こんにちは、副院長の石田です。
妊娠を希望される方、あるいは妊娠された方の多くは「葉酸摂取が妊娠に良いらしい」という情報を見聞きすることと思います。実際、外来でも葉酸摂取についてのご質問は頻繁にお受けするのですが、具体的に何がどう良いのか、どのように摂取したら良いのかは意外と知らない方が多い印象です。そこで本日は妊娠中の葉酸摂取について解説したいと思います。
葉酸を摂るとどんな効果が期待できるのか
妊娠は一般的に初期、中期、後期の3期間に分けて考えることが多いですが、特に初期は器官形成期と言って受精卵が細胞分裂を繰り返しながら人間の形を作っていく重要な時期です。多くの先天奇形がこの時期のエラーによって起こると考えられていますが、葉酸摂取は二分脊椎に代表される神経管閉鎖障害に対する予防効果があることで知られています 1)。具体的には葉酸を適切に摂取した妊婦さんでは摂取しなかった方と比べて93%程神経管閉鎖障害を予防できたというデータもあり、国内外で広くお勧めされています 1)2)3)。
葉酸の摂取方法
神経管閉鎖障害は概ね妊娠6〜7週頃に病気として完成してしまうため、確実に効かせるためには少なくとも妊娠1ヶ月前くらいから妊娠11週末までの内服が勧められています。逆に妊娠していることに気づくのは通常妊娠5〜6週以降のため、そこから飲みはじめても手遅れです。用量は1日0.4mg(400μg)が標準ですが、モノによっては0.8mg(800μg)入っているサプリもあります。これに関しては1mg(1000μg)を超えなければそれほど気にする必要はありません。実は葉酸摂取の神経管閉鎖障害予防効果のメカニズムに関してはよく分かってないことも多いのですが、葉酸自体に薬効があるというよりは葉酸不足によるリスクの上昇を抑えるようなイメージかと思われます 4)。なので逆に言うと双子だから2倍飲むとかそういう話はありません。一方で様々な理由から神経管閉鎖障害のハイリスクとされる女性もいらっしゃいますのでそういった方々には1日4〜5mgの葉酸が処方されることがあります。
神経管閉鎖障害以外への効果や副作用
葉酸の効果については他にも様々な検証がされています。顔面奇形である口唇裂や口蓋裂、そして心奇形などについては予防効果を示唆する研究も存在しますが、未だに結論には至っていません 5)6)7)。また、一時期流早産の予防になるんじゃないかという話題もあったのですが、どうやらそちらもどっちつかずのようです 8)9)10)。その他、葉酸は赤血球を作る際にも重要な役割を果たすので、妊娠中の貧血予防が期待できます。一方で妊娠期間を通じて1日5mgを超える量を服用し続けると、赤ちゃんが1歳になった時に運動神経発達遅延が指摘されるリスクが上昇するという報告もあり、無闇に使えば良いわけでもないということにも注意が必要です 1)。
まとめ
というわけで本日は妊娠にまつわる葉酸についてのあれこれでした。ところで神経管閉鎖障害は複数の要因が複雑に作用して発症すると考えられています。そのため葉酸を摂取していれば絶対に大丈夫というわけでもないし、逆に赤ちゃんに発症してしまったからといって摂取してなかったせいだと自分を責める必要もありません。葉酸摂取自体はお勧めされますが、決して安くないサプリをいつになるか分からない妊娠成立まで飲むのは誰でも気軽に始められるわけでもないので、100点満点の女性が105点を目指すようなイメージで「+@」と考えて取り組まれるのが良いかもしれませんね。
1) 産婦人科診療ガイドライン 産科編2020 CQ105
2) NHS. Vitamins, supplements and nutrition in pregnancy: https://www.nhs.uk/pregnancy/keeping-well/vitamins-supplements-and-nutrition/
3) CDC. Folic Acid: https://www.cdc.gov/ncbddd/folicacid/about.html
4) Kohji Sato. Med Hypotheses. 2020 Jan;109429.
5) Luz Maria De-Regil, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015(12):CD007950
6) Badovinac RL, et al. Birth Defects Res A Clin Mol Teratol. 2007;79(1)8-15
7) Liu S, et al. Circulation. 2016;134(9):647
8) Balogun OO, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016 May 6;2016(5):CD004073
9) Mantovani E, et al. Biomed Res Int. 2014:481914.
10) Bingbing Li, et al. Front Neurosci. 2019 Nov 28;13:1284