流産染色体分析

流産絨毛組織染色体分析の適応例

・不育症の原因検索や除外診断等を希望される場合

・ご夫婦が流産の原因検索を希望される場合

流産は全妊娠の10〜15%に発生しその半数は染色体異常が原因とされています。なかでも突発的に発生する数的異常(染色体数の増減)が多く、例えばダウン症候群などのトリソミーが約60%を占めます。

流産組織の絨毛を採取し、染色体分析の結果、染色体異常が検出された場合は、その流産の原因であった可能性が高いと考えます。そして

数的染色体異常が判明した場合:突発的に発生したものと考え、次の妊娠でも繰り返す可能性は低いと考えます。ただし女性の加齢による影響はあるので、高年妊娠に関しては次の妊娠でも年齢に応じた数的染色体異常には留意しなくてはなりません。

②染色体構造異常が判明した場合:染色体を形成するDNAの糸が切れて元とは違う形で再構成された状態を「構造異常」と言います。構造異常には転座、欠失、逆位などがあります。胎児の染色体構造異常が判明した場合、ご夫婦のどちらかが関連した構造異常を有している場合は今後の妊娠もそれが流産の原因となり得るため、ご夫婦自身の染色体分析も行い、今回の胎児の染色体構造異常と関連するかを確かめることをお勧めします。

ご夫婦の染色体異常が認めない場合は、今回の胎児の染色体構造異常は突然変異により生じたものと考え、次回の妊娠の影響は低いと考えます。

構造異常はゲノム量が変わらない変化を「均衡型異常」とゲノム量が変わる変化を「不均衡型異常」に分けられます。

ご夫婦の染色体分析において、

均衡型異常ではご夫婦いずれかに胎児と同じ均衡型異常が判明した場合、それは今回の流産の原因ではないと言えます。ただし、卵子や精子の形成過程における減数分裂の時に不均衡型異常を構成することがあるため、その場合は次回以降の妊娠での流産や不妊症、不育症の原因となることがあります。

不均衡型異常の場合は妊娠が成立してもその後の流産の主原因となり、出産に至ってもゲノム量の変化度合いにより児に様々な影響(先天異常)を及ぼすことが考えられます。

③染色体が正常だった場合:流産の原因が染色体異常によるものではないと一般的に判断されます。例えば子宮形態異常、膠原病関連疾患、内分泌代謝異常、感染症などが流産の原因ではないかと疑われます。

通常、流産手術においての病理検査では絨毛性疾患の有無を確認するもので、

今回改めてご紹介する流産絨毛組織(POC: Products Of Conception)染色体分析と検査は異なります。残念ながら稽留流産が判明し、流産手術前に流産染色体検査を希望される場合は担当医師にご相談ください。結果によっては高次施設での遺伝カウンセリング外来へご紹介する場合もございますことをご理解願います。

院長執筆

妊娠中に血小板が少ないと言われた時の話

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠中は体にさまざまな変化が起こりますが、その中でもたまにあるのが「血小板が低いです」という異常です。人気マンガの『はたらく細胞』なんかでも可愛らしいキャラとして描かれている血小板は、分娩時に伴う出血をコントロールするための重要な細胞なので足りないと言われると心配になりますが、そうなった時はどうしたらよいのでしょうか?
ということで本日は妊娠中の血小板減少について解説したいと思います。

妊娠性血小板減少症

実は妊婦さんの体は分娩時の出血に備えて血小板を増産しています 1)。しかし、同時に血液量も妊娠前と比べると妊娠末期に1.5倍ほどに増えているため結果的に血小板は薄まって濃度を表す数値が低下してしまうんですね。加えて妊娠すると血小板の消費が増加するとも言われており、それらが複合的に作用しているのが実態のようです 2)3)。このような状態を妊娠性血小板減少症と言い、全妊婦の7〜12%が発症すると言われています 1)4)。15万〜45万/μLが正常値とされる血小板数が10万くらいまでの範囲で下がるのが一般的ですが、逆にこの程度であれば実際に出血が増えるなどの実害に発展しないとされており、分娩終了後は自然と元の血小板数に回復するので治療も必要としません。統計的には妊娠後期に多いとされていますが、妊娠初期から血小板が低下することもあります。

