本当は結構身近な性病:クラミジア

こんにちは、副院長の石田です。

みなさん、性病と聞くとどのようなイメージをお持ちでしょうか?もしかしたら性生活が乱れていたり性産業従事者の人たちの病気で自分には関係ないと考えている人も多いかもしれませんが、実は思ったより身近な感染症であることはあまり知られていません。というわけで本日は日本人で最もよく見る性病の一つであるクラミジアについてのお話です。

クラミジアってどういう病気?

クラミジアとは“クラミジア・トラコマティス“という名前のバイ菌が起こす病気の総称です。主に性交渉全般で感染するため子宮や卵管、またその周囲の骨盤内に炎症を起こしたり、オーラルセックスが関与した場合には咽頭炎を起こしたりしますが、ひどくなると肝臓周囲にまで感染が波及することもある恐い病気です。症状としては下腹部痛や膿っぽいおりもの、少量の性器出血などが一般的で重症化してくると発熱や腹膜炎に発展しますが、その一方で9割近くの女性で無症状のまま経過することも知られており、それはそれで感染を広げる一因となっています 1)2)。感染者自身のことに止まらず、感染妊婦が未治療のまま分娩すると新生児に垂直感染して赤ちゃんの結膜炎や肺炎を起こすこともあります。また、感染後の卵管癒着は異所性妊娠(子宮外妊娠)や不妊症の原因としても有名であり、感染中のみならず後遺症も女性の人生に深刻なインパクトとなり得ます。

日本におけるクラミジア感染症の状況

厚労省の取りまとめによると令和元年におけるクラミジア感染者数は27,221件(うち男性13,947件、女性13,274件)でした。これは報告数が近年で最も多かった平成14年の43,766件に比べると減少しているようにも見えますが、その一方で近年は24,000~25,000で推移していたことを考えると、再び増加傾向にあるのかもしれません。年齢別で見ると14,105件と20代が最も多く全体の51.8%を占めますが、これは性行動が活発であるためだと思われます 3)。しかし上記の通り多くのクラミジア感染患者では無症状で経過することが知られており、実際の感染者数はこの数字を遥かに上回ると考えられています。

クラミジアの診断と治療

診断は腟に器械をかけて奥にある子宮の出口を綿棒等で擦り、それをPCRにかけることで感染の有無を確認します。これに対して不妊治療のクリニックなどでは血液での抗体検査を行うことがありますが、これは不妊治療の際にはリアルタイムでの感染状況ではなくこれまでの感染歴の有無を調べることが重要になるためです。治療は非常に簡単で、アジスロマイシン(ジスロマック®︎)という薬を1回内服して終了ですが、近年抗生剤の効きにくい耐性菌も出現してきていることから治療1ヶ月後くらいに治癒判定のPCRを行って確認します。この時に大切なのは感染をさらに拡大させないため、そしてご本人が再感染しないために治癒判定が確認できるまでは性交渉は控えること、そしてパートナーも同時に治療することです。性病のことなんて気まずくて話したいわけはないと思いますが、まずはご自身を守るという意味を込めて必ず感染についてパートナーと相談するようにしてください。

まとめ

本日はクラミジア感染症について解説いたしました。私も産婦人科医として本当にたくさんの女性を診断してきましたが、(語弊があったら申し訳ないのですが)明らかに性行動が活発そうであったり実際に性産業で働いている方だけでなく、いわゆる「普通の女の子」が感染していることも本当に多いです。上述の通り、若い女性に感染者が多いにも関わらず臨床症状では発見が難しいため、アメリカでは24歳以下の性交経験のある女性は定期検査が推奨されていますが日本ではそこまでにはなっていません 4)。もし下腹部痛やおりものに違和感を感じる、少量の不正出血があるなど気になる症状を感じた場合には、あまり様子を見過ぎずに産婦人科を受診されるのがお勧めです。また、無症状であっても検査をしてみたいという方は産婦人科受診以外にも最寄りの保健所で(場合によっては無料・匿名で)検査できることもありますので、是非自治体のウェブサイトなどをご確認ください 5)。

