ワクチンの開発はとても大変だし時間もかかる

こんにちは、副院長の石田です。

年初以来ずっと話題の中心に居座っているコロナウイルスに対して世界中が一刻も早いワクチンの開発を心待ちにしていますが、その期待に応えようと9月10日時点で38のワクチン候補が人間での臨床試験(いわゆる治験)に入っているほか、少なくとも93のワクチン候補が動物実験されているそうです 1)。そんな中、アストラゼネカが開発しているワクチンの臨床試験中、被験者に深刻な副作用が発生したとして世界中で治験が中断されました 2)。被験者の方の健康状態が心配されるとともに、ワクチンまでの道のりが一筋縄ではいかないことを改めて感じたニュースでした。というわけで本日はワクチンの開発ってそもそもどんな感じなのかをお話ししようと思います。

ワクチン開発の流れ

ワクチンには大きく分けて安全性、免疫原性(免疫を作る力)、そして実際に作った免疫が人間を守れるという3つの性能が要求されますが、そういった有効なワクチンを作成するには以下のようなプロセスを経る必要があります 3)。

1. 探索段階(Exploratory stage)
ワクチン候補となる物質を決める段階です。通常は弱らせた病原菌そのものやウイルスの断片、細菌が放出する毒素などが原料になります。
2. 臨床前段階(Pre-Clinical stage)
培養した細胞や動物を使った実験を行います。この結果を用いて人間での実験の際の投与量などが暫定的に決まります。
3. 臨床試験(Clinical development)
実際に人間に投与してみる段階です。その目的と規模により第1相〜第3相までに分けられます。
4. 承認(Regulatory review and approval)
これまでの実験結果を然るべき機関で審議し、世の中に出して良いかどうかを決定します。
5. 製造(Manufacturing)
承認を受けた製品を製薬会社が製造します。
6. 品質管理(Quality control)
発売後も投与された患者さんのデータは収集され続け、もし有害事象があったり、副作用が無くても効果も無いなど問題があれば適宜承認を見直されたりします。

上記の通り、実際に人間での投与が始まるのは臨床試験からになりますが、このパートは次のように、さらに3段階に分けられています 4)。

第1相:通常100人に満たないくらいの小さな規模の試験で、健康な志願者に投与されます。ここでの主目的は効果の評価というよりも安全性の確認です。重篤な副作用が出ないか、安全な投与量はどの程度かが確認されます。
第2相:続いて数百人規模の試験が行われます。この相でも引き続き安全性が確認されるとともに人体の免疫機能が投与後にどのように反応するかが確認されます。
第3相:ここまで来ると数千人以上の大規模臨床試験となり、ワクチンの安全性はもちろんのこと、接種した人としていない人を偽薬を使用しながら比較してワクチンが本当に有効なのかを確かめます。

ワクチン開発にかかる時間

さて、上記のように様々な課題をクリアしてやっと実用化されるのがワクチンなのですが、これら一連の作業にはどのくらいの期間が必要だと思いますか?実は最初の探索期間だけでも通常数年はかかると言われています。加えてその後の基礎研究、臨床試験を経て慎重な審議を重ねた上で製品化されるので、結局開発期間に何十年とかかることはザラにあるんですね。実際病気が発見されてからワクチンができるまでの期間で言うと、麻疹こそ10年程度ですが子宮頸がんワクチン(パピローマウイルス)は25年、髄膜炎菌やチフスなんかだと100年近くを要しています。HIV(1983年〜)やマラリア(1880年〜)のワクチンは世界中で研究されているにも関わらず未だに存在していませんし、COVID-19と同じコロナウイルスが起こすSARSに至っては開発自体が断念されました 5)。実は治療用の薬品も上記と同様のプロセスで製品化されていくのですが、ワクチンの承認がより厳しいのは「病気の人に使うのか、健康な人に使うのか」という違いが大きいです。治療薬なら1万人に1人重篤な副作用が出るとしても残りの難病の人が治るのであれば認可されるかもしれませんが、ワクチンだとそうはいきませんよね。もともと健康な人が病気にならないために投与するのでその分安全基準が厳しいわけです。現在報道されているような「1年半で新型コロナのワクチンを開発する!」というのは実現したら素晴らしいことだけど、それを真に受けて期待し過ぎていると大きく裏切られることになる可能性があります。