どんな時に心配か

上記のように無害な血小板減少の場合は10万以上で減少が止まりますが、時にそれを下回って低下していくことがあります。この場合は妊娠高血圧症候群に関連した疾患や自己免疫による血小板の破壊など危険な病気を考える必要があるため、状況に応じて周産期センターなどの高次施設への転院や、臨月であれば分娩による妊娠の終結を検討する必要があります。そのため通常の妊婦健診で血小板の低下を確認した場合はしばらく頻回の血液検査を提案されるかもしれません。

まとめ

本日は妊娠中に血小板が少なくなってしまった時のお話でした。妊娠中の血小板減少の75%は心配の要らない妊娠性血小板減少症と言われていますが、その一方で注意が必要な疾患のこともあります。もし妊娠中に血小板が少ないと言われたら、主治医の先生とよく相談をしながらしっかり見守っていきましょう。

1) 森川 守. 日医雑誌 第152巻・第12号/2024年3月
2) Simone Filipa Carrasqueira Subtil, et al. Rev Bras Ginecol Obstet. 2020 Dec;42(12): 834-840.
3) Douglas B Cines, et al. Blood. 2017 Nov 23;130(21): 2271-2277
4) Anca Marina Ciobanu, et al. Maedica (Bucur). 2016 Mar;11(1):55-60.

妊娠蛋白尿に関する考え方

妊娠蛋白尿の定義

・尿蛋白/クレアチニン比が0.3以上

または

・24時間蓄尿で300mg/日以上の蛋白尿が検出された

場合を「妊娠蛋白尿」と定義します。これらは定量検査で

妊婦健診で行う蛋白の出ている尿(蛋白尿)の検査は定性検査

といいます。定性検査は主に陽性か陰性かを判断するもので、蛋白尿が陽性であれば定量検査で妊娠蛋白尿に当てはまるか確認をする必要があります。

蛋白尿の測定法

入院をしており時間的余裕があるなら24時間蓄尿を行いますが、

外来等では尿蛋白/クレアチニン比を検査することで早く結果を得ることができます。尿蛋白/クレアチニン比は、24時間蓄尿による蛋白排泄量とよく相関することが知られています。

尿蛋白/クレアチニン比が0.3~0.5の場合、尿蛋白排泄量は0.3~0.5g/日程度と推定できます。

蛋白尿量で(妊娠高血圧症候群の)重症度の区別は無

蛋白尿の量で妊娠高血圧症候群の重症度をはかるわけではありませんが、

『妊娠中の高血圧+蛋白尿』は妊娠高血圧腎症=子癇前症であること、

まだ高血圧を認めていなくても、蛋白尿を認めれば妊娠高血圧腎症への進展を予測しsFlt-1/PlGF比を測るきっかけとなること

から、妊娠蛋白尿には要注意と言わざる得ないのです。

執筆:院長

出生前診断の注意点

こんにちは、副院長の石田です。

産婦人科で正常妊娠を診断された後、夫婦によって検討が始まるのがNIPT、クアトロ検査、羊水検査などの遺伝学的な出生前診断を受けるかどうかです。これらの検査は赤ちゃんが産まれてくる前に染色体異常を主とした病気の有無が分かるため、夫婦の取れる選択肢が増えるという点で魅力的である一方、実は小さくない落とし穴がいくつもあることは意外と知られていません。そこで本日は出生前診断を受けるか悩んでいるご夫婦に知っておいていただきたい注意点について解説したいと思います。

遺伝情報がもつ注意すべき特殊性

遺伝情報の注意すべき特徴の一つは「あいまいである」ということです。例えばダウン症候群は出生前診断で気にされる最も有名な疾患ですが、もし診断されてもその子が実際にどの程度の重症度で産まれてくるか、将来どのような病気にいつかかるかなど具体的な未来を正確に知ることはできません。加えて染色体異常の中には病気ではない子供が産まれてくる変異がいくつもありますが、その全てが把握されているわけではないため未知の異常が見つかった時にどのように対処すれば良いか専門家ですら答えられないということも起こり得ます。しかもこれらの異常は家系に由来していることもあるため、安易に検査をするとその影響が意図せず広範囲の家族に広がる可能性があるほか、そもそも個人の遺伝情報は変更不可能なため一度知ってしまうと二度と知らなかった状態には戻れないということにも注意が必要です。

