GBSとは

B群溶連菌(溶血性連鎖球菌)[group B Streptococcus agalactiae]は腟や直腸に存在します。

GBSは、GBS感染症として新生児の早発型敗血症・髄膜炎と遅発型敗血症・髄膜炎の原因となります。分娩前の抗菌薬投与が現時点で早発型敗血症に対する予防法とされています。よってGBSをできるだけ検出しこの予防法を行うことが重要で、日本ではアメリカの検査方法および対応(ユニバーサルスクリーニング)が参考にされています。

分娩時の産道内GBSの存在予測のため、妊娠35・36週の健診で検体を提出します。

結果、B群溶連菌(GBS)を保菌していることがわかった(前児がGBS感染症だった)場合、

分娩時に抗菌薬の点滴を行います。陣痛発来・破水での入院時から4時間ごとに、分娩まで抗菌薬を追加投与します。なお帝王切開時に関しては予定どおり術前に抗菌薬を投与します。

抗菌薬の投与開始については、分娩の4時間前から抗菌薬の点滴が有効とされています。

(正期産)新生児の(早発型*)GBS感染症を予防するための抗菌薬としてペニシリン系などの抗菌薬を母体に点滴投与します。比較的投与回数が多くなるため、今までに抗菌薬のアレルギーの既往があるか事前に情報を共有させていただき、必要あれば別の抗菌薬(セフェム系やクリンダマイシン)を選定する必要があります。

なお分娩前にGBSの保菌状態が不明の場合(結果がまだ判明していないなど)も上記同様抗菌薬投与の適応となります。

以上、GBSが保菌していると考えられる場合の対応・予防法について述べましたが、もしGBSが検出されなくても、新生児にGBS感染症・敗血症が絶対起こらないわけではありません

GBS感染症は日齢7日未満の早発型*と7日以降の遅発型に分類されます。

・早発型:出生後当日から48時間以内に呼吸困難などの感染による症状が現れ、診断されることが多いです。ユニバーサルスクリーニングを行なっても0.1〜0.2/1000出生の確率で発症します。

・遅発型:生後7日から3か月位(約1ヶ月の発症が多い)に発熱、敗血症や髄膜炎を発症します。遅発型は現時点で予防法は確立しておりません。退院後、児に発熱を認める場合は遅発型GBS感染症でなくても早めに小児科を受診し対応してもらうのが良いでしょう。

文責 院長

当院の無痛分娩で計画分娩が望ましい理由

当院では硬膜外麻酔の無痛分娩を原則、計画分娩としてお願いしています。理由として以下となります。

痛みが強くなる前に硬膜外処置を行い、無痛分娩対応を行わないと一定の満足度が得られない可能性がある

陣痛発来後、さらに痛みが強くなった状態で硬膜外麻酔の処置を行い、局所麻酔薬を注入しても、ご自身が痛みをどの位軽減されたのか、わかりにくく、結局痛いまま分娩を終えてしまった、という経験になりかねません。また「痛い、痛い」と訴えられ、リクエストどおりに局所麻酔薬をどんどん注入してしまうと局所麻酔中毒の危険性も出てしまいます。

上記でも触れましたが、当院では硬膜外処置にて留置したカテーテルから『局所麻酔薬』を注入します。他院ではそれに加えて『麻薬』を投与することもあります。実際、麻薬も入れた方が鎮痛効果が高いのですが、呼吸抑制のリスクもあるのです。当院としては安全な鎮痛管理を行うため、麻薬の投与は行いません。ただしこの方針は一般的に言われている”無痛分娩”と何ら変わりはありません。

日中、院長か副院長がいれば局所麻酔量の調整ができる(分節麻酔)

先ほど申し上げたとおり安全な鎮痛管理を行うため、夜間や当直医による無痛分娩時は安全量の局所麻酔薬を時間どおり注入する形となります。これはある程度の鎮痛は得られるものの、分娩の進行によって児頭も下降するため、痛みの場所も変わってくるので痛みを再度感じてくるのも事実です。日中、私院長か副院長がいる時は慎重管理のもと、局所麻酔薬投与量を多くして鎮痛領域を広げる対策が可能なのです。

