夫婦でできる産み分けについて

こんにちは、副院長の石田です。

妊活中のご夫婦の中でなんとなく気になることが多いのが「産み分けってできるの?」という疑問です。産み分けに関してはたくさんの書籍が出ているほか、インターネット上にも様々な情報が飛び交っており混乱してしまいますよね。そこで本日はご自宅でできる産み分けについて少し解説してみたいと思います。

そもそも赤ちゃんの性別はどうやって決まるのか?

人は通常23組、46本の染色体と言われる遺伝情報を保有しています。2本1組になっているのは父親由来と母親由来をそれぞれ1本ずつ持っているからですが、このうち性染色体が生物学的な性別を決める働きをしています。性染色体にはXとYの2種類がありますが、これがXXの組み合わせなら女性、XYの組み合わせなら男性に分化していくことになります。精子や卵子には本人由来の2本の性染色体のうちで片方だけが入ることになりますが、女性がもつ卵子にはいずれにしてもXしか入れないのに対して男性が作る精子にはXもしくはYが入るので、これらが受精して1セットとなる際にXの精子が受精すれば女の子に、Yの精子が受精すれば男の子になるわけです。

工夫次第で産み分けはできるのか

先に結論からお伝えすると、あまり期待しない方が良いようです。ナトリウムやカリウムを多く含む食事を摂ると男の子が、カルシウムやマグネシウムを多く含む食事を摂ると女の子が生まれやすいという話がありますが、実際にそれでやってみたら差が出たという研究がある一方で、エビデンスの質という点では必ずしも高くないため有用と結論づけるには早い印象でした 1)2)3)。また、セックスの仕方で産み分けるという方法もあります。有名なところでは挿入の深さや体位などに変化をつけるShettles法などがありますが、実はこちらに関しても効果があるかは疑わしいです。わずかながら産み分け効果が見られたというデータもありますが、より綿密に行われた研究では産み分けにはならなそうという結論でした 4)5)。そのほか、妊娠するまでの期間で性別に差が出るかという研究でも明らかな違いは見られなかったようで、結局夫婦が自分たちでできる期待値の高い産み分けは無さそうだなという印象でした 6)。

まとめ

医学的には(倫理的な議論はあるものの)フローサイトメトリーを用いた精子の選別や、体外受精で作成した受精卵をPGTという技術で調べて希望する性別のものを移植するなどの方法でより確実な産み分けが可能ですが、自分たちの力でとなるとお勧めできるような方法はなさそうです。とはいえ、あまり真剣になりすぎずに占い程度のテンションで楽しめるのであれば色々と調べて試してみるのはありかもしれませんね。
ちなみに私が以前働いていたミャンマーでは、男性の睾丸が右の方が大きければ女の子が、左の方が大きければ男の子が第1子に生まれると現地スタッフに言われたことがあります。実際、その場にいた子持ちスタッフで検証したところ、なんと100%の正確性でした。

1) Stolkowski J, et al. Int J Gynaecol Obstet. 1980;18(6):440
2) Dariush Farhud, et al. Iran J Public Health. 2022 Aug;51(8):1886-1892
3) A M Noorlander, et al. Reprod Biomed Online. 2010 Dec;21(6):794-802
4) R H Gray. Am J Obstet Gynecol. 1991 Dec;165(6 Pt 2):1982-4
5) Wilcox AJ, et al. N Engl J Med. 1995;333(23):1517
6) Mike Joffre, et al. BMJ. 2007 Mar 10;334(7592):524

にしじまクリニックの入院生活

こんにちは、副院長の石田です。

産後の入院生活は妊婦さんたちが施設を選ぶ際に重要視することの一つだと思います。「できるだけ豪華なところがいい」とか「美味しい食事も付随するサービスも要らないからとにかく安く済ませたい」など人によって様々なニーズがありますが、皆さんはいかがでしょうか?そこで本日は参考までに当院の入院生活の特徴とそこに込める想いについてご紹介させていただきます。

