子宮体がん検査はいつ受ければいいのか

こんにちは、副院長の石田です。

今年も気がつけば11月になりますね。毎年この地域では6〜11月に市町村の助成による子宮頸がん検診があり、当院でも多くの患者さんが検査を受けていかれますが、その際によく聞かれるのが「子宮体がんの検査もした方がいいですか?」というご質問です。結論から申し上げると子宮頸がんと違い、体がんは定期的な検査は不要とされているのですが、詳しい説明を外来で行うのはなかなか大変です。そこで本日はこの病気と検査について解説したいと思います。

子宮体がんの特徴

子宮に発生するがんは大きく分けて子宮頸がんと子宮体がんの2種類があります。子宮頸がんはパピローマウイルスの感染による子宮の出口付近における扁平上皮細胞の変性なのに対して、子宮体がんは子宮内膜組織を構成する腺細胞の変性であり、同じ子宮という臓器のがんであるにも関わらず全く違う性質を持っています。日本では40代以降で患者数が急増し50代でピークとなりますが、60代以降の患者さんも少なくありません 1)。加齢(特に閉経後)、肥満、糖尿病、妊娠経験がない、タモキシフェンによる乳がん治療などがリスク因子として有名ですが、そのほかLynch症候群などの遺伝要因も指摘されています。

子宮体がんに定期的な検査がいらないワケ

子宮体がんに定期検査が不要な理由の一つ目は、感度の高い検査が存在しないことです。感度というのは検査が病気の人を見落とさずに陽性と診断する能力のことで、定期検診のように一般的な集団の中から病気の人を探す時には高感度の検査が必須です。ところが子宮体がんの細胞診では感度が40〜60%程度と考えられており、間をとって50%と考えても病気の人を半分見逃してしまうことになります 2)3)。子宮内膜生検という精度の高い検査もありますが、状況によっては麻酔下で行われることもある手技であり、これを全ての人に定期的に行うのは無理があります。
また、子宮体がんは初期ステージにおいて70〜90%の治癒率(5年生存率)が期待できる“治りやすい“がんとして有名ですが、多くの場合早期に性器出血で発症するため、放っておきさえしなければ症状が出てから診断しても良好な治療成績が期待できるというのが定期検査が不要とされる二つ目の理由です 4)。

まとめ

少し長くなりましたが、子宮体がんに定期検査が勧められていない理由について解説いたしました。そうは言っても症状が出ないうちに発見された子宮体がんの予後はさらに良いかもというデータもあり、ご不安な方には上記のようなリスク因子の有無を確認した上で検査を提供することもあります 5)。性器出血がある方はもちろんですが、自分が検査するべきか心配になった方は気軽に最寄りの産婦人科に相談してみてください。

1) 国立研究開発法人国立がん研究センター. がん情報サービス.
2) Schorge JO, et al. Cancer. 2002;96(6):338.
3) Gu M, et al. Acts Cytol. 2001;45(4):555.
4) Emma J Crosbie, et al. Lancet. 2022 Apr 9;399(10333):1412-1428.
5) T Kimura, et al. Int J Gyneacol Obstet. 2004 May;85(2):145-50.

帝王切開の子宮創部縫合

帝王切開において、開腹後子宮下部を横切開し、児を娩出します。その後胎盤を娩出後、切開した子宮創部を縫合していくのですが、その方法については分娩施設によって多少異なるのが実情です。

簡単に申し上げると、子宮創部を1層縫合とするか、または2層縫合とするか、ということです。

1層縫合は2層縫合より手術時間を短くすることができますが、TOLACで子宮破裂の発症頻度が増加すると言われています[Bujold et al. 2002]。

当院としては、特に初産で骨盤位による選択帝王切開の場合、次回妊娠時のTOLACを希望される場合に備え、子宮創部は2層縫合を行います。

また縫合の方法については間隔をおいて一箇所ずつ結紮する単結紮縫合を行うか、連続縫合を行うかも分娩施設によって異なります。

当院は1層目の縫合を単結紮し、2層目の縫合は連続縫合を行います。

単結紮縫合か2層目の連続縫合かは、実のところ助手の手術介助力により決める場合もあります。2層目の連続縫合において、執刀医による縫合の際に助手が吸収糸の適切なテンションをかけれない場合、縫合創部が容易に裂けてしまうのです。私と副院長が執刀医、または助手のペアの時は問題ありませんが、