「知っておきたいだけ」というご夫婦も注意が必要

中には「何があっても産むことは決めているけど、事前に赤ちゃんの状態が知りたいから検査します」というご夫婦もいらっしゃいますが、そういう場合でも注意が必要です。そもそも胎児にとって出生前診断はやらなければ通常どおり産まれることができる一方で、行った場合は陽性からの中絶や検査による有害事象(破水など)の発生によって流産になる可能性があるイベントであり、赤ちゃん側の視点に立つと受けるメリットが乏しい検査なのかもしれません。そのため検査で期待できることと赤ちゃんが背負うリスクのバランスについては慎重な判断が必要です。さらには検査結果を知らなければ産んだ赤ちゃんも、異常結果を知ってしまったがために決心が揺らぐ可能性は十分にあります。結果に関わらず産むと決めているご家族であっても検査のメリットやデメリット、そして異常結果となったときのことについてはよく話し合っておくことが大事です。

検査で検出できる病気には限界がある

新生児の3〜5%は大小何かしらの先天性疾患を持って産まれてくると言われていますが、遺伝学的検査で検出できる染色体異常は全先天異常のうちの1/4しかありません。しかも遺伝子疾患の中には出生直後は正常でも年単位の時間をかけてゆっくり発症してくるような病気もありますし、そもそも産まれた後も人間はさまざまな病気にかかる可能性があります。それらを踏まえた上で染色体異常の有無だけを事前に知ることがご夫婦にとって必要十分なのかは吟味が必要でしょう。

まとめ

本日は出生前診断を受ける前に知っておくべきことについて解説いたしました。ここまで出生前診断についてネガティブな面ばかりに焦点をあててきましたが、もちろん上手に使えば多くのメリットが受けられる便利な検査であることは間違いありません。検査の利点欠点を総合的に判断するのは簡単な作業ではありませんが、お困りの際にはまずかかりつけの産婦人科で相談してみてください。

妊娠高血圧腎症の新しいマーカー

妊娠高血圧腎症は妊娠高血圧症候群の一種で、妊娠中の高血圧および蛋白尿に伴い、母体の臓器障害や子宮内胎児発育不全をきたす妊娠疾患で、子癇などの重篤な合併症を引き起こすことがあるため、早期に発見することが求められます。
近年の研究成果から、胎盤形成に関わる血管新生因子PlGF(Placental Growth Factor:胎盤増殖因子)および、その阻害因子sFlt-1(soluble Fms-like tyrosine kinase-1:可溶性fms様チロシンキナーゼ-1)は、妊娠高血圧腎症の病態形成に関与していることが明らかになっています。

簡単に説明すると、母体と胎児をつなぐ胎盤は、子宮へ張りめぐらされた血管があり、胎児胎盤循環が成り立っています。それら血管を作る因子PlGFに対し、阻害する因子sFlt-1の数が多い状態は胎児胎盤循環の悪化、すなわち妊娠高血圧腎症を引き起こす、ということなのです。
よって妊娠高血圧腎症を発症する妊婦は、発症前に血清中のsFlt-1のPlGFに対する比率が上昇することから、 「sFlt-1/PlGF比」(読み方:エスフルトワン/ピーエルジーエフ)比が妊娠高血圧症候群の発症を予測する補助マーカーとして保険適応となりました。

sFlt-1/PlGF比は採血検査となります。適応と対象者は妊娠18週から妊娠35週の妊娠高血圧腎症が疑われる妊婦さんで、結果sFlt-1/PlGF比が38を越える(39以上)と以後4週間以内の妊娠高血圧腎症を発症する可能性(陽性的中率36.7%)があり、高次医療連携施設との連携を図る必要があります。

このsFlt-1/PlGF比については昨年改訂された「産婦人科診療ガイドライン産科編2023」にも新規の記載として追加されました。

文責:院長