子育て本の紹介: 小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て

こんにちは、副院長の石田です。

このブログを読んで下さっている方には妊娠中であったり出産を終えて子育て中だったりする方も多いかと思いますが、そんな皆さんは何か育児に関して何か参考にしているものはありますか?自分達の親や周りのママ友、保育園・幼稚園や学校の先生などから貴重なアドバイスをもらえることもあるでしょうし、育児系のネット記事や雑誌にも良いことがたくさん書いてあるかもしれません。もちろん子供の個性や家庭の事情、住む場所や時代によって一つとして正解はありませんが、今回は私が読んで参考になったと思う本を紹介させていただこうと思います。

小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て

慶應義塾大学小児科教授の高橋孝雄先生が執筆された本です。医者が書いた育児本というと小難しい論文を死ぬほど引用してきて快刀乱麻を断つようにああしなさい、こうしなさいと白黒はっきりつけて書かれていそうですが、本書はそういった余地の無いマニュアル本ではなく、むしろ読み手とその子供を尊重し肯定してくれるような内容になっています。

中身は全4章に分かれており、前半の1〜2章は子供たちのもつ強さや能力についての解説、3章は子供との関わり方に関する提案、4章は子供のもつ強さが先生が経験した実際の患者さんのエピソードとともに書かれていますが、本書を通して一貫して訴えられているメッセージは「生まれた時点で全ての子供は大きな潜在能力を持っている」ということです。誰しも我が子が生まれた瞬間にはその子の存在自体に大きな感動と感謝をするものですが、子供が育ってくるに従って少しずつできること、できないことが目についてしまうものです。しかし筆者の考えではそういったことは長期的な視点に立てば些末なことであり一喜一憂する必要は全くなく、むしろ親の最も大切な役割は子供たちが自分達のペースでゆっくりと成長していくのをどっしり構えて気長に待ってあげましょうというスタンスです。

文中にある「子供の能力は遺伝子に全て書いてある」的な話は身も蓋も無いような気がしてしまいますが、だからこそ親は子供の得意不得意などに責任を感じすぎることはないし、むしろ子供を信じてしっかり愛情を注いでいればあとは子供たちが自分のタイミングでそれぞれに能力を開花させていきますよという筆者からのメッセージは、受験戦争や習い事の数など何かと周りの家庭と比較して焦らされてしまう現代の親子にとっては、子供の未来を最適化するために何が必要なのかを再度冷静に見つめ直すのに良いきっかけを与えてくれるかもしれません。

まとめ

というわけで本日は育児本のご紹介でした。似たような啓発めいた本は他にもありますが、それらと本書が違うのは提言の一つひとつを科学的なエビデンスや高橋先生の臨床医としての経験が裏打ちしており決して空論に終わっていないところです。もちろん冒頭でもお伝えした通り正解がないのが育児であり、そのため本書が必ずしも全てのご家庭にマッチするわけではないと思いますが一読の価値はあると思いご紹介させていただきました。もしご興味のある方は試しに読んでみてください。

出版社のリンクはこちらです→https://magazineworld.jp/books/digital/?83873013AAA000000000

※ちなみに高橋先生とは特に面識はなく、上のリンクも収益化されたアフィリエイトなどではありません。そのため当院と本書に関して特別な利益相反関係はありません。

HPVワクチンの積極的勧奨が再開されます

11月下旬、厚生労働省は「ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症に係る定期接種の今後の対応について」の通知を全国の自治体に向けて発出しました。今回の通知は2013年6月の勧告を変更するもので、令和4年4月よりHPVワクチン接種対象者に予防接種法第8条に基づき勧奨を行うこととなります。

最新の知見を踏まえ、改めて同ワクチンの安全性について特段の懸念が認められないこと、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ることが認められたことから、『積極的勧奨』の再開となります。

先日、10歳の娘が2回目のHPVワクチン接種を済ませました。にしじまクリニックスタッフの多くの娘さん方も、続々とHPVワクチンの接種を済ませております。

最近はご質問にいらっしゃる親子さんも大変多いです。対象者の方、ご家族は、まずは外来へいらっしゃっることを検討してみてはいかがでしょうか。

(院長執筆)

参考文献;

