RSウイルス母子免疫ワクチン「アブリスボ®︎」

RSウイルス母子免疫ワクチン「アブリスボ®︎」が、当院でも採用となりました。

RSウイルス感染症について
RSウイルス感染症は呼吸器疾患であり、免疫が不十分な新生児から高齢者まで感染するリスクがあります。

RSウイルスは生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%が感染し、終生免疫は獲得されず再感染がみられます。乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の50~90%がRSウイルス感染症によるとされており、小児科医が対応する感染症の大きな原因となっています。

症状は軽症の感冒様症状から下気道症状(咳、呼吸困難、喘鳴[ぜんめい])に至るまで様々で、特に生後6か月齢未満で感染すると重症化します。

日本では毎年約12万~14万人の2歳未満の乳幼児がRSウイルス感染症と診断され、そのうち約4分の1に入院が必要と推定され、日本においても重症例(酸素投与以上)では、0.3%程度が死亡しているとされます。
RSウイルス感染による乳児の入院は、基礎疾患を持たない正期産児も多く、入院発生数は生後1~2か月時点でピークとなります。このようにRSウイルス感染症の疾病負荷は極めて大きく、基礎疾患の有無にかかわらず生後早期から予防策が必要な感染症なのです。

RSウイルス感染症の重症化抑制する対策として
RSウイルス感染症に対しては有効な治療薬はなく、対症療法しかありません。そのため予防が重要となり、RSウイルス感染症の重症化抑制薬としてこれまでパリビズマブ(シナジス®︎) が早産児や先天性心疾患など基礎疾患のあるハイリスク児に限定して使用されます。

しかし、RSウイルス感染症による入院の大部分を占める、『基礎疾患のない』正期産児に対して、シナジス®︎は健康保険適用外(自費診療)となり、非常に高額です。

よってRSウイルス母子免疫ワクチン
現状、小児に有効なRSウイルスワクチンは開発されておらず、そこで着目されたのがRSウイルス母子免疫ワクチン「アブリスボ®︎」です。

妊婦に接種することにより、母体のRSウイルスに対する中和抗体価を高め、胎盤を通じて母体から胎児へ中和抗体が移行することで、新生児・乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患を予防します。妊娠24~36週の妊婦に筋肉内に1回接種しますが、28週から36週の接種によりさらに有効性が高くなる可能性があります。生後6か月までの重度のRSウイルス関連下気道感染症、医療機関の受診を必要とするRSウイルス関連下気道感染症に対しての有効性が臨床試験で証明されています。
承認前の臨床試験(国際共同第Ⅲ相試験)において、母体のワクチン接種により重度のRSウイルス関連下気道感染症に対して、生後90日で81.8%、180日で69.4%の減少が認められました。また医療機関の受診を必要とするRSウイルス関連下気道感染症に対して生後90日で57.1%、180日で51.3%の減少が認められました。

有害事象および重篤な有害事象はワクチン群とプラセボ群で同程度でした。

以上から、RSウイルスワクチンは、『基礎疾患のない』乳児に対するRSウイルス感染症の予防に寄与することが期待されます。

執筆 院長

子宮頸がんワクチンのキャッチアップ接種が終了します。

こんにちは、副院長の石田です。

子宮頸がんワクチンは文字通り子宮頸がんを予防するワクチンです。正確には子宮頸がんの原因となるパピローマウイルスへの感染を防ぐことにより間接的に子宮頸がんが発生しないようにしています。2007年に人への接種を開始して以来、今では100カ国以上で定期接種となり、積極的に打ち続けた国では子宮頸がんの発生率が90%も低下しているようです。また、このワクチンは子宮頸がんだけでなく肛門がん、外陰がん(腟、陰茎など)、中咽頭がんや尖圭コンジローマという性病も予防してくれるため、男性にとっても有益なワクチンとなっています。我が家も先日中学生になった長男に接種を開始しました。

日本では社会的に副反応への懸念が高まった影響から永らく接種控えが起こっていましたが、2022年から積極勧奨が再開しました。それに伴い対象者であったにも関わらず接種機会を逃してしまった可能性がある平成9〜19年度生まれの女性にキャッチアップ接種として無料でのワクチン提供が行われていますが、この制度が2025年3月で終了します。ワクチンは3回打ち終わるのに半年かかるので、対象者は9月までに打ち始めないと接種に最大で7万5千円〜10万円程度の自己負担が発生してしまいます。もちろんキャッチアップ接種の期間が終わっても自費で打つことは可能ですが、ご希望の方はこの期間内に打ち終えられるよう早めのご予約をお勧めします。

最近では15〜39歳を指してAYA (Adolescent & Young Adult) 世代と呼びますが、この世代の女性がかかる悪性腫瘍で最も多いものの一つが子宮頸がんとされています。若くして大きな病気にかかるのはとても大変なことですが、一方で子宮頸がんは「予防」と「定期検診による早期発見」の両方が可能な珍しい疾患です。まだお済みでない方は、是非この機会に接種をご検討ください。

妊娠と麻疹(はしか)

こんにちは、副院長の石田です。

先日、「都内で3年ぶりに麻疹患者確認!」というセンセーショナルな見出しがニュースに出ましたが、それを受けて不安を感じた妊婦さんたちから「かかっても大丈夫ですか?」という質問をいただきます。もちろん感染症は病気なので「大丈夫」ということはないのですが、具体的にどんなことが心配なのかについて解説したいと思います。

麻疹とはどんな病気なのか?

