NIPTについて

こんにちは、副院長の石田です。

先日クアトロテストの解説をいたしましたが、最近は同じく母体血を用いたNIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)という出生前検査もよく知られており、多くの妊婦さんとそのご家族にとって有力な選択肢となっています。ただその一方でNIPTがどのような検査なのか、また受ける時の注意点などは意外と知られていないかもしれません。そこで本日はNIPTの基礎知識についてお話ししたいと思います。

NIPTの概要

クアトロテストが母体中の4種類のタンパク質を測定し、そのバランスで胎児疾患の罹病確率を計算していたのに対して、NIPTは母体血中に含まれる胎児由来のcell free DNAという遺伝子の断片を解析して染色体異常の有無を調べています。このcell free DNAは、厳密には胎盤(正確には胎盤の絨毛組織)の細胞が新陳代謝で壊れて母体血中に溶け出たDNAなのですが、その細胞は理論上胎児と同じ遺伝子を持っているためそれを調べることにより染色体異常の有無がわかるということになります。
より直接的に胎児の遺伝情報を見ているという点で検査精度が高いのが特徴で、実際ダウン症候群について言うならばクアトロテストの感度が80~85%なのに対しNIPTでは99%とされています。また、検査時期もクアトロテストが妊娠15週以降なのに対してNIPTでは妊娠9~10週以降と比較的早くから利用できるためとても使いやすい検査となっています。

NIPTの注意点

NIPTでは母体血中を漂うcell free DNAを集めてきて、それぞれの塩基配列を見ながら何番染色体由来かで選り分けていきます。その結果、仮に21番染色体由来のcell free DNAが普通より多く検出される場合にはダウン症候群が疑われることになります。(ダウン症候群では21番染色体が1本多いため、検出されるDNAも必然的に多くなるからです。)しかしダウン症候群を疑うDNA量の差は、「普通なら1.3%なのに1.42%もある!」という程度のものであり、加えて直接染色体を見ているわけではないのでNIPT陽性となった場合は羊水検査などの確定検査で診断を確認する必要があるのです。

NIPTを受けるときに気をつけたいこと

現在NIPTは産婦人科だけでなくNIPT専門施設や美容外科、皮膚科など幅広い施設で取り扱われていますが、中には日本産科婦人科遺伝診療学会の認証を受けていない施設も多くあります。非認証施設での検査は安価な傾向がありますが、その一方で21、18、13番染色体以外にも本来NIPTでの正確な診断が難しい性染色体やその他の遺伝病の検査がされていたり、検査結果が送られてくるだけで説明やカウンセリングが無かったりと、患者さんをかえって混乱させてしまう検査体制の施設が少なくありません。NIPTに限らず出生前診断で最も大切なのは検査そのもの以上に患者さんの気持ちに寄り添いつつも客観的かつ正確な情報を共有してくれる適切なカウンセリングです。検査施設を選ぶときは値段や場所だけでなく、アフターフォローも考慮されると良いでしょう。

まとめ

ちょっと長くなりましたが、本日はNIPTについてご説明しました。NIPTは万能ではありませんが、低リスクで赤ちゃんの状態を知ることができる良い検査だと思います。ご希望の妊婦さんは気軽に最寄りの産婦人科で相談してみましょう。

羊水塞栓症

羊水は夫抗原由来の異種蛋白を含んでおり、羊水が母体血中に流入すると免疫系が反応します。その反応が過剰に発生すると、子宮や肺を中心に急激に血管透過性が亢進し、子宮の弛緩や肺水腫を起こします。主に産後の出血量に見合わない低血圧や血液凝固異常が発生した時に「羊水塞栓症」を疑うのです。
羊水塞栓症の発症リスクとして、羊水成分が母体血中に流入しやすい状況が考えられます。例えば常位胎盤早期剥離、誘発分娩(子宮頻収縮)、器械分娩、産道裂傷、帝王切開などが羊水塞栓症の原因となり得ます。