緊急帝王切開時に助手が看護師の場合(ちなみに海外では「手術看護師」という専門職があり、帝王切開時は当たり前に看護師が助手をつとめます)、私院長は吸収糸を創部にかけた直後にインターロックを行い、その後自身で再び糸を把持し適切なテンションを意識しながら連続縫合(2013年にACOGに掲載されたシステマティックレビューで推奨B)を行います。

今後の妊娠を望まなければ帝王切開の子宮創部は1層縫合で良いと考えます(前述のシステマティックレビューで推奨A)。ただし1層であれ2層であれ子宮内膜面もすくった子宮筋層の縫合を意識しなければ、子宮創部の菲薄化により産後生理が再開した後、帝王切開瘢痕症候群(月経困難症や続発性不妊症)を起こす可能性があるのです。

院長執筆

カンジダ腟症のリスク因子

こんにちは、副院長の石田です。

男性はあまりピンと来ない人も多いかもしれないですが、女性にとって「カンジダ」はとても一般的で煩わしい病気の一つです。カビの一種であるカンジダ菌による腟内の感染症で、人によっては夜も眠れないくらいの強い痒みを引き起こすため生活の質に大きなインパクトがあります。そこで本日はカンジダ腟症のリスクについて少しお話ししたいと思います。

カンジダ腟症のメカニズム

Candida albicansという菌が原因の90%を占めるとされていますが、この菌は直腸や皮膚に普段からいる常在菌であり、これらが腟に紛れ込んで増殖することにより発症すると言われています 1)。ただ、年齢層によって違いはあるものの症状がない女性でも10%以上で腟内にカンジダ菌が検出されることから、必ずしもそこにいるからと言って悪さをするわけでもなさそうです 2)。

カンジダ腟症のリスク因子

最も有名なリスク因子に抗菌薬の使用があげられます。元々腟内には常在菌と言って色々なバイキンが仲良く暮らしていますが、何かの病気の治療として抗菌薬を投与されると腟内にも効いてしまい常在菌のバランスが崩れるため、カンジダが入ってきた時に増殖しやすくなると言われています 3)。また、糖尿病の患者さんでは血糖コントロールが不良だったり、治療薬としてSGLT2阻害薬(スーグラ®︎、フォシーガ®︎など)を使用していると、尿糖上昇の影響でカンジダが免疫による排除を受けにくくなるため発症しやすくなります 4)5)6)。妊娠やホルモン補充療法により女性ホルモンの量が増えるような状況もカンジダのリスクになると考えられています。この機序については不明なことも多いですが、やはり免疫系への影響が考えられているようでした 7)。そのほか、低容量ピルの使用や食事、(性病ではないものの)性生活のあり方などもカンジダ発症への影響について議論があるようですが、結論には至っていないようです。

まとめ

本日は女性のよくあるお悩みとしてカンジダについて簡単に解説しました。上記のように因果関係が示唆されるリスクは複数確認されているものの、明らかな原因がなく発症することも多いです。いずれにしても世の女性におかれましては外陰部の清潔を適切に保ちつつ規則正しい生活を送っていただきながら、それでも痒くなってしまった時には最寄りの産婦人科に相談してみてください。

1) Gonçalves B, et al. Crit Rev Microbiol. 2016 Nov;42(6):905-27.
2) C Tibaldi, et al. Clin Microbiol Infect. 2009 Jul;15(7):670-9.
3) Wilton L, et al. Drug Saf. 2003;26(8):589.
4) Hostetter MK. Diabetes. 1990;39(3):271.
5) Donders GG. Curr Infect Dis Rep. 2002;4(6):536
6) Nyirjesy P, et al. Curr Med Res Opin. 2014;30(6):1109.
7) Pizga Kumwenda, et al. Cell Rep. 2022 Jan 4;38(1):110183.

妊娠中期のおなかの張りと腹痛

なぜおなかが「張る」のか

おなかが大きくなってくる妊娠中期以降、働いたり、階段をのぼったり、重いものを持つなどの動作で腹圧がかかったり、疲れたりするとおながが固くなっていることがあります。これが「張り」と言われるものです。

原因の多くは生理的な子宮収縮によるもので、こうした「張り」が胎児に影響することはほとんどありません。

生理的な子宮収縮以外では子宮の増大(子宮筋腫や多胎妊娠を含む)によって腸や膀胱などが圧迫されて起こるものや、便秘、胎位が原因の場合もあります。

生理的な張り・子宮収縮は安静にすれば次第におさまってくるのが特徴です。

切迫早産とは

定義として要点は2つです。

・早産の危険性が高いと考えられる状態(文字どおり早産が「切迫」している)

