妊娠中のこむらがえり

妊娠中によく経験される『こむらがえり』について本日はお話しします。

妊娠により子宮は横隔膜を押し上げます。その分代償性に胸郭の前後径が拡大するので肺活量の変化はありませんが、妊娠による基礎代謝量の増加により非妊娠時に比べ酸素消費量は増大します。

そうなると妊婦さんは換気量が増加する必要があり、就寝時、夜間は過換気になりやすく、呼吸性アルカローシスとよばれる状態になり血中のカルシウムが低下傾向をきたし、こむらがえりを起こしやすくなります。

また妊娠により下肢の筋肉および靭帯の過伸展が、ひいては筋肉の過剰収縮をも引き起こします。

こむらがえりの予防および対処法としては

・カルシウムの摂取する

・長時間の座位を避ける

・就寝前にも水分摂取を心がけ、芍薬甘草湯を内服する

ことを私の外来では妊婦さんへよくアドバイスしています。

妊娠中はほぼ全ての妊婦さんは血中のカルシウムが低くなる傾向にあるので、妊娠初期からサプリメントなどで積極的にカルシウムを摂っていただくことをお勧めします。

(エレビットは1日分としてカルシウム125mg)

前回妊娠時に妊娠高血圧症候群となった方は1日約1.5g相当のカルシウムを摂取されても構いません。カルシウムの摂取は妊娠高血圧症候群の予防の一つとされています。

漢方の『芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)』は筋肉組織細胞のイオンバランス(カルシウムイオンとカリウムイオン)を正常化に導くことで過剰な神経伝達を遮断し、筋肉の過剰収縮を抑えることができます。

カルシウム製剤も芍薬甘草湯も処方が可能ですので、こむらがえりが気になる方は外来でぜひご相談してください。

今年のブログはこれで最後となり、次回のブログは来年1月4日(月)に予定しております。

私がにしじまクリニックで仕事を専念するようになって約5年が経過しました。おかげさまで分娩件数、外来患者数ともに右肩上がりの状態となっています。今年はコロナ禍にもかかわらず多くのご支持をいただき、本当にありがとうございました。叱咤激励をいただきながら、患者様のために、スタッフのために私が何ができるを考え続け、少しずつではありますが『にしじまクリニック』を重ねてアップデートし続けてまいります。まだまだ伸びしろのある当院です。来年もよろしくお願い申し上げます。

院長 西島翔太

妊娠と下肢静脈瘤

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠すると女性の体は様々に変化しますが、その一つとして悩みの種になるのが下肢静脈瘤です。脚の静脈がボコボコと腫れて蛇行するため見た目も穏やかではありませんが、その他痛み、足のつり、しびれ、だるさなどたくさんの症状を出します。日本人向けの調査ではありませんが、40%近い妊婦さんが静脈瘤にかかるというデータもあるほどありふれた疾患となっています 1) 。今日も外来でご相談を受けましたので今回は下肢静脈瘤についてお話ししたいと思います。

なんで妊娠すると静脈瘤ができるのか

これには色々と理由があります。例えば妊娠に関連して分泌されるホルモンが体の血管の中にある筋肉をゆるふわにするためとか、体の血液量が増加するためだとか、大きくなる子宮が骨盤内の静脈を圧迫するために下肢の静脈がうっ血するためなどです。実際赤ちゃんが生まれてこれらの要因が消えると、ほとんどの女性は下肢静脈瘤の悩みからも解放されます。

リスクファクター

どんな女性が妊娠中の下肢静脈瘤のリスクファクターに関する研究によると、経産婦さん、日々の生活で立ち仕事が多い人、身長165cm以上、BMI 23超え、または元々静脈疾患を持っている人などがこの疾患にかかりやすいということでした 2) 。

予防と治療

静脈瘤の原因が妊娠にあるために予防が難しく、肥満がある場合は生活習慣を改善するなど限定的な対策しか取れないのが実情です。実際に静脈瘤を発症してしまった場合には長い立ち仕事を避ける、座る時や寝る時に足を上げるように心がける、着圧ストッキングを身につけるといった対策を取ることになります。ルチンというお蕎麦にたくさん含まれる成分が良いかもという研究があったりリフレクソロジーや入浴が良いような話もあるようですが、いずれもデータとしては弱く確実性には乏しいようです 3) 。

というわけで打つ手が限られており妊娠中はあの手この手でやり過ごすしかないというのが現状です。解決法を求めてこの記事に辿り着いた方におかれましてはお力になれなくて申し訳ございません。ただ、上記の通りでほとんどの静脈瘤はお産後にとても良くなります。それまではご自身でも色々と試してみてください。そして、何かいいのがあったら是非教えてください。

