サイトメガロウイルスについて

サイトメガロウイルス(以下 CMV)はヘルペスウイルス科に属し、胎児への先天感染により難聴、視力障害、精神発達遅滞、肝臓・脾臓の腫大などを引き起こす可能性のあるウイルスです。CMV は尿、唾液、血液、涙、精液、腟分泌物、乳汁などの体液から感染します。

成人の初感染は主として性交感染で、一部に経口感染(上のお子さんとの食べ物の共有など)があると知られています。潜伏期は5〜7週です。

母体が感染しても微熱や咽頭痛など、一般的な感冒症状しか認められないことが多いうえに、90%程度は無症状とも言われているため妊娠中の感染を診断するのは非常に難しいとされています。

また、妊娠中に胎児が感染しても正常に発達する場合もあり、逆に無症状で出生してもその後健康問題を起こすこともあります。
日本における妊婦のCMV抗体保有率は 70%程度と考えられていますが、初感染だけでなく再感染や再活性化による胎児への影響も確認されており、妊娠中のCMVに対する感染対策がとても大切です。以下対策として

・上のお子さん達と食べ物や食器の共有をしない

・歯ブラシを共有しない

・玩具などを清潔に保つ

・上のお子さんのおむつ交換後の手洗い

などです。

にしじまクリニックでは出生後にCMVによる先天感染が疑われる所見を認めた(胎児超音波検査異常、低出生体重児、聴覚スクリーニングで正常を確認できないなど)場合は、新生児の尿検査で先天感染の有無を確認いたします。
一般に妊娠初期での初感染ほど児の重症リスクが高まります。妊婦健診中にサイトメガロウイルス感染症が心配な時は、担当医師にお申し出ください。

文責 院長

赤ちゃんのアトピー予防

こんにちは、副院長の石田です。

アトピー性皮膚炎は最も多いアレルギー疾患の一つです。アトピーを発症してしまうとその後に喘息や鼻炎などほかのアレルギー疾患が連鎖的に続くアレルギーマーチを経験することもあり、子供のアトピーをなんとか予防できないかとあれこれ調べるご両親がとても多いです。実際にインターネットで見てみると様々な情報や製品がヒットしますが、医学的に有効とされているのはどのような予防法なのでしょうか?というわけで本日はこの件についてお話ししたいと思います。

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎は良くなったり悪くなったりを繰り返すかゆみと湿疹が主症状のアレルギー疾患です。皮膚のバリア機能が弱いことが原因の一つとされていますが、実際には様々な要因が複雑に絡み合って発症に結びつくと考えられています。調査によると本邦では現在乳児で6〜32%、幼児で5〜27%、学童で5〜15%がアトピー性皮膚炎を罹患しているようです 1)。

アトピーの予防法

アトピーは病気そのものについてまだ分かっていないことも多く、そのため予防法についても世界中の医学者が手探りで試しているような状態です。これまでに母乳栄養と粉ミルクの比較、オメガ脂肪酸の摂取、妊娠中や授乳中の母親の栄養指導など様々なアプローチが試みられましたが、現在に至るまで決定的に有効とされる予防法は見つかっていません 2)。一時期、積極的な保湿の継続がアトピー予防に有効っぽいという報告もあったのですが、その後の検証でこちらも否定的とされています 3)4)。また、妊婦さんとその後生まれた赤ちゃんにプロバイオティクス(乳酸菌とか)を摂取してもらうことで予防できる可能性があるという報告はあるのですが、具体的にどういう人にどの菌株をどうやって投与したらよいかなど具体的なことがよく分かっていないため実用レベルでの推奨には至っていません 5)6)。