1) Thomas A Farley, et al. Prev Med. 2003 Apr;36(4):502-9

2) Eline L Korenromp, et al. Int J STD AIDS. 2002 Feb;13(2):91-101

3) 厚生労働省. 性感染症報告数(2004〜2019年): https://www.mhlw.go.jp/topics/2005/04/tp0411-1.html

4) Kimberly A Workowski, et al. Sexually Transmitted Diseases Treatment Guidelines, 2015

5) 埼玉県. 保健所等におけるHIV・性感染症検査について:https://www.pref.saitama.lg.jp/a0701/kansen/aidskensa.html

ワクチンQダイアリーの入力方法

先日、10歳の長女がHPVワクチン『シルガード9』を接種しました。

(『シルガード9』は9歳以上の女性が対象です)

シルガード9を接種する前に、インターネット上でサポートシステム『ワクチンQダイアリー』の入力が必要となります。本日はその入力方法をお伝えします。

①ワクチンQダイアリーへアクセスします。

https://vaccine-q-diary.com/user/#/C0201_Login

②新規登録を行います。

新規登録後、ログインした後のTOPページは以下画面となります。

ワクチンQダイアリーTOPページ

③【重要】接種医コード入力を行います。

接種医登録画面

私院長と副院長石田のコードを以下載せておきます。

接種医(西島翔太)コード
接種医(石田健太郎)コード

接種医コードの入力と接種医による閲覧への同意が完了することで、以後接種担当医が接種者のスケジュールや接種日の登録をすることができます。

シルガード9を接種される方は全例、ワクチンQダイアリーの登録が必要です。万が一健康被害が発生した場合の『医薬品副作用被害救済制度』を受けられる重要な登録・情報管理ですので、ご協力をよろしくお願いします。

④接種日時の『日程確認』を行います。

なお、この画面での日時は予定接種日です。接種予定日の1週間前にログインで使用したE mailアドレスへ連絡メールが届く仕組みとなっています。

実際の予約日時については、当院で予約した時間にご来院ください。

なお接種日を変更したい場合は当院へご連絡ください。

⑤接種日当日、予診表となる『接種前確認事項』を入力します。

接種前確認事項(予診表)

入力が完了すると、接種担当医へ記載の情報が共有されます。

担当医がその情報と当日の最終問診表を確認後、シルガード9の接種となります。

接種後、担当医が接種した登録と次回接種予定日(2ヶ月後)の仮登録を行います。

2回目接種と3回目接種は手順④と⑤のみです。

過期妊娠予防の誘発分娩について

こんにちは、副院長の石田です。

妊婦さんは初期に分娩予定日を決定します。これは最終月経や赤ちゃんの大きさ、不妊治療を行なった方であればそのスケジュールから決まるのが一般的ですが、もちろんこの日に産まれますよということではなく、この辺りで産まれますよという何となくの目安になります。なので予定日を過ぎてからご出産になる方もたくさんいらっしゃるのですが、時としてなかなか産気づかない場合には積極的な医療介入を勧められることもあります。というわけで本日はこちらについてお話しさせていただこうと思います。

過期妊娠とは

過期妊娠とは妊娠42週を過ぎても妊娠したままの状態にあることを指します。昔は予定日超過という言葉を使用していたこともあったのですが、それだと音感的に予定日を少しでも超えたら全部当てはまってしまいそうなので現在は過期妊娠と呼ぶことに決められています。一般的に予定日を過ぎてしばらくしても陣痛や破水が起こらない場合には42週を超えないように誘発分娩を検討することになりますが、これは別にしびれを切らしてというわけではなく、過期妊娠にしたくない理由があるからに他なりません。では過期妊娠では具体的に何が起こるのでしょうか?

