼痛、バストの型崩れなど、晩期の副作用としてはバッグの位置ずれ、破裂などが挙げられています。また、2011年には特定のバッグで発がん性が指摘されました。意外に知られていないのが、バッグには寿命があるということです。多くの外科医は15〜20年をバッグの寿命と考えており、中には10年くらいで交換を勧める医師もいるそうですが、入れ替えに関する定まった推奨というのはまだ無いようでした 3)。

妊娠に関する問題点

シリコンが入っていると妊娠しにくくなるか、あるいは妊娠中にシリコンが赤ちゃんに悪さをしないかという点がご心配かと思いますが、結論から言うと妊娠、出産には影響しないと言うのが現在のコンセンサスです。研究がたくさんあるわけではないのですが、数少ないデータからは妊娠しやすさや赤ちゃんの奇形発生率などが上昇すると言う事実は確認されていないようでした 4)。

授乳に関する問題点

こちらも特に問題はないということです。シリコンが胸に入っているお母さんから授乳しても赤ちゃんに健康被害はないようでした。実際シリコンが入っている女性と入っていない女性でシリコンの血中濃度、母乳中濃度とも差は無かったという研究結果も出ています 5)。また、手術でシリコンバッグを入れた人と生理食塩水のバッグを入れた人でも授乳中の有害事象に差は無かったということでした 6)。ただ、赤ちゃんに強く吸われることによるバッグへの影響を心配してか、それとも単純に痛みがあるのか、あるいは漠然と赤ちゃんに健康被害が無いかという不安からかは分かりませんが、豊胸手術を受けた女性は手術をしていない女性に比べて母乳育児を行う人が少ないというデータは出ているそうです 7)。

まとめ

というわけで今日は豊胸手術をされた方の妊娠や育児に関するお話でした。日本ではタトゥーも含めて体を外科的にいじることには抵抗感が強い文化かと思いますが、医療に携わっていると思っている以上に手術をされている方が多いと感じます。医療者相手とは言え相談しにくい内容かもしれませんが、乳房マッサージなども必要な中でとても大事な情報ですので手術した方は妊娠したら必ず受診先の医療者にそのことをお伝えください。

1) 日本美容外科学会:https://www.jsaps.com/pdf/explore/explore_img2.pdf

2) American Society of Plastic Surgery: https://www.plasticsurgery.org/documents/News/Statistics/2018/plastic-surgery-statistics-report-2018.pdf

3) Fargo D, et al. StatPears. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2019 Jan-

4) Bondurant S, et al. National Academies Press; 1999. 11

5) Lugowski SJ, et al. Journal of Analytical Chemistry. 1998; 360: 486-488

6) Jewel ML, et al. Aesthet Surg J. 2019 Jul 12; 39(8); 875-883

7) Roberts CL, et al. Med J Aust. 2015 Apr 6; 202(6): 324-8

NTとは

先日、私院長はFMF(Fetal Medicine Foundation)によるNT計測国際資格を取りましたので本日はNTについてのブログとなります。

NTとは

NTとは”Nuchal translucency”の略で、妊娠初期の胎児矢状面でみえる後頸部透亮像のことです。

〔The Fetal Medicine Foundationホームページから〕

簡単にいうと、

妊娠11〜13週あたりに、赤ちゃんの頭から胸の部分をエコーで縦切りの像を写し出して、その像での”赤ちゃんの首のむくみ”をさします。

上の写真も参照してください。

なぜNTを測るのか

通常でもNTは確認できます。しかし一定基準を超えるNTの厚さは赤ちゃんの染色体異常、特にトリソミーの可能性が考えられるのです。

NTの計測時期

先程の記載どおり、NTの計測は妊娠11〜13週に行います。

妊娠14週を超えると赤ちゃんの大きさに対するNTの基準値が定まっていなかったり、NTはいわゆる”むくみ”なので次第に消失してしまうこともあるので計測としては不正確となります。

にしじまクリニックでは妊娠13週の妊婦健診にNTを計測することになりました(先の初期検査時期にNTを見つけて計測する場合もあります。赤ちゃんの大きさにかかわらず、NTが3.5mmを超える場合は他の染色体異常のマーカーの計測や妊娠初期の胎児心臓スクリーニングを周産期センターへ依頼するためです。)。これは単にトリソミーに対する出生前診断のマーカーとしてみているだけでなく、もう一つの頸部浮腫である嚢胞性ヒグローマ(Cystic hygloma)の有無を確認します。

FMFによるNT計測国際資格者は日本で私を含め215人(2020年10月18日現在)います。何かご相談ございましたら遠慮なく私院長へお尋ねください。

*10/23追記:タイムリーに副院長の石田もこの度FMFのNT計測国際有資格者となりました。このようにますます当院での健診の「価値」を高めてまいります。

妊娠と交通事故

こんにちは、副院長の石田です。

先日長男の小学校の当番で下校の見送りをしてきました。子供達が無事帰ったのを見届けて自分も帰ろうとしたら、横断歩道で信号無視して突っ込んできた乗用車に跳ね飛ばされました。幸い軽傷で済みましたので、本日は妊婦さんと交通事故について書こうと思います。