羊水塞栓症が起こった場合、非常に急激な進行を呈するため、産婦は命の危険性があります。よって早期に臨床的に本症を疑い、かつ迅速な対処を行うことが必要です。

前述したとおり、一見弛緩出血にみえるが子宮収縮剤に反応しなかったり、採血で血液凝固因子の一つであるフィブリノゲン値の低下が見られます。

産婦に起こる症状としては突然の呼吸不全(あえぎ呼吸などの呼吸困難やチアノーゼ)、急激な低血圧・心停止、痙攣発作、産道からの多量出血などが挙げれます。

初期対応は症状に応じたものとなります。迅速な対処、特に生理学的徴候の異常を迅速に評価し、直ちに蘇生を行うABCDEF(Airway, Breathing, Circulation, Dysfunction of CNS, Exposure, Fetal assessment)アプローチは、産婦の予後を大きく左右するといわれています。

執筆 院長

クアトロテストについて

こんにちは、副院長の石田です。

無事胎児心拍が確認できて妊婦健診が始まると、胎児の先天性疾患を調べるための出生前検査についてどうするか考えることになります。というのも、少し前までは命の選別に繋がりかねないという懸念から、「出生前検査に関しては聞かれなければ答えない」というスタンスを取る医療者が少なくありませんでした。しかし有象無象の情報が入り乱れる現代社会において、正確な情報が提供されないまま誤った根拠による判断で後悔されるご家族が少なからず存在することから、現在は全ての患者さんに中立的な情報を提供して自己決定を促す「インフォームドチョイス」を行うのがスタンダードになりつつあります。そこで本日は出生前検査の一つであるクアトロテストについて解説したいと思います。

どんな検査なのか

クアトロテストは母体採血によりAFP、hCG、uE3、インヒビンAという4つの血清マーカーを計測することで胎児のダウン症候群、18トリソミー、開放性神経管奇形という3種類の病気の有無を予測する検査です。具体的には下の表のようになりますが、実際の判定では数値だけでなく体重や年齢などいくつかの要素を加味して算出することになります 1)。

検査の特徴として、それらの疾患を持つ可能性が「1/500」のように確率で報告されるため、どんなに低くても0にはなりませんし、逆にどんなに高くても1/2 (50%)を超えることはありません。検査結果は採血から1週間程度で届きます。

検査を受ける時の注意点

この検査を受けられる方が最も気にされるダウン症候群では、陽性か陰性かの境目になる数値は1/295に設定されています。しかし、例えば結果が1/200で陽性だったとしても、検査を受けたのが38歳の妊婦さんであればそもそもダウン症の罹患率は1/145であり、それと比べると低いことになります。逆に1/400で陰性だったとしても妊婦さんが25歳であればそもそもの罹患率である1/1040よりダウン症である確率が高いことになるので、意外と結果の解釈は難しかったりもします。また、そのような検査の性質から40歳前後の方がこの検査を受ける時には年齢要因により「陽性」という判断が出やすくなるため、クアトロテストを選ぶべきかは慎重に検討される必要があります。
また、胎児染色体を直接評価しているわけではないため、陽性判定が出たとしても本当に染色体に異常があるかどうかは羊水検査などの「確定検査」を受ける必要があります。事実、クアトロテストを受けた方の10%程度が陽性結果を受け取りますが、実際に確定検査に進んで本当に染色体異常が見つかる割合はそのうち2%程度とされています。

まとめ

本日はクアトロテストについて解説いたしました。「妊婦さんの年齢も考慮しつつ病気の可能性が低いと判断される場合にはほぼ安心して大丈夫ですが、実際に陽性と診断されても胎児が本当に罹患しているかは羊水検査をしてみないと分からない」ということがご理解いただければ本日は十分です。このような検査の性質から諸外国ではややオワコン扱いされているものの、NIPTという出生前検査へのアクセスがまだまだ限られている日本では需要があるのも事実です 2)。当院では本検査を提供しておりますので、ご希望の方はお気軽にお声かけください。

