児娩出のタイミング

「会陰切開はしてほしくない」、「吸引・鉗子分娩を行ったら児に障害が残らないか」

もちろん分娩の進行・胎児の状態に問題がなければ上記の医療介入は行いませんが、必要なタイミングを逃してしまうと、それこそ分娩後母児に影響を及ぼしてしまう可能性があります。

今回は児娩出のタイミングについて述べたいと思います。

ALSO資料から

児の娩出のタイミング判断はCTGによる胎児心拍パターンを確認(産婦人科診療ガイドラインの準拠した波形レベル分類を評価)し、なおかつその時児におかれた状況を臍帯動脈の血液ガスのpHで推定することまで行うのが良いと考えます。

分娩直後の臍帯動脈血液ガス分析結果は、分娩前・分娩中の胎児の血液酸素化状況を反映するのです。

鮫島浩先生がまとめた上の表から、例えば「基線細変動(交感神経と副交感神経の協関作用の生理的な揺らぎ)の減少を認めれば、pHは 7.2あたり」ということになります。

臍帯動脈のpHが7未満であれば、新生児は低体温療法の適応となります。もちろんそうなる前に児の娩出が行われるべきで、そこで医療介入の必要性が生じます。

分娩直前なのにも関わらず児の娩出が困難な場合の胎児アシドーシス・pHを関係する明らかなデータはおそらくないと思われますが、肩甲難産では、児のpermanentな中枢神経を起こすリスク時間は5〜7分を超える場合に起きると言われています1)。この数値は会陰の閉塞によって児を娩出するのが困難(胎児心拍パターンが悪化しているのに会陰の伸展が不良で児の娩出に時間を要する)症例でも当てはまると思われます。

医師および助産師は分娩の際、分娩介助だけに目を向けるのではなく、胎児心拍パターンやその時の臍帯動脈のpHを推定し、適切な児の娩出のタイミングをはかるために「状況モニター」を行うことは重要です。

会陰切開や吸引・鉗子分娩はルーティーンで行うことはありません。担当医師からこれらを行うお話があった時は、分娩状況が切迫している状態であるとご理解いただければと思います。

参考文献

1) ALSO Iテキスト

文責 院長

コンドームの性病予防効果

こんにちは、副院長の石田です。

コンドームというと、一般的には避妊具としての認識が強いかと思います。しかしコンドーム自体の避妊効果は数ある避妊法の中でも実はそれほど高くありません。むしろ医学的にはコンドームは性病予防としての役割が大きいと考えられており、避妊はピルや子宮内避妊具などで行うのことを推奨されています。しかし、コンドームが性病予防に有用であるということはご存知の方が多いとは思いますが、実際にどのくらい性病を防いでくれるかは具体的にイメージのない人も多いと思います。そこで本日はコンドームにどのくらいの感染症予防効果があるかをお話ししたいと思います。

コンドームが性病予防に有効である理由

HIVやクラミジア、淋病、梅毒など性病には様々ありますが、その多くが接触により感染します。具体的には皮膚や粘膜に触れたり、精液や膣分泌、血液といった体液に暴露が感染の原因となりますが、コンドームは特にリスクとなる腟内や直腸内への陰茎挿入による直接接触を妨げることができるため感染予防効果があると考えられています。

どのくらい感染予防効果が期待できるのか

では、コンドームを使用することで実際にどのくらい感染リスクを低下させることができるのでしょうか?まず、性病の中でも最も恐れられているHIVで見てみると、性接触の形式(口腔、腟、直腸など)によってリスクの度合いも変わりますが、概ね80〜90%のリスク低減効果があるとされています 1)2)。また、2003年に出された南米の女性セックスワーカーを対象にした研究によると、コンドームを毎回着用していた場合は淋病に関しては62%、クラミジアに関しては26%の感染防御効果が見られたということでした 3)。コンドームはその他にも梅毒、ヘルペス、腟トリコモナスなど多くの性感染症に対して予防効果があるというデータがたくさん出ているため、いずれにしても性交渉を行う場合はほかの避妊法を使用しているかどうかに関わらず使っていただいた方が良いことが分かります 4)5)6)。

まとめ

というわけで本日はみんなコンドームを使ってねというお話でした。上で何%予防効果がありますよとお伝えしたものの、実はこの数字には報告によってだいぶブレがあります。というのも、データ収集にあたり本当にコンドームを使用していたか、正しい使用方法を用いていたか、性行動がハイリスクかローリスクかなど数字に影響する不確実な変数が多く介在するので正確な評価がとても難しいからなんですね。ただ、このブログを読んでいただいた皆さんにおかれましては、「コンドームには小さくない性感染症の予防効果があるんだ」ということが伝われば幸いです。性感染症は時として不妊の原因になったり命に関わる合併症を引き起こしたりと人生設計を大きく変えてしまうインパクトのある病気です。特に性行動のリスクが高く、パートナーが不特定多数になりがちな若い人たちは自分を守るためにもコンドームを使うようにしましょう。