麻疹はウイルスによって引き起こされる全身感染症です。主に空気感染によって伝播して行きますが、その感染力は数ある感染症の中でも最強クラスで基本再生産数(R0)はCOVID-19やインフルエンザが3〜4くらいなのに対して麻疹は15前後と「同じ空気を吸うだけで感染する」「すれ違っただけで感染する」と描写されるくらいにとても高いです。感染が成立すると幅はあるもののおおよそ2週間前後で発熱、倦怠感、咳、結膜炎などで発症し、続いて発疹が見られるのが特徴です 1)2)。そう書くとなんだか普通の風邪っぽい印象になるかもしれませんが、実際の症状はかなり強いようで肺炎や脳脊髄炎などに移行して重症化することもあり、2018年には世界でも14万人以上の人が麻疹のために亡くなったということです。決定的な特効薬は存在しないためワクチンによる予防が対策の鍵となります。

妊娠と麻疹

三日ばしかと呼ばれることもある風疹と混同されることもありますが、母体に感染すると胎児に難聴、失明、心疾患などといった影響を及ぼす風疹と違って先天奇形との因果関係は指摘されていません。その一方で感染した妊婦が重症化しやすかったり、流早産や子宮内胎児死亡や母体死亡のリスクが高いとされています 3)。その他、胎児が子宮内感染し出生後に発症する先天性麻疹という病態もありますが、それが懸念される場合には別途特別な対応を行うこととなります。

まとめ

本日は妊娠と麻疹について超簡単にお話ししました。麻疹はそれ自体が非常に強い感染力と症状がありますが、妊娠という免疫機能が控えめになった状況と合わさるとさらにリスクが上がります。そうそう流行するものでもありませんがその一方で定期的に話題になるのも事実ですので、ワクチン以外の対策が難しい感染症ではあるものの妊婦さんにおかれましては感染防御に、またご家族に関してはできるだけ持ち込まないようにワクチン接種を含めて心がけていただければと思います。

1) Richardson M, et al. Pediatr Infect Dis J. 2001;20(4):380
2) Hubschen JM, et al. Lancet. 2022;399(10325):678
3) Ogbuanu IU, et al. Clin Infect Dis. 2014 Apr;58(8):1086-92

新年度からの変更点、シルガード9の定期接種方法

本日令和5年4月1日の新年度から、制度にいくつかの変更があります。

婦人科の制度変更として本日からHPVワクチンの『シルガード9』が定期接種として導入されました。

▪️小学校6年生〜15歳未満の女子

2回接種で完了

▪️15歳以上の女子

従来どおり3回接種(ただし15歳になるまでに既に『シルガード9』を1回接種していれば、2回での接種が完了)

▪️既に4価ワクチンの『ガーダシル』を1回または2回接種した女子

次回も同様に『ガーダシル』を接種する、もしくは『シルガード9』の接種も可能

となります。

『シルガード9』も『ガーダシル』も、当院で既に多くのお子さんが接種、またはキャッチアップ接種を済ませています。適時の接種を行えば子宮頸がんの予防効果は70〜90%と言われていますので、接種対象でまだ行なっていない方は当院へご相談いただければと思います。

他、新年度における産科の制度変更として、ご加入の健康保険から支給される出産育児一時金が42万円から50万に増額となり、にしじまクリニックではその分産婦さんの負担が減ることになります。例えば自然経腟分娩の場合、分娩予約金をお支払いしていれば、退院時のお支払いは19,000円から、となります。

https://nishijima-clinic.or.jp/info02.html

分娩のご予約のお問い合わせが多くなることが予想されますので、ご妊娠され、当院で分娩を希望される場合は早めの受診をお願いできれば幸いです。

分娩予約状況につきましては当院HPの「お知らせ」からご確認いただけます。https://nishijima-clinic.or.jp

文責 院長

モルヌピラビル

新型コロナウイルス感染症治療薬として、経口抗ウイルス薬のモルヌピラビル(ラゲブリオ®︎)の一般流通(*)が開始されました。

(*卸販売業者を通じて医療機関および薬局に納入が開始され、

通常どおり医師が処方箋を発行し、お薬を出す、ということです1)。)

モルヌピラビルの薬効動態

モルヌピラビルはRNA合成酵素阻害薬です。新型コロナウイルスにおけるRNAポリメラーゼに作用し、ウイルスRNAの配列に変異を導入し、ウイルスの増殖を阻害します。

発症後、なるべく早いうちに服用することが推奨されています。

モルヌピラビルの処方を適さない方

動物実験で胎児毒性が報告されており、妊娠中は禁忌(使用できない)となります。

ということは、妊娠中は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクを下げるためにはワクチン接種が手立てとなります。

なお現時点では18歳以上の方が処方を考慮する対象となります。

一般流通品となり、何が変わるのか

経口抗ウイルス薬としてのアクセスが容易になれば、たとえ妊婦さんがモルヌピラビルを使用できなくても家族が新型コロナウイルスにかかった場合、早めの内服でウイルスの拡散を低くすることが可能と考えます。

文責 院長

引用文献

1) 新型コロナウイルス感染症の経口抗ウイルス薬(飲み薬)について. 神奈川県HP