同性愛カップルと子育て

こんにちは、副院長の石田です。

当院は産婦人科で周産期施設ですので、普段お手伝いさせていただくのは男女の夫婦のお産です。妊娠が成立するには基本的に男性と女性の交わりが必要となるため、普段産婦人科でお会いするご夫婦が男女の組み合わせになるのは(少なくとも日本では)自然でしょう。その一方で愛には様々な性別間の営みがありますが、世の中には同性愛カップルでありながらも子育てをしているカップルがいらっしゃいます。そこで本日はそうした方々の育児について少しお話ししたいと思います。

性的マイノリティーの夫婦と子育ての現状

日本のデータが見つけきれなかったため代わりに外国の統計になりますが、カルフォルニア大学の調査によるとアメリカ人の2%程度が性的マイノリティーの親に育てられたと報告されています 1)。「性」への理解が日本と比べて進んでいるであろうアメリカのデータではありますが、それでも差別や社会的排斥の恐れがあるため隠している人も少なくなく、実際にはこの数字よりたくさんの性的マイノリティーの親が子育てをしていると考えられています。では、生物学的に妊娠することが難しい同性愛カップルの場合、どのように子供を授かっているのでしょうか?これには日本では認められていないものも含めていくつかのパターンがありますが、里親制度や養子縁組を使って他人の子供を家庭に迎え入れたり、以前関係のあった異性のパートナーとの間でできた子供を引き取って同性のパートナーと再婚したりするケースがあるようです。また、女性同士であれば精子提供によって妊娠することができますし、男性同士であっても卵子提供を受けた上で代理母に産んでもらうという方法もあります。ちなみに性的マイノリティーの方が一人親として子育てをしているということも多いようです 2)。

同性愛カップルに育てられた子供はどう育つか?

性別および性的嗜好の種類は定義により様々でいわゆる”LGBTQ”だけでは収まりきらないことからその子育てについての統計を取るのは非常に難しいと思われます。ただ、同性愛者の育児に限って言えばたくさんの統計が既に出ており、精神発達や社会性の獲得においては両親の性による影響はほとんど無いことがわかっています 3)。親が同性愛者だからと言って友人関係の構築が難しくなるようなこともありません 4)。それどころか2010年の研究によるとレズビアンの夫婦に育てられた子供は他の子に比べて学校の成績が良くなる可能性が示唆されました 5)。

まとめ

簡単ではありますが、本日は同性愛カップルの子育てについてのデータをご紹介しました。日本ではまだまだ誤解がまかり通っている話であり、当事者が言われのない肩身の狭い思いをしていることも多いでしょう。しかし性別や性的嗜好は本人の個性ですし、ましてやそれらの方々が「二人の子供が作れない」ということはあっても「子育てができない」ということにはなりません。事実、私の海外の友人にもゲイでありながら子育てしている人がいますがとても幸せそうです。本来当事者からすれば「理解」という言葉を言われることも違和感があるでしょうが、是非社会全体として性別に限らず多様性というものについて理解を進めていければと思います。

1) Gates GJ. The Williams Institute, UCLA School of Law, Website.: https://williamsinstitute.law.ucla.edu/publications/lgbt-parenting-us/

2) Jerel P Calzo, et al. Child Dev. 2019 Jul;90(4):1097-1108.

3) Ellen C Perrin, et al. Pediatrics. 2013 Apr;131(4):e1374-83.

