NIPTの普及が進んでもNT計測は必要

当院で今冬からの運用開始予定のNIPTですが、妊娠11〜13週に行うNT計測は引き続き行います。

NT肥厚は21トリソミーを疑うソフトマーカーの一種ではありますが、NT肥厚は染色体異常のほか、以下の児の異常の可能性があります。

NTの肥厚と関連する児の異常(染色体異常以外)

・先天性心疾患

・臍帯ヘルニア

・羊膜索症候群

・横隔膜ヘルニア

・尿路閉塞

ダンディーウォーカー

・骨系統疾患

アキネジア症候群

・貧血

・感染症

・代謝性疾患

・単一遺伝子病

どうでしょう、かなり多岐にわたる疾患が関連してますよね。

NIPTが普及しても、現時点で日本では3つのトリソミーの有無を検出しているにすぎません。今後NTを含めた超音波所見を見なくてよい、とはならないのです。

上記らの児の異常がNT計測で全てわかる、というわけではありません。しかしながらNT肥厚が見つかれば、今後さらに注意して児の異常がないか診ていくきっかけになるのは間違いありません。

執筆 院長

単一遺伝子病

単一遺伝子病とは、いわゆるメンデルの法則に基づいた家系が関わる遺伝疾患です。遺伝様式としてさらに常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖性、Y連鎖性に分けられます。

1. 常染色体優性遺伝

・1/2の確率で児に罹患します。

*常染色体優性遺伝については「保因者(疾患の原因となる遺伝子を持っているが無症状)」という立場がなく、夫婦どちらかが「罹患者(その病気が発生する」という遺伝形式になります。

・性差なく罹患します。

・代表疾患:筋緊張性ジストロフィー、マルファン症候群、成人型多発性嚢胞腎、22q11.2欠失(ディジョージ)症候群

2. 常染色体劣性遺伝

・両親ともに保因者であった場合、児は1/4の確率で罹患します。

*罹患者25%、非発症者の2/3が保因者となります。

・性差はありません。

・代表疾患:先天性代謝異常症、小児型多発性嚢胞腎

3. X連鎖性性遺伝

・母親が保因者の場合、

男児の半分が罹患します。

女児の半分は保因者となります。

・代表疾患:ドゥ(デュ)シェンヌ型筋ジストロフィー、血友病、色覚異常

単一遺伝子病については家系図の作成を含めた詳細な家族歴背景を確認する必要があるほか、出生前遺伝学的検査と周産期管理を含め、高次施設での対応が強く望まれます

現在、日本国内では染色体異数性を対象(21, 18, 13トリソミー)を対象としてNIPT(無侵襲的出生前遺伝学的検査)が実用化されています。一方国外では単一遺伝子病の検出なども試みられています。今後NIPTの手法を用いて様々な疾患を診断する時代が来るかもしれません。

執筆 院長

染色体検査と解像度

DNAは塩基を持ったヒモ状のもの、これらがコンパクトにまとめられたものが染色体です。すなわち、染色体は遺伝子の集合体であるとも言えます。

ゲノムとは、細胞の中に含まれているDNAの持つ遺伝情報の1セットをさします。

ゲノムで生じる塩基の変化は、顕微鏡を用いるの染色体検査から、塩基(アデニン[A]、チミン[T]、シトシン[C]など)の配列を装置で抽出するレベルまで様々です。

遺伝学的検査ではどのレベルの遺伝子の変化なのか、大きさ・解像度の狙いを定めて検査方法を決める必要があります。

・染色体検査(515Mbレベルのゲノム量)

5〜15Mbレベルのゲノム量の変化と構造の変化が確認できます。

染色体全体を一目で見ている解像度で、新聞で例えるなら「紙面全体を見ている」という状態です。

このレベルから拡大率を上げたものがFISH法です。

FISH法(50kb1Mbレベルのゲノム量)

FISH法では、50kb〜1Mbレベルの解像度で、染色体検査で検出できない由来不明の染色体の同定が可能となります。

FISH法は染色体検査と異なり培養を行わず、細胞を蛍光顕微鏡下で確認する(蛍光in situハイブリダイゼーション)方法です。当院でもご提供している羊水検査の迅速法としても用いられ、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの有無を1週間程度で判明することができます。

*ダウン症候群のうち、モザイク型までは迅速法での診断はつかないため、染色体検査の最終結果も必要です。

・マイクロアレイ法(10kb〜レベルのゲノム量)

マイクロアレイ法は染色体検査に対し、拡大率が最大1000倍まで上がります。新聞で例えるなら「文章内の一文字ずつをしっかり読み取れ、誤字脱字まで確認できる」レベルとなります。

