コーチングとティーチングの使い分け

皆様も職場で上の立場の場合、リーダー役または他スタッフをまとめる事があるかと思います。そこでコーチングとティーチングを使い分けをされているでしょうか?

コーチング(Coaching)の基本概念

コーチングは『人の目標達成を支援する』事を理念としています。問いかけて聞く事を中心とし、双方向のコミュニケーションを通して相手がアイディアや選択肢に自ら気づき、自発的に答えを導き出す手法・スキルとなります。

ティーチングとは

学校教育など「教える側」が存在し、知識や経験が少ない相手にルールやノウハウを教える事をいいます。

コーチングとティーチングの使い分け

相手をよく観察し、習熟度を知り、コーチングとティーチングの使い分けを行う事が可能となります。

ティーチングは『答えは教える側が持っている』

コーチングは『答えは相手の中にある』

のです。

コーチング原則

・アドバイスをしない:上記のとおり、『答えは相手の中にある』、『人の目標達成を支援する』事が重要のため、一方通行のアドバイスは行いません。

(私院長の個人的意見としては、価値観を押し付けてはいけませんが、到達目標をはっきり共有していないとコーチングはブレてしまうと思います。また、コーチングを行う人が知識と経験が豊富で、何よりコーチングを受ける人達に対し、なんでも言いやすい(話しやすい)環境『心理的安全』を整えることが重要です。)

・カウンセリングをしない:相手の過去の問題を扱い、問題を解決するようなことをしないのがコーチングの一原則です。

・相手の行動を制限しない:繰り返しますが、自分の価値観を押し付けて「この人には無理」と判断する事は危険です(そう思ってしまうなら、インストラクターとして担うのは難しいでしょう)。

このコーチングやティーチングは、医療従事者のみならずどの職業でも必要なスキルだと思います。にしじまクリニックでは、上の立場を目指すスタッフにはこのスキルを習得し、インストラクションしてもらうようにしてもらっています。

(院長執筆)

参考文献;

2022年1月8日ALSO/BLSOインストラクターコース資料から

性交痛(セックスの痛み)について

こんにちは、副院長の石田です。

産婦人科ではよくセックスの痛みについてご相談を受けますが、プライバシーに踏み込んだ内容なので周りにも相談しにくいでしょうし、もしかしたら「相談する」という選択肢が無い方も多いかもしれません。しかし性交痛は統計に出るだけでも1%以上の女性に発症しており、潜在的な患者さんも含めるとかなり多くの方のお悩みになっている可能性があります 1)。そこで本日は性交痛とその診察について解説いたします。

性交痛の原因

性交痛と一口に言っても原因疾患は多岐にわたります。その中でも臨床現場で遭遇する頻度が高いものでは感染症や子宮内膜症が挙げられます。感染症で多いのはカンジダというカビ菌の繁殖によるものですが、こちらでは主に陰茎が腟に挿入された時に痛みを感じやすいのと、それとは別に強力な痒みやカスのようなおりものを伴うのが特徴的です。一方で淋病やクラミジアなどの性感染症が原因になる場合もありますが、どちらかというとその場合は深いところで炎症が起こるため腟の奥で摩擦された時に痛みが出ることが多いとされています。また、月経痛の原因としてもよく知られている子宮内膜症では子宮や卵巣の周りに癒着という炎症性の“ひきつれ“が起こるため性交時にそれが強い痛みが出る原因となります。他には抗アレルギー薬による粘液の減少や、乱暴な性交渉での外傷、パートナーとの関係不良や性暴力被害の経験が原因での心理的影響なども比較的よく見かけます。

対処方法

もちろん婦人科を受診するのがベターですが、もし自分で対処してみたいと思うのであれば薬局などで販売している潤滑ローションを使用してみると良いかもしれません。特にお勧めのブランドとかはありませんが、お二人の肌に合うものを選んでみましょう。また、巷で言われるスローセックスを試してみるのもありです。これに関してはネットとかで検索しても色々出てくると思いますが、端的に言うとあまり動きすぎずに挿入後もゆったりと時間を使うイメージです。経験的にもこの二つを患者さんにお勧めすると改善を認めることが多いので、試してみる価値はあると思います。

まとめ

と言うわけで、超簡単にではありましたが性交痛についてお話ししました。実際の診察ではより細かく状況を伺ったり、いくつかの検査を組み合わせてより広範囲の疾患群から診断を探っていく作業になります。ただ、性交痛に関してはそもそも原因が特定できないことも多く、できたとしても治療に時間がかかることもしばしばです。そのため必ずしも婦人科を受診することで全部うまくいくようなスッキリとした話ではありませんが、お悩みの方は試しに相談してみていただければと思います。

1) Hayes RD, et al. J Sex Med. 2008 Apr;5(4):777-87

ストレス関連症状に使用される漢方

漢方の構成生薬のうちの一つである『柴胡(サイコ)』剤は、

苛立ち・不安・抑うつ・不眠などストレスに関連した症状に対し処方されます。

本日は、柴胡が含まれる漢方を4つご紹介しましょう。

柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)

疲労倦怠感があり、体力が低下し

動悸、息切れ、不眠などの精神神経症状を伴う方

に処方します。

『乾姜(カンキョウ)』の文字からお分かりのとおり、もともと冷え性・体質の方に効果があります。

柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)

苛立ち、不眠があり比較的体力がある方

に処方します。

上記2剤は柴胡のほか、精神を安らかにするといわれる『牡蛎(ボレイ)』も含まれています。

四逆散(シギャクサン)

体力が中等度で、神経質で胃炎などを起こしやすい方

に処方します。

芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)の成分も含まれているので、筋肉のけいれん、例えば胃や胆嚢のけいれんなどの緩和も期待できます。

