不正軸進入

児頭が骨盤内に進入する時、矢状縫合が恥骨結合と岬(こう)角の中心と直角で交わるのが正常な進入(正軸進入)となります。

ということは上記をふまえ、「不正軸進入」とは「児頭が骨盤内に入った後〜第2回旋が起こる前に判断がつく」状態と言えます。

進入異常かどうかは内診と超音波で判断します。児頭触知可能な高さとしてStation-3からであれば、この時点以降の児頭の下降において不正軸進入かどうかわかる可能性があります。

骨盤入口(にゅうこう)部は横長なので、児頭も横向き(矢状縫合が横)に進入します。

骨盤入口部横径は13.5cmであり、はじめ児頭が骨盤入口部にある時は矢状縫合は骨盤横径に一致(小泉門と大泉門の高さは同じ)します。児頭が横向きであれば胎勢(屈位または反屈位)はまだあまり気にならず児頭は骨盤内へ進入します。児頭先進部が骨盤峡部・出口(しゅっこう)部へ下降するにあたり、特に最も骨盤横径が狭い坐骨棘間(峡横径)を児頭は通過しなければならないので通常児頭は屈位をとります。これが第1回旋です。となると第1回旋の終了の場所は

児頭先進部が骨盤峡部にさしかかる所、言い換えると児頭先進部はStation 0の陥入の位置で第1回旋が終了している頃』、と言えるでしょう。ちなみにこの時子宮口は46cmあたりです。この位置は児頭最大周囲は骨盤濶部にあり、骨盤濶部は円形で児頭が回りやすいので第2回旋が始まっていきます。

第2回旋に入る前、矢状縫合の向きとして方位点は(児頭が下がっているので通常の第1回旋が行われたのであれば)”OT”との表現になります。

頭頂骨は左右の骨で構成されます。それらが進入しても先進部、さらには方位点が定まっているわけではないので「左/右 頭頂位」とは呼びません。なので「頭頂骨進入」という言い方になるのです。また正軸進入でなければ「頭頂位」でもありません。

なお既に児頭が骨盤内へ進入していれば「在頭頂骨進入」という状態もありません。

院長執筆

妊娠中の歯科受診について

こんにちは、副院長の石田です。

よく妊婦さんに聞かれる質問の一つが「歯医者さんを受診していいですか?」というものです。これに関しては妊婦さんたちが心配に思うのはもちろんですが、妊婦さんの治療に慣れていない歯科の先生が少なくないことも混乱の原因になっているのかもしれません。そこで本日は妊娠中の歯科治療について簡単に解説します。

妊娠中と口腔環境

妊娠するとホルモンバランスの変化により歯周病原細菌が増殖しやすくなること、唾液の分泌が減少すること、つわりのせいで歯磨きがしにくくなることなどから一般的に妊婦さんは虫歯や歯周病になりやすいと言われていますが、妊娠中のお口の病気は早産や胎児発育不全が関係している可能性が示唆されています 1)2)3)。そのため妊婦さんは歯磨きなどのセルフケアだけでなく、歯科で検診を受けたり必要に応じて治療することが勧められています。

妊娠中の歯科治療

具体的な処置の詳細や安全性については歯科の先生にご相談いただければと思いますが、一般的に抜歯や虫歯の治療などの歯科治療は妊娠全期間において安全に行えるとされています 1)3)。歯科で広く使われている局所麻酔薬についても口腔内で使用される程度の量であれば問題になることはまずありません。また、歯や顎を撮影するレントゲンについても使用される放射線量は極めて微量であり、加えて遮蔽用のエプロンを装着していれば赤ちゃんへの影響を心配する必要もありません。「本格的な歯科治療は安定期に入ってからにしましょう」と提案されているネット記事もありますが、それ自体に医学的根拠はないので妊娠初期でも安心して検査や治療を受けていただいて大丈夫です。あえて言うと治療で使用する抗菌薬や痛み止めに関しては注意が必要ですが、処方された薬がご心配であればかかりつけの産科にご相談いただければと思います。

まとめ

本日は妊娠中の歯科受診について簡単に解説いたしました。上記の通りお口の健康は口腔内だけでなく全身の健康を保つのにとても重要な要素です。お産後には母親の歯周病が赤ちゃんの虫歯にも関係するかもという話もありますので、妊娠中も是非歯医者さんを受診していただければと思います 2)。

1) 産婦人科診療ガイドライン 産科編2020 CQ505
2) Kim A Boggess, et al. Matern Child Health J. 2006 Sep;10(5 Suppl):S169-74
3) National Maternal and Child Oral Health Center. Oral Health Care During Pregnancy: A National Consensus Statement: https://www.mchoralhealth.org/PDFs/OralHealthPregnancyConsensus.pdf