そんなだからこそワクチン接種をお勧めしたい。

別に皆さんをがっかりさせたいわけではありませんが、ワクチン開発は各種報道で出ているほど簡単な話ではないんですね。では、先の見えないワクチン開発が進む中で我々が今やっておくべきことは何でしょうか?これは色々とご意見があると思うんですけど、私としては是非皆さんに現存している安全性の確立したワクチンを接種していただきたいと考えています。と言うのも、実はコロナに限らず世の中にはこれまでも怖い感染症はたくさんありました。9月12日現在で新型コロナウイルスによる死亡者数は1423人ですが、年間10000人が診断されて3000人が亡くなっている子宮頸がんや、毎年高齢者を中心に約10万人もの命を奪っている肺炎の一番の原因である肺炎球菌はワクチンで予防が可能です。新型コロナは基本再生産数(R0)=1〜2で連日報道されていましたが、麻疹(はしか)はR0=12~18だし子供を含めて結構命に関わります 6)。大人になって風疹抗体が低下してしまった人たちがもっと積極的にワクチンを接種してくれれば風疹の周期的な流行は起こらずに赤ちゃんの眼や耳、心臓の障害の発生を防げるかもしれません。その他にもインフルエンザや帯状疱疹など大人になっても受けるべきワクチンはたくさんあります。感染症の脅威を世界が認識した今だからこそ、我々が現在持っているワクチンという盾の価値を再認識し、打てるワクチンを積極的に接種する良い機会ではないでしょうか?それに、社会全体でのワクチン接種率が上がれば接種した本人の防御になるだけで無く、抗体が付きにくい人たちのことを守ることもできるんです。

まとめ

当院では子宮頸がんワクチンはもちろん、抗体が低い女性やそのパートナーの方への麻疹・風疹ワクチン、かかりつけ妊婦さんのインフルエンザワクチン(季節限定)などをご用意しています。自分と周りの大切な人を守るために、是非接種をご検討ください。

1) The New York Times. Coronavirus Vaccine Tracker: https://www.nytimes.com/interactive/2020/science/coronavirus-vaccine-tracker.html

2) NHK: https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200909/k10012608481000.html

3) CDC. Vaccines & Immunizations: https://www.cdc.gov/vaccines/basics/test-approve.html

4) K Singh, et al. J Postgrad Med. 2016 Jan-Mar;62(1):4-11

5) Our World in Data: https://ourworldindata.org/vaccination

6) Fiona MG et al. Lancet Infect Dis. 2017 Dec;17(12):e420-e428

赤ちゃんの進み方②、回旋(かいせん)を知る

赤ちゃんは狭い骨盤を通過しお産となるので、骨盤内では回旋(かいせん)、つまり骨盤の中を周りながら降り進んでいきます。本日はそのお話です。

回旋を知るには骨盤の形による条件と、赤ちゃんの向きの指標を知っておく必要があります。

まず骨盤の形です。骨盤入口面は横に長い楕円の形を成しています。一方出口面は縦長となります。

それに対し、赤ちゃんの頭(児頭)の形は縦長です。よって骨盤をくぐり抜けるためには、

骨盤入口面では児頭は横向きで入ります。しかも入口部は骨盤内で一番狭い空間があるので、通常赤ちゃんはアゴを胸側に引きつけるような向きに曲げます。これを『第1回旋』と呼びます。