1) Weller S, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2002;(1): CD003255.
2) Davis KR, et al. Fam Plann Perspect. 1999;31(6):272
3) Jorge Sanchez, et al. Sex Transm Dis. 2003 Apr;30(4):273-9
4) King K. Holmes, et al. Bull World Health Organ. 2004 Jun;82(6):454-61
5) Richard A Crosby, et al. Sex Transm Infect. 2012 Nov;88(7):484-9
6) CDC. MMWR Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021 Jul;70(4)

新生児黄疸について

こんにちは、副院長の石田です。

赤ちゃんは生後数日以内に、黄疸といって皮膚が黄色くなってくることが多いです。人種や生まれた週数など様々な要因にも左右されますが、おおよそ70%前後の赤ちゃんが見た目で黄疸が確認されるというデータもあり、実際たくさんのご家族が生まれてきた赤ちゃんが黄色くなるのを確認されていると思います 1)。それでも多くの場合で自然に治まってきますが、一部の赤ちゃんには黄疸に対する治療が必要となることもありご両親が不安になってしまうことも多いので、本日は新生児黄疸について少し解説していきたいと思います。

なんで新生児は黄疸になりやすいのか

赤ちゃんは生まれるまでの間、胎盤を介してお母さんから酸素や栄養を分けてもらいます。しかし、実際にお母さんから回ってくる酸素量は自分で呼吸している我々の半分以下です。そこで胎児は赤血球という酸素を身体中に運ぶ血液細胞を大量に作り出すことでより効率的に酸素を運搬するよう工夫しているんですね。しかし出産が無事に終わって自分で呼吸するようになるとそこまでの赤血球は必要なくなるので余った分を壊して廃棄するようになります。この過程で出る廃棄物がビリルビンという物質です。ビリルビンはその後肝臓に運ばれて適切に処理され、腸に排出された後にうんちと一緒に体外に排出されることになります。赤ちゃんが黄疸になりやすいのは出生後に大量の赤血球を廃棄するためビリルビンがたくさん作られること、それに加えて処理工場である肝臓の機能が未熟なため排泄工程もモタつくことが原因なんですね 2)。

黄疸が強くなりすぎたら

上記の通り、黄疸が見られるのは赤ちゃんが外の世界に順応するのに辿る通常の体の変化によるものであり、基本的には自然に治まるので心配ないことがほとんどです。しかし想定以上にビリルビンが体内に溜まりすぎると核黄疸といって治療不可能な損傷を脳に引き起こすことがあるため適切なモニタリングと必要に応じた治療介入が肝心です。通常の検査は赤ちゃんの皮膚に押しつけるだけの器械を使って皮下組織の黄疸を計測するので痛くありませんが、その数値が高く出る場合は採血で実測します。実測値が高い場合には治療を開始しますが、ほとんどは光線療法といって裸の赤ちゃんに1日特殊な光線を当てるだけで問題なく改善しますので入院は必要ですがやはり赤ちゃんは痛くありません。ただ、ごく一部の赤ちゃんで黄疸の数値が非常に高くなることがあり、その場合は交換輸血という新生児科による特別な処置が必要になります。
たまに勉強熱心なご両親から「家でも日光に当てといた方が良いですか?」「母乳は控えた方が良いでしょうか?」などのご質問をいただくこともありますが、日光に当てることによる日焼けや体温上昇、脱水などの心配や、母乳を控えることで本来得るべき大きなメリットを逃してしまうリスクがありますので赤ちゃんの黄疸が強くなってきたからといってご自宅で何かしようというのはあまりお勧めしていません。

まとめ

というわけで本日は新生児黄疸についてでした。上記の通りほとんどの新生児黄疸は生理的なものであり、時間経過とともに勝手に良くなるかあるいは治療が必要になっても痛くない簡単な処置で終わる程度なので心配する必要はありません。その一方で黄疸が遷延するなど通常の処置では良くなりにくい場合は、その背後に代謝病や感染症などの基礎疾患が隠れている可能性もあるため精密検査を要することもあります。もし新生児期に赤ちゃんの黄色みが強くなってきたかな?と心配になる時は気軽に分娩施設へご相談ください。

1) Chou RH, et al. Pediatrics, 2003;112:1264-73
2) Ansong-Assoku B, et al. Neonatal Jaundice. StatPearls. 2022

ALSOとは

皆さん、あけましておめでとうございます。2023年もどうぞよろしくお願いします。

おかげさまで小生が院長を引き継いでから、分娩件数は

2019年:552件

2020年:573件

2021年:627件

2022年:654件

と増加しております。これはスタッフ全員が高いモチベーションで診療とサービスを行なってくれており、その価値を妊婦さんらが見い出していただいている結果と考えています。スタッフにも患者様にも改めて感謝いたします。

月によっては分娩予約数が予想を超え制限させていただくこともございます。安心・安全の医療の提供のためご理解いただければと思います。

今回は、私がにしじまクリニックの今後の成長要素を捉えている”ALSO”についてお話しします。

ALSO(Advanced Life Support in Obstetrics)とは、医師やその他医療従事者が、周産期における救急事象に効果的に対処できる知識や能力を発展・維持するための教育コースのことをさします。米国家庭医学会によって認可され、現在アメリカではほとんどの分娩施設において分娩に関わる医療従事者がALSOの受講を義務づけられています。

