妊娠中の消化器系の変化

妊娠に伴い、女性ホルモン量の変化により体調の様々な体調変化が生じます。本日は消化器系にフォーカスしたいと思います。

女性ホルモンの一つである黄体ホルモン(プロゲステロン)が増加することにより、

消化器平滑筋が弛緩し、消化管の運動が低下します。

腸の運動機能が低下します。食物の消化管通過時間は延長し、

胃もたれや便秘を引き起こします。

また食道括約筋が緩んで逆流性食道炎を起こしやすくなります。

子宮も平滑筋からできており、プロゲステロンの作用により子宮壁を大きくするため、妊娠子宮は胃を圧迫し、胃内容自体も縮小します。そして大腸をも圧迫し便秘を助長するのです。

これらの症状に加え、妊娠によるホルモン変化から、つわりが妊娠5週〜16週頃まで続きます。妊娠16週頃になるとプロゲステロンの上昇は前に比べて漸増・上昇が緩慢となるので、その頃につわりが落ち着いてくる一つの要因とされています。

上記症状の対策としては、(つわりがある程度落ち着けば)バランスのとれた食事を行います。生活リズムを整え、規則的な時間に食事を摂ることも重要です。

下剤として酸化マグネシウムは腸管内容を軟化し、腸管を刺激して内容を排泄させる効果のある機械的下剤の一種です。適応は便秘症はもちろんのこと、制酸作用があり胃炎に対しても効果があることをお知らせしておきます。

逆流性食道炎に対しては1回の摂取量を少量にして、食事回数を増やす(3食から4分割食にする)ことをお勧めします。

(院長執筆)

睡眠と妊娠しやすさについて

こんにちは、副院長の石田です。

子供2人の寝かしつけをしていると必ず自分が最初に寝てしまいますが、そのお陰でずいぶん健康になってきた気がします。皆さんは良い睡眠が取れていますでしょうか?さて、当院では不妊相談もお受けしていますが、今日は睡眠と妊娠しやすさについての話題です。

そもそも何故人は寝るのか?

実はよく分かっていないそうです。レオナルド・ダ・ヴィンチが「眠りは死に似たものである」と言ったそうですが、その本意はさておき1日の1/3も完全に無防備な状態になることが生物的にリスクなのは間違いありません。それでも寝なくて済む体に進化しなかったということは、それを上回る必要性が睡眠にあるということでしょう。不眠のギネス記録は11日間ということですが、ある程度の時間を過ぎると幻覚や言語障害が出現し、危険な状態になったということです。脳のメンテナンスやホルモンバランスの調整、免疫機能の維持・強化などが睡眠不足により損なわれる可能性が示唆されています。

睡眠と妊娠しやすさには関係があるのか

では、産婦人科のブログということで睡眠と妊孕性(妊娠しやすさ)について何か関係があるか調べてみました。

まず、女性でみると、いくつかの研究で睡眠不足と不妊の因果関係が示唆されていました。睡眠不足により日内リズムが変動するとそれを司る視床下部ー下垂体ー副腎系統に作用し、同じ系統内で制御されている性ホルモンのバランスにも悪影響が出るとか、睡眠不足のストレスにより炎症反応が起こることがメカニズムとして考えられているようです1)2)。

では、男性の方はどうでしょうか?実は男性の睡眠時間が減ることでも夫婦の妊娠率が下がるというデータが出ています。ブラジルのチームによるラットを使用した研究では睡眠不足と精子の質の低下に因果関係が確認されました3)。また、ボストン大学の研究チームの発表では、1176組の夫婦を対象に男性の睡眠時間別に調べてみたところ6時間以下の場合で妊娠率が下がったことが報告されました4)。チームは本研究が必ずしも結論的ではないこと、また妊娠率が下がる原因は不明のままだが、やはり精子の質の低下やホルモンバランスの乱れがこの結果の要因として疑われるとしています。

まずは生活習慣を改善してみましょう

もちろん不妊の原因は様々ですが、睡眠以外にも肥満や喫煙なども妊娠しやすさを妨げる要因として有名です。なかなか赤ちゃんができないなーとお悩みのご夫婦は、試しに生活習慣を見直してみてもよいかもしれません。もちろん最寄りの産婦人科にも気軽にご相談されることをお勧めいたします。

