妊娠と下肢静脈瘤

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠すると女性の体は様々に変化しますが、その一つとして悩みの種になるのが下肢静脈瘤です。脚の静脈がボコボコと腫れて蛇行するため見た目も穏やかではありませんが、その他痛み、足のつり、しびれ、だるさなどたくさんの症状を出します。日本人向けの調査ではありませんが、40%近い妊婦さんが静脈瘤にかかるというデータもあるほどありふれた疾患となっています 1) 。今日も外来でご相談を受けましたので今回は下肢静脈瘤についてお話ししたいと思います。

なんで妊娠すると静脈瘤ができるのか

これには色々と理由があります。例えば妊娠に関連して分泌されるホルモンが体の血管の中にある筋肉をゆるふわにするためとか、体の血液量が増加するためだとか、大きくなる子宮が骨盤内の静脈を圧迫するために下肢の静脈がうっ血するためなどです。実際赤ちゃんが生まれてこれらの要因が消えると、ほとんどの女性は下肢静脈瘤の悩みからも解放されます。

リスクファクター

どんな女性が妊娠中の下肢静脈瘤のリスクファクターに関する研究によると、経産婦さん、日々の生活で立ち仕事が多い人、身長165cm以上、BMI 23超え、または元々静脈疾患を持っている人などがこの疾患にかかりやすいということでした 2) 。

予防と治療

静脈瘤の原因が妊娠にあるために予防が難しく、肥満がある場合は生活習慣を改善するなど限定的な対策しか取れないのが実情です。実際に静脈瘤を発症してしまった場合には長い立ち仕事を避ける、座る時や寝る時に足を上げるように心がける、着圧ストッキングを身につけるといった対策を取ることになります。ルチンというお蕎麦にたくさん含まれる成分が良いかもという研究があったりリフレクソロジーや入浴が良いような話もあるようですが、いずれもデータとしては弱く確実性には乏しいようです 3) 。

というわけで打つ手が限られており妊娠中はあの手この手でやり過ごすしかないというのが現状です。解決法を求めてこの記事に辿り着いた方におかれましてはお力になれなくて申し訳ございません。ただ、上記の通りでほとんどの静脈瘤はお産後にとても良くなります。それまではご自身でも色々と試してみてください。そして、何かいいのがあったら是非教えてください。

1) National Clinical Guideline Center (UK). ; 2013 Jul. (NICE Clinical Guidelines, No 168.) 11, Pregnancy

2) Shiksha Sharma, et al. IOSR-JBB; 3(4): 28-30

3) Cochrane Database Syst Rev. 2015 Ot 19; (10): CD001066

ブースター効果

最近何かとワクチンの話題が多いので、本日は『ブースター効果』について説明します。

ブースター効果(Booster effect)とは

体内で一度作られた免疫機能が再度抗原に接触することにより、さらに免疫機能が高まることを期待する追加免疫効果のことをいいます。

ワクチンを接種するにあたり、基礎免疫を作るため種類によってはブースター効果を狙って追加接種が必要なのです。

ブースター効果を利用するワクチンの種類として、例えば

・子供に打つインフルエンザワクチン[不活化ワクチン]

・MR(麻疹・風疹)ワクチン[生ワクチン]

があげられます。またHPVワクチン[不活化ワクチン]についても3回目の接種はブースター効果が目的といってよいでしょう。

ワクチンの接種または感染症にかかると体には抗体が産生されますが、再感染がなければ抗体は時間とともに感染阻止レベル以下に低下してしまいます。妊娠初期検査で風疹抗体価が設定されているのはそのためです。にしじまクリニックでは厚生労働省や日本産婦人科医会らが行っている『”風疹ゼロ”プロジェクト』に賛同し、風疹抗体価が少ない妊婦さんは産後に風疹ワクチンの接種を勧めています。

日本ではほとんど想定されていないのですが、海外では幼少期に破傷風ワクチン接種していない妊婦さんは、分娩前に最低2回は破傷風ワクチン(TT:破傷風トキソイド単独)を接種することが求められています。

