軟産道強靱とは

軟産道は骨産道の内側に存在する産道組織で

子宮骨盤底筋や靭帯結合織会陰等で構成されます。

これらは分娩時期になると硬度が低下し伸展をきたす組織です。分娩が順調に進行しない(分娩遷延)・特に児娩出直前にも関わらずこれらの組織によって児の娩出が困難な場合は器械分娩(吸引分娩または鉗子分娩)を行うことがあります。その際の診断を

「軟産道強靭」

と呼ぶのです。

軟産道強靭の要因をいくつかあげると

・高齢妊婦

・産道を妨げる子宮筋腫

・子宮頸管熟化不全

・高度肥満

などです。妊娠中の体重増加が著しい場合、産道の軟部組織の厚みが大きく産道が狭い場合、軟産道強靭に含めます。

器械分娩の適応として胎児機能不全、回旋異常、微弱陣痛(分娩第2期の母体疲労を含む)、そして軟産道強靭があります。器械分娩は自然分娩に比べ軟産道の裂傷が増えることが予想されますが、器械分娩の適応があるにもかかわらず処置を拒み続けると、児の予後に悪影響を及ぼしてしまいます。軟産道強靭の要因のなかで妊婦さんができることは体重管理となります。妊婦健診期間中は適切な食事摂取を心がけましょう。

執筆 院長

カンジダ腟症のリスク因子

こんにちは、副院長の石田です。

男性はあまりピンと来ない人も多いかもしれないですが、女性にとって「カンジダ」はとても一般的で煩わしい病気の一つです。カビの一種であるカンジダ菌による腟内の感染症で、人によっては夜も眠れないくらいの強い痒みを引き起こすため生活の質に大きなインパクトがあります。そこで本日はカンジダ腟症のリスクについて少しお話ししたいと思います。

カンジダ腟症のメカニズム

Candida albicansという菌が原因の90%を占めるとされていますが、この菌は直腸や皮膚に普段からいる常在菌であり、これらが腟に紛れ込んで増殖することにより発症すると言われています 1)。ただ、年齢層によって違いはあるものの症状がない女性でも10%以上で腟内にカンジダ菌が検出されることから、必ずしもそこにいるからと言って悪さをするわけでもなさそうです 2)。

カンジダ腟症のリスク因子

最も有名なリスク因子に抗菌薬の使用があげられます。元々腟内には常在菌と言って色々なバイキンが仲良く暮らしていますが、何かの病気の治療として抗菌薬を投与されると腟内にも効いてしまい常在菌のバランスが崩れるため、カンジダが入ってきた時に増殖しやすくなると言われています 3)。また、糖尿病の患者さんでは血糖コントロールが不良だったり、治療薬としてSGLT2阻害薬(スーグラ®︎、フォシーガ®︎など)を使用していると、尿糖上昇の影響でカンジダが免疫による排除を受けにくくなるため発症しやすくなります 4)5)6)。妊娠やホルモン補充療法により女性ホルモンの量が増えるような状況もカンジダのリスクになると考えられています。この機序については不明なことも多いですが、やはり免疫系への影響が考えられているようでした 7)。そのほか、低容量ピルの使用や食事、(性病ではないものの)性生活のあり方などもカンジダ発症への影響について議論があるようですが、結論には至っていないようです。

まとめ

本日は女性のよくあるお悩みとしてカンジダについて簡単に解説しました。上記のように因果関係が示唆されるリスクは複数確認されているものの、明らかな原因がなく発症することも多いです。いずれにしても世の女性におかれましては外陰部の清潔を適切に保ちつつ規則正しい生活を送っていただきながら、それでも痒くなってしまった時には最寄りの産婦人科に相談してみてください。

1) Gonçalves B, et al. Crit Rev Microbiol. 2016 Nov;42(6):905-27.
2) C Tibaldi, et al. Clin Microbiol Infect. 2009 Jul;15(7):670-9.
3) Wilton L, et al. Drug Saf. 2003;26(8):589.
4) Hostetter MK. Diabetes. 1990;39(3):271.
5) Donders GG. Curr Infect Dis Rep. 2002;4(6):536
6) Nyirjesy P, et al. Curr Med Res Opin. 2014;30(6):1109.
7) Pizga Kumwenda, et al. Cell Rep. 2022 Jan 4;38(1):110183.

