新生児黄疸について

こんにちは、副院長の石田です。

赤ちゃんは生後数日以内に、黄疸といって皮膚が黄色くなってくることが多いです。人種や生まれた週数など様々な要因にも左右されますが、おおよそ70%前後の赤ちゃんが見た目で黄疸が確認されるというデータもあり、実際たくさんのご家族が生まれてきた赤ちゃんが黄色くなるのを確認されていると思います 1)。それでも多くの場合で自然に治まってきますが、一部の赤ちゃんには黄疸に対する治療が必要となることもありご両親が不安になってしまうことも多いので、本日は新生児黄疸について少し解説していきたいと思います。

なんで新生児は黄疸になりやすいのか

赤ちゃんは生まれるまでの間、胎盤を介してお母さんから酸素や栄養を分けてもらいます。しかし、実際にお母さんから回ってくる酸素量は自分で呼吸している我々の半分以下です。そこで胎児は赤血球という酸素を身体中に運ぶ血液細胞を大量に作り出すことでより効率的に酸素を運搬するよう工夫しているんですね。しかし出産が無事に終わって自分で呼吸するようになるとそこまでの赤血球は必要なくなるので余った分を壊して廃棄するようになります。この過程で出る廃棄物がビリルビンという物質です。ビリルビンはその後肝臓に運ばれて適切に処理され、腸に排出された後にうんちと一緒に体外に排出されることになります。赤ちゃんが黄疸になりやすいのは出生後に大量の赤血球を廃棄するためビリルビンがたくさん作られること、それに加えて処理工場である肝臓の機能が未熟なため排泄工程もモタつくことが原因なんですね 2)。

黄疸が強くなりすぎたら

上記の通り、黄疸が見られるのは赤ちゃんが外の世界に順応するのに辿る通常の体の変化によるものであり、基本的には自然に治まるので心配ないことがほとんどです。しかし想定以上にビリルビンが体内に溜まりすぎると核黄疸といって治療不可能な損傷を脳に引き起こすことがあるため適切なモニタリングと必要に応じた治療介入が肝心です。通常の検査は赤ちゃんの皮膚に押しつけるだけの器械を使って皮下組織の黄疸を計測するので痛くありませんが、その数値が高く出る場合は採血で実測します。実測値が高い場合には治療を開始しますが、ほとんどは光線療法といって裸の赤ちゃんに1日特殊な光線を当てるだけで問題なく改善しますので入院は必要ですがやはり赤ちゃんは痛くありません。ただ、ごく一部の赤ちゃんで黄疸の数値が非常に高くなることがあり、その場合は交換輸血という新生児科による特別な処置が必要になります。
たまに勉強熱心なご両親から「家でも日光に当てといた方が良いですか?」「母乳は控えた方が良いでしょうか?」などのご質問をいただくこともありますが、日光に当てることによる日焼けや体温上昇、脱水などの心配や、母乳を控えることで本来得るべき大きなメリットを逃してしまうリスクがありますので赤ちゃんの黄疸が強くなってきたからといってご自宅で何かしようというのはあまりお勧めしていません。

まとめ

というわけで本日は新生児黄疸についてでした。上記の通りほとんどの新生児黄疸は生理的なものであり、時間経過とともに勝手に良くなるかあるいは治療が必要になっても痛くない簡単な処置で終わる程度なので心配する必要はありません。その一方で黄疸が遷延するなど通常の処置では良くなりにくい場合は、その背後に代謝病や感染症などの基礎疾患が隠れている可能性もあるため精密検査を要することもあります。もし新生児期に赤ちゃんの黄色みが強くなってきたかな?と心配になる時は気軽に分娩施設へご相談ください。

1) Chou RH, et al. Pediatrics, 2003;112:1264-73
2) Ansong-Assoku B, et al. Neonatal Jaundice. StatPearls. 2022

ALSOとは

皆さん、あけましておめでとうございます。2023年もどうぞよろしくお願いします。

おかげさまで小生が院長を引き継いでから、分娩件数は

2019年:552件

2020年:573件

2021年:627件

2022年:654件

と増加しております。これはスタッフ全員が高いモチベーションで診療とサービスを行なってくれており、その価値を妊婦さんらが見い出していただいている結果と考えています。スタッフにも患者様にも改めて感謝いたします。