4) All children matter: how legal and social inequalities hurt LGBT families; full report. Movement Advancement Project Web site.: https://www.lgbtmap.org/file/all-children-matter-full-report.pdf

5) Nanette Gartrell, et al. Pediatrics. 2010 Jul;126(1):28-36

頭痛対策にペンシルポイント針

帝王切開術後に麻酔の影響で頭痛を訴える方がいます。これは

硬膜穿刺後頭痛(PDPH: PostDural Puncture Headache)

といい、帝王切開の麻酔である脊髄くも膜下麻酔において

麻酔針が硬膜を穿刺通過するため、その穿刺口から脊髄液が流出することから起こります。

従来のクインケ・ランセット針は穿刺痕が鋭い切り口となります。そのため穿刺のしやすさから多くの施設でこの針を採用されている一方、PDPHが少ないですがある程度一定の割合で発生してしまうのがデメリットでした1)。

そこで、にしじまクリニックでは新たに『ペンシルポイント針』を採用することにしました。

ペンシルポイント針は外相的な切り口となります。

PDPHの発生率は

・クインケ23Gで4.6%

・クインケ25Gで3.6%

なのに対し、

・ペンシルポイント25Gで0.79%

・ペンシルポイント27Gで0.09%

(G:ゲージ。Gの数が大きいほど針は小さい。注射針も同様です)

と圧倒的に頭痛発生率を抑えられます。

既に手技としても従来と問題ないことを確認し、当院では選択帝王切開術で用いています。

先ほど「クインケ針は鋭針で穿刺しやすい」と述べましたが、

ペンシルポイント針は逆に穿刺時前後の負荷の差が大きい分、硬膜を穿刺する感覚がわかりやすく、「ブラインド」手技である麻酔穿刺において解剖学的特徴が得られ良い事だと感じています。

(超緊急帝王切開の場合等は従来のクインケ針で行う場合があります)

にしじまクリニックでは年々手技のアップデートに努めています。ご質問があれば外来でお気軽にお声かけください。

(院長執筆)

参考文献

1) Post dural puncture headache. UpToDate.

妊活中のご夫婦へ 〜風疹抗体検査を受けましょう〜

こんにちは、副院長の石田です。

当院には日頃から妊活に関するご相談で来院される患者さんが多くいらっしゃいます。妊活というとなかなか授からないカップルによる不妊・不育に特化した施設への受診が思い浮かばれるかもしれませんが、実際にはこれから妊活に入るご夫婦の相談なんかも多くお受けしています。そんな中でいくつか決まってアドバイスをすることの一つに風疹抗体検査があります。意外と知られていませんがとても大切なことですので、本日はこれについてお話ししようと思います。

先天性風疹症候群を知っていますか?

風疹は「三日麻疹」とも呼ばれるウイルス感染症で本家の麻疹と違って子供から大人までほとんどの人が軽症で終わるそれほど怖くない疾患ですが、妊婦さんが風疹に感染すると胎盤を経由して赤ちゃんに甚大な健康被害が出る病気です。赤ちゃんに出現する臨床症状として有名なのは難聴、白内障、心臓奇形の3つですが、それ以外にも小頭症や心身の発達障害、肝臓や脾臓の腫大など様々な影響が出ることが知られており、多くの症状はそのまま一生残るとされています。予防接種がこれだけ普及した現代の日本であっても散発的な流行が観察されていること、また子供の頃に予防接種を受けても大人になって風疹抗体が減弱してきてしまう人が多くいらっしゃるのが分かっていることから必ずしも油断できない感染症だと言えます。

風疹抗体検査を受けましょう

と、言うわけで妊娠前には夫婦で風疹への備えを万全にすることが大切です。埼玉県では妊娠を目指す女性とその同居者に対して、一定の条件を満たす場合に風疹抗体測定を無料で提供しています。詳細は県のウェブサイトでご確認いただきたいのですが、対象となる方は当院を含む検査実施医療機関を受診して検査を受けることができます。事前に申し込み書類を印刷、記入して受診するよう書いてありますが、にしじまクリニックでは院内に書類を用意していますのでご家庭にプリンターが無い方でも来院していただければ大丈夫です。結果は1週間ほどでご説明できますのでご希望の方は是非お問い合わせください。