1) National Clinical Guideline Center (UK). ; 2013 Jul. (NICE Clinical Guidelines, No 168.) 11, Pregnancy

2) Shiksha Sharma, et al. IOSR-JBB; 3(4): 28-30

3) Cochrane Database Syst Rev. 2015 Ot 19; (10): CD001066

疼痛管理にマルチモーダルな処方を

帝王切開において心配な事といえば、『術後の痛み』ではないでしょうか。

早速ではありますが、国境なき医師団の産科マニュアル本「Essential obstetric and newborn care」から帝王切開術後の疼痛管理を日本語にしてまとめてみましたのでご覧ください。

麻薬類似薬(非麻薬性オピオイド)、非ステロイド性鎮痛薬(NSAIDs)、アセトアミノフェンと幅広く痛み止めが用いられているのがお分かりいただけるでしょうか。これをマルチモーダル(multimodal)な、いわば様々な鎮痛薬を使ってできるだけ痛みを抑える仕方がワールドスタンダードなオーダーとなります。にしじまクリニックの帝王切開術後管理も上記の表に準じています。

様々な薬剤を用いるとお母さんにとって心配になるのが

「赤ちゃんに授乳しているけど大丈夫か」、という事です。これはまず『RID』値が参考になります。

RID(相対的乳児投与量)が10%未満であれば、児が摂取することになる薬剤の用量は少ない、と捉える事ができ、よって児に悪影響が及ぶような用量を摂取することにはならないとされています。例えばNSAIDsであれば

・イブプロフェンやロキソプロフェンのプロピオン酸系NSAIDs:0.1 〜0.7%

の値で、授乳中にこれらの鎮痛薬を使用しても適切なオーダーを受けていれば問題ありません。

また、NSAIDsの血中半減期で考えても

イブプロフェンは2時間、ロキソプロフェンにいたっては1.3時間と短い半減期である事もお伝えしておきます。

NSAIDsはプロスタグランジンの合成を阻害する作用を利用し、あるNSAID薬では動脈管開存症の治療に用いられます。成熟児であれば生後数日で動脈管は自然に閉鎖するものなので、分娩退院後にNSAIDsを再度服用するのはこの事象についても赤ちゃんに問題になることはまずありません。

「妊娠と授乳(南産堂)」でもロキソプロフェン(ロキソニン®︎)を含めほぼ全てのNSAIDsが授乳における総合評価は『安全』となっていますし、

国立成育医療研究センターホームページにも『授乳中に安全に使用できると考えられる薬』としてロキソニン®︎など、しっかりと掲載されています。

https://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/druglist_aiu.html

むしろ産後に痛みがあり、我慢してご自身の体調が悪化してしまう方がマズイと私院長は考えます。

ただし、NSAIDsは喘息をお持ちの方には使えない場合もあり、家に手持ちの鎮痛薬があるからご自身の判断で飲む、ということは避けていただきたいです。また調剤薬局での薬剤師によっては産婦人科の処方に慣れていなくて意見の違うアドバイスがある事もありますから、一度かかりつけの産婦人科に相談するのが良いでしょう。

鎮痛薬に限らず、もし授乳中の方でお薬の内服で心配なことがございましたら、相談をお受けします。忙しくて来院が難しい場合は当院のオンライン診療をご活用ください。

参考文献;

妊娠と薬の使い方; 日本医師会雑誌2019年5月

分娩と麻酔. No.100, 2018. 11

今日の治療薬

赤ちゃんの性別

こんにちは、副院長の石田です。

妊婦さんとそのご家族にとって赤ちゃんの性別は楽しみなことの1つです。超音波検査だと妊娠10週台中盤以降で判断しやすくなってくるため17週前後くらいで健診に来てくださった方に関しては「性別知りたいですか?」と伺うようにしていますが、実際に知らせると悲喜こもごもといった方もいらっしゃいます。本日はそんな性別判断の検査についてです。

性別の決定は難しい

性別を超音波で判断するのは実は結構難しいです。お股がきれいに写せるかどうかは赤ちゃんの姿勢やへその緒の場所なんかにも左右されますし、男の子の場合はおちんちんがあるので分かりやすいですが、女の子の場合は無いものを無いと言い切るのが結構チャレンジングです。以前勤めていた別の病院では、妊娠中にご両親が外来担当医から女の子と聞いていたのに産まれたら男の子だったということが1回だけありました。100%で決めるには羊水を採取して染色体検査をするのが確実ですが、性別のためだけにそこまでする人は見たことがありません。