〔ESSENTIAL OBSTETRIC AND NEWBORN CAREから1)〕

上記の表では、分娩予定日2週前には破傷風ワクチン2回接種をおえることとし、最終的にはブースター効果を狙って5回接種することが求められていますね。

破傷風ワクチンは『トキソイド』という、病原体となる菌が作る毒素を無くして作られたワクチンです。

日本では現在4種混合ワクチン(DPT-IPV:ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ)は定期予防接種で生後3ヶ月から計4回打つことになります。

ちなみにDT 2種混合ワクチンを接種した方(定期接種として11〜12歳に1回接種)は、約10年間は有効な免疫抗体を持つことになりますが、以後は少なくなってきますので追加の予防接種が望ましいです2)。

海外(と海外同様先進的な取り組みを行っている日本の一部施設)では出産後乳児の百日咳の予防として抗体移行を期待して成人用3種混合ワクチン(Tdap、今のところ日本では未承認)を妊娠中に接種する方もいます3)。

参考文献

1) ESSENTIAL OBSTETRIC AND NEWBORN CARE

2) 品川イーストクリニックホームページ(https://izavel.com)

3) 今日の治療薬

にきびについて

こんにちは、副院長の石田です。

若い女性の日常のお悩みで多いものの1つににきびがあります。医学用語で「尋常性痤瘡」といい、思春期の80%以上がかかる病気なので若者のイメージがあるかと思いますが、実は20代の半分くらい、30代の4人に1人、40代でも10人に1人が患っているというデータもあり、全世代で他人事ではないことが知られています 1)。日本では「時間が経つと勝手に良くなる」みたいな風潮があって軽視されがちですが、その一方で重症のにきびは子供たちの間でいじめの原因になったり、患者さん本人の見た目へのコンプレックスが労働生産性の低下に繋がるというデータもあることから必ずしも侮れない病気です 2)。本日はそんなにきびについてです。

にきびの種類

にきびは大きく分けて3段階あります。詰まった毛穴に皮脂が溜まった面(めんぽう)、赤く炎症を起こした丘疹(きゅうしん)、さらに大きく(>5mm)水っぽく腫れた膿疱(のうほう)ですが、とくに膿疱までいくと治った後も痕が残りやすくなってしまいます。治療にあたっては早期の介入により瘢痕化が防げることが知られており、侮らずに対処することが肝要だとされています。

にきびの治療

の段階ではレチノイドというビタミンA製剤の塗り薬が使われます。日本だとアダパレンという薬が主流のようです。これはビタミンA製剤がケラチン細胞の増殖を抑えて毛穴の詰まりを改善したり、新しい面の発生を抑えてくれるためだと言われています 3)。その他抗炎症作用もあるためとても重宝されているんですね。ビタミンAは実はにきびの全ステージで使用されますが、面からさらに進行して感染を起こした状態(赤く炎症した状態)の丘疹や膿疱には、ベンゾイルという殺菌薬と、さらにはその重症度に応じて抗生剤を塗り薬→飲み薬と使用していくことになります。

避妊ピルも治療の選択肢

産婦人科的にはピルも治療薬としておススメです。特に思春期に増加する男性ホルモン(アンドロゲン)の分泌が皮脂の産生を増やすことがにきびの原因の1つと言われていますが、避妊ピルはアンドロゲンを抑制するためにきびの改善効果が期待できるんですね。日本ではにきびに対する保険適応は通っていませんが、世界的には既に多くのデータがピルのにきびに対する効果を証明しており 4)、実際に海外では適応が認められている国も多くあるそうです。もちろんピルは望まれない妊娠もコンドーム以上に阻止してくれること、卵巣癌や大腸癌のリスクを抑えてくれるなど多岐にわたる効用が期待できるため、適切に使用されれば非常にメリットの大きい選択肢となることが分かっていただけると思います。

生活習慣

生活習慣を見直すことでにきびの改善が期待できることもあります。例えば洗顔ですが、1日2回、ぬるま湯を使って擦り過ぎないように洗うのが良いようです。にきび用の洗顔フォームは色々と販売されていますが中性石鹸を使うようにしましょう。スクラブがいいかどうかは結論が出ていないということですが中には無い方が良いというデータもあるみたいです。また、乾燥や日焼けは良くないみたいですので保湿剤と日焼け止めを使いましょう。水溶性の化粧品やクリームがより適しているという意見もあるようです。ちなみに、特に避けるべき食材とかは無いらしいのと、にきびを潰すと痕になりやすいっていうのは本当みたいです 5)6)。