本事業対象外の方へ

あいにく本事業の対象者に当てはまらなかった場合でもご希望の方は受診していただければ有料で抗体測定をすることができます。それか、そもそも検査→結果確認→抗体値が低ければワクチン接種というステップを踏むのが時間的に難しかったりめんどくさかったりする方は、抗体検査をせずにいきなりワクチンを接種してしまうのもありです。(実際私は子供の時にワクチン接種済みでしたが、妻が長男を妊娠したときに抗体検査をせずに再度ワクチンを接種しました。)いずれにしても当院でご対応可能ですので、外来でどちらがよいかご相談しましょう。

当院ではMRワクチンを提供しています

当院で普段使用しているのはMRワクチンといって、風疹に加えて麻疹の抗体もつく製剤です。麻疹はコロナでも話題の「基本再生産数」が12~18と考えられており、いわゆる「すれ違っただけで感染する」タイプのウイルスである上に、症状も重篤になることが多く命に関わる感染症です。この麻疹に対しても抗体を付け直すことができるため、直接自分が妊娠しない人達であっても十分に健康上のメリットを期待できるワクチンです。実績としても安心・安全が証明された製品ですのでご心配なくお受けいただくことができます。

まとめ

本日は妊活を考えている方々に向けてのご案内でした。妊娠を目指す女性本人がワクチンを接種した後は2ヶ月間の避妊期間を設けることが必要ですので、ご結婚前であっても計画的に風疹抗体検査を受けられることをお勧めいたします。その他にも妊娠・出産に向けての不安や疑問があれば、ご予約の上で是非お気軽にご相談ください。

遷延分娩

本日は『遷延分娩』についてお話させてもらいます。

まず、「子宮口が全開大」とは「子宮口が10cm」のことをさします。そこから分娩第2期、いよいよ赤ちゃんが出てくる過程となりますが、すぐに児が娩出するわけではありません。子宮口全開大でも多くの場合は第2回旋は終了していないのです。

第2回旋が終了(矢状縫合が縦の位置)し、恥骨の下をくぐり抜けるように第3回旋(第1回旋の反屈)が行われて赤ちゃんの頭が出てきます。

https://nishijima-clinic.or.jp/blog/2020/09/07/赤ちゃんの進み方②、回旋(かいせん)を知る/

(↑ 『回旋』についてのブログはこちら

では遷延分娩について。

遷延分娩とは「分娩第1期活動期または分娩第2期が異常に長く経過している状態」をいいます。

分娩第2期における遷延分娩の基準は、

初産婦は2時間以上

経産婦は1時間以上

分娩が停滞することを日本産科婦人科学会では定義・基準としています。

近年、ACOG(the American College of Obstetrics and Gynecologists)は分娩第2期遷延を

初産婦は3時間以上

経産婦は2時間以上

分娩が停滞することとし、産科救急のトレーニングを提供するALSO(Advanced Life Support in Obstetrics)はこの新基準を採用しています。CTG所見が問題なければ、また母体の状態が許せば早い医療介入を行うより自然経腟分娩率が増える可能性があることはご想像いただけるでしょうか。

不要な医療介入、特に帝王切開を避けるため、CTG所見などに問題がなければ、分娩第2期に怒責を行い始めるタイミングや積極的な医療介入は、最近では上記の新基準に沿って今までより1時間遅くすることも考慮されています。

分娩第2期の遷延分娩の原因としては

・Dynamic dystocia:微弱陣痛(hypotonic uterine dysfunction, weak pain)

・分娩第2期における母体疲労などからの怒責不十分

・回旋異常

・CPD(CephaloPelvic Disproportion):児頭骨盤不均衡

が挙げられます。

初産婦さんで子宮口が全開大後も2または3時間経過しても分娩に至らない場合は医療介入が必要となります。

分娩第2期の遷延分娩に対する医療介入 *転載禁止

医療介入のフローチャートとしては上の図のようになります。詳細はまた後日のブログに譲りますが、いずれにせよ児頭下降と回旋の正確な評価は大事です。次回私院長のブログでは児頭下降評価の一つである、エコーによる”Progression angle”についてお話しさせてもらいます。