逆子とはどのような状態なのか

妊娠末期以降、いわゆる妊娠28週以降から逆子を気にするようになるのですが、一体どういう状態か、確認しましょう。

「逆子」とは、ご存知のとおり児の位置として「骨盤位」が正式名称です。

母体に対し、児の位置や向きは胎位胎向胎勢の3つから表現されます。

胎位とは母体軸に対し胎児軸はどのようになっているかを示すものです。分類として

・縦位

・横位

・斜位

があります。そのうち縦位は内診時の児の先進部分によって

▪️頭位

▪️骨盤位

とさらに分けられるのです。

骨盤位においては主に

⚫️単殿位(児のお尻が1番下)

⚫️複殿位(児が足を曲げて、あぐらをかいているか体育座りになっている様な状態)

な状態があります。

骨盤位は英語で” Breech presentation”と訳されます。この「presentation」とは英米式の児の産道における位置と先進部の表現の一つに相当します。英米式はその他の表現で『position』という分娩中の児の向きを表現するものがあります。

骨盤位においても「position」の英語表現を用いられる時もありますが、この場合は分娩経過の表現と捉えてください。現在は骨盤位分娩が少なくなっているのであまり耳にしたことがないと思いますが、骨盤位分娩において(当然ながら内診で頭位の方位点[determining point]である後頭[Occiput]は触れないので)児の仙骨(Sacrum)を主として分娩中の児の向きを表現します。よって骨盤位分娩で内診時、児の仙骨が母体の左斜め前を向いているとpositionの表現法は

『LSA』

となるのです。

文責 院長

夫婦でできる産み分けについて

こんにちは、副院長の石田です。

妊活中のご夫婦の中でなんとなく気になることが多いのが「産み分けってできるの?」という疑問です。産み分けに関してはたくさんの書籍が出ているほか、インターネット上にも様々な情報が飛び交っており混乱してしまいますよね。そこで本日はご自宅でできる産み分けについて少し解説してみたいと思います。

そもそも赤ちゃんの性別はどうやって決まるのか?

人は通常23組、46本の染色体と言われる遺伝情報を保有しています。2本1組になっているのは父親由来と母親由来をそれぞれ1本ずつ持っているからですが、このうち性染色体が生物学的な性別を決める働きをしています。性染色体にはXとYの2種類がありますが、これがXXの組み合わせなら女性、XYの組み合わせなら男性に分化していくことになります。精子や卵子には本人由来の2本の性染色体のうちで片方だけが入ることになりますが、女性がもつ卵子にはいずれにしてもXしか入れないのに対して男性が作る精子にはXもしくはYが入るので、これらが受精して1セットとなる際にXの精子が受精すれば女の子に、Yの精子が受精すれば男の子になるわけです。

工夫次第で産み分けはできるのか

先に結論からお伝えすると、あまり期待しない方が良いようです。ナトリウムやカリウムを多く含む食事を摂ると男の子が、カルシウムやマグネシウムを多く含む食事を摂ると女の子が生まれやすいという話がありますが、実際にそれでやってみたら差が出たという研究がある一方で、エビデンスの質という点では必ずしも高くないため有用と結論づけるには早い印象でした 1)2)3)。また、セックスの仕方で産み分けるという方法もあります。有名なところでは挿入の深さや体位などに変化をつけるShettles法などがありますが、実はこちらに関しても効果があるかは疑わしいです。わずかながら産み分け効果が見られたというデータもありますが、より綿密に行われた研究では産み分けにはならなそうという結論でした 4)5)。そのほか、妊娠するまでの期間で性別に差が出るかという研究でも明らかな違いは見られなかったようで、結局夫婦が自分たちでできる期待値の高い産み分けは無さそうだなという印象でした 6)。

まとめ

医学的には(倫理的な議論はあるものの)フローサイトメトリーを用いた精子の選別や、体外受精で作成した受精卵をPGTという技術で調べて希望する性別のものを移植するなどの方法でより確実な産み分けが可能ですが、自分たちの力でとなるとお勧めできるような方法はなさそうです。とはいえ、あまり真剣になりすぎずに占い程度のテンションで楽しめるのであれば色々と調べて試してみるのはありかもしれませんね。
ちなみに私が以前働いていたミャンマーでは、男性の睾丸が右の方が大きければ女の子が、左の方が大きければ男の子が第1子に生まれると現地スタッフに言われたことがあります。実際、その場にいた子持ちスタッフで検証したところ、なんと100%の正確性でした。

1) Stolkowski J, et al. Int J Gynaecol Obstet. 1980;18(6):440
2) Dariush Farhud, et al. Iran J Public Health. 2022 Aug;51(8):1886-1892
3) A M Noorlander, et al. Reprod Biomed Online. 2010 Dec;21(6):794-802
4) R H Gray. Am J Obstet Gynecol. 1991 Dec;165(6 Pt 2):1982-4
5) Wilcox AJ, et al. N Engl J Med. 1995;333(23):1517
6) Mike Joffre, et al. BMJ. 2007 Mar 10;334(7592):524