交通事故の現状

日本では少なくともここ10年くらい、交通事故がどんどん減ってきています。警察庁の発表 1) によると平成30年度の交通事故発生件数は約43万件で、前年比にすると4万件以上減っており、さらには平成20年度と比較するとほぼ半減しています。死亡事故件数についても同様の傾向があり、発生件数は3,449件ですが、やはり平成20年度と比較すると68%です。最近高齢者による暴走運転が頻繁に話題になりましたが、全年齢層で死傷者数も減少しています。そういえば先日外傷外科の医師と話をした時に、昔と違って車がとても安全になったおかげで仕事が激減していると言っていました。ちなみに妊婦さんだけに焦点をあてた統計は無いので詳しい数は分かりませんが、ガイドライン 2) によると妊婦さんの事故死亡は年間10人程度、負傷者は年間7,817人、胎児死亡は年間800人という推計もあるそうです。

妊婦さんの安全のために

交通事故の数が減っているとはいえ、未だに毎年犠牲者が出て悲しい想いをされている方がいらっしゃいます。妊娠していると42%増しで交通事故にあいやすい 3) という研究もありますが、例え軽い事故であっても割と胎児死亡につながりやすいということも言われているので十分な注意が必要です 4) 。そうは言ってもどんなに注意していたって起こってしまうことがあるということで、せめて軽傷で済むようにと以下のシートベルトの装着方法が推奨されています 2) 。

1. 肩ベルトと腰ベルトの両方を装着する

2. 腰ベルトは子宮の真上を横断しないように腰骨の低い位置を通す

3. 肩ベルトも子宮を避けておっぱいの間から子宮の上側で通す

4. ベルトの緩みが無いようにピッタリとフィットさせる

5. 運転席の場合は子宮とハンドルの間に空間ができるようにシートを調整する

まとめ

特に地方であるほど車は生活にとって欠かせません。「いつまで車に乗っていいですか?」という質問もよく患者さんから受けますが、明確な制限は無いもののやはりお腹が大きくなってくるほど自分のボディーイメージと実際の姿が乖離してくるため事故にあいやすくなる恐れがあります。人生はリスクに溢れており、交通事故の可能性も0にすることは不可能ですが、できるだけ安全に配慮して快適なカーライフをお過ごしください。

1) 警察庁 平成30年中の交通事故の発生状況; https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031800894&fileKind=2

2) 産婦人科診療ガイドライン 産科編2017

3) Redelmeier DA, et al. CMAJ 2014; 186: 742-750

4) Neil JM, et al. Am Fam Physician 2014 Nov 15; 90(10): 717-724

妊娠分娩に関わる言葉の定義

本日のブログは私院長が妊娠分娩に関わる言葉の定義を一部ご紹介します。

産婦

産婦とは「分娩期にある女性」のことをいいます。

また、

妊婦とは「妊娠期にある、いわゆる妊娠中の女性」を、

褥婦とは「分娩後、分娩後の影響がまだ認められる女性」のことをいいます。

『妊産婦』とは母子保健法の第六条(用語の定義)に「妊娠中又は出産後一年以内の女子」と定義されています。

褥婦としての産褥期間が産婦人科学では通常6〜8週間ととらえる1)のに対し、母子保健法では産後1年までなんですね。メディアの方々はニュースなどで情報を発信される際に是非とも知っていただきたい定義です。

また、

初産婦とは「妊娠22週以降の分娩を初めて経験する産婦」、

経産婦とは「既に妊娠22週以降の分娩を経験したことのある産婦」

をいいます。

5回以上分娩したことがある方は「多産婦」とよばれます。

妊娠22週という区切りは現在のところ、出産して児の治療が可能な最小週数を示しており、以下定義に続く「周産期」や、人工妊娠中絶の適応でも関連します。

周産期(Perinatal period)

WHOによる医学分類リストであるICD-10では「妊娠22週に始まり出生後7日未満で終わる」と定義され、日本でもこれを採用しています。

妊娠、分娩回数の数え方

1)妊娠回数の数え方

現妊娠を妊娠回数に加えます。

例えば、1度お産を経験された経産婦さんが新たに妊娠しました。この場合「2妊1産」または「G2P1」と表現されます。

Gは”Gravida”または”Gravidity”、

Pは”Para”または”Parity”の略です。

2)分娩回数の数え方

妊娠22週に達した後に娩出したものを分娩回数に算入します。

3)多胎における妊娠、分娩回数の数え方

多胎は双胎(双子)であれ品胎(三つ子)であれ、妊娠回数は1、分娩回数も1とします。

例えば、1度お産を経験されたのが双胎妊娠で、その経産婦さんが新たに妊娠したとします。この場合も「2妊1産」または「G2P1」となるのです。

参考文献

1) 産科婦人科用語集・用語解説集 改定第4版