先天性風疹症候群

こんにちは、副院長の石田です。

皆さんは風疹という病気をご存じかと思います。はしかに似た症状を呈しますがそれほど重症化せずに終わるため三日麻疹(みっかばしか)と言われることもある病気です。普通は熱も高くならず症状がいまいちはっきりしないまま終わることもある大したことない感染症ですが、妊婦さんが罹ると大変です。というわけで今日は先天性風疹症候群についてお話ししたいと思います。

先天性風疹症候群とその歴史

妊婦さんが特に妊娠早期に感染することにより、流早産をはじめ白内障、心奇形、難聴などの先天的な異常を赤ちゃんに引き起こす感染症です。オーストラリアの眼科医であるGregg先生が1941年に新生児の先天性白内障とお母さんの風疹感染に関連があることに気づいたのが始まりでしたが、その背景には1940年に風疹が流行ったということがありました。当時はまだワクチンも存在せず周期的な大流行が存在していて、特に1962〜1965年の世界的大流行ではアメリカだけでも12.5万人の風疹患者が出た結果、1万件以上もの流産と2千人以上の新生児死亡、そして2万人以上の先天性風疹症候群の新生児が出生しました。日本でもそれから少し遅れて大流行し、特に沖縄では多数の被害者が出て社会問題になったということです。その後風疹ワクチンが開発され予防戦略が確立したことから徐々に風疹患者は少なくなり、現在ではほとんど先天性風疹症候群を見なくなりました 1)。

風疹抗体とワクチン

日本ではほとんどの人が風疹ワクチンを接種していますが、実際には風疹抗体が低い人が結構います。これは本来2回接種が必要なのに1回しか受けられていない世代がいたりとか(こちらのサイトから世代を確認できます)、ワクチン摂取の普及に伴い風疹ウイルスに暴露されなくなったため免疫が強化されなくなったりといった原因が考えられています。そのためか日本ではたまに小規模な流行が起きることがあります。風疹ワクチンは生ワクチンと言われるタイプの製剤なので妊婦さんは打てません。なので妊娠中はとにかく伝染されないようにするしかないのですが、一旦お産が終わればいつでも接種できるので当院では希望の方には産後入院中に打てるようにしています。

埼玉県に在住の旦那さんへ

ご本人が気をつけるのはもちろんですが、ご家族にも家に風疹を持って帰らないように注意していただきたいです。お子さんに関しては基本的に予防接種を2回されていると思うので大丈夫のはずですが、問題はお父さんです。今のお父さん世代は1回接種の時代の人が多いため感染の危険が高いと考えられますが、埼玉県では妊娠を希望する女性だけでなくその配偶者、風疹抗体価が低い妊婦さんの配偶者の風疹抗体価測定を無料で提供しています 2)。検査に煩雑な手続きは必要なく、受診して所定用紙に記載したら採血して終了です。事前に用意するものもありませんので、例えば夫婦で妊婦検診にエコーを見に来ていただいたら、待ち時間に書類に記入して検査すればOKなんですね。もし抗体価が低ければ当院で予防接種を提供することもできます。

まとめ

赤ちゃんの病気はその多くが偶発的で予知することが難しいですが、その中にあって先天性風疹症候群は数少ない予防できる病気です。厚生労働省が打ち出した追加対策として1962/4/2〜1979/4/1までの生まれの男性が今年から3年間、ワクチン接種を無料で行えることとなりました 3)。この中にはもう家庭内の妊娠が縁遠くなるご年齢の方も含まれていることと思いますが、自分の家族だけでなく街中ですれ違う名前も知らない妊婦さんとそのお腹にいる赤ちゃんにまで想いを馳せて、社会全体で抗体検査や予防接種を推進していければと思います。

1) Centers for Disease Control and Prevention: https://www.cdc.gov/vaccines/pubs/surv-manual/chpt15-crs.html

2) http://www.pref.saitama.lg.jp/a0701/fuusinn-kanzyazouka.html

3) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index_00001.html