過期妊娠による赤ちゃんへの影響

42週を超えて妊娠が継続すると赤ちゃんが育ち過ぎてしまったり、胎盤が古くなることで機能が低下してしまうリスクが知られています 1)2)。赤ちゃんが大きく育ち過ぎてしまった場合には分娩が順調に進まずに難産や帝王切開になったり、赤ちゃんが出てくるときに産道に挟まったりして鎖骨骨折などの外傷が起こることがありますが、その一方で胎盤機能が低下した状態で妊娠が継続すると低栄養から赤ちゃんが痩せていったり羊水が少なくなったりします。また、胎便吸引症候群や胎児仮死など赤ちゃんの健康に深刻な被害が出てしまうリスクも高まるとされています 2)3)。

41週前後での誘発分娩をご提案しています

大体の周産期施設がそのようにしていると思いますが、上述のリスクを回避するために当院でも妊娠41週が見えてくると誘発分娩で積極的にお産にもっていくことをご相談するようにしています。実際に2020年に発表されたデータによるとその時期での誘発分娩は周産期死亡率を約70%、帝王切開になるのを約10%、新生児の集中治療室入院を約12%低下させるということでした 4)。誘発分娩は入院のうえで進めていくことになりますが、入院日はその時期の曜日や休日、また患者さんご本人やご家族の都合などを考慮してご相談の中で決まります。

まとめ

本日は過期妊娠について解説いたしました。できるだけ自然の陣痛を待ちたいというお母さんが多いと思いますし、我々としてもその方がスムーズにお産が進むことが多いのでできれば自然に陣痛が来る方がありがたいなと思っています。ただ、その一方で「赤ちゃんとお母さんが元気にお産を終えられること」が最優先課題ですので、患者さんご本人やそのご家族と我々医療者とでしっかりと話し合いながら一番良い方法を一緒に決めていきましょう。

1) Spellacy WN, et al. Obstet Gynecol. 1985;66(2):158

2) Vorherr H. Am J Obstet Gynecol. 1975;123(1):67

3) A M De Los Santos-Garate, et al. K Perinatol. 2011;31(12):789.

4) Middleton P, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2020;7:CD004945.

流産の疫学と治療・管理

流産の頻度は加齢により増加

流産の頻度は臨床的全妊娠の約15%であり1)、その多くは妊娠12週以前の早期流産です。

流産する確率は母体の加齢とともに増加します。加齢により染色体異常が増加するのです。例えばダウン症の確率を思い出していただければ納得がいくと思います。

ダウン症は常染色体異常のトリソミーに分類されます。これは卵子の老化によりものです。卵母細胞の減数分裂時の染色体不分離(受精前)が原因となります。

実のところ、染色体異常のある初期胚の多くは妊娠判明前に生理や化学流産等で生理様の出血として流産しています。

早期流産と後期流産

早期流産は染色体異常などによるものなので、胎児側の原因で起こるので治療を行うことはできません。

後期流産・切迫流産は母体側因子(子宮内感染や頸管無力症など)によるものなので、治療の介入の余地があります。

流産の治療・管理

・稽留流産、不全および進行流産では原則、子宮内容除去術(MVA)を行います。流産を繰り返す場合は内容物の病理検査のほか、染色体検査を行う場合があります。

・完全流産は経過観察とします。

・胎児心拍確認以後、妊娠12週未満の切迫流産で有効な薬物療法はありません。安静とし、こまめな経過観察を行います。

・妊娠12週以降の切迫流産では使用可能な薬剤を用いることがあります。妊娠16週以降では薬剤の選択肢が増えます。

参考文献;

1)産婦人科専門医のための必修知識2020年度版

(院長執筆)

出産とアロマテラピー

こんにちは、副院長の石田です。

当院では入院中の患者さんをメインにアロマテラピーを提供しています。お産中から産後にかけて専門のセラピストが医療者と協力しながらケアにあたらせていただいていますが、そもそもアロマとお産にどういう関係があるのでしょうか?というわけで本日はこのことについて少し解説させていただきます。