月によっては分娩予約数が予想を超え制限させていただくこともございます。安心・安全の医療の提供のためご理解いただければと思います。

今回は、私がにしじまクリニックの今後の成長要素を捉えている”ALSO”についてお話しします。

ALSO(Advanced Life Support in Obstetrics)とは、医師やその他医療従事者が、周産期における救急事象に効果的に対処できる知識や能力を発展・維持するための教育コースのことをさします。米国家庭医学会によって認可され、現在アメリカではほとんどの分娩施設において分娩に関わる医療従事者がALSOの受講を義務づけられています。

成人の心肺蘇生はBLS/ACLS、小児の初療はPALS、産婦人科診療はALSOという大まかな位置付けでとらえていただくのがよいかと思います。

ALSOはLDRにおける産科の救急的対処できるようなプログラムがあるのはもちろんのこと、その他に出産前のリスク評価、妊娠初期の性器出血、患者と医師の関係、出産危機における両親のサポート、そして医療過誤リスクの減少といったテーマも含まれています。最近ではALSO-Japanでは患者安全とチームパフォーマンスの向上をはかるため”チームSTEPPS”をプログラムに取り入れているのも特徴です。

昨年12月にALSOのインストラクターの認定をいただけることになりました。名簿上、埼玉県内の医師として2番目の認定となります。今後私は埼玉南西部エリアの周産期診療の向上を目指します。当院スタッフの能力向上の目的はもちろんのこと、エリア内の他産科施設とより良い相乗効果を生むためにALSOを活用させていただくつもりです。

これは私と当院の今後20年の成長戦略として第1段階になります。ぜひともご賛同いただければ幸いです。

文責 院長

子供に読みながら親の英語の勉強にもなる絵本

こんにちは、副院長の石田です。

小さい子供の教育に必要なのはなんといっても絵本です。以前このブログでも読み聞かせの効果をご紹介したことがありますが、「食べ物は体の栄養、絵本は心の栄養」ということで是非お父さんお母さんにはお子さんと絵本を読む時間をとっていただきたいと思っています。

さて、そうは言ってもただ絵本読んであげるだけではもったいないということで、本日は私の完全な主観をもちましてお子さんも読んでもらって楽しい、しかも親の英語にスキルアップにもなる素敵な絵本をご紹介したいと思います。(以下、本のタイトルをAmazonのリンクにしてあります。)

Guess How Much I Love You

大小2匹のウサギの掛け合いで進んでいくお話で、「どんなにきみがすきだかあててごらん」という邦題で日本語版が出ています。とても有名な絵本なのでご存知の方も多いと思いますが、ウサギたちがお互いに相手のことをどのくらい大好きか表現し合う心温まる作品です。チビウサギが先に「好き」の大きさを示すのですが、体が大きい上に後攻のデカウサギが確実に上回る形で被せてくるのでチビウサギは「好き」をどんどんインフレさせていきます。その素直で必死な感じと、デカウサギの少しからかいながらも優しい雰囲気は多くの読者にとって親子の会話のようにうつることでしょう。読み終わった後にウサギたちと同じように親子で「好き」を見せ合うのも幸せな時間ですし、読後感も心地よい絵本だと思います。英語でいうと、タイトルにもなっている”Guess how much + SVO”という表現や作中に出てくる”I love you this much.”(こんなにきみのことが好きだよ)という文は丸暗記しても日常会話で応用しやすいかもしれませんね。日本語版を読んだことがある人が多いため、英語で読んでも大人も子供も内容が入ってきやすいおすすめの絵本です。

Don’t Let the Pigeon Drive the Bus!

