疼痛管理にマルチモーダルな処方を

帝王切開において心配な事といえば、『術後の痛み』ではないでしょうか。

早速ではありますが、国境なき医師団の産科マニュアル本「Essential obstetric and newborn care」から帝王切開術後の疼痛管理を日本語にしてまとめてみましたのでご覧ください。

麻薬類似薬(非麻薬性オピオイド)、非ステロイド性鎮痛薬(NSAIDs)、アセトアミノフェンと幅広く痛み止めが用いられているのがお分かりいただけるでしょうか。これをマルチモーダル(multimodal)な、いわば様々な鎮痛薬を使ってできるだけ痛みを抑える仕方がワールドスタンダードなオーダーとなります。にしじまクリニックの帝王切開術後管理も上記の表に準じています。

様々な薬剤を用いるとお母さんにとって心配になるのが

「赤ちゃんに授乳しているけど大丈夫か」、という事です。これはまず『RID』値が参考になります。

RID(相対的乳児投与量)が10%未満であれば、児が摂取することになる薬剤の用量は少ない、と捉える事ができ、よって児に悪影響が及ぶような用量を摂取することにはならないとされています。例えばNSAIDsであれば

・イブプロフェンやロキソプロフェンのプロピオン酸系NSAIDs:0.1 〜0.7%

の値で、授乳中にこれらの鎮痛薬を使用しても適切なオーダーを受けていれば問題ありません。

また、NSAIDsの血中半減期で考えても

イブプロフェンは2時間、ロキソプロフェンにいたっては1.3時間と短い半減期である事もお伝えしておきます。

NSAIDsはプロスタグランジンの合成を阻害する作用を利用し、あるNSAID薬では動脈管開存症の治療に用いられます。成熟児であれば生後数日で動脈管は自然に閉鎖するものなので、分娩退院後にNSAIDsを再度服用するのはこの事象についても赤ちゃんに問題になることはまずありません。

「妊娠と授乳(南産堂)」でもロキソプロフェン(ロキソニン®︎)を含めほぼ全てのNSAIDsが授乳における総合評価は『安全』となっていますし、

国立成育医療研究センターホームページにも『授乳中に安全に使用できると考えられる薬』としてロキソニン®︎など、しっかりと掲載されています。

https://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/druglist_aiu.html

むしろ産後に痛みがあり、我慢してご自身の体調が悪化してしまう方がマズイと私院長は考えます。

ただし、NSAIDsは喘息をお持ちの方には使えない場合もあり、家に手持ちの鎮痛薬があるからご自身の判断で飲む、ということは避けていただきたいです。また調剤薬局での薬剤師によっては産婦人科の処方に慣れていなくて意見の違うアドバイスがある事もありますから、一度かかりつけの産婦人科に相談するのが良いでしょう。

鎮痛薬に限らず、もし授乳中の方でお薬の内服で心配なことがございましたら、相談をお受けします。忙しくて来院が難しい場合は当院のオンライン診療をご活用ください。

参考文献;

妊娠と薬の使い方; 日本医師会雑誌2019年5月

分娩と麻酔. No.100, 2018. 11

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