性別確定のための新テスト

そんな感じで日本では我々産婦人科医が頑張って赤ちゃんのお股を映すわけですが、実は海外では妊娠7週くらいから性別が分かる検査があります。お母さんの血液中に混ざっている赤ちゃんの遺伝子(cell free DNA)を調べることによって性別を判定するという方法で、2010年にオランダのチームが約200人の妊婦さんを検査したところ100%正確だったとした論文を出しました 1) 。ロイターやThe New York Timesなどでこのことが記事になったのもその頃で、その後欧米では割とお馴染みになりつつあるのかざっと見ただけでもいくつかの検査会社がウェブサイトで案内を出していました。実際には妊娠9〜10週以降で受けていることが多そうですが、例えばPrenatal Genetics Centerというところだと$290で検査ができ、結果も7営業日で報告してくれるそうです 2) 。(オプションで3日で検査結果を出してくれる迅速サービスもあるみたいです。)また、驚くことに通販を利用して自宅で簡単に検査できるようなキットを販売しているSneak Peekという会社もありました 3) 。こちらはなんと$79です。

そんなに早く性別が分かる必要があるのか

「性別なんて気になるけどそんなに早く知らなくてもいいんじゃない?」という人がほとんどかと思います。実際ほとんどのご家族にとって性別は興味があることではあるものの、それ自体が何かの決断を左右することはまずありません。しかし、ほんの少数のご家族にとってはできるだけ早く性別を確認することは医学的に重要な意味を持つことがあります。

赤ちゃんの先天性疾患の中には遺伝子は引き継がれるけど実際に病気が発症するのは男の子だけということがあります。具体的には血友病、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、無ガンマグロブリン血症などです。また、先天性副腎過形成という病気の場合は胎児が女の子だと性器が男性化することがあります。この病気では妊娠成立後早期に妊婦さんへステロイド治療を開始することで赤ちゃんの症状が軽快する可能性があり、前述の先天性疾患も含めてこれらの場合にはできるだけ早く性別が分かることには様々な意思決定のためにも意味があると言えるのかもしれません。

まとめ

赤ちゃんの性別を知ることはほとんどの家族にとってとても楽しみなことです。赤ちゃんの身の回りの品を買いそろえたり、名前を考えたりするのはワクワクしますが、その一方で医学的に気にしている人たちもいらっしゃるんですね。ちなみに我々産婦人科医は毎回にこやかにエコーをしていますが実は結構真剣におちんちんの有無を確認しています。それでも見えないこともごく稀にありますが、もし万が一赤ちゃんの実際の性別がエコー結果と違ってもどうか笑顔で許してやってください。幸いまだそういった経験は1回も無いけど。

1) Schaffer PG, et al. Obstet Gynecol 2010; 115(1): 117-26

2) https://www.prenatalgeneticscenter.com/prenatal-baby-gender-test.html

3) https://sneakpeektest.com

妊娠週数と分娩予定日はどのように決めるのか

・最終月経初日から280日目を分娩予定日とします。ただしこれは月経周期が不規則な人には当てはめることはできません。

予定日の簡便な計算方法として『Nagale(ネーゲル)の分娩予定概算法』が有名で、

最終月経日の月数+9

最終月経初日+7

で予定月日がわかります。例えば本日11月16日を最終月経初日とすると、

11(月)+9=20、ちなみにこの場合、1年は12ヶ月なので20−12とし8、

16(日)+7=23

よって8月23日がおおよその予定日となります。

・特定できる排卵日や胚移植日がわかる場合にはそれらの日から起算した予定日を用います。

少しデリケートな話ですが、妊娠が判明した時にパートナーがその前後で変わった場合、役所から推定排卵日の証明を求められる場合があります。離婚後すぐに別パートナーと妊娠した場合は、弁護士にアドバイスを求めることを勧めます。

・妊娠12週未満において、超音波検査での赤ちゃんの頭殿長(CRL〔Crown-Rump Length〕、いわゆる頭からおしりまでの長さ)値から週数および予定日にずれがないか確認します。値に対し、予定日と7日以上のずれがある場合は、CRL値からの予定日を採用します。

・妊娠12週以降と推定される場合は児頭大横径(BPD〔Bi-Parietal Diameter〕、いわゆる頭の横幅の大きさ)で予定日を判定します。妊娠に気づかず、もしくはためらいがあり、通常より遅く産婦人科を受診した場合は、推定体重が計測できる大きさであればBPDと推定体重を計測し、週数に妥当性があるかを判断します。妊娠継続の有無を考える際に大事な要素となるからです。

(院長記載)

参考書;

コンパス産婦人科

産婦人科診療ガイドライン 産科編2020