モルヌピラビル

新型コロナウイルス感染症治療薬として、経口抗ウイルス薬のモルヌピラビル(ラゲブリオ®︎)の一般流通(*)が開始されました。

(*卸販売業者を通じて医療機関および薬局に納入が開始され、

通常どおり医師が処方箋を発行し、お薬を出す、ということです1)。)

モルヌピラビルの薬効動態

モルヌピラビルはRNA合成酵素阻害薬です。新型コロナウイルスにおけるRNAポリメラーゼに作用し、ウイルスRNAの配列に変異を導入し、ウイルスの増殖を阻害します。

発症後、なるべく早いうちに服用することが推奨されています。

モルヌピラビルの処方を適さない方

動物実験で胎児毒性が報告されており、妊娠中は禁忌(使用できない)となります。

ということは、妊娠中は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクを下げるためにはワクチン接種が手立てとなります。

なお現時点では18歳以上の方が処方を考慮する対象となります。

一般流通品となり、何が変わるのか

経口抗ウイルス薬としてのアクセスが容易になれば、たとえ妊婦さんがモルヌピラビルを使用できなくても家族が新型コロナウイルスにかかった場合、早めの内服でウイルスの拡散を低くすることが可能と考えます。

文責 院長

引用文献

1) 新型コロナウイルス感染症の経口抗ウイルス薬(飲み薬)について. 神奈川県HP

赤ちゃんの名前について

こんにちは、副院長の石田です。

ご両親にとって赤ちゃんが産まれて最初のお仕事の一つが名付けです。妊娠中から産後にかけてみんなで新しい家族の名前を考えるのは幸せな時間ですよね。日本では赤ちゃんの名前を漢字の意味や文字数、字画、音感など様々な角度から考えますが、一方で世界に目を向けてみるとそれぞれの文化にそれぞれの視点があって面白いトピックでもあります。そこで本日は世界の名付けについて皆さんと一緒に見ていきたいと思います。

名付けのルール

日本では90年代に「悪魔」ちゃんという名前をつけようとして役所で揉めた方が話題になりましたが、現行のルールでは戸籍法50条に「子の名には常用平易な文字を用いなければならない。」「常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定める。」という定めしかありません 1)。これは世界的に見ると自由度が高いらしく、諸外国ではもう少し詳しく禁止事項が定められていたりします。例えばドイツをはじめ、スウェーデン、デンマーク、ニュージーランドなどでは赤ちゃんの将来に影響がありそうな名前は禁止されています。具体的にはスウェーデンで”Brfxxccxxmnpcccclllmmnprxvclmnckssqlbb11116”という名前が却下されたことがあるそうです。(ちなみにこれでアルビンと読むそうですが、この両親はその後”A”という名前で再提出してもう一度却下されたそうです。)また、ドイツでは性別が分かるような名前にする(男の子には男の子の名前を)とか苗字のような名前をつけないといったルールもあるようです 2)3)。

名付けの慣習

日本や中国は世界でも珍しく漢字というそれ自体が一つひとつの意味を持つ数千種類のアルファベットを有しているため文字に意味や願いを込めて名前にしていくことが多いです。それに対して例えばカトリック系の国々(スペイン、イタリアなど)では天使やその地域に馴染みのある聖人の名前にちなんで名付けられることが多いようで、地域によっては自分の誕生日と同様、名前の由来となった聖人の日も大切にお祝いするそうです。その他ギリシャやベネズエラでは両親や祖父母の名前を受け継いだり、インドではナクシャトラという占星術やヒンドゥー教の神様から名前をもらったりするということでした。ちなみに当院の院長が国境なき医師団で派遣されていたナイジェリアでは、想いを込めた名前とは別に生まれた日の状況にちなんだ名前も一緒に付けられる文化があるようです。(例えばBejide:雨が降っている時に生まれた女の子の意味 など)4)5)

まとめ

というわけで本日は世界の名付け文化についてのお話でした。名前のインスピレーションをどこからもらってくるかは多種多様ですが、どの名前にも子供の幸せへの祈りが込められていて素敵ですよね。皆さんも名付けの機会が回ってきたら、是非時間をかけて楽しんでみてください。

1) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000224
2) https://cultureready.org/blog/baby-naming-around-world
3) https://www.mentalfloss.com/article/25034/8-countries-fascinating-baby-naming-laws
4) https://www.babycentre.co.uk/a568884/baby-naming-practices-from-around-the-world
5) https://junodx.com/blog/baby-naming-traditions-in-different-world-cultures/

児の理想的な進行方向

狭い産道を通って赤ちゃん(児)は出てきます。児頭は大きいので、顎を胸につける「屈位」の状態が産道通過面に対し最小となります。別に言い方として要約すると

「児頭径線のうち最小である小斜径(suboccipitobregmatic diameter)周囲で産道を通過する」

事が狭い産道を通過するのに適しています。

小斜径は後頭結節後下方〜大泉門の距離で9.5cmとなります。

では進行方向についてはどうでしょうか。結論から申し上げると

「大斜径が骨産道軸の方向を向いている」

時になります。

大斜径(Occipitomental diameter)は頤(オトガイ)〜小泉門より3cm前方の点を結んだ径線です。

大斜径は小斜径に対しおおよそ直角に近く交わり、”Mentovertical diameter”とも呼ばれます。

なお、矢状縫合線上、小泉門より3cm前方の部分をFlexion pointと呼びます。

吸引分娩ではFlexion pointに吸引カップを当てます。要は児頭の屈位を保つ事で骨産道軸に沿った経腟分娩を目指すのです。

文責 院長

引用文献

産婦人科ファーストタッチ

梅毒について

こんにちは、副院長の石田です。

つい先日、今年の梅毒の感染者が過去最多になったというニュースが流れました 1)。「増えているらしい」というのは少し前から我々界隈で囁かれてはいたのですが、今年は9月頭の時点で8155人と、昨年の総数である7983人を上回っており流石にびっくりです。そこで本日は梅毒についてお話ししたいと思います。