日本産婦人科医会報第73巻11号

月経前症候群(PMS / PMDD)について

こんにちは、副院長の石田です。

月経は女性特有の身体現象ですが、女性間でも個人差があるためその辛さは当事者にしか分かりません。また、月経自体の痛みや出血も去ることながら月経前から頭痛、腹痛、精神状態の不安定化など「月経前症候群」と言われる様々な症状が出現することもあり、これらもまた人によっては深刻な問題となることが多いです。そこで本日は月経前症候群についてお話ししようと思います。

月経前症候群とは

国や地域によって少しずつ違いはありますが、日本では月経前症候群とは「月経前3〜10日間に発症する心や体の症状で、生理が始まると減弱、あるいは消失するもの」(原文は表現がかたくて分かりにくいので意訳しました。)と定義されています。そんなの誰にでもあるよ!って思われる方も多いかもしれませんが、医学的に月経前症候群と診断、治療されていくのは症状のせいで経済的、あるいは社会的に損失を被っている人たち、簡単に言うと実生活に支障が出ている患者さんになります。英語での呼び方はPMS(premenstrual syndrome)やPMDD(premenstrual dysphoric disorder)と言われますが、両者の違いとしては精神症状がメインの場合はPMDDという感じです。

月経前症候群の原因

月経前症候群は卵巣ホルモン分泌の月経に合わせた周期的な変化と、脳における神経伝達物質との相互作用によって起こると考えられています。ただ、ホルモン分泌の波がどの女性にもある一方、実際にはなる人とならない人、軽症で済む人と重症化する人など様々です。この辺のメカニズムはまだまだ分からないことも多いのですが、ESR1遺伝子の関与や喫煙習慣など、いくつかのリスク因子の関与が示唆されています 1)2)。

月経前症候群の治療

アルコール制限や禁煙、早寝早起き、定期的で適度の運動など、生活習慣の改善で良くなったりもしますが、積極的な治療を望まれる方にはピルや抗うつ薬をお勧めする事も多いです。ピルは生理周期におけるホルモンバランスを整えるという文脈で比較的理解しやすいかもしれませんが、抗うつ薬も同様に脳の神経伝達物質であるセロトニンに介入するため有効なんですね。その他カルシウムやビタミンB6、マグネシウムなんかも効果があるとされているので市販の複合サプリなんかも人によっては効果があるかもしれません 3)。

まとめ

以上、月経前症候群について簡単に解説いたしました。人によっては仕事や勉強が全く手につかなくなったり、気分の不安定さから意図せず人間関係にも支障をきたしてしまうこともある厄介な状態です。上記の通り、症状の種類や程度は人それぞれでなかなか周りの理解も得難い部分がありますが、有効な治療もあることと、たまにPMSかと思っていたら甲状腺機能異常やうつ病など別の病気だったということもありますので、あまり一人で抱え込もうとせずに気軽に受診していただければと思います。

1) Cohen LS, et al. J Affect Disord. 2002;70(2):125

2) Miller A, et al. J Psychiatr Res. 2010;44(12):788.

3) Tracy Nevatte, et al. Arch Womens Ment Health. 2013 Aug;16(4):279-91

NCPR Aコースを開催しました

先日、にしじまクリニック内でNCPRのAコースを開催しました。コロナ禍ではありますが、標準感染予防策を行なったうえで充実した講習会となりました。

「Aコース」とは、新生児の気管挿管処置や薬物投与を含めた臨床知識の学習と実技で構成される、高度な新生児蘇生法を習得するためのコースです。

にしじまクリニックの看護師および助産師は、全員このNCPR Aコースを取得してもらっています。生まれた赤ちゃんの救急時の蘇生と安定化は分刻みで行われるためです。

また、クリニックの規模として、どの医師またはどの助産師および看護師から高いかつ偏りのない医療提供を行う事を私院長のモットーとしております。これが当院の患者様が『にしじまクリニックの価値』として感じてくださってくれている一つかと思います。

なお、先月の当院の朝練でもスタッフ全員でNCPRの確認を行いました。ただ大きい講習会を単発で行なって終わらせるのではなく、継続して学習し続けることでとっさの判断と適切な手技が行えるのです。

今後も患者様の安全を高めるために、にしじまクリニック全スタッフはチーム一丸となって医療安全とその質の向上を進めてまいります。

授乳中の食生活について

こんにちは、副院長の石田です。

お産後、お母さんたちの最初のお仕事は授乳です。感染症など特定のご事情をお持ちの方以外は通常母乳を主とした授乳が開始されるわけですが、我が子に少しでも良い母乳を作ってあげたいと色んなことに気を遣うお母さんも少なくありません。特に授乳中の食べ物は敏感になる話題の一つですが、巷では様々な情報が飛び交っており混乱してしまう方も多いと思います。そこで今回は授乳と食事の関係について解説していこうと思います。

