NCPR Aコースを開催しました

先日、にしじまクリニック内でNCPRのAコースを開催しました。コロナ禍ではありますが、標準感染予防策を行なったうえで充実した講習会となりました。

「Aコース」とは、新生児の気管挿管処置や薬物投与を含めた臨床知識の学習と実技で構成される、高度な新生児蘇生法を習得するためのコースです。

にしじまクリニックの看護師および助産師は、全員このNCPR Aコースを取得してもらっています。生まれた赤ちゃんの救急時の蘇生と安定化は分刻みで行われるためです。

また、クリニックの規模として、どの医師またはどの助産師および看護師から高いかつ偏りのない医療提供を行う事を私院長のモットーとしております。これが当院の患者様が『にしじまクリニックの価値』として感じてくださってくれている一つかと思います。

なお、先月の当院の朝練でもスタッフ全員でNCPRの確認を行いました。ただ大きい講習会を単発で行なって終わらせるのではなく、継続して学習し続けることでとっさの判断と適切な手技が行えるのです。

今後も患者様の安全を高めるために、にしじまクリニック全スタッフはチーム一丸となって医療安全とその質の向上を進めてまいります。

授乳中の食生活について

こんにちは、副院長の石田です。

お産後、お母さんたちの最初のお仕事は授乳です。感染症など特定のご事情をお持ちの方以外は通常母乳を主とした授乳が開始されるわけですが、我が子に少しでも良い母乳を作ってあげたいと色んなことに気を遣うお母さんも少なくありません。特に授乳中の食べ物は敏感になる話題の一つですが、巷では様々な情報が飛び交っており混乱してしまう方も多いと思います。そこで今回は授乳と食事の関係について解説していこうと思います。

母乳と食事は関係あるのか

当たり前ですが母乳はお母さんの体内にあるタンパク質や脂肪などを原料として乳腺で作られます。そのため関係あるのかと聞かれればそれは「ある」ということになりますが、実は食事の違いが母乳に及ぼす影響は極めて限定的と考えられています。例えば母乳中のタンパク質の質や量は食事の影響をほぼ受けません 1)。また、母体における多少の摂取エネルギーの制限や体重減少は短期間であれば母乳量にも影響が出ないことが知られています 2)3)。その一方で脂質に関しては、母親の不飽和脂肪酸(DHAやEPAなど)の摂取量が増えると母乳中のそれらの濃度が上昇する可能性が知られています 。不飽和脂肪酸は魚に多く含まれていますが、赤ちゃんの脳の発達に関係があると考えられているためエビデンスは不十分ながら魚の摂取を推奨する医療者も少なくありません 4)。いずれにしてもお母さんの体には、小さな赤ちゃんを守るためにどうにかやりくりしながら母乳の質を一定に保つような機能が備わっているんですね。

乳腺炎と食事

授乳中のトラブルとしてたくさんのお母さんを悩ませているのが乳腺炎です。おっぱいが上手く出せなかったり詰まったりすることで痛みや熱を出したり、時として細菌が中に入り込んで膿が溜まってしまうこともありとてもしんどいんですね。そんな厄介な乳腺炎ですが、よく言われるのは生クリームがよくないとか肉を食べすぎると乳腺炎になりやすいといったことです。なんとなく脂肪が原因みたいなイメージが先行してこのような噂が立ちがちですが、実は乳腺炎になりやすい食事というものは今のところ見つかっていません 5)。なのでこの手の話は心配しすぎなくて大丈夫だし、乳腺炎になってしまったとしてもご自身の食生活を後悔し過ぎる必要はありません。ちなみにビタミンEはもしかしたら乳腺炎のリスクを低下させるかもしれないということです 6)。

結局授乳中の食事はどうしたらよいのか?