梅毒とは

梅毒はトレポネーマ(Treponema pallidum)と呼ばれる細菌による感染症で、性病の一種です。オーラルセックスを含めた性交渉で感染するほか、妊婦さんが感染すると胎盤を介して赤ちゃんに垂直感染を起こすこともあります。梅毒が順調に進行していくととても重い合併症を発症したり、場合によっては死にいたる可能性も十分あるため社会に流行されると極めて厄介な感染症の一つです。記録のある中で最古のアウトブレイクは15世紀末のナポリらしいですが、日本でも南蛮人が渡来してきた16世紀ごろから流行が確認されているようです。また、吉原などの遊廓で遊女の方が多数犠牲になったようですが、そのことについては「JIN-仁-」や「鬼滅の刃」といった漫画でも取り上げられているのでご存知の方も多いのではないでしょうか?

どんな症状?

書籍によって微妙に違ったりすることもあるのですが、基本的には3つに分けられるステージを、発症と改善を繰り返しながら徐々に進行していきます。感染後約3週間して1期に入りますが、症状は感染した部分にできる単発の潰瘍だけです。通常は陰部ということになりますが、女性の場合はただでさえ見えにくい部分である上にこの潰瘍は痛くないので気がつかないことも多いと言われています。潰瘍が自然に消失した後3ヶ月ほど経って今度は全身に細菌がばら撒かれる2期に突入します。2期では体中に発疹が出たり、発熱や倦怠感なども自覚されますが、人によっては肝炎や腸炎、めまい、耳鳴り、眼病なども発症することがあります。そしてこの2期の症状も自然と回復し、そこから再び潜伏期に入りますが、おおよそ30%前後の患者さんたちは平均3年程度で3期梅毒を発症します。3期は心臓の弁や大動脈、そして中枢神経に深刻なダメージを来すほか、ゴム種と呼ばれる塊を体表から骨、そして内臓まであらゆるところに発生させ、著しい機能障害を引き起こします。(”tertiary syphilis”で画像検索すると痛々しい写真がたくさん出てきます。)一方妊娠中の垂直感染(母子感染)を起こした場合、出生直後はほとんど症状がないものの、赤ちゃんの発育とともに肝機能障害や骨・歯の異常、神経発達障害などが現れます。

梅毒の治療

梅毒は細菌感染なので、抗菌薬(抗生物質)を使用します。具体的にはペニシリンと呼ばれるグループのお薬を使いますが、日本の場合は飲み薬として1ヶ月以上服用し続けなくてはいけません。病期にもよりますが、海外では原則1回の注射で治療が済むのと比べると随分煩雑ですよね。これは、日本で同製剤によるアレルギー反応が大きな社会問題になったことから国内で使用することができなくなってしまったためでしたが、2021年より再び注射薬が承認販売され始めたことから今後は患者さんの負担が大きく軽減することが期待されています。

まとめ

というわけで本日は激増中の梅毒についてのお話でした。抗生剤が出てくる前は死の病でしたが今ではちゃんと診断できれば治る感染症です。しかし上記のように進行すればするほど症状も重くなるし場合によっては治療もややこしくなったり長くなったりすることがあります。ハイリスクな性行動を取らないように気をつけた方が良いのはもちろんですが、万が一気になる症状が出てきたときは最寄りの産婦人科に相談するようにしましょう。

1) NHK: https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220913/k10013815451000.html

英米式の回旋表現法

分娩の進行状況を診る際、児の回旋を確認する事は欠かせません。

今回は英米式の回旋表現法について解説します。

英米式についてはとてもシンプルで、児(頭)の向き[position]を表現する事で回旋を示します。すなわち『方位点を確認し、それが母体の前後(左右)どこに位置するか』というものです。

頭位のうち、(先進部が)後頭位や前頭位の場合、方位点は後頭(Occiput)となります。要は内診で後頭(実際には小泉門がメルクマール)を確認し、

後頭が母体前方(Anterior)に位置する:Occiput Anterior(OA)

後頭が母体後方(Posterior)に位置する:Occiput Posterior(OP)

とPositionを表現するのです。

ちなみに骨盤位の場合、内診では当然ながら児頭は触れませんので方位点は臀部仙骨(Sacrum)となります。

よって表現法は「SA」や「SP」となります。

では顔位/頤位の場合の方位点は?

顔位または頤位では後頭・小泉門は触れることができないので、方位点は児の顎(Mentum)となります。

第3回旋にて、児頭は「恥骨をくぐり抜ける」方向へ進む事が経腟分娩可能な条件となります。となると、前方前頭位が反屈位であるものの、経腟分娩が可能となる事を考えていただくと

・MA(Mentum Anterior)⇨経腟分娩可能

・MP(Mentum Posterior)⇨経腟分娩不可能

という事がお分かりいただけると思います[産婦人科ファーストタッチpp282-283]。

文責 院長

引用文献

産婦人科ファーストタッチ