1) ラブコープ・ジャパン ウェブサイト:https://www.labcorp.co.jp/medical/quattro01.html
2) NHS. Quadruple screening test: https://www.genomicseducation.hee.nhs.uk/genotes/knowledge-hub/quadruple-screening-test/

染色体検査と解像度

ゲノムとは、細胞の中に含まれているDNAの持つ遺伝情報の1セットをさします。

ゲノムで生じる塩基の変化は、顕微鏡レベルの染色体検査から1塩基レベルまで様々です。

遺伝学的検査ではどのレベルの遺伝子の変化なのか、大きさ・解像度の狙いを定めて検査方法を決める必要があります。

・染色体検査(5〜15Mbレベルのゲノム量)

5〜15Mbレベルのゲノム量の変化と構造の変化が確認できます。

新聞で例えるなら、「紙面全体を見ている」という状態です。

このレベルから拡大率を約1000倍にしたものがFISH法です。

・FISH法(50kb〜1Mbレベルのゲノム量)

FISH法では、50kb〜1Mbレベルの解像度でゲノム量の変化を解析することができます。

新聞で例えるなら、「紙面のタイトルが読めるようになる」状態です。

FISH法は培養を行わず、細胞を蛍光顕微鏡下で確認する(蛍光in situハイブリダイゼーション)方法です。当院でもご提供している羊水検査のうち迅速法として用いられ、特定の領域のコピー数を見る検査です。羊水検査の迅速法(Rapid FISH)では21トリソミー(Down症候群)、18トリソミー、13トリソミーの有無を1週間程度で判明することができます。

院長執筆

血液型がRh(-)と診断された妊婦さんの対応

こんにちは、副院長の石田です。

先日Rh(-)という血液型について少し解説いたしました。

お母さんの血液型がRh(-)でお腹の赤ちゃんがRh(+)だと困ったことになる可能性がありますというお話でしたが、一方で適切に対応すれば安全に妊娠、出産を終えることも可能です。そこで本日はRh(-)の妊婦さんがどのようにマネジメントされるかについて解説したいと思います。

妊娠中の管理

配偶者の血液型もRh(-)の場合は赤ちゃんの血液型もRh(-)なので問題は起こりませんが、それ以外の場合は専門的な対応が必要になります。少し難しい話にはなりますが、Rh(-)の母体内にできる抗RhD抗体という免疫がRh(+)である胎児の血液を破壊してしまうため、この抗体を体に作らせないようにするのが大事です。具体的な方法としては妊娠初期、中期、分娩直後で血液検査を行い、母体内に抗RhD抗体が作られていないかを確認します。検査結果が陰性であれば、妊娠28週前後と分娩後に免疫グロブリンを母体に投与することで抗体の発生を防ぐことができます。

もし抗RhD抗体が陽性になってしまったら

上記のような治療をしても稀に抗RhD抗体が作られてしまう妊婦さんもいらっしゃいます。抗体が体内に出現すると間接クームス試験という検査で陽性となって判明しますが、そういう場合には必要に応じて周産期センターと言われる特別な機能を持つ大きな病院で慎重に管理しながら妊娠を継続していくことになります。具体的には4週間ごとに血液検査で抗体価を検査しつつ超音波検査でも胎児の脳血流や心臓の大きさ、浮腫の有無といった胎児の貧血徴候を参考に管理方針を決めていきます。

まとめ

本日は妊娠初期検査で血液型がRh(-)と診断された方の妊娠管理について解説いたしました。多くのRh(-)妊婦さんは問題なく妊娠・出産を終えられますが、それには適切な妊婦健診、検査とグロブリン投与が不可欠です。該当される女性におかれましては元気な赤ちゃんを授かるためにも主治医とよく話し合ってみてください。