1) Kloss JD, et al. Sleep Med Rev. 2015 Aug; 22: 78-87

2) Nicole D. White, te al. Am J Lifestyle Med. 2016 Jul-Aug; 10(4): 239-241

3) Alvarenga TA, et al. Fertil Steril. 2015 May; 103(5): 1355-62

4) Wise LA, et al. Fertil Steril. 2018 Mar; 109(3): 453-459

妊娠中のこむらがえり

妊娠中によく経験される『こむらがえり』について本日はお話しします。

妊娠により子宮は横隔膜を押し上げます。その分代償性に胸郭の前後径が拡大するので肺活量の変化はありませんが、妊娠による基礎代謝量の増加により非妊娠時に比べ酸素消費量は増大します。

そうなると妊婦さんは換気量が増加する必要があり、就寝時、夜間は過換気になりやすく、呼吸性アルカローシスとよばれる状態になり血中のカルシウムが低下傾向をきたし、こむらがえりを起こしやすくなります。

また妊娠により下肢の筋肉および靭帯の過伸展が、ひいては筋肉の過剰収縮をも引き起こします。

こむらがえりの予防および対処法としては

・カルシウムの摂取する

・長時間の座位を避ける

・就寝前にも水分摂取を心がけ、芍薬甘草湯を内服する

ことを私の外来では妊婦さんへよくアドバイスしています。

妊娠中はほぼ全ての妊婦さんは血中のカルシウムが低くなる傾向にあるので、妊娠初期からサプリメントなどで積極的にカルシウムを摂っていただくことをお勧めします。

(エレビットは1日分としてカルシウム125mg)

前回妊娠時に妊娠高血圧症候群となった方は1日約1.5g相当のカルシウムを摂取されても構いません。カルシウムの摂取は妊娠高血圧症候群の予防の一つとされています。

漢方の『芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)』は筋肉組織細胞のイオンバランス(カルシウムイオンとカリウムイオン)を正常化に導くことで過剰な神経伝達を遮断し、筋肉の過剰収縮を抑えることができます。

カルシウム製剤も芍薬甘草湯も処方が可能ですので、こむらがえりが気になる方は外来でぜひご相談してください。

今年のブログはこれで最後となり、次回のブログは来年1月4日(月)に予定しております。

私がにしじまクリニックで仕事を専念するようになって約5年が経過しました。おかげさまで分娩件数、外来患者数ともに右肩上がりの状態となっています。今年はコロナ禍にもかかわらず多くのご支持をいただき、本当にありがとうございました。叱咤激励をいただきながら、患者様のために、スタッフのために私が何ができるを考え続け、少しずつではありますが『にしじまクリニック』を重ねてアップデートし続けてまいります。まだまだ伸びしろのある当院です。来年もよろしくお願い申し上げます。

院長 西島翔太

妊娠と下肢静脈瘤

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠すると女性の体は様々に変化しますが、その一つとして悩みの種になるのが下肢静脈瘤です。脚の静脈がボコボコと腫れて蛇行するため見た目も穏やかではありませんが、その他痛み、足のつり、しびれ、だるさなどたくさんの症状を出します。日本人向けの調査ではありませんが、40%近い妊婦さんが静脈瘤にかかるというデータもあるほどありふれた疾患となっています 1) 。今日も外来でご相談を受けましたので今回は下肢静脈瘤についてお話ししたいと思います。

なんで妊娠すると静脈瘤ができるのか

これには色々と理由があります。例えば妊娠に関連して分泌されるホルモンが体の血管の中にある筋肉をゆるふわにするためとか、体の血液量が増加するためだとか、大きくなる子宮が骨盤内の静脈を圧迫するために下肢の静脈がうっ血するためなどです。実際赤ちゃんが生まれてこれらの要因が消えると、ほとんどの女性は下肢静脈瘤の悩みからも解放されます。

リスクファクター

どんな女性が妊娠中の下肢静脈瘤のリスクファクターに関する研究によると、経産婦さん、日々の生活で立ち仕事が多い人、身長165cm以上、BMI 23超え、または元々静脈疾患を持っている人などがこの疾患にかかりやすいということでした 2) 。