母乳と食事は関係あるのか

当たり前ですが母乳はお母さんの体内にあるタンパク質や脂肪などを原料として乳腺で作られます。そのため関係あるのかと聞かれればそれは「ある」ということになりますが、実は食事の違いが母乳に及ぼす影響は極めて限定的と考えられています。例えば母乳中のタンパク質の質や量は食事の影響をほぼ受けません 1)。また、母体における多少の摂取エネルギーの制限や体重減少は短期間であれば母乳量にも影響が出ないことが知られています 2)3)。その一方で脂質に関しては、母親の不飽和脂肪酸(DHAやEPAなど)の摂取量が増えると母乳中のそれらの濃度が上昇する可能性が知られています 。不飽和脂肪酸は魚に多く含まれていますが、赤ちゃんの脳の発達に関係があると考えられているためエビデンスは不十分ながら魚の摂取を推奨する医療者も少なくありません 4)。いずれにしてもお母さんの体には、小さな赤ちゃんを守るためにどうにかやりくりしながら母乳の質を一定に保つような機能が備わっているんですね。

乳腺炎と食事

授乳中のトラブルとしてたくさんのお母さんを悩ませているのが乳腺炎です。おっぱいが上手く出せなかったり詰まったりすることで痛みや熱を出したり、時として細菌が中に入り込んで膿が溜まってしまうこともありとてもしんどいんですね。そんな厄介な乳腺炎ですが、よく言われるのは生クリームがよくないとか肉を食べすぎると乳腺炎になりやすいといったことです。なんとなく脂肪が原因みたいなイメージが先行してこのような噂が立ちがちですが、実は乳腺炎になりやすい食事というものは今のところ見つかっていません 5)。なのでこの手の話は心配しすぎなくて大丈夫だし、乳腺炎になってしまったとしてもご自身の食生活を後悔し過ぎる必要はありません。ちなみにビタミンEはもしかしたら乳腺炎のリスクを低下させるかもしれないということです 6)。

結局授乳中の食事はどうしたらよいのか?

ここまで読んでいただくと、「じゃあ好きなもの食べてればそれでいいのか?」ということになりそうですがもちろんそんなことはなく、大切なのはバランスの良い食事という割と当然の結論に落ち着きます。授乳中は自分と赤ちゃん二人分の栄養や多くのビタミン、ミネラルが必要になります。カロリーで言えば300〜400kcal余分に必要となるのでしっかり食べることはとても大事です。(摂取栄養が減っても母乳の質が下がらないということは、赤ちゃんに優先的に配分されてお母さんの取り分が減っているということです。)魚が良いと書きましたが、その一方で種類によっては水銀摂取が問題になるので気をつけてください。ベジタリアンの女性ではビタミンB12が不足し、赤ちゃんの神経発達に悪い影響を及ぼすかもしれません。どうしても動物性の食材を摂れない場合はサプリなどで補うことも検討しましょう。カフェインは妊娠中と同様気をつけた方が良いとされています。7)8)

まとめ

というわけで本日は授乳中の食生活についてお話しいたしました。上記のように、「健康的な食生活を心がけましょう」でおしまいというあまり面白くない結論ではありますが、逆に特別気を張らないでいいんだと安心していただければ幸いです。ところで妊娠・出産を経ると味覚や食事の好みが変化する女性も少なくありません。もし好き嫌いのある方であれば、是非これを機会に嫌いな食べ物を克服できるか試してみてはいかがでしょうか?

1) Sanchez-Pozo A, et al. Hum Nutrition Clin Nutr. 1987;41(2):115

2) Butte NF, et al. Am J Clin Nutr. 1984;39(2):296

3) McCrory MA, et al. Am J Clin Nutr. 1999;69(5):959

4) Section on Breastfeeding. Pediatrics. 2012;129(3):e827

5) Department of Child and Adolescent Health and Development, WHO. Mastitis Causes and Management. 2000

6) Filteau SM, et al. Immunology. 1999;97:595-600

7) NHS. Breastfeeding and diet: https://www.nhs.uk/conditions/baby/breastfeeding-and-bottle-feeding/breastfeeding-and-lifestyle/diet/

8) CDC. Breastfeeding: https://www.cdc.gov/breastfeeding/index.htm