こんにちは、副院長の石田です。
めでたく妊娠が成立し、自治体から母子手帳を受け取って妊婦健診が始まると、ご家庭によって話題に上がるのが羊水検査をはじめとした出生前検査を受けるかという選択肢です。一部の先進的なものを除くと一般的に行われている出生前検査はDNAの塊である染色体を調べるものですが、検査で診断がつく染色体異常の中で最も知られている疾患はダウン症候群でしょう。実際ダウン症は出生する新生児の中で最も頻度の高い染色体疾患の一つですが、その名前の認知度とは裏腹に実際の状況は意外と知られていません。そこで本日はダウン症候群について少し解説したいと思います。
ダウン症候群とはどのような状態か
人間はおよそ37兆個の細胞を持っていますが、通常その一つひとつに両親由来の染色体を23対、計46本保有しています。ところがダウン症候群では21番目の染色体が3本ある、あるいは部分的に重複するなどの理由で過剰になっており、その結果心疾患をはじめとした合併症を持ったり成長発達に遅れが生じることがあるのです。一般的なダウン症候群の罹患頻度は600〜800出生に1人で、母体年齢が上がると頻度が増加するのは有名ですが、実は精子形成の異常が原因になることも10%前後あると言われています 1)。ちなみに意外と誤解されている方が多いのですが、“ダウン“は1866年に本症を発表したイギリス人のダウン医師にちなんだ名称であり「下」というニュアンスの”down”とは全く関係がありません。
ダウン症候群をお持ちの方の生活について
ダウン症候群に様々な合併症があるのはイメージがあると思いますが、当事者の方々が実際どのように生活されているかはご存知でしょうか?上述の通り発達が遅れる傾向がある一方で、保育や初等教育の段階では問題なく通常級で過ごされることも多く、約80%の方が支援学級を含め高校を卒業されます。卒業後は90%が就職し、芸術やスポーツ分野で活躍することも少なくありません。社会福祉に関しては5歳までに9割程度の方が療育手帳を取得されますが、それによる税控除や公共料金・交通機関等の割引を受けることもでき、その他20歳まで支給される福祉手当や成人期以降で受けられる福祉サービスや障害年金もあります。そして何より皆さんに知っていただきたいのは、ダウン症候群をもつ方の約90%がほぼ毎日幸せを感じながら勉学や仕事に肯定的な自己認識を持って暮らされているということです 2)。
まとめ
本日は身近なのに意外と知らないかもしれないダウン症候群のことについて少しだけ解説いたしました。ダウン症候群をもつ方々の健康や生活に関しては日本ダウン症協会/日本ダウン症学会による『ダウン症のある方たちの生活実態と、ともに生きる親の主観的幸福度に関する調査報告書』や日本ダウン症協会のホームページで動画も交えて非常に分かりやすく紹介されています。もしよろしければこの機会に是非一度ご覧になってみてください。
1) Muller F, et al. Hum Genet. 2000 Mar;106(3):340-4
2) 平成27年度 厚労科研 小西班研究班報告