Mo Willemsという作家のThe pigeonという絵本シリーズの一冊です。はじめにバスの運転手が読者に対して「ぼくはちょっと離れるけど、その間バスを見ていてくれないか?特にハトさんにだけは絶対に運転させないでくれよな」と言い残して去っていきます。するとそこにハトさんがやってきて読者に「ぼくにバスを運転させてくれない?」とお願いします。絶対に気をつけるから、お金をあげるから、きっときみのママならいいって言うと思うよ、などあの手この手で交渉してくるハトさんから、お子さんは運転手が戻ってくるまでNO!と言い続けられるでしょうか?
この絵本の面白いところは、普段は自分の欲求を通すべく親に交渉する(ハトさん側の立場である)子供たちが親の立場になってダメ(NO!)と言い続ける体験ができることです。絵本なのに登場キャラであるハトさんと読者が対話できるようになっているのも画期的ですよね。作中の英語表現で言うと、日常会話でもよく使用する教科書的な構文から、”five bucks”(5ドル。版によっては”fiver”になっているかも。)、”at the wheel”(運転中)といった学校ではあまり習わないけど慣習的によく使われる口語表現なども出てくるので大人も楽しく学べる一冊だと思います。このシリーズはどれもすごく面白いので、もし気に入った方は是非ほかの絵本も読んでみてください。

まとめ

というわけで本日は子供も読んでもらって楽しい、親も勉強になる英語の絵本のご紹介でした。私の子供二人が小さい頃は、これらの絵本を日本語に訳して読み聞かせていました。簡単な英語ではありますが、その場で日本語に訳しながら読むのは結構頭を使うため脳トレ的に楽しんでいたのを思い出します。子供に絵本を読んであげる作業は意外に重労働ではありますが、皆さんも是非色々な形でその時間を楽しんでみてください。

子宮頸がん検診で要精密検査って言われた時の話

こんにちは、副院長の石田です。

女性は20歳を迎えると子宮頸がん検診の受診がおすすめされます。病院で検査を受けた場合はその都度担当医から結果について説明があるのであまり混乱しませんが、健康診断の一環として受けたりすると結果だけ送付されてくることも多く分かりにくいかもしれません。それでも「判定:A」とかなってれば安心できますが、読み方も分からないアルファベットの羅列とともに「要精密検査」とか書いてあった日にはがんの検査ということもあってびっくりしてしまう人も少なくありません。実際、当院にもしばしば青い顔で受診される方がいらっしゃいます。そこで本日は子宮がん検診結果の見方について少し解説したいと思います。

細胞の判定につい

子宮頸がん検診は腟内に見えている子宮の出口(子宮腟部〜頸部)をブラシや綿棒で擦って採取した細胞一つひとつの顔つきを見る検査です。結果欄には恐らくNILM、ASC-US、ASC-H、LSIL、HSIL、SCC、AGC、AIS、adenocarcinomaのいずれかが記載されていると思いますが、それがあなたの細胞の判定となります。簡単に言うとNILMは正常、それ以外は全て異常判定となりますが、その中でも扱いが少し違ってきますのでそちらについてさらに説明していきます。

ASC-USか、それ以外か

異常判定の中で言うと、ASC-USに関しては「形がおかしいとも言い切れないけど、かと言って正常とも言いづらいよね」という解釈です。そのため異常結果としてこの判定が出たからといってすぐに慌てる必要はありません。ただ、この結果が出た場合、それに加えて子宮頸がんの原因とされるパピローマウイルスがいるかいないかでリスクが変わってくるため、ASC-USを確認したらウイルス検査を行い次のステップに進む必要があるか判断するのが一般的です。一方でそのほかに関してはがんやその前段階の異形成と言われる病的な状態である疑いがより高い状態になりますので、これらに関しては次の段階としてコルポスコピーという特別な拡大鏡を使用した検査を行うことになります。ではどのくらいまずいのかという話ですが、もちろん異常判定が出ること自体は良いことではないものの、細胞診で異常が出たとしても実際に子宮頸がんになっているかどうかは細胞一つを見ていても分からないことがほとんどです。そのため必要に応じてコルポスコピーで観察しながら怪しいところを小さな塊でちぎってきて詳しく調べますが、実はその検査まで行ったとしても結果的に「これなら慎重に再検査しながら経過観察していけば正常組織に回復していくことも期待できますね」となることの方が多いんですね。なのでまずは落ち着いて(でも放置せずに)最寄りの婦人科を受診することが大切です。

まとめ

というわけで本日は子宮頸がん検診で「要精密検査」と出て焦った時に読むお話でした。子宮頸がん検診で異常判定が出るととても悲しい気持ちになって何も手がつかなくなってしまったり、恐怖も相まって婦人科受診を躊躇ってしまう人がいらっしゃいますが、落ち着いて婦人科に来てね!ってメッセージが伝われば幸いです。

更年期障害のホルモン補充療法ってどうなの?