当院の産後ケアに対する考え方

妊娠、出産は言うまでもなく体力的にも精神的にも妊婦さんに大きな負担がかかるイベントです。さらには出産前は意外に意識されていないことも多いですが、それに続く子育てもまた大変な作業です。そして、その出産と育児を繋ぐのが産後の入院期間です。それを踏まえて当院では、せめて産後の入院中に産婦さんの肉体・精神両面での体力をできるだけ回復させた状態で家にお帰しできるよう、以下のような取り組みをしています。

全室個室

相部屋だと赤ちゃんの泣き声や物音、においなどが気になったり気を遣ったり遣われたりしてしまいますが、当院は全室個室のため他の患者さんに気兼ねすることなくご自身のペースで入院生活を送っていただくことができます。また、現在では少しずつですが面会も解禁しているので病院に会いに来られたご家族とも周りを気にすることなく過ごしていただけます。

アロマサービス

当院では高い技術を持ったセラピストによるアロママッサージのサービスを産前から分娩中、産後まで提供しています。当院のセラピストが厳選した高品質なアロマオイルにより疲労した妊婦さんの回復が少しでも後押しできるようにオプションサービスを含むアロママッサージやシッツバスなどをご用意しています。また、上記の通り全室個室のためお部屋に用意したディフューザーで好みの香りでリラックスできるのも特徴です。

夜間の赤ちゃん預かり

産科施設や医療者によって様々な考え方がありますが、当院では産婦さんのご希望がなければ無理に24時間同室をお願いしてはいません。できるだけ母児を分離しない方が良いという考えもありそれ自体に反対はしませんが、当院としては家に帰るまではできるだけ気力体力を回復してほしいという想いから夜間等はナースステーションでお預かりするようにしています。ちなみにお預かりしている間はスタッフによる粉ミルクでの授乳になります。

アメニティーサービス

そのほか、シャワー室のシャンプーやコンディショナー、ボディーソープにJohn Masters OrganicやAesopなど日常的に使うにはちょっと高級なものを揃えたり、ダイソンのドライヤーを置いたりしてお産で傷んだ髪のコンディションを整えてもらえるようにしています。また、授乳中は頻繁に小腹が空きますが、好きな時につまんでいただけるようにラウンジに軽食やお菓子、飲み物をご用意しています。

まとめ

本日は当院の入院環境の一部をご紹介させていただきました。他にもスタッフみんなで話し合って用意したサービスがありますので、是非ホームページもご覧いただければと思います。繰り返しになりますが、にしじまクリニックはエビデンスに基づいた医療提供をベースにしながらも、産後のお母さんたちに可能な限り妊娠出産によるダメージを回復して元気に育児を始めていただけるように入院環境を整備しています。妊娠を契機に当院を受診してくださった患者さんには院内見学もご案内していますので、皆さんにとって快適に過ごせそうな空間かどうかを是非ご自身の目で確認してみてください。

にしじまクリニックの医療安全

こんにちは、副院長の石田です。

予防にしても治療にしても、患者さんに効率的に医療サービスを提供し、できるだけ健康な状態を保つことが我々医療者にとって最も大切なミッションですが、そのための最重要課題の一つが医療安全です。分かりやすく言うと医療ミスが起こらないように、あるいは万が一起こってしまったとしても健康被害に及ぶ前に食い止めるようなシステムを作ることが求められるわけですが、これらの取り組みは施設ごとにちゃんとされているかどうかが外部からは見えにくく、そのため病院選びの判断材料として使いづらいのが現状です。そこで本日は当院で行なっている医療安全の取り組みを一部ご紹介したいと思います。