ここまで読んでいただくと、「じゃあ好きなもの食べてればそれでいいのか?」ということになりそうですがもちろんそんなことはなく、大切なのはバランスの良い食事という割と当然の結論に落ち着きます。授乳中は自分と赤ちゃん二人分の栄養や多くのビタミン、ミネラルが必要になります。カロリーで言えば300〜400kcal余分に必要となるのでしっかり食べることはとても大事です。(摂取栄養が減っても母乳の質が下がらないということは、赤ちゃんに優先的に配分されてお母さんの取り分が減っているということです。)魚が良いと書きましたが、その一方で種類によっては水銀摂取が問題になるので気をつけてください。ベジタリアンの女性ではビタミンB12が不足し、赤ちゃんの神経発達に悪い影響を及ぼすかもしれません。どうしても動物性の食材を摂れない場合はサプリなどで補うことも検討しましょう。カフェインは妊娠中と同様気をつけた方が良いとされています。7)8)

まとめ

というわけで本日は授乳中の食生活についてお話しいたしました。上記のように、「健康的な食生活を心がけましょう」でおしまいというあまり面白くない結論ではありますが、逆に特別気を張らないでいいんだと安心していただければ幸いです。ところで妊娠・出産を経ると味覚や食事の好みが変化する女性も少なくありません。もし好き嫌いのある方であれば、是非これを機会に嫌いな食べ物を克服できるか試してみてはいかがでしょうか?

1) Sanchez-Pozo A, et al. Hum Nutrition Clin Nutr. 1987;41(2):115

2) Butte NF, et al. Am J Clin Nutr. 1984;39(2):296

3) McCrory MA, et al. Am J Clin Nutr. 1999;69(5):959

4) Section on Breastfeeding. Pediatrics. 2012;129(3):e827

5) Department of Child and Adolescent Health and Development, WHO. Mastitis Causes and Management. 2000

6) Filteau SM, et al. Immunology. 1999;97:595-600

7) NHS. Breastfeeding and diet: https://www.nhs.uk/conditions/baby/breastfeeding-and-bottle-feeding/breastfeeding-and-lifestyle/diet/

8) CDC. Breastfeeding: https://www.cdc.gov/breastfeeding/index.htm

チームSTEPPSの実践

患者安全のため、私達スタッフのチームビルディングは欠かせません。WHO患者安全カリキュラムガイドにも引用されている『チームSTEPPS』をにしじまクリニックでは重要視し、各分野で導入しています。

https://nishijima-clinic.or.jp/blog/2019/09/17/patient-safety-day/

今回はチームSTEPPSについての基本原理とテクニカルタームをお話しします。

チームSTEPPSは4つのスキルが柱となってチームを運用します。

①コミュニケーション

情報が明確かつ正確にチームメンバー間でやりとりされる構造化されたプロセスを用います。

・Call out:緊急事態の時、全てのチームメンバーへ同時に伝えます。

チェックバック:発信者が意図した事が受信者に確実に理解しているかを確認します。

②リーダーシップ

チームの活動が理解され、情報の変化を共有し、チームメンバーが必要なリソースを有してリーダーシップを確立します。

情報と計画を共有するためのイベントは3つあります。

・ブリーフ(打ち合わせ)

ハドル(途中協議)

・デブリーフ(ふりかえり)

③状況モニター

状況の様々な要素に目を向けて評価を行うプロセスで、チーム機能を維持するために情報を再確認します。

医療状況の評価を支援するツールである『STEP』を用いてメンタルモデルの共有を行います。

Status:患者の状況

□病歴

□バイタルサイン

など

Team:チームメンバー

□業務量

□パフォーマンス

□疲労

など

Enviroment:環境

□施設の情報、設備

□人材

□的確なトリアージ

など

Progression (for goal):目標に向けての進捗

チームが担当する患者の状態と、それに向けた業務・活動は?

など

④相互支援

他のチームメンバーの責任と業務量を正しく認識し、お互いのニーズを予想して支援するスキルです。

業務支援

・フィードバック:適時、敬意を持って、思いやりを持って

・2回チャレンジルール:チームメンバーが重大な安全に関わる事象を見つけた場合は『業務を中断する』事ができるようにする

・CUS(Concerned, Uncomfortable, Safety issue)の表現

当院では毎朝、朝礼・ブリーフ後にチームビルディングを強化するため、様々な事例に対応するための取り組みを行なっています。明日からはこの『チームSTEPPS』の実践練習を行います。

レズビアンの女性と健康管理について

こんにちは、副院長の石田です。

10/31に総選挙がありましたが、今まで以上に夫婦別姓や性的マイノリティーなど多様性に関する公約が大きな争点の一つとなったことが印象的でした。そこで本日は、意外と誤解の多いレズビアンの方々の健康管理についてご紹介させていただこうと思います。