まとめ

というわけで本日は「子供のアトピー予防については実用レベルで有効なものは見つかっていません」というお話しでした。「じゃあなんでブログに書こうと思ったんだよ!」ってお叱りをくらいそうですが、今回お伝えしたかったのはむしろアトピーの予防効果を謳うような製品や施術に関しては少し気をつけて見るようにしてくださいねということです。かく言う私自身も生まれてすぐにアトピーを発症し、その後現在に至るまでステロイドを使い続けていますが、自分の経験からも子供のアトピーをどうにかしたいという親の切実さは我が身にしみて知っています。しかし、それと同時に世の中にはそんな親心につけこんで一儲けしようとする人も少なくありません。皆さんにおかれましてはお子さんがアトピーになってしまっても決して自分を責めることなく、まずは積極的に小児科や皮膚科にご相談ください。

1) 日本皮膚科学会 佐伯秀久, et al. 日皮会誌 2021:131(13);2691-2777
2) Howell C Williams, et al. Acta Derm Venereol. 2020 Jun 9;100(12):adv00166
3) Skjerven HO, et al. Lancet 2020; online Feb 19
4) Chalmers JR, et al. Lancet 2020; online Feb 19
5) M Panduru, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2015 Feb;29(2):232-242
6) Wen Jiang, et al. Paediatr Drugs. 2020 Oct;22(5):535-549

続発性無月経に対する薬物療法の意義

続発性無月経、それに伴う月経周期異常を認める場合、まずは生活指導を行います。それでも改善の見込みがない場合は薬物療法となりますが、治療目的別で使う薬剤は異なります。

多嚢胞性卵巣症候群で排卵周期の回復目的→カウフマン療法:カウフマン療法を2〜3周期行うことにより、ホルモン動態の正常化・排卵障害の改善を期待できる可能性があります1)。

カウフマン療法は「月経周期の5日目から21日間エストロゲン製剤を内服し、そのうち後半プロゲスチン(黄体ホルモン)製剤を併用」する方法が一般的です。最終月経初日から28〜33日頃に消退出血が起こるようになります。処方箋の複雑さや内服コンプライアンスを考慮し、『後半の内服薬』はエストロゲン・プロゲスチン配合剤の1剤で代用することもできます。これは第2度無月経を知るうえでの「エストロゲン・ゲスターゲンテスト」と同様です。

その後、挙児希望にて積極的な排卵誘発を行う場合はクロミフェン療法、メトホルミン療法、ゴナドトロピン療法を行います。

多嚢胞性卵巣症候群で子宮内膜の保護作用(消退様出血を促す)→ホルムストローム療法

多嚢胞性卵巣症候群でもご自身の体からエストロゲンが分泌されている場合はカウフマン療法の選択ではなく、黄体ホルモン製剤のみを使用するホルムストローム療法を行うこともあります。

黄体ホルモン製剤は多くの種類があり、中には排卵抑制効果を有するものもあります。薬物療法を続けるにあたってご自身に合う製剤か確認することも必要でしょう。

続発性無月経のうち、3-4ヶ月以上の無月経を見過ごすのは子宮内膜の保護の点から懸念されることであり、毎月ではなくとも3ヶ月に一度に黄体ホルモン製剤の投与(内服または注射)し消退様出血を起こす選択もあります。

妊娠は考えておらず、排卵も抑制したい→エチニルエストラジオールを含有する低容量ピルをおすすめします。

なお欧米では「カウフマン療法」や「ホルムストローム療法」という言葉のなじみが薄く、月経周期異常の1st choiceはピルを選択されることが多いです。

避妊も目的、しばらく家族計画がない成人女性→ミレーナ®︎挿入をおすすめすることもできます。

筋腫など器質疾患がないのに急に異常子宮出血が続き一時的な止血を行いたい→中容量ピルであるプラノバール®︎を内服してもらいます。これはカウフマン療法で述べた『後半の内服薬』でもあります。

以上、少しややこしいかもしれませんが、月経周期異常や続発性無月経を指摘され、ホルモン補充療法を提示された場合は

何の目的で行うのか、

最適な治療法を選択しているか、

どこまで薬物療法を続けるべきか

治療を提示された医師にしっかりとしたお話合いをしていただき、ご自身の状態に合った指針を見いだしていただくことが大切だと思います。

文責 院長

参考文献

1) 百枝幹雄. 女性内分泌クリニカルクエスチョン90(診断と治療社).