チームステップス

「医療チームのコミュニケーションが円滑に行われているか」は医療安全のレベルを担保する最も重要な要素の一つと考えられていますが、実際医療事故に関する多くの研究において、コミュニケーションやチームワークの欠如が医療事故の主原因であると結論づけられています 1)。そのため当院では院長主導でチームステップス(Team STEPPS®︎)を導入し、組織として医療安全の質を高め続けています。
チームステップスとはTeam Strategies and Tool to Enhance Performance and Patient Safety(医療の成果と患者安全を高めるためのチーム戦略と方法)の頭文字を取った名称で、米国の医療研究・品質調査機構(AHRQ)が開発したツールです。詳細は院長の記事を読んでいただければと思いますが、医療チームを患者さんとそのご家族とそれを下で支える医療者という形でとらえながら、(患者さんを含めた)チームメンバー全員が相互に効果的なコミュニケーションを行うことで患者さんにとって最適な医療を提供できるようにする取り組みです。チームステップスはエビデンスに基づいて医療の効率と安全を最大化するための重要なシステムと考えられています 1)。

救急対応技術

当院では院長をはじめ複数のスタッフがインストラクター資格を保持した上で、医師、助産師、看護師などの医療職が新生児蘇生法(NCPR)のコースを、医師および助産師が周産期救命(ALSO)のコースを修了しています。また、医療資格を保持していない看護助手や医療事務員もアメリカ心臓協会公認の一次救命コース(BLS)を修了、技術習得しており、これにより院内で患者さんが深刻な状態に陥ってもスタッフ全員が何かしらの形で対応に携われる体制を構築しています。さらには定期的に公認・非公認問わずスキルアップ訓練を繰り返すことで知識と技術の質が保たれるよう取り組んでいます。

まとめ

本日は当院での取り組みの一部をご紹介いたしました。一般的にクリニックは資源が潤沢な大病院と比べて医療安全の点で遅れをとることが多いかもしれませんが、当院ではむしろ小さな組織におけるフットワークの軽さを強みとして妥協することなく医療安全に向き合っています。上記以外にも月に一度の医療安全会議や、毎朝始業前のミーティングでの情報共有と短時間の勉強会など、スタッフの意識共有が持続的に行われることでにしじまクリニックを受診される患者さんたちが安心して医療を受けられるよう日々努力しています。

1) Agency for Healthcare Research and Quality: https://www.ahrq.gov/teamstepps/index.html

妊娠と麻疹(はしか)

こんにちは、副院長の石田です。

先日、「都内で3年ぶりに麻疹患者確認!」というセンセーショナルな見出しがニュースに出ましたが、それを受けて不安を感じた妊婦さんたちから「かかっても大丈夫ですか?」という質問をいただきます。もちろん感染症は病気なので「大丈夫」ということはないのですが、具体的にどんなことが心配なのかについて解説したいと思います。

麻疹とはどんな病気なのか?

麻疹はウイルスによって引き起こされる全身感染症です。主に空気感染によって伝播して行きますが、その感染力は数ある感染症の中でも最強クラスで基本再生産数(R0)はCOVID-19やインフルエンザが3〜4くらいなのに対して麻疹は15前後と「同じ空気を吸うだけで感染する」「すれ違っただけで感染する」と描写されるくらいにとても高いです。感染が成立すると幅はあるもののおおよそ2週間前後で発熱、倦怠感、咳、結膜炎などで発症し、続いて発疹が見られるのが特徴です 1)2)。そう書くとなんだか普通の風邪っぽい印象になるかもしれませんが、実際の症状はかなり強いようで肺炎や脳脊髄炎などに移行して重症化することもあり、2018年には世界でも14万人以上の人が麻疹のために亡くなったということです。決定的な特効薬は存在しないためワクチンによる予防が対策の鍵となります。

妊娠と麻疹

三日ばしかと呼ばれることもある風疹と混同されることもありますが、母体に感染すると胎児に難聴、失明、心疾患などといった影響を及ぼす風疹と違って先天奇形との因果関係は指摘されていません。その一方で感染した妊婦が重症化しやすかったり、流早産や子宮内胎児死亡や母体死亡のリスクが高いとされています 3)。その他、胎児が子宮内感染し出生後に発症する先天性麻疹という病態もありますが、それが懸念される場合には別途特別な対応を行うこととなります。