・周期的・規則的な子宮収縮に加え頸管が熟化していることを伴う状態(子宮収縮だけであれば切迫早産とはいえない)

規則的な子宮収縮についてはCTG (胎児心拍数陣痛図)の子宮収縮波形にて客観的な評価が可能です。また頸管の熟化については経腟超音波にて子宮頸管長の測定と内診により子宮口開大の評価が行われます。

その他検査に関し、子宮頸管が炎症を起こすとプロスタグランジンの生成を導き、それが子宮収縮に関与するため、子宮頸管や腟内をぬぐう検査(バイオマーカー、培養)なども行われることがあります。

安静にしてもおなかが張る場合は早めに受診を

安静にしたのにも関わらず周期的におなかが張る場合は切迫流産・切迫早産の可能性があります。出血に関わらず早めの受診をしましょう。特に1時間に何回も痛みを伴う場合はすぐに受診をしましょう。お仕事をされている時もあるかと思いますが、なるべく仕事を切り上げて、皆さんの妊婦健診をみてもらっている医師に相談すべきです(夜間の場合は普段みてもらっている医師と異なる場合があります)。

痛みが持続する場合は胎盤が剥離してしまうこともあり得ます。その場合は母胎ともに悪影響を及ぼしてしまいます。

早めに受診され、その時の診察では問題なかったとしても、翌外来診療日に再度受診し、改めて子宮頸管長の測定を行い頸管長の短縮傾向がないこと、その他の異常所見がないことを時間が経過して確認するのも大事です。

執筆 院長

繰り返す流産について

こんにちは、副院長の石田です。

在胎22週未満で胎児心拍が停止してしまう、あるいは胎児が娩出されてしまうなどの理由で妊娠が終わってしまうことを流産と言います。診察で確認された正常妊娠のうち概ね15%程度が流産になると言われていますが、2.6〜5.0%の確率で2回連続する反復流産や、0.7〜1.0%の確率で3回以上連続する習慣流産となることがあります。ただでさえつらい流産を複数回経験するのは本当に悲しいことですが、本日はこのことについてガイドラインに沿って解説したいと思います 1)。

流産を繰り返してしまう原因

国際的に明確な定義はありませんが、日本では流産または死産を2回以上経験した状態を不育症と呼びます。最も重要な流産リスクは加齢とされていますが、それ以外の原因としては子宮奇形や子宮筋腫・腺筋症などの子宮因子、抗リン脂質抗体に代表される自己免疫疾患、甲状腺機能異常症などの内分泌疾患、そして夫婦の隠れた染色体異常などがよく挙げられます。その一方で半分近くの患者さんで原因不明というデータもあり対応は決して簡単ではありません 2)。いずれにしても複数回の流産を主訴に受診された患者さんにはこれらの異常を念頭に検査を行っていくことになります。「夫婦の隠れた染色体異常」というのが分かりづらいかもしれませんが、染色体異常には「均衡型」と言って保有していても症状が出ないものがあります。具体的には相互転座やロバートソン転座などですが、これが男性か女性のどちらか(あるいは両方)にあると受精卵の染色体異常はより深刻なものとなり、流産のリスクが上昇すると考えられています。しかし夫婦の染色体検査は値段が高い割に必ずしも頻繁に異常が見つかるわけでもなく決してコスパの良い検査ではないこと、仮に異常が見つかっても治療法が存在しないため当人に責任を感じさせるだけになってしまう可能性があることなどから、検査前には患者さんと医療者が検査の意義について十分に話し合っておくことが重要です。

不育症の治療

原因と思われる疾患が見つかった場合には可能な範囲でそれに沿った治療を行っていくことになりますが、原因不明の際に有効とされる治療ははっきりしていません。しかしその一方で流産を5回経験している患者さんでも50%以上の人が最終的に無治療で赤ちゃんを授かれるというデータもあり、必ずしも悲観的になり過ぎる必要はないようです。

まとめ

というわけで本日は流産を繰り返してしまう患者さんの対処法についてご説明しました。一般的には2〜3回流産を経験した場合には不育症専門の施設へご紹介することが多いと思いますが、必ずしも統一した基準はないためその都度医療者と患者さんでよく話し合って対応していく形になります。もし「自分たちは流産を繰り返しているけどどうかな?」と思う方は一度最寄りの産婦人科に相談してみるといいかもしれません。

1) 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 産婦人科診療ガイドライン 産科編2023 CQ204
2) Abramson J, et al. Thyroid. 2001;11(1):57