ゆう(尤)度比

先日は検査における『感度と特異度』についてお話ししました。

今回は検査の精度・有効性について、もう少し説明をさせていただきます。

検査の精度は疾患の「有病率」と「尤度比(ゆうどひ)」によって左右されます。

尤度比とは

ある事象(病気・疾患)が起きる可能性の大小を示すものとなります。英語表記は”Likelihood ratio”と呼ばれ、こちらの方が意味合いとして理解しやすいかもしれません。

尤度比=疾患ありで検査陽性になる率÷疾患なしで検査陽性になる率であり、いわば感度÷偽陽性率

となります。(*偽陽性率=1−特異度)

上記の式から、分母の偽陽性率が低ければ低いほど、感度は高まるわけです。

カットオフ値から右方向に縦線が入る値だった時、そこの疾患群数÷非疾患群数が尤度比となる

大まかに、陽性尤度比が10以上あれば、有効な検査と言われています。

ちなみに、21トリソミーに対するNT肥厚(適切な検査施行時期においておよそ3.5mm以上)の陽性尤度比は16とされています。

執筆 院長

感度と特異度

先週から当院でもNIPTの運用が始まりました。皆さん、NIPTは従来の検査に比べて精度が高いもの、という認識だと思います。今回は「感度」と「特異度」についてご説明します。

病気があるかどうかを調べる検査では、

検査が陽性であれば、その病気があることが多い(A)ですが、ない場合もあります(B)。

Aを真陽性、と呼びます。

Bを偽陽性、と呼びます。

検査が陰性であれば、その病気がないことが多い(D)ですが、ある場合もあります(C)。

Cを偽陰性、と呼びます。

Dを真陰性、と呼びます。

「感度」は、病気の人を検出する高さを示します。

「特異度」は、病気でない人を検出する高さを示します。

この2つの指標で検査の特性を判断します。

感度はA/ A +C

特異度はD/ B +D

で計算されます。

Down症候群のそれぞれの検査感度は

・クアトロテスト:80〜85%

・NIPT:99%

となります。

またNIPTの特異度は99.9%(13, 18, 21トリソミーの場合)を超えており、感度と特異度が高いNIPTは精度の高い検査と言えるのです。

執筆 院長

NIPTの普及が進んでもNT計測は必要

当院で今冬からの運用開始予定のNIPTですが、妊娠11〜13週に行うNT計測は引き続き行います。

NT肥厚は21トリソミーを疑うソフトマーカーの一種ではありますが、NT肥厚は染色体異常のほか、以下の児の異常の可能性があります。

NTの肥厚と関連する児の異常(染色体異常以外)

・先天性心疾患

・臍帯ヘルニア

・羊膜索症候群

・横隔膜ヘルニア

・尿路閉塞

ダンディーウォーカー

・骨系統疾患

アキネジア症候群

・貧血

・感染症

・代謝性疾患

・単一遺伝子病

どうでしょう、かなり多岐にわたる疾患が関連してますよね。

NIPTが普及しても、現時点で日本では3つのトリソミーの有無を検出しているにすぎません。今後NTを含めた超音波所見を見なくてよい、とはならないのです。

上記らの児の異常がNT計測で全てわかる、というわけではありません。しかしながらNT肥厚が見つかれば、今後さらに注意して児の異常がないか診ていくきっかけになるのは間違いありません。

執筆 院長

単一遺伝子病

単一遺伝子病とは、いわゆるメンデルの法則に基づいた家系が関わる遺伝疾患です。遺伝様式としてさらに常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖性、Y連鎖性に分けられます。

1. 常染色体優性遺伝

・1/2の確率で児に罹患します。

*常染色体優性遺伝については「保因者(疾患の原因となる遺伝子を持っているが無症状)」という立場がなく、夫婦どちらかが「罹患者(その病気が発生する」という遺伝形式になります。

・性差なく罹患します。

・代表疾患:筋緊張性ジストロフィー、マルファン症候群、成人型多発性嚢胞腎、22q11.2欠失(ディジョージ)症候群

2. 常染色体劣性遺伝

・両親ともに保因者であった場合、児は1/4の確率で罹患します。

*罹患者25%、非発症者の2/3が保因者となります。

・性差はありません。

・代表疾患:先天性代謝異常症、小児型多発性嚢胞腎

3. X連鎖性性遺伝

・母親が保因者の場合、

男児の半分が罹患します。

女児の半分は保因者となります。

・代表疾患:ドゥ(デュ)シェンヌ型筋ジストロフィー、血友病、色覚異常

単一遺伝子病については家系図の作成を含めた詳細な家族歴背景を確認する必要があるほか、出生前遺伝学的検査と周産期管理を含め、高次施設での対応が強く望まれます

現在、日本国内では染色体異数性を対象(21, 18, 13トリソミー)を対象としてNIPT(無侵襲的出生前遺伝学的検査)が実用化されています。一方国外では単一遺伝子病の検出なども試みられています。今後NIPTの手法を用いて様々な疾患を診断する時代が来るかもしれません。

執筆 院長

染色体検査と解像度

DNAは塩基を持ったヒモ状のもの、これらがコンパクトにまとめられたものが染色体です。すなわち、染色体は遺伝子の集合体であるとも言えます。

ゲノムとは、細胞の中に含まれているDNAの持つ遺伝情報の1セットをさします。

ゲノムで生じる塩基の変化は、顕微鏡を用いるの染色体検査から、塩基(アデニン[A]、チミン[T]、シトシン[C]など)の配列を装置で抽出するレベルまで様々です。

遺伝学的検査ではどのレベルの遺伝子の変化なのか、大きさ・解像度の狙いを定めて検査方法を決める必要があります。

・染色体検査(515Mbレベルのゲノム量)

5〜15Mbレベルのゲノム量の変化と構造の変化が確認できます。

染色体全体を一目で見ている解像度で、新聞で例えるなら「紙面全体を見ている」という状態です。

このレベルから拡大率を上げたものがFISH法です。

FISH法(50kb1Mbレベルのゲノム量)

FISH法では、50kb〜1Mbレベルの解像度で、染色体検査で検出できない由来不明の染色体の同定が可能となります。

FISH法は染色体検査と異なり培養を行わず、細胞を蛍光顕微鏡下で確認する(蛍光in situハイブリダイゼーション)方法です。当院でもご提供している羊水検査の迅速法としても用いられ、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの有無を1週間程度で判明することができます。

*ダウン症候群のうち、モザイク型までは迅速法での診断はつかないため、染色体検査の最終結果も必要です。

・マイクロアレイ法(10kb〜レベルのゲノム量)

マイクロアレイ法は染色体検査に対し、拡大率が最大1000倍まで上がります。新聞で例えるなら「文章内の一文字ずつをしっかり読み取れ、誤字脱字まで確認できる」レベルとなります。

院長執筆