夜間の陣痛発来時、LDR 2部屋ですでに無痛分娩の対応の時は、安全のため硬膜外処置をお受けできないことがある

やはり日中の方がマンパワーが多く夜間に比べ柔軟な対応が行いやすいのです。当院での分娩提供環境(LDR 2室、手術室1室)からは夜間同時3例の無痛分娩対応は安全面から難しく、夜間は硬膜外処置をお受けできないことがあります。

よって上記から、当院では外来での内診所見から

経産婦さんは39週頃、

初産婦さんは40週頃の

計画分娩をお勧めすることが多いです。

当院では分娩件数の増加とともに、無痛分娩希望の方も多くなっています(他院と比べ、価格が1/2〜2/3の設定になっているのも要因でしょうか)。安心安全な分娩を提供するためこれらのご理解をいただきますようよろしくお願い申し上げます。

文責 院長

ALSOとは

皆さん、あけましておめでとうございます。2023年もどうぞよろしくお願いします。

おかげさまで小生が院長を引き継いでから、分娩件数は

2019年:552件

2020年:573件

2021年:627件

2022年:654件

と増加しております。これはスタッフ全員が高いモチベーションで診療とサービスを行なってくれており、その価値を妊婦さんらが見い出していただいている結果と考えています。スタッフにも患者様にも改めて感謝いたします。

月によっては分娩予約数が予想を超え制限させていただくこともございます。安心・安全の医療の提供のためご理解いただければと思います。

今回は、私がにしじまクリニックの今後の成長要素を捉えている”ALSO”についてお話しします。

ALSO(Advanced Life Support in Obstetrics)とは、医師やその他医療従事者が、周産期における救急事象に効果的に対処できる知識や能力を発展・維持するための教育コースのことをさします。米国家庭医学会によって認可され、現在アメリカではほとんどの分娩施設において分娩に関わる医療従事者がALSOの受講を義務づけられています。

成人の心肺蘇生はBLS/ACLS、小児の初療はPALS、産婦人科診療はALSOという大まかな位置付けでとらえていただくのがよいかと思います。

ALSOはLDRにおける産科の救急的対処できるようなプログラムがあるのはもちろんのこと、その他に出産前のリスク評価、妊娠初期の性器出血、患者と医師の関係、出産危機における両親のサポート、そして医療過誤リスクの減少といったテーマも含まれています。最近ではALSO-Japanでは患者安全とチームパフォーマンスの向上をはかるため”チームSTEPPS”をプログラムに取り入れているのも特徴です。

昨年12月にALSOのインストラクターの認定をいただけることになりました。名簿上、埼玉県内の医師として2番目の認定となります。今後私は埼玉南西部エリアの周産期診療の向上を目指します。当院スタッフの能力向上の目的はもちろんのこと、エリア内の他産科施設とより良い相乗効果を生むためにALSOを活用させていただくつもりです。

これは私と当院の今後20年の成長戦略として第1段階になります。ぜひともご賛同いただければ幸いです。

文責 院長

骨盤位に対するお灸による頭位回転の可能性

最近、首から背中にかけての痛みが日常生活に支障をきたすほどひどいので、接骨院で鍼療法をしてもらっています。

偶然にも担当の方がにしじまクリニックで生まれた方で、びっくりしましたが嬉しい出来事でした。

今回はそれと関連し、

「お灸は骨盤位を頭位へ矯正できるか 1)」

コクランレビューを確認しました。

https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD003928.pub3/full#CD003928-abs-0001

コクランレビューでは、

・お灸による骨盤位の矯正のエビデンスは限定的

・鍼療法と併用した場合は、帝王切開による出生が少なくなる。胎位矯正(いわゆる逆子体操)と併用した場合は出生時の骨盤位数が減少する可能性がある。

・骨盤位に対するお灸の可能性を評価するため、臨床的に関連性のあるアウトカムおよび介入の安全性について報告され、適切にデザインされたランダム化比較試験が必要

としています。

と言っても、私のように困ったら何かに頼りたくのは事実かと思います。さらに妊婦さんに至っては治療や療養は限定的の事が多くなってしまいますので、私院長としてはお灸/鍼の他、漢方やアロマテラピーなど、いわゆる「remedy(レメディー)」を利用することは周産期管理として賛成です。