まとめ

男性もそうですが特に女性にとってはにきびで見た目が変わってしまうのはとても辛いことです。にきびごときと高を括ったり、逆に1人で悩み続けるのではなく悪くなる前に医療機関を受診するのはとても大切なことです。まずはお近くの皮膚科に相談しましょう。でも、流石に皮膚科でピルは処方してくれないと思うからご希望の方は産婦人科まで気軽にお問い合わせください。

1) Perkins AC, et al. J Womens Health (Larchmt). 2012 Feb; 21(2): 223-30

2) Pena S, et al. J Am Acad Dermatol. 2016 Jun; 74(6): 1252-4

3) Czernielewski J, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2001: 15(Suppl 3): 5-12

4) Arowojolu A0, et al. Cochrane Database Systolic Rev. 2012; 7: CD004425

5) Goodman G. Am J Clin Dermatol. 2009: 10 Suppl 1: 1-6

6) 日本皮膚科学会ガイドライン 尋常性痤瘡治療ガイドライン 2016

疼痛管理にマルチモーダルな処方を

帝王切開において心配な事といえば、『術後の痛み』ではないでしょうか。

早速ではありますが、国境なき医師団の産科マニュアル本「Essential obstetric and newborn care」から帝王切開術後の疼痛管理を日本語にしてまとめてみましたのでご覧ください。

麻薬類似薬(非麻薬性オピオイド)、非ステロイド性鎮痛薬(NSAIDs)、アセトアミノフェンと幅広く痛み止めが用いられているのがお分かりいただけるでしょうか。これをマルチモーダル(multimodal)な、いわば様々な鎮痛薬を使ってできるだけ痛みを抑える仕方がワールドスタンダードなオーダーとなります。にしじまクリニックの帝王切開術後管理も上記の表に準じています。

様々な薬剤を用いるとお母さんにとって心配になるのが

「赤ちゃんに授乳しているけど大丈夫か」、という事です。これはまず『RID』値が参考になります。

RID(相対的乳児投与量)が10%未満であれば、児が摂取することになる薬剤の用量は少ない、と捉える事ができ、よって児に悪影響が及ぶような用量を摂取することにはならないとされています。例えばNSAIDsであれば

・イブプロフェンやロキソプロフェンのプロピオン酸系NSAIDs:0.1 〜0.7%

の値で、授乳中にこれらの鎮痛薬を使用しても適切なオーダーを受けていれば問題ありません。

また、NSAIDsの血中半減期で考えても

イブプロフェンは2時間、ロキソプロフェンにいたっては1.3時間と短い半減期である事もお伝えしておきます。

NSAIDsはプロスタグランジンの合成を阻害する作用を利用し、あるNSAID薬では動脈管開存症の治療に用いられます。成熟児であれば生後数日で動脈管は自然に閉鎖するものなので、分娩退院後にNSAIDsを再度服用するのはこの事象についても赤ちゃんに問題になることはまずありません。

「妊娠と授乳(南産堂)」でもロキソプロフェン(ロキソニン®︎)を含めほぼ全てのNSAIDsが授乳における総合評価は『安全』となっていますし、

国立成育医療研究センターホームページにも『授乳中に安全に使用できると考えられる薬』としてロキソニン®︎など、しっかりと掲載されています。

https://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/druglist_aiu.html

むしろ産後に痛みがあり、我慢してご自身の体調が悪化してしまう方がマズイと私院長は考えます。

ただし、NSAIDsは喘息をお持ちの方には使えない場合もあり、家に手持ちの鎮痛薬があるからご自身の判断で飲む、ということは避けていただきたいです。また調剤薬局での薬剤師によっては産婦人科の処方に慣れていなくて意見の違うアドバイスがある事もありますから、一度かかりつけの産婦人科に相談するのが良いでしょう。

鎮痛薬に限らず、もし授乳中の方でお薬の内服で心配なことがございましたら、相談をお受けします。忙しくて来院が難しい場合は当院のオンライン診療をご活用ください。

参考文献;

