こんにちは、副院長の石田です。
本日はつわり・妊娠悪阻に対する薬物治療についてお話ししてみたいと思います。
つわりに使われる薬
繰り返しになりますがつわりは飽くまで生理現象なので必ずしも治療しなければいけないわけではありません。また、原理原則で言えば妊娠初期に薬剤を使用することは一定のリスクがあるため避けるに越したことはありませんが、それでも辛いときには患者さんと相談の上で検討されることがあります。日本で使用されることが多いのはメトクロプラミド(プリンペラン®︎)という制吐薬です。ドンペリドン(ナウゼリン®︎)という制吐薬も広く知られていますが、動物実験で骨格や内臓の奇形の原因となることが示されており、妊婦さんへの投与は禁忌となっています。欧米ではオンダンセトロンという抗がん剤の副作用としての嘔吐に対して使用される強力な制吐薬を用いることもありますが、日本では認可されていません。その他ビタミンB6(ピリドキシン)が悪心緩和にエビデンスがあるため処方されることがあります 1)。
つわりに大麻はダメ、絶対。
今まで患者さんから聞かれたことが何回かあるんですが、再度はっきり言っておくと大麻をつわり対策に使ってはいけません。とか言われてもほとんどの人は「石田は急に何の話してんの?」って感じだと思うんですが、実は大麻草から抽出されるカンナビノイドという物質には吐き気止め効果があるんですね。カンナビノイドには葉や花穂を原料とするTHC(テトラヒドロカンナビノール)と茎や種子を原料とするCBD(カンナビジオール)がありますが、日本においてTHCが違法とされる一方でCBDは合法のため、普段からオイルや飲み物として使用されている方もおられます。精神作用や依存性がとても小さいと言われていることから安全に使えるような印象を持っている方も少なくないですが、妊娠中の使用は胎児の神経発達などに悪影響を及ぼす可能性が示唆されており、使用は絶対に避けた方が良いです 2)3)4)5)。
まとめ
ということで本日はお薬によるつわりの治療についてのお話でした。最後は大麻にまで触れましたが、妊娠にまつわるよもやま話として楽しんでいただけると幸いです。上記以外にも漢方や抗ヒスタミン剤、ステロイドなどを使用する方法もありますが、いずれにしても完全にスッキリさせるというわけにはいかないことが多いです。ただ、少しでも楽に過ごせるようになるのは大切なことですので、お困りの妊婦さんは試しに主治医へ相談してみてください。
参考文献
1) ACOG Practice Bulletin No. 189. Obstetric Gynecol. 2018;131:e15-e30
2) Serena Hayer, et al. Obstetric Gynecol Surv. 2023 Jul;78(7):411-428.
3) FDA: What You Should Know About Using Cannabis, Including CBD, When Pregnant or Breasfeeding.
4) ACOG Committee Opinion No. 637. Obstet Gynecol. 2015 Jul;126(1):234-8
5) Government of Canada: Review of cannnabidiol: Report of the Science Advisory Committee on Health Products Containing Cannabis.