当院では骨盤位に対する外回転術は行いません。その変わり、帝王切開を選択されても次回の妊娠がTOLACが可能な要件を満たすため考慮した術式を行なっています。

現在は大変ありがたいことに外来・分娩件数が増えていますのでTOLACに関しては「当院で骨盤位のために初回帝王切開を行った方」が考慮・対象とさせていただいています。骨盤位でも当院で帝王切開なさった方は、次回の妊娠に向けて一つの価値を見い出していただければ幸いです。

文責 院長

引用文献

1) Meaghan E Coyle, et al: Cephalic version by moxibustion for breech presentation. Cochrane Library

にしじまクリニックのチームステップス

にしじまクリニックは、スタッフ内で勉強会を行っています。先日まで6週間は医療・患者安全のためにチームパフォーマンスを向上させる目的で、チームステップス(TeamSTEPPS)のディスカッションを行いました。

1週目と2週目は、医療状況を評価する『状況モニター』について議論しました。

状況モニター

患者さんのおかれている立場をできるだけピックアップし、かつ産婦人科特有の、産婦さんのみならず赤ちゃんや旦那さんの状況も把握しましょう、という意見が当院スタッフのやさしさが垣間見え、印象的でした。

業務量においては、やるべき事が多くて大変だからこそ、適材適所のスタッフの人材配置に加え、緊急時早めに対処するための位置の事前把握、声がけ・集まりのために一定のルールが必要である、と認識しました。

施設情報として、情報をできるだけ多くのスタッフが知り、それを共有できるか。そのために機材を含めた環境を整えていきましょう、という事になりました。

緊急時適切な対応を行うために、不安な事や大事な情報を伝える発信者の表現・姿勢や、相手(受信者)に内容が適切に伝わるかが重要で、今後どうしたらよいかを考えました。

3週目と4週目は、適切なチームアプローチを行うために状況モニターを含め『4つの能力』について議論しました。

4つの能力:リーダーシップ、コミュニケーション、状況モニター、相互支援

リーダーシップについて、リーダー・コマンダーは緊急時落ち着いて指示する事が求められるのは勿論、平常時から各々が持ち場でのリーダーシップが今後さらに発揮できるようにする事を目標としました。

コミュニケーションでは、普段から患者さんの情報の誤認を防ぐため、複数人で状況を確認する『タイムアウト』を導入し実践し始めました。

にしじまクリニックのスタッフは相互支援が得意だと私院長は思っています。一方これをもっと深く突き詰めて良くする事も必要だと気がつきました。「自分の仕事はここまで」と壁を作ってしまうと相互支援は成り立たなくなるのですが、「何でもいろいろやってくれ」という事でもありません。職種や経験年数の違いを乗り越える気持ちも大事ですが、オーバーワーク・オーバービヘービアになってしまってはいけません。

5週目と6週目は、にしじまクリニックは今後、チーム体制としてどうありたいか、どうあるべきかの確認を行いました。

4つのR

総括すると、

□CUS(Concerned, Uncomfortable, Stop because of Safety issue)の表現と受け取りが重要。発信者は職種および経験年数は関係ない。受信者は寛容さを持つ。発信者のCUSの表現の能力と、受信者の受け取った情報処理能力のバランスが整ったうえで効果的なCUSが成立する。

共通の認識として、“Safety issue”の場合はその場の行為を止めてでも緊急の場へ向かう。この時はオーバートリアージでも許容する。

情報の共有のために複数人数でハドル(huddle)とカンファレンス(conference)で質の高い情報を共有し、目標が正しいかどうかを確認・上方修正する。

huddle: to get or come together in a crowd

conference: meeting for the exchange of ideas

事前に情報を共有する事で緊急時の対応を円滑に行えるようにする。

新しく取り組みを行うのではなく、今行っている事を修飾して強化していく。

という事らにたどり着きました。

皆さまの働かれている企業はチームとしてよい環境でしょうか。

にしじまクリニックはチームパフォーマンスおいてまだ100点満点ではありません(既に満点と思うようであれば、その企業は成長しません)が、「より良いチームにしていきたい」と思う向上心は当院スタッフ全員が持っています。それは今後、さらに患者さんの安全の提供のみならずスタッフが働きやすい環境の構築にもつながる、と確信した勉強会でした。

(院長執筆)