予防と治療

静脈瘤の原因が妊娠にあるために予防が難しく、肥満がある場合は生活習慣を改善するなど限定的な対策しか取れないのが実情です。実際に静脈瘤を発症してしまった場合には長い立ち仕事を避ける、座る時や寝る時に足を上げるように心がける、着圧ストッキングを身につけるといった対策を取ることになります。ルチンというお蕎麦にたくさん含まれる成分が良いかもという研究があったりリフレクソロジーや入浴が良いような話もあるようですが、いずれもデータとしては弱く確実性には乏しいようです 3) 。

というわけで打つ手が限られており妊娠中はあの手この手でやり過ごすしかないというのが現状です。解決法を求めてこの記事に辿り着いた方におかれましてはお力になれなくて申し訳ございません。ただ、上記の通りでほとんどの静脈瘤はお産後にとても良くなります。それまではご自身でも色々と試してみてください。そして、何かいいのがあったら是非教えてください。

1) National Clinical Guideline Center (UK). ; 2013 Jul. (NICE Clinical Guidelines, No 168.) 11, Pregnancy

2) Shiksha Sharma, et al. IOSR-JBB; 3(4): 28-30

3) Cochrane Database Syst Rev. 2015 Ot 19; (10): CD001066

疼痛管理にマルチモーダルな処方を

帝王切開において心配な事といえば、『術後の痛み』ではないでしょうか。

早速ではありますが、国境なき医師団の産科マニュアル本「Essential obstetric and newborn care」から帝王切開術後の疼痛管理を日本語にしてまとめてみましたのでご覧ください。

麻薬類似薬(非麻薬性オピオイド)、非ステロイド性鎮痛薬(NSAIDs)、アセトアミノフェンと幅広く痛み止めが用いられているのがお分かりいただけるでしょうか。これをマルチモーダル(multimodal)な、いわば様々な鎮痛薬を使ってできるだけ痛みを抑える仕方がワールドスタンダードなオーダーとなります。にしじまクリニックの帝王切開術後管理も上記の表に準じています。

様々な薬剤を用いるとお母さんにとって心配になるのが

「赤ちゃんに授乳しているけど大丈夫か」、という事です。これはまず『RID』値が参考になります。

RID(相対的乳児投与量)が10%未満であれば、児が摂取することになる薬剤の用量は少ない、と捉える事ができ、よって児に悪影響が及ぶような用量を摂取することにはならないとされています。例えばNSAIDsであれば

・イブプロフェンやロキソプロフェンのプロピオン酸系NSAIDs:0.1 〜0.7%

の値で、授乳中にこれらの鎮痛薬を使用しても適切なオーダーを受けていれば問題ありません。

また、NSAIDsの血中半減期で考えても

イブプロフェンは2時間、ロキソプロフェンにいたっては1.3時間と短い半減期である事もお伝えしておきます。

NSAIDsはプロスタグランジンの合成を阻害する作用を利用し、あるNSAID薬では動脈管開存症の治療に用いられます。成熟児であれば生後数日で動脈管は自然に閉鎖するものなので、分娩退院後にNSAIDsを再度服用するのはこの事象についても赤ちゃんに問題になることはまずありません。

「妊娠と授乳(南産堂)」でもロキソプロフェン(ロキソニン®︎)を含めほぼ全てのNSAIDsが授乳における総合評価は『安全』となっていますし、

国立成育医療研究センターホームページにも『授乳中に安全に使用できると考えられる薬』としてロキソニン®︎など、しっかりと掲載されています。

https://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/druglist_aiu.html

むしろ産後に痛みがあり、我慢してご自身の体調が悪化してしまう方がマズイと私院長は考えます。

ただし、NSAIDsは喘息をお持ちの方には使えない場合もあり、家に手持ちの鎮痛薬があるからご自身の判断で飲む、ということは避けていただきたいです。また調剤薬局での薬剤師によっては産婦人科の処方に慣れていなくて意見の違うアドバイスがある事もありますから、一度かかりつけの産婦人科に相談するのが良いでしょう。

鎮痛薬に限らず、もし授乳中の方でお薬の内服で心配なことがございましたら、相談をお受けします。忙しくて来院が難しい場合は当院のオンライン診療をご活用ください。

参考文献;

妊娠と薬の使い方; 日本医師会雑誌2019年5月

分娩と麻酔. No.100, 2018. 11

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