本当の分娩第3期の積極的管理

産後異常出血を防ぐために、「分娩第3期の積極的管理」を行われている施設が多いと思われます。今回はその中身についてお話です。

分娩第3期の積極的管理は大きく4つの方針が定められています。

1.オキシトシンの点滴

産後の子宮収縮を促すために子宮収縮薬であるオキシトシンを投与します。投与時期は文献によって様々な記載がなされていますが、ALSOプロバイダーマニュアルでは児の前肩が娩出してすぐに投与してよい1)、としています。一般的には児を娩出してからまもなくオキシトシンを投与する施設が多いと思います。この投与タイミングは産後異常出血の予防だけでなく、胎盤の自然剥離を促す目的でもあるのです。

なお、オキシトシンの投与遅延は胎盤遺残の原因ともなるので注意が必要です。

2.臍帯切断の遅延

新生児蘇生の対象とならなければ臍帯切断をすぐに行うのではなく、1〜3分経過してから臍帯切断を行うのがよいとされています。新生児の貧血等の改善・予防を期待するためです。

これは産後異常出血の予防ではなく、赤ちゃんによりそった分娩第3期管理といえるでしょう。ただし、これに関しては確立したエビデンスがまだなく、議論がなされている最中です。

3.適切な臍帯牽引による胎盤娩出

子宮底ではなく、恥骨上縁から手を乗せ子宮前壁を確認し、同時に臍帯を無理のない程度で正しい角度の臍帯牽引を行い胎盤を娩出します。これは’Brandt-Andrews(ブラント・アンドリュース)法’という手技になります。

4.胎盤娩出後の子宮マッサージ

胎盤娩出後、子宮をマッサージして子宮の再収縮をはかりつつ、子宮内腔の出血の排出を促します。文献として「どの位の時間子宮のマッサージを行ったら有効なのか」詳細な記載はなく2)、元々はオキシトシンを使えないような地域で産後出血を予防するための古典的な手技ではありますが、逆にこれを行わず分娩を終えてしまうと産後出血に対する初期診療のアプローチが遅れてしまいます。よって当院では担当助産師と担当医師に必ず行うよう伝えています。

文責 院長

参考文献

1) ALSOプロバイダーマニュアル第9版(英語版)

2) G Justus Hofmeyr, Uterine massage for preventing postpartum haemorrhage

産婦人科ファーストタッチ

癒着胎盤、付着胎盤、嵌頓胎盤

胎盤は児娩出後5〜15分以内に剥離し娩出されます。しかし30〜45分経過しても胎盤が娩出されない場合は胎盤の娩出遅延と言えます。近年は産後異常出血の予防のために分娩第3期の積極的管理として胎盤の自然剥離を待つより正しい臍帯牽引を用いた胎盤娩出を行います。

胎盤の娩出遅延として考えられる状態は以下となります。

癒着胎盤:胎盤が子宮壁に癒着し、胎盤剥離が起こらないものをいいます。

胎盤は絨毛膜の一部が成長することで作られます。この時母体側(子宮側)の脱落膜は絨毛の子宮筋層内への侵入を防ぎます。何らかの原因(リスク因子として帝王切開既往、子宮内掻爬術の既往、前置胎盤など)で脱落膜が欠損すると絨毛組織は直接子宮筋層内に侵入し、癒着胎盤となるのです。

付着胎盤:胎盤が子宮壁に付着しているが子宮筋層との結合が密でなく、脱落膜の欠損を伴わず「真の癒着胎盤ではない」状態です。

嵌頓(かんとん)胎盤:組織上での脱落膜と子宮筋層の関係は問題ないのですが、児の娩出後子宮頸部・下節がけいれん性の過度の収縮が起こり、胎盤の娩出が困難な状態です。

胎盤娩出遅延の場合、子宮内検索と胎盤用手剥離術を試みます。

参考文献

産科婦人科用語集・用語解説集

産婦人科ファーストタッチ

文責 院長