陽性的中率

以前のブログで「感度と特異度」、「尤度比」について説明しました。

これらの因子を全てを含めたものが「陽性的中率」となります。

陽性的中率とは

検査結果が陽性の場合に、実際疾患(病気)を認める確率のことを言います。

陽性的中率=事前確率(有病率)×尤度比

となります。よって陽性的中率は疾患の頻度(事前確率・有病率)によって変化します。すなわち、疾患の可能性が低い対象に検査を行うと、陽性的中率は下がるのです。

例えば、有病率1%の病気Aと有病率50%の病気Bがあったとします。

病気Aと病気Bを調べる検査が、感度と特異度が同じ検査法があったとします。となると、この検査の精度は同じとは言えません。

また、

・疾患Aに対する陽性的中率は10%だから「精度が低い」
・疾患Bに対する陽性的中率は50%だから「精度が高い」

とは言えないのです。なぜなら、先ほど申しあげたとおり陽性的中率は有病率の影響を受けるため、有病率が高いと陽性的中率は上がり、有病率が低いと陽性的中率は下がる性質を持つのです。

では陽性的中率や検査の良し悪しはどうやって判断するのか?

陽性的中率とその他の検査を受けて病気と診断される割合に大きな差がない場合、その検査は有用性が高い検査と言えます。

また、同じ有病率をもつ比較対象であれば、陽性的中率が高い検査の方が有用性が高いとも言えます。

執筆 院長

ブライダルチェックを受けようか悩んだ時の話

こんにちは、副院長の石田です。

にしじまクリニックに来られる患者さんたちの中で、「結婚を控えているのでブライダルチェックを受けたいです」という方が少なからずおられます。もちろんそう言ったご相談にものるのですが、当院ではいわゆるセットとしてのブライダルチェックのご用意は無く、院長や私が患者さんのお話を伺ったうえで必要と思われる診察や検査をご提案する形にしています。そこで本日はブライダルチェックについてお話ししたいと思います。

ブライダルチェックとは

そもそもブライダルチェックとは何でしょうか?実はこの言葉自体が医学的な言葉ではないため定義も曖昧なのですが、試しにchat GPTに聞いてみたところ「結婚を控えたカップルが、将来の健康や妊娠・出産に関するリスクを確認するために行う健康診断の一種です。特に女性向けに行われることが多いですが、男性も対象にする検査も増えています。この検査は、結婚や妊娠の前に自分やパートナーの健康状態を知り、将来の家族計画や健康管理に役立てるためのものです。」とお答えいただきました。おぉ、なんだかそれっぽいこと言ってきたな…。
実際、ブライダルチェックを提供している施設のサイト見てみると、身体診察、超音波検査、子宮・卵巣のがん検診、性感染症、血液検査などが取り扱われており、病気の有無や将来の妊娠可能性について診ているようです。
ちなみに症状が無い健康な人たちに一律に検査をして隠れた病気を探すことを「スクリーニング検査」と言います。

ブライダルチェックは受けた方が良いのか?

結論から言うと、私は「ブライダルチェック」という形で一律にみなさんが婦人科の検査を受ける必要は無いかなと思っています。婦人科の悪性腫瘍に関して言うと、スクリーニング検査による早期発見が患者さんの予後を改善するエビデンスがあるのは今のところ子宮頸がんのみですが、これはほとんどの自治体で2年に1回の定期検診が組まれているためそれを使うのが効率的です。腫瘍マーカー検査を提案する施設もあるようですが、腫瘍マーカーは飽くまで診断の補助や治療効果の評価に使用される程度のものでありスクリーニング検査としての有用性は期待できず、むしろ闇雲な検査には有害性が示唆されています1)2) 。性感染症のスクリーニングは日本では規定がありませんが、アメリカだと性交経験のある25歳未満および25歳以上でハイリスクな女性は毎年クラミジアと淋病の検査を受けることが勧められています。また、HIVは13〜64歳の全ての女性に対して検査が勧められています 3)。実際、性感染症のスクリーニングの有用性は私も感じるところではありますが、そもそも症状があれば保険で調べられますし、婦人科で受ける以外にも地域の保健所で無料かつ匿名で行えることが多いためそちらに問い合わせてみても良いかもしれません。将来の妊孕性やホルモンバランスを調べるとして血液検査をすることがありますが、血液検査だけでそれらの状況が正確に分かることはほとんど無いためスクリーニングする意味があるのかは疑問です。

まとめ

ということで本日はブライダルチェックについての話題でした。そうは言ってもブライダルチェックを受けるという行動は、自分の健康やキャリア・ライフプランと向き合う一つのきっかけにもなるので可能であれば受けてみるのも悪くないかもしれません。ただ、自己都合で検査をする場合は全て自費になりますので、その際にはどの検査が自分に必要か担当医としっかりご相談されると良いと思います。また、上記の検査以外には風疹抗体検査なんかも一般的ですが、こちらは埼玉県では公費で受けられる可能性がありますので、お住まいの市町村のウェブサイトなどで是非確認してみてください。

参考文献
1) Pinsky PF, et al. Gynecol Oncol. 2016;143(2):270
2) NIH. National Cancer Institute. Ovarian, Fallopian Tube, and Primary Peritoneal Cancers Screening.
3) CDC. Screening Recommendations and Considerations Referenced in Treatment Guidelines and Original Sources.

ゆう(尤)度比

先日は検査における『感度と特異度』についてお話ししました。

今回は検査の精度・有効性について、もう少し説明をさせていただきます。

検査の精度は疾患の「有病率」と「尤度比(ゆうどひ)」によって左右されます。

尤度比とは

ある事象(病気・疾患)が起きる可能性の大小を示すものとなります。英語表記は”Likelihood ratio”と呼ばれ、こちらの方が意味合いとして理解しやすいかもしれません。

尤度比=疾患ありで検査陽性になる率÷疾患なしで検査陽性になる率であり、いわば感度÷偽陽性率

となります。

上記の式から、分母の偽陽性率が低ければ低いほど、感度は高まるわけです。

大まかに、陽性尤度比が10以上あれば、有効な検査と言われています。

ちなみに、21トリソミーに対するNT肥厚(適切な検査施行時期においておよそ3.5mm以上)の陽性尤度比は16とされています。

執筆 院長