18トリソミーと13トリソミー

ヒトの染色体は通常46あり、そこから1〜2本の増減を伴うのは異数体(heteroploid)と呼ばれる数的異常です。

羊水検査の迅速検査”Rapid FISH”は染色体が1本多いトリソミー、その中で21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーを対象としています。

出生前遺伝学的検査において、なぜ3つのトリソミーが迅速診断の一つとなっているのか

出生児の4%は先天性疾患をもち、先天性疾患の中で染色体疾患は25%を占めています。

染色体疾患をもつ出生児の

53%は21トリソミー、

13%は18トリソミー、

5%は13トリソミーであり、

染色体疾患全体でおよそ70%を占めているのです。

21, 18, 13番染色体は保有する遺伝子数の少ない常染色体であり、そのため流産の経過を辿るほか、出生児でもみられます。

今回は18トリソミーと13トリソミーの臨床症状について列記します。

18トリソミー症候群(エドワーズ症候群)

・頻度:1/3500〜1/8500出生

・男女比:1:3

・主な合併症:先天性心疾患、肺高血圧、小顎、食道閉鎖、腎尿路異常

・転機:1年生存率は(医療介入を行なって)25%、18トリソミー児の多くが心疾患を合併しているため、心臓の手術にて生命予後は上昇(2年生存率50%)

13トリソミー症候群(パトー症候群)

・頻度:1/5000〜1/12000出生

・男女比:若干女児が多い

・主な合併症:中枢神経系異常(全前脳胞症)、頭皮欠損、小眼球、口唇口蓋裂、先天性心疾患、停留精巣(男児)

・転機:1年生存率は10%、経過や治療に応じて20〜50%

妊娠中の検査に関する情報サイトでは、トリソミー児の多様な成長と暮らしの事例紹介が公開されています。よろしければご覧になってみてください。

執筆 院長

陽性的中率

以前のブログで「感度と特異度」、「尤度比」について説明しました。

これらの因子を全てを含めたものが「陽性的中率」となります。

陽性的中率とは

検査結果が陽性の場合に、実際疾患(病気)を認める確率のことを言います。

陽性的中率=事前確率(有病率)×尤度比

となります。よって陽性的中率は疾患の頻度(事前確率・有病率)によって変化します。すなわち、疾患の可能性が低い対象に検査を行うと、陽性的中率は下がるのです。

例えば、有病率1%の病気Aと有病率50%の病気Bがあったとします。

病気Aと病気Bを調べる検査が、感度と特異度が同じ検査法があったとします。となると、この検査の精度は同じとは言えません。

また、

・疾患Aに対する陽性的中率は10%だから「精度が低い」
・疾患Bに対する陽性的中率は50%だから「精度が高い」

とは言えないのです。なぜなら、先ほど申しあげたとおり陽性的中率は有病率の影響を受けるため、有病率が高いと陽性的中率は上がり、有病率が低いと陽性的中率は下がる性質を持つのです。

では陽性的中率や検査の良し悪しはどうやって判断するのか?

陽性的中率とその他の検査を受けて病気と診断される割合に大きな差がない場合、その検査は有用性が高い検査と言えます。

また、同じ有病率をもつ比較対象であれば、陽性的中率が高い検査の方が有用性が高いとも言えます。

陰性的中率は2つの検査ともに99%以上

執筆 院長

ゆう(尤)度比

先日は検査における『感度と特異度』についてお話ししました。

今回は検査の精度・有効性について、もう少し説明をさせていただきます。

検査の精度は疾患の「有病率」と「尤度比(ゆうどひ)」によって左右されます。

尤度比とは

ある事象(病気・疾患)が起きる可能性の大小を示すものとなります。英語表記は”Likelihood ratio”と呼ばれ、こちらの方が意味合いとして理解しやすいかもしれません。

尤度比=疾患ありで検査陽性になる率÷疾患なしで検査陽性になる率であり、いわば感度÷偽陽性率

となります。(*偽陽性率=1−特異度)

上記の式から、分母の偽陽性率が低ければ低いほど、感度は高まるわけです。

大まかに、陽性尤度比が10以上あれば、有効な検査と言われています。

ちなみに、21トリソミーに対するNT肥厚(適切な検査施行時期においておよそ3.5mm以上)の陽性尤度比は16とされています。

執筆 院長

感度と特異度

先週から当院でもNIPTの運用が始まりました。皆さん、NIPTは従来の検査に比べて精度が高いもの、という認識だと思います。今回は「感度」と「特異度」についてご説明します。

病気があるかどうかを調べる検査では、

検査が陽性であれば、その病気があることが多い(A)ですが、ない場合もあります(B)。

Aを真陽性、と呼びます。

Bを偽陽性、と呼びます。

検査が陰性であれば、その病気がないことが多い(D)ですが、ある場合もあります(C)。

Cを偽陰性、と呼びます。

Dを真陰性、と呼びます。

「感度」は、病気の人を検出する高さを示します。

「特異度」は、病気でない人を検出する高さを示します。

この2つの指標で検査の特性を判断します。

感度はA/ A +C

特異度はD/ B +D

で計算されます。

Down症候群のそれぞれの検査感度は

・クアトロテスト:80〜85%

・NIPT:99%

となります。

またNIPTの特異度は99.9%(13, 18, 21トリソミーの場合)を超えており、感度と特異度が高いNIPTは精度の高い検査と言えるのです。

執筆 院長

NIPTの普及が進んでもNT計測は必要

当院で今冬からの運用開始予定のNIPTですが、妊娠11〜13週に行うNT計測は引き続き行います。

NT肥厚は21トリソミーを疑うソフトマーカーの一種ではありますが、NT肥厚は染色体異常のほか、以下の児の異常の可能性があります。

NTの肥厚と関連する児の異常(染色体異常以外)

・先天性心疾患

・臍帯ヘルニア

・羊膜索症候群

・横隔膜ヘルニア

・尿路閉塞

ダンディーウォーカー

・骨系統疾患

アキネジア症候群

・貧血

・感染症

・代謝性疾患

・単一遺伝子病

どうでしょう、かなり多岐にわたる疾患が関連してますよね。

NIPTが普及しても、現時点で日本では3つのトリソミーの有無を検出しているにすぎません。今後NTを含めた超音波所見を見なくてよい、とはならないのです。

上記らの児の異常がNT計測で全てわかる、というわけではありません。しかしながらNT肥厚が見つかれば、今後さらに注意して児の異常がないか診ていくきっかけになるのは間違いありません。

執筆 院長