アロマセラピーとは

日本アロマ環境協会のウェブサイトによると、「アロマテラピーは植物から抽出した香り成分である精油(エッセンシャルオイル)を使って、美と健康に役立てていく自然療法」とあります 1)。“アロママッサージ“と聞くとエキゾチックな香りのするオイルを使用したタイマッサージを連想する人も多いかもしれませんが、グイグイ体のツボを押すようなマッサージではなく、むしろそれぞれのオイルが持つ香りの力を使って中枢神経を刺激したり、オイルが皮膚を通して作用することにより心身を整えていくのがアロマテラピーということです。

アロマセラピーとお産

陣痛という強い痛みの中でアロマの香りなんか楽しめるのだろうかと心配になる方もいらっしゃると思いますが、実はアロマオイルを使用することにより陣痛が緩和できるというデータがあります 2)3)4)5)。陣痛に対する恐怖感や緊張感が強いと交感神経がその分強く刺激され、それによって分泌されるアドレナリンやノルアドレナリンなどのストレスホルモンが陣痛を増強すると言われていますが、アロマオイルの香りとセラピストによるケアにより妊婦さんがリラックスすることで陣痛緩和効果が得られると考えられているわけです。陣痛でパニックになると呼吸法などの指導が入らなくなってしまう方もいらっしゃいますが、アロマオイルであれば嗅覚を通じて確実に届きますし、肌に合わないなど局所の問題が無ければ副作用も無く安全に使用できるのも利点ですね。

お産後のアロマも大切

お産は心身ともに大きく消耗するイベントですが、そこから一息つく間も無くすぐに育児を始めなければなりません。そのため入院中を含めていかにお母さんの心と体を回復させるかが課題となりますが、その場面でもアロマの有効性が示唆されています。具体的にはアロマテラピーを行うことでお母さんのストレスや鬱っぽさが改善したり、睡眠の質が高まったりするそうです 6)7)。そのため当院では分娩後の患者さんに対してもアロマテラピーやシッツバス、病室でのディフューザーによるアロマサービスなどを行っています。

まとめ

実際の臨床経験ではやはり緊張が強い妊婦さんのお産は痛みが強かったり進みにくかったりする印象があるため、我々医療者は妊婦健診を通じて信頼関係を築く、両親学級で出産の流れをイメージしやすくする、陣痛中のケアを行う、(今はコロナのせいで難しいけど)立ち会い分娩を奨励するなど様々な手段を使って妊婦さんをリラックスさせようと努力しています。上でお示ししたデータは必ずしもエビデンスレベルが高いものではありませんが、その一方で「アロマに助けられた」と言ってくださる患者さんも多く、嗅覚や触覚からの効果を期待できるアロマテラピーはお母さんと赤ちゃんを守るのにとても有効な手段であると確信しています。当院では国内外の資格を有するセラピストが医療スタッフとの連携のもと、皆さん一人ひとりの症状や好みに合わせて適切なアロマオイルをご提案しながらただのオイルマッサージとは違う本質的なケアを提供しています。ご興味のある方は是非当院のウェブサイトもご覧ください。

1) 日本アロマ環境協会:https://www.aromakankyo.or.jp/basics/introduction/

2) Tabatabaeichehr M, et al. Ethiop J Health Sci. 2020;30(3):449-458

3) Rajavadi Tanvisut, et al. Arch Gynecol Obstet. 2018 May;297(5):1145-1150

4) Masoumeh Namazi, et al. Iran J Pharm Res. 2014;13(3):1011-1018

5) Masoumeh Namazi, et al. Iran Red Crescent Med J. 2014 June;16(6):e18371

6) Kianpour M, et al. Iran J Nurs Midwifery Res. 2016 Mar-Apr;21(2): 197-201

7) Mahnaz Keshavarz Afshar, et al. Iran Red Crescent Med J. 2015 Apr;17(4):e25880