まとめ

本日は妊娠と麻疹について超簡単にお話ししました。麻疹はそれ自体が非常に強い感染力と症状がありますが、妊娠という免疫機能が控えめになった状況と合わさるとさらにリスクが上がります。そうそう流行するものでもありませんがその一方で定期的に話題になるのも事実ですので、ワクチン以外の対策が難しい感染症ではあるものの妊婦さんにおかれましては感染防御に、またご家族に関してはできるだけ持ち込まないようにワクチン接種を含めて心がけていただければと思います。

1) Richardson M, et al. Pediatr Infect Dis J. 2001;20(4):380
2) Hubschen JM, et al. Lancet. 2022;399(10325):678
3) Ogbuanu IU, et al. Clin Infect Dis. 2014 Apr;58(8):1086-92

お腹の赤ちゃんに臍の緒が巻いているか心配になった時に読む話

こんにちは、副院長の石田です。

臨月も近くなり、いよいよお産を意識し始めると気になってくるのが「臍の緒が赤ちゃんの首に巻きついていたらどうしよう?」という心配です。実際、少なくない妊婦さんに「うちの子、大丈夫ですか?」と聞かれるので、本日はこの件について解説したいと思います。

臍の緒が首に巻きついているとどうなるのか?

結論から言うと赤ちゃんへの影響はあまり考えなくて良いようです。首に臍帯が巻きついている場合は出生直後の赤ちゃんの元気度を表すアプガースコアが低くなる傾向があるようですが、一方で胎児死亡や新生児集中治療室への入院率は上昇しなさそうと言うことで、それが深刻な状況に発展することはほとんどないようです 1)2)。また、分娩中に胎児心拍異常の出現率が上がるかもしれないと考えられている一方で、諸説あるものの脳性麻痺を含む神経障害などの発生に関しては「明らかな影響はなさそう」というのが多数派の見解のようです 2)3)4)。

当院での対応

上記の通り出生直後の赤ちゃんの立ち上がりが悪くなる可能性があること、エビデンスは定かではないものの分娩の最後に少し引っ張られて出にくくなることがある印象から、念のため当院では37週の妊婦健診時に首への臍帯巻絡がないかどうかチェックして記録に残してスタッフ間で情報共有しています。ただ、医学的にはそれが赤ちゃんの予後に大きな影響を与える可能性は低いこと、そうは言っても「臍帯が赤ちゃんの首に巻いていますよ」と聞くと必要以上に妊婦さんとご家族を心配させてしまう可能性が高いことから積極的にお伝えしてはいません。一方で内緒にしているわけでもないので、その際に聞かれれば正直にお答えもしています。

まとめ

ということで本日は臍帯巻絡についてお話ししてみました。我が子の首がロープのようなもので絞められていると想像するとちょっと怖い気もしますが、実は20%程度の赤ちゃんに臍帯巻絡は見られるとされており、そんなに珍しいものでもありません 1)。日本産婦人科医会のウェブサイトでも「心配しすぎないで大丈夫ですよ」と案内されていますが、実臨床の経験としてもほとんどの赤ちゃんは問題なく生まれてくるので安心していただいて大丈夫です 5)。ただ、「それでも気になるから知っておきたい!」という妊婦さんもいらっしゃることと思いますので、気になる時には超音波検査中に遠慮なく院長や私に聞いてみてください。

1) Dexter J L Hayes, et al. PLoS One. 2020 Sep 24;15(9):e0239630
2) Eyal Sheiner, et al. Arch Gynecol Obstet. 2006 May;274(2):81-3
3) Gutvirtz G, et al. Early Hum Dev. 2019;133:1
4) Ogueh O, et al. Acta Obstet Gynecol Scand. 2006;85(7):810
5) 日本産婦人科医会. 女性の健康Q&A: https://www.jaog.or.jp/qa/confinement/200819/