成人の心肺蘇生はBLS/ACLS、小児の初療はPALS、産婦人科診療はALSOという大まかな位置付けでとらえていただくのがよいかと思います。

ALSOはLDRにおける産科の救急的対処できるようなプログラムがあるのはもちろんのこと、その他に出産前のリスク評価、妊娠初期の性器出血、患者と医師の関係、出産危機における両親のサポート、そして医療過誤リスクの減少といったテーマも含まれています。最近ではALSO-Japanでは患者安全とチームパフォーマンスの向上をはかるため”チームSTEPPS”をプログラムに取り入れているのも特徴です。

昨年12月にALSOのインストラクターの認定をいただけることになりました。名簿上、埼玉県内の医師として2番目の認定となります。今後私は埼玉南西部エリアの周産期診療の向上を目指します。当院スタッフの能力向上の目的はもちろんのこと、エリア内の他産科施設とより良い相乗効果を生むためにALSOを活用させていただくつもりです。

これは私と当院の今後20年の成長戦略として第1段階になります。ぜひともご賛同いただければ幸いです。

文責 院長

子供に読みながら親の英語の勉強にもなる絵本

こんにちは、副院長の石田です。

小さい子供の教育に必要なのはなんといっても絵本です。以前このブログでも読み聞かせの効果をご紹介したことがありますが、「食べ物は体の栄養、絵本は心の栄養」ということで是非お父さんお母さんにはお子さんと絵本を読む時間をとっていただきたいと思っています。

さて、そうは言ってもただ絵本読んであげるだけではもったいないということで、本日は私の完全な主観をもちましてお子さんも読んでもらって楽しい、しかも親の英語にスキルアップにもなる素敵な絵本をご紹介したいと思います。(以下、本のタイトルをAmazonのリンクにしてあります。)

Guess How Much I Love You

大小2匹のウサギの掛け合いで進んでいくお話で、「どんなにきみがすきだかあててごらん」という邦題で日本語版が出ています。とても有名な絵本なのでご存知の方も多いと思いますが、ウサギたちがお互いに相手のことをどのくらい大好きか表現し合う心温まる作品です。チビウサギが先に「好き」の大きさを示すのですが、体が大きい上に後攻のデカウサギが確実に上回る形で被せてくるのでチビウサギは「好き」をどんどんインフレさせていきます。その素直で必死な感じと、デカウサギの少しからかいながらも優しい雰囲気は多くの読者にとって親子の会話のようにうつることでしょう。読み終わった後にウサギたちと同じように親子で「好き」を見せ合うのも幸せな時間ですし、読後感も心地よい絵本だと思います。英語でいうと、タイトルにもなっている”Guess how much + SVO”という表現や作中に出てくる”I love you this much.”(こんなにきみのことが好きだよ)という文は丸暗記しても日常会話で応用しやすいかもしれませんね。日本語版を読んだことがある人が多いため、英語で読んでも大人も子供も内容が入ってきやすいおすすめの絵本です。

Don’t Let the Pigeon Drive the Bus!

Mo Willemsという作家のThe pigeonという絵本シリーズの一冊です。はじめにバスの運転手が読者に対して「ぼくはちょっと離れるけど、その間バスを見ていてくれないか?特にハトさんにだけは絶対に運転させないでくれよな」と言い残して去っていきます。するとそこにハトさんがやってきて読者に「ぼくにバスを運転させてくれない?」とお願いします。絶対に気をつけるから、お金をあげるから、きっときみのママならいいって言うと思うよ、などあの手この手で交渉してくるハトさんから、お子さんは運転手が戻ってくるまでNO!と言い続けられるでしょうか?
この絵本の面白いところは、普段は自分の欲求を通すべく親に交渉する(ハトさん側の立場である)子供たちが親の立場になってダメ(NO!)と言い続ける体験ができることです。絵本なのに登場キャラであるハトさんと読者が対話できるようになっているのも画期的ですよね。作中の英語表現で言うと、日常会話でもよく使用する教科書的な構文から、”five bucks”(5ドル。版によっては”fiver”になっているかも。)、”at the wheel”(運転中)といった学校ではあまり習わないけど慣習的によく使われる口語表現なども出てくるので大人も楽しく学べる一冊だと思います。このシリーズはどれもすごく面白いので、もし気に入った方は是非ほかの絵本も読んでみてください。

まとめ

というわけで本日は子供も読んでもらって楽しい、親も勉強になる英語の絵本のご紹介でした。私の子供二人が小さい頃は、これらの絵本を日本語に訳して読み聞かせていました。簡単な英語ではありますが、その場で日本語に訳しながら読むのは結構頭を使うため脳トレ的に楽しんでいたのを思い出します。子供に絵本を読んであげる作業は意外に重労働ではありますが、皆さんも是非色々な形でその時間を楽しんでみてください。