院長執筆

流産染色体分析

流産絨毛組織染色体分析の適応例

・不育症の原因検索や除外診断等を希望される場合

・ご夫婦が流産の原因検索を希望される場合

流産は全妊娠の10〜15%に発生しその半数は染色体異常が原因とされています。なかでも突発的に発生する数的異常(染色体数の増減)が多く、例えばダウン症候群などのトリソミーが約60%を占めます。

流産組織の絨毛を採取し、染色体分析の結果、染色体異常が検出された場合は、その流産の原因であった可能性が高いと考えます。そして

数的染色体異常が判明した場合:突発的に発生したものと考え、次の妊娠でも繰り返す可能性は低いと考えます。ただし女性の加齢による影響はあるので、高年妊娠に関しては次の妊娠でも年齢に応じた数的染色体異常には留意しなくてはなりません。

②染色体構造異常が判明した場合:染色体を形成するDNAの糸が切れて元とは違う形で再構成された状態を「構造異常」と言います。構造異常には転座、欠失、逆位などがあります。胎児の染色体構造異常が判明した場合、ご夫婦のどちらかが関連した構造異常を有している場合は今後の妊娠もそれが流産の原因となり得るため、ご夫婦自身の染色体分析も行い、今回の胎児の染色体構造異常と関連するかを確かめることをお勧めします。

ご夫婦の染色体異常が認めない場合は、今回の胎児の染色体構造異常は突然変異により生じたものと考え、次回の妊娠の影響は低いと考えます。

構造異常はゲノム量が変わらない変化を「均衡型異常」とゲノム量が変わる変化を「不均衡型異常」に分けられます。

ご夫婦の染色体分析において、

均衡型異常ではご夫婦いずれかに胎児と同じ均衡型異常が判明した場合、それは今回の流産の原因ではないと言えます。ただし、卵子や精子の形成過程における減数分裂の時に不均衡型異常を構成することがあるため、その場合は次回以降の妊娠での流産や不妊症、不育症の原因となることがあります。

不均衡型異常の場合は妊娠が成立してもその後の流産の主原因となり、出産に至ってもゲノム量の変化度合いにより児に様々な影響(先天異常)を及ぼすことが考えられます。

③染色体が正常だった場合:流産の原因が染色体異常によるものではないと一般的に判断されます。例えば子宮形態異常、膠原病関連疾患、内分泌代謝異常、感染症などが流産の原因ではないかと疑われます。

通常、流産手術においての病理検査では絨毛性疾患の有無を確認するもので、

今回改めてご紹介する流産絨毛組織(POC: Products Of Conception)染色体分析と検査は異なります。残念ながら稽留流産が判明し、流産手術前に流産染色体検査を希望される場合は担当医師にご相談ください。結果によっては高次施設での遺伝カウンセリング外来へご紹介する場合もございますことをご理解願います。

院長執筆

染色体異常と流産

産科を受診して確認された妊娠の10〜15%が流産となります。今回は数から流産の頻度と染色体異常について触れていきます。

妊娠が判明する前に妊娠が終了している方が流産に比べ多い

規則正しく月経がある女性100人が1ヶ月間避妊をせず夫婦生活を続けたとき、そのうち84人が受精します。ところが7日後に受精卵が着床するのは67人で、17個(20%)は着床前に到達しません。その後月経の遅れを自覚する人は38人で、産科を受診し臨床検査で妊娠と診断される人は30人です。

つまり、受精した84人のうち54人(64%)が産科で妊娠を知らされる前に妊娠が終了しているのです。妊娠がわかった後に妊娠12週以前に3人ほどが早期流産します。妊娠12週以降の流産はごくわずかです。このように、妊娠が判明する前に多くの妊娠が終了しているのです。

相当な数の染色体異常が自然淘汰されている

精子には10〜15%程度、卵子には20〜25%程度の染色体異常があることがわかっています。また受精卵の段階で30〜45%に染色体異常が存在するのです。

染色体異常の受精卵は着床障害を起こしやすく、着床できた卵の染色体異常率は約25%にまで低下します。

さらに妊娠反応陽性となり、超音波検査で胎嚢がみられる前の段階で化学的流産を除くと、胎嚢を認める段階での染色体異常率は約10〜15%にまで減少します。

その後妊娠初期の流産が起こったり、子宮内胎児死亡などを除くと最終的に出産に至る児の染色体異常の割合は0.4%とされています。

流産のすべて. 研修ノートNo.99 日本産婦人科医会. 上記の割合は、各段階での染色体異常の割合を示す

つまり、かなりの数の染色体異常が出生前に自然淘汰されているのです。

文責 院長