*術後の頭痛対策のために院内ストックしている当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)にも「四逆」という文字があります。これは何しかしらの原因により「四」肢が冷えるため、「逆」冷が起きる、ことを意味します。例えば妊娠・帝王切開により体力が低下したため冷えが起き、下腹部痛腰痛、ひいては頭痛を起こす方に、と捉えることができます。

四逆散は感情や神経の乱れにより体力が低下したため冷えが起き、消化器の炎症を起こす方に、と捉えることができます。

抑肝散(ヨクカンサン)

神経過敏で興奮しやすく、苛立ち、怒りやすい方

に処方します。

興奮をおさめる『釣藤鈎(チョウトウコウ』も含まれています。

眼のけいれん・ピクつきが気になる方に効果があります。

漢方になじみのない方々は、最初は漢方の効果に抵抗があるかもしれません。ですが私院長は、漢方はいわゆるコーヒーや紅茶などと同じだと思っています。例えば産地や銘柄にこだわりがある人には是非ともおすすめします。そもそも漢方は症状に合わせて生薬を調合したものが製品となっているわけで、それらは何百種類もあるわけです。それらから自分のお気に入りを見つける、または担当医から勧めてもらう、このことは『お気に入りのお店へ好きなものを飲みにお茶しに行く』と似ていませんか?

勿論、にしじまクリニックではストレス関連症状にお困りの方々をいつでもお持ちしております。

今年もよろしくお願い申し上げます。

子育て本の紹介: 小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て

こんにちは、副院長の石田です。

このブログを読んで下さっている方には妊娠中であったり出産を終えて子育て中だったりする方も多いかと思いますが、そんな皆さんは何か育児に関して何か参考にしているものはありますか?自分達の親や周りのママ友、保育園・幼稚園や学校の先生などから貴重なアドバイスをもらえることもあるでしょうし、育児系のネット記事や雑誌にも良いことがたくさん書いてあるかもしれません。もちろん子供の個性や家庭の事情、住む場所や時代によって一つとして正解はありませんが、今回は私が読んで参考になったと思う本を紹介させていただこうと思います。

小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て

慶應義塾大学小児科教授の高橋孝雄先生が執筆された本です。医者が書いた育児本というと小難しい論文を死ぬほど引用してきて快刀乱麻を断つようにああしなさい、こうしなさいと白黒はっきりつけて書かれていそうですが、本書はそういった余地の無いマニュアル本ではなく、むしろ読み手とその子供を尊重し肯定してくれるような内容になっています。

中身は全4章に分かれており、前半の1〜2章は子供たちのもつ強さや能力についての解説、3章は子供との関わり方に関する提案、4章は子供のもつ強さが先生が経験した実際の患者さんのエピソードとともに書かれていますが、本書を通して一貫して訴えられているメッセージは「生まれた時点で全ての子供は大きな潜在能力を持っている」ということです。誰しも我が子が生まれた瞬間にはその子の存在自体に大きな感動と感謝をするものですが、子供が育ってくるに従って少しずつできること、できないことが目についてしまうものです。しかし筆者の考えではそういったことは長期的な視点に立てば些末なことであり一喜一憂する必要は全くなく、むしろ親の最も大切な役割は子供たちが自分達のペースでゆっくりと成長していくのをどっしり構えて気長に待ってあげましょうというスタンスです。

文中にある「子供の能力は遺伝子に全て書いてある」的な話は身も蓋も無いような気がしてしまいますが、だからこそ親は子供の得意不得意などに責任を感じすぎることはないし、むしろ子供を信じてしっかり愛情を注いでいればあとは子供たちが自分のタイミングでそれぞれに能力を開花させていきますよという筆者からのメッセージは、受験戦争や習い事の数など何かと周りの家庭と比較して焦らされてしまう現代の親子にとっては、子供の未来を最適化するために何が必要なのかを再度冷静に見つめ直すのに良いきっかけを与えてくれるかもしれません。

まとめ

というわけで本日は育児本のご紹介でした。似たような啓発めいた本は他にもありますが、それらと本書が違うのは提言の一つひとつを科学的なエビデンスや高橋先生の臨床医としての経験が裏打ちしており決して空論に終わっていないところです。もちろん冒頭でもお伝えした通り正解がないのが育児であり、そのため本書が必ずしも全てのご家庭にマッチするわけではないと思いますが一読の価値はあると思いご紹介させていただきました。もしご興味のある方は試しに読んでみてください。

出版社のリンクはこちらです→https://magazineworld.jp/books/digital/?83873013AAA000000000

※ちなみに高橋先生とは特に面識はなく、上のリンクも収益化されたアフィリエイトなどではありません。そのため当院と本書に関して特別な利益相反関係はありません。

HPVワクチンの積極的勧奨が再開されます

11月下旬、厚生労働省は「ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症に係る定期接種の今後の対応について」の通知を全国の自治体に向けて発出しました。今回の通知は2013年6月の勧告を変更するもので、令和4年4月よりHPVワクチン接種対象者に予防接種法第8条に基づき勧奨を行うこととなります。

最新の知見を踏まえ、改めて同ワクチンの安全性について特段の懸念が認められないこと、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ることが認められたことから、『積極的勧奨』の再開となります。

先日、10歳の娘が2回目のHPVワクチン接種を済ませました。にしじまクリニックスタッフの多くの娘さん方も、続々とHPVワクチンの接種を済ませております。

最近はご質問にいらっしゃる親子さんも大変多いです。対象者の方、ご家族は、まずは外来へいらっしゃっることを検討してみてはいかがでしょうか。

(院長執筆)

参考文献;

日本産婦人科医会報第73巻11号