妊娠中期のおなかの張りと腹痛

なぜおなかが「張る」のか

おなかが大きくなってくる妊娠中期以降、働いたり、階段をのぼったり、重いものを持つなどの動作で腹圧がかかったり、疲れたりするとおながが固くなっていることがあります。これが「張り」と言われるものです。

原因の多くは生理的な子宮収縮によるもので、こうした「張り」が胎児に影響することはほとんどありません。

生理的な子宮収縮以外では子宮の増大(子宮筋腫や多胎妊娠を含む)によって腸や膀胱などが圧迫されて起こるものや、便秘、胎位が原因の場合もあります。

生理的な張り・子宮収縮は安静にすれば次第におさまってくるのが特徴です。

切迫早産とは

定義として要点は2つです。

・早産の危険性が高いと考えられる状態(文字どおり早産が「切迫」している)

・周期的・規則的な子宮収縮に加え頸管が熟化していることを伴う状態(子宮収縮だけであれば切迫早産とはいえない)

規則的な子宮収縮についてはCTG (胎児心拍数陣痛図)の子宮収縮波形にて客観的な評価が可能です。また頸管の熟化については経腟超音波にて子宮頸管長の測定と内診により子宮口開大の評価が行われます。

その他検査に関し、子宮頸管が炎症を起こすとプロスタグランジンの生成を導き、それが子宮収縮に関与するため、子宮頸管や腟内をぬぐう検査(バイオマーカー、培養)なども行われることがあります。

安静にしてもおなかが張る場合は早めに受診を

安静にしたのにも関わらず周期的におなかが張る場合は切迫流産・切迫早産の可能性があります。出血に関わらず早めの受診をしましょう。特に1時間に何回も痛みを伴う場合はすぐに受診をしましょう。お仕事をされている時もあるかと思いますが、なるべく仕事を切り上げて、皆さんの妊婦健診をみてもらっている医師に相談すべきです(夜間の場合は普段みてもらっている医師と異なる場合があります)。

痛みが持続する場合は胎盤が剥離してしまうこともあり得ます。その場合は母胎ともに悪影響を及ぼしてしまいます。

早めに受診され、その時の診察では問題なかったとしても、翌外来診療日に再度受診し、改めて子宮頸管長の測定を行い頸管長の短縮傾向がないこと、その他の異常所見がないことを時間が経過して確認するのも大事です。

執筆 院長

逆子とはどのような状態なのか

妊娠末期以降、いわゆる妊娠28週以降から逆子を気にするようになるのですが、一体どういう状態か、確認しましょう。

「逆子」とは、ご存知のとおり児の位置として「骨盤位」が正式名称です。

母体に対し、児の位置や向きは胎位胎向胎勢の3つから表現されます。

胎位とは母体軸に対し胎児軸はどのようになっているかを示すものです。分類として

・縦位

・横位

・斜位

があります。そのうち縦位は内診時の児の先進部分によって

▪️頭位

▪️骨盤位

とさらに分けられるのです。

骨盤位においては主に

⚫️単殿位(児のお尻が1番下)

⚫️複殿位(児が足を曲げて、あぐらをかいているか体育座りになっている様な状態)

な状態があります。

骨盤位は英語で” Breech presentation”と訳されます。この「presentation」とは英米式の児の産道における位置と先進部の表現の一つに相当します。英米式はその他の表現で『position』という分娩中の児の向きを表現するものがあります。

骨盤位においても「position」の英語表現を用いられる時もありますが、この場合は分娩経過の表現と捉えてください。現在は骨盤位分娩が少なくなっているのであまり耳にしたことがないと思いますが、骨盤位分娩において(当然ながら内診で頭位の方位点[determining point]である後頭[Occiput]は触れないので)児の仙骨(Sacrum)を主として分娩中の児の向きを表現します。よって骨盤位分娩で内診時、児の仙骨が母体の左斜め前を向いているとpositionの表現法は

『LSA』

となるのです。

文責 院長

熱中症に五苓散

連日暑い日が続きますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

熱中症の身近な対策といえば水分補給(塩分も忘れずに)ですが、ドラッグストアなどで売っている漢方薬も熱中症対策として存在します。それは

『五苓散(ゴレイサン)』

です。

五苓散の効能・効果の中に「暑気あたり」があります。いわゆる熱中症の初期状態に相当します。

五苓散は水滞(本来であれば体内に排出されるべき水分が体内にとどまっている状態)を改善する漢方の一つです。

五苓散は柴苓湯(五苓散+小柴胡湯)とともに、妊娠中の浮腫やめまいに対し使用されるされることも多い漢方薬です。

配合生薬の一つに猪苓(チョレイ)が含まれています。これは水液代謝を調節し不要な水分を排泄する作用を持ち、膀胱炎に対する漢方薬にも多く含まれています。

五苓散は高山病による頭痛や二日酔いにも症状の軽減効果があるようです。熱中症の軽〜中等度以内の症状での頭痛にも効果があるかもしれませんね。

文責 院長