同性愛女性の健康リスク

同性愛者の女性は異性愛者と比べていくつかの点で健康リスクが高いことが知られています。具体的には肥満率や喫煙率の増加、精神疾患の罹患率やDVリスクの上昇が指摘されています 1)。これらは欧米のデータであり、日本人でどうなるかは今後の調査が待たれますが、こういった傾向は同性愛者に特徴的な医学的要因があるというよりは、性的マイノリティーに対する社会の偏見が当事者に対して慢性的なストレスとして作用することが一因と考えられており、ある意味で当事者の方々が本来負う必要のない健康リスクを背負ってしまっているという側面は注目されるべきだと思われます。

子宮頸がんのリスクも上昇する可能性

以前からこのブログでもお伝えしていますが、子宮頸がんはその大部分が性交渉によるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を起点として罹患します。そう聞くとあたかも陰茎の挿入が無ければリスクが低いと思われがちですが、実は粘膜の接触のみで十分感染するので女性の同性愛者であっても関係なくリスクは存在するんですね。それにも関わらず上記のような誤解が広まっているためレズビアンの女性では子宮頸がんワクチンの接種率が低いことが指摘されており、そのせいで子宮頸がんの罹患リスクが異性愛者と比べて高まることが懸念されています 2)3)4)。

ほかに気をつける感染症

HPV以外にも性病で言えばクラミジアやコンジローマなんかは普通に接触感染でうつります。というか、異性愛者のようにコンドームを使えないせいか感染率は上がってしまう可能性が示唆されています 1)。一方でHIV感染は極めて稀であるものの確認されていることには注意が必要です。要は陰茎の挿入や射精という特定の行為が無くてもセックスにまつわる様々なリスクはレズビアンの方々であっても意外に下がらないということなんですね。

まとめ

というわけで本日はレズビアンの女性と健康管理について少しご案内いたしました。私的に一番伝えたいのは、同性愛者の女性でも子宮頸がんワクチンや頸がん検診の恩恵は十分に期待できるのでお勧めですということです。
社会の在り方や意識が少しずつ変容してはいるものの、性的少数者に対する正確なヘルスケア情報を得るのが難しいという問題があります 5)。そうした状況が少しでも改善してみんなが元気でいられるように微力ながらこれからも発信していきたいと思います。

1) Daniel AK, et al. Am Fam Physician. 2017;95(5):314-321

2) Marina A, et al. Ann Intern Med. 2015 Jul 21;163(2):99-106

3) McRee AL, et al. Vaccine. 2014;32(37):4736-4742

4) Robinson K, et al. BJOG 2017;124:381-392

5) Daniel AK, et al. Am Fam Physician. 2017;95(5):314-321

海外の周産期事情を知る

先日、国境なき医師団の広報活動の一つとして、春日部共栄中学校の生徒さんに2015年と2018年に行ったナイジェリアミッションについてお話しさせてもらいました。

国境なき医師団は、非営利の医療・人道援助団体で医師とジャーナリストによって1971年にフランスで設立されました。今年で設立50周年を迎えます。また1999年にノーベル平和賞を受賞した医療組織でもあります。

主な活動は緊急医療援助のほか、証言活動も重要な活動でして、説明責任と透明性を遵守し独立性、中立性、公平性のある活動を行っています。

活動する地域の半数がアフリカを占め、私院長も2回のミッション・派遣がギニア湾に面したナイジェリアでした。

ではWHO・GHOによる統計から周産期事情を見てみましょう。

Infant mortality rate(乳児死亡率)に注目しましょう。1000出生あたり、日本は1.80に対し、

ナイジェリアは74.16と、もう桁が違いますよね。「ナイジェリアで分娩したら、あなたが生まれる子の致死率が74倍上がります。」と言われたらどう思いますか?

また、内外が混沌としているアフガニスタン。つい1ヶ月前に私のメンターである看護師(女性)がミッションを行ってきました。世界各国がタリバンを政府として承認するかどうかと言っている間にも、多くの家族と赤ちゃんの立場が危うくなっています。

コロナ禍で海外へ目を向けることが難しい中、今回の講演を聴いてくれた中学生の皆さんが少しでも「海外の周産期事情」を垣間見え、また感じてもらったのかな、と思います。