こんにちは、副院長の石田です。

日本人女性の閉経の中央値は50歳とされていますが、実際の閉経年齢は個人差があり、早い人では40代前半、遅い人では50代後半くらいまで生理があることも珍しくありません。いずれにしても閉経年齢の前後5年間(合わせて10年間)を更年期と呼びますが、この間にはホルモンバランスが乱れることから更年期障害と呼ばれる発汗、のぼせ、めまい、動悸、頭痛、イライラなど様々な症状が起こることがあり、多くの女性がこれに苦しんでおられます。更年期障害に対する代表的な治療はホルモン補充療法ですが、「ホルモン剤」と聞くとなんだかハードルが高く感じてしまう人も多いかもしれません。そこで本日はホルモン補充療法について少しお話ししてみようと思います。

どんなホルモンを使うのか

更年期症状はエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンが欠乏することによって引き起こされます。そのため治療ではエストロゲンを薬として補充することによって症状の緩和や予防を行います。投与方法として飲み薬、塗り薬、貼り薬、腟壁錠などがありますが、大雑把に言うと経皮剤は経口薬と比べて血栓症のリスクが低いと考えられているため当院ではパッチと呼ばれるお腹に貼るシールのようなお薬を処方することが多いです。ただ、肌が荒れやすい方の場合は腕に塗るジェルや内服薬での処方に変えたりと柔軟に対応もしています 1)2)。また、エストロゲンを単独で使用すると子宮体がんのリスクが上昇してしまうことから病気で子宮を摘出した人以外はプロゲステロンというホルモンの薬も併用します。

リスクについて

もちろん医療介入なのでリスクはあります。使い始めの性器出血やちょっとした頭痛などを除くと、大きなものでは血栓症や乳がん、卵巣がんなどのリスクが上昇する可能性が指摘されています 3)4)5)。しかし上記の通り血栓症に関しては剤形を選ぶことである程度抑えられますし、悪性腫瘍に関してもこれらのがんに対するリスク上昇度がそれほど大きくない一方で、胃がんや大腸がんなどに関してはむしろ抑制してくれる可能性も示されています 6)7)8)。

ホルモン補充療法を避けた方がよい人

多くの人にとってデメリット以上のメリットを期待できる治療ですが、その一方で乳がんや心筋梗塞、脳卒中などの既往歴がある人は使えません。また、必ずしも絶対ダメではないのですが、個人的には慎重投与として定められているもの(肥満、糖尿病、高血圧、片頭痛など)のある方には他のお薬や生活習慣の改善などによる対応をご相談するようにしています。また、喫煙者の場合はリスクが高まるだけでなく効果も減弱すると考えられているため注意が必要です 8)。

まとめ

更年期症状を主訴に外来に来られる患者さんたちとお話ししている中でホルモン治療に対して必要以上に不安を感じていらっしゃる方が多い印象があったので、今回はそんな方々の心配が少しでも和らげばいいなと思って書かせていただきました。その即効性もさることながら長い歴史の中で知見がしっかりとたまっている治療ですので、更年期症状にお困りの方は治療の選択肢の一つとして積極的に検討していただく価値があると思います。更年期症状は不定愁訴のような症状のため周囲に理解されにくいこともあり、そのせいで余計に辛くなってしまう人も多いですが、是非一人で抱え込まずにお近くの産婦人科にご相談ください。

1) Canonico M, et al. Circulation. 2007;115:840-845
2) Canonico M, et al. BMJ. 2008;336:1227-1231
3) Cushman M, et al. JAMA. 2004;292(13):1573
4) Chlebowski RT, et al. JAMA. 2003;289(24):3243
5) Collaborative Group On Epidemiological Studies Of Ovarian Cancer, et al. Lancet. 2015;385(9980):1835
6) Lavasani S, et al. Cancer. 2015 Sep;121(18):3261-71
7) Camaro MC, et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2012;20-38
8) Jensen J, et al. N Eng J Med 1985;313:973-975