妊娠と薬の使い方; 日本医師会雑誌2019年5月

分娩と麻酔. No.100, 2018. 11

今日の治療薬

赤ちゃんの性別

こんにちは、副院長の石田です。

妊婦さんとそのご家族にとって赤ちゃんの性別は楽しみなことの1つです。超音波検査だと妊娠10週台中盤以降で判断しやすくなってくるため17週前後くらいで健診に来てくださった方に関しては「性別知りたいですか?」と伺うようにしていますが、実際に知らせると悲喜こもごもといった方もいらっしゃいます。本日はそんな性別判断の検査についてです。

性別の決定は難しい

性別を超音波で判断するのは実は結構難しいです。お股がきれいに写せるかどうかは赤ちゃんの姿勢やへその緒の場所なんかにも左右されますし、男の子の場合はおちんちんがあるので分かりやすいですが、女の子の場合は無いものを無いと言い切るのが結構チャレンジングです。以前勤めていた別の病院では、妊娠中にご両親が外来担当医から女の子と聞いていたのに産まれたら男の子だったということが1回だけありました。100%で決めるには羊水を採取して染色体検査をするのが確実ですが、性別のためだけにそこまでする人は見たことがありません。

性別確定のための新テスト

そんな感じで日本では我々産婦人科医が頑張って赤ちゃんのお股を映すわけですが、実は海外では妊娠7週くらいから性別が分かる検査があります。お母さんの血液中に混ざっている赤ちゃんの遺伝子(cell free DNA)を調べることによって性別を判定するという方法で、2010年にオランダのチームが約200人の妊婦さんを検査したところ100%正確だったとした論文を出しました 1) 。ロイターやThe New York Timesなどでこのことが記事になったのもその頃で、その後欧米では割とお馴染みになりつつあるのかざっと見ただけでもいくつかの検査会社がウェブサイトで案内を出していました。実際には妊娠9〜10週以降で受けていることが多そうですが、例えばPrenatal Genetics Centerというところだと$290で検査ができ、結果も7営業日で報告してくれるそうです 2) 。(オプションで3日で検査結果を出してくれる迅速サービスもあるみたいです。)また、驚くことに通販を利用して自宅で簡単に検査できるようなキットを販売しているSneak Peekという会社もありました 3) 。こちらはなんと$79です。

そんなに早く性別が分かる必要があるのか

「性別なんて気になるけどそんなに早く知らなくてもいいんじゃない?」という人がほとんどかと思います。実際ほとんどのご家族にとって性別は興味があることではあるものの、それ自体が何かの決断を左右することはまずありません。しかし、ほんの少数のご家族にとってはできるだけ早く性別を確認することは医学的に重要な意味を持つことがあります。

赤ちゃんの先天性疾患の中には遺伝子は引き継がれるけど実際に病気が発症するのは男の子だけということがあります。具体的には血友病、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、無ガンマグロブリン血症などです。また、先天性副腎過形成という病気の場合は胎児が女の子だと性器が男性化することがあります。この病気では妊娠成立後早期に妊婦さんへステロイド治療を開始することで赤ちゃんの症状が軽快する可能性があり、前述の先天性疾患も含めてこれらの場合にはできるだけ早く性別が分かることには様々な意思決定のためにも意味があると言えるのかもしれません。

まとめ

赤ちゃんの性別を知ることはほとんどの家族にとってとても楽しみなことです。赤ちゃんの身の回りの品を買いそろえたり、名前を考えたりするのはワクワクしますが、その一方で医学的に気にしている人たちもいらっしゃるんですね。ちなみに我々産婦人科医は毎回にこやかにエコーをしていますが実は結構真剣におちんちんの有無を確認しています。それでも見えないこともごく稀にありますが、もし万が一赤ちゃんの実際の性別がエコー結果と違ってもどうか笑顔で許してやってください。幸いまだそういった経験は1回も無いけど。

1) Schaffer PG, et al. Obstet Gynecol 2010; 115(1): 117-26

2) https://www.prenatalgeneticscenter.com/prenatal-baby-gender-test.html

3) https://sneakpeektest.com