妊娠してから出産後7日までのことを『周産期』と定義します。この期間は頭痛や腰痛に悩まされる方々が多いのは事実です。
特に妊娠中は胎児のことを考え、頭痛薬が処方しにくい状態です。そこで漢方の出番となります。私院長は”当帰(トウキ)”や”呉茱萸(ゴシュユ)”が入った漢方をよく処方します。
“当帰”はセリ科の植物で、体を暖めながら血行を良くするほか、妊娠に適した体内環境へ整える作用があるといわれます。血流改善を行うことで、血流の『よどみ』による痛みを軽減するのです。当帰は海外では”Angelica”と呼ばれ、語源は”Angel”、つまり天使のような薬という意味で、日本のみならず海外でもハーバルエッセンスとして用いられています。
上記サイトでは”Chinese Angelica Root”となっておりますが、当帰に関しては、ツムラでは日本で一貫生産が可能な、質の高い”Japanese Angelica Root”と私は呼びたいところです。
https://www.jadea.org/houkokusho/yakuyou/documents/H29yakuyou_hokkaido_4.pdf
当帰は漢方薬の名前になくとも成分によく入っており、例えば、婦人科3大漢方の一つでもある”加味逍遙散(カミショウヨウサン)”にも当帰が含まれています。
またミカン科の植物である”呉茱萸(ごしゅゆ)”は習慣性頭痛によく処方します。実際ツムラの医療用漢方製剤本にも効能効果として記載されています。1)
この”当帰”と”呉茱萸”が合わさったのが”当帰四逆加呉茱萸生姜湯”です。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯はトウキ シギャクカ ゴシュユ ショウキョウ トウ と呼びます。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯は体質虚弱で普段から四肢冷感のある、腹力がやや弱い女性に、また下腹部や腰部に外科的手術の既往があり頭痛を訴える症例に適しているとされています。2)
多くの女性が妊娠すると、体も気持ちも”寒”の病証に移行されることが多いです。名前の通り、”当帰”の他、”生姜”の入っているこの漢方は”寒”から”温”へ向かうように体を整えてくれ、しかも下腹部手術の頭痛に効果がある、まさに帝王切開後の頭痛にぴったり当てはまる薬なのです。3)
にしじまクリニックでは帝王切開の麻酔時にできるだけ細い針を使用したり、術後の疼痛管理を昨年アップデートしたり工夫を凝らしています。それでも帝王切開術後の頭痛、もしくは妊娠中の頭痛が辛い場合は漢方を利用するのも一手です。是非ご相談ください。
参考文献;)
1) TSUMURA KAMPO MEDICINE FOR ETHICAL USE
2) 高山宏世. 腹証図解 漢方常用処方解説. 日本漢方振興会漢方三考塾(泰普堂), 1988
3) 西島翔太. 帝王切開術後の頭痛における”当帰四逆加呉茱萸生姜湯”とロキソプロフェンナトリウムの服用比較. 産婦人科 漢方研究のあゆみ No.27, 2010