骨盤出口面は縦長なので、赤ちゃんは横向きから次第に正面・縦向きへ方向を変えながら下降していきます。この過程を『第2回旋』と呼び、私院長の前回ブログ内容の『エンゲージメント』を経て第2回旋が進んでいきます。ちなみに、第1回旋(横向き)から第2回旋(縦向き)へ回る角度は90度となります。

これらの回旋を正確に知るためには赤ちゃんの頭を触り、向きを特定するのです。

赤ちゃんの頭のてっぺんには左右の骨が合わさる矢状縫合という直線状のわずかな隙間があり、その前側には『大泉門(だいせんもん)』、後側には『小泉門(しょうせんもん)』という骨同士の間の大きなスペースがあります。

私の左手を使ってシェーマを描いてみました。私の左手が児頭だと思ってくださいね。

左手の甲が赤ちゃんの後頭に相当し小泉門があります。一方前頭・額らへんに大泉門があります(あると思ってください)。ちなみに握った指側が顔面になるとしてくださいね。

以下の写真は私たちお産に関わる医療スタッフの視野を想定しています。つまり妊婦さんが分娩台に載り、スタッフが分娩介助をしている時、児頭はどうやって回旋しているかをみるシェーマです。白のリングは産道(腟)だと思ってください。

引き続き左手を使っています。よって回旋が始まる前、赤ちゃんの背中は妊婦さんの左側となります。

まず第1回旋から。児頭は屈曲して後頭部である小泉門が先進します。これによって横長である骨盤入口へ児頭が入ることができます。その後骨盤は出口部まで縦長のスペースへなるので、第2回旋が始まります。

第2回旋は先進部である小泉門が反時計(右上)へ回り母体前方、いわゆる恥骨側へ回旋します。この時に先日お話ししたエンゲージメント・Station “0”の状態を経て、児頭の下降は進んでいきます。この時子宮口は大体7cm前後でしょうか。第2回旋が終了した時点で後頭部(小泉門)は恥骨側・12時方向の位置となり児頭の正面・縦向きが整います。この時子宮口は既に全開大(10cm)でいよいよお産となります。

第3回旋は第1回旋の逆向きになって児が娩出するものなので、この場合児は反屈して恥骨をくぐり抜けるように児頭が産道(腟)から娩出します。

最後の第4回旋は第2回旋の逆向きに肩が回ります。よって通常は第1回旋と同じ向きへ赤ちゃん顔が見えるように回旋し、つまり今回の例では妊婦さんにとっての左側に赤ちゃん顔があり、全ての回旋を終えるのです。

災害時に病院の外で分娩になってしまった時のために

こんにちは、副院長の石田です。

多くの方が医療施設や助産院で分娩されるのが一般的ですが、災害時などの簡単に医療機関にかかれない状況では期せずして院外で分娩になってしまうことがあるかもしれません。ズンズン進んでくる赤ちゃんと、たくさん出てくる血液や羊水の勢いにどうしたらいいか分からなくなることと思いますが、今日はそんな時の対処法をお教えしたいと思います。

やることは3つだけ

あなたや旦那さん、周りの人たちはその瞬間に恐らく大パニックになることでしょう。でも落ち着いて。院外でできることなんて我々医療者でもいくつもありません。加えてお産は大部分が病気ですらありません。これから言う3つのことを冷静に遂行できるようにイメージしておきましょう。

1)呼吸の確保

赤ちゃんは生まれてくると泣くことによって羊水で満たさた潰れた肺を一気に空気で膨らませて呼吸を始めます。お母さんの外に出るとへその緒からの酸素の供給が無くなるのでこれができないと窒息してしまうわけです。ほとんどの赤ちゃんはお母さんから出てくるなり勝手に泣き始めますが、たまにのんびり屋さんの赤ちゃんがいて中々泣いてくれないことがあります。そんな時は優しく背中を撫でたり足の裏をポンポンと叩いてみましょう。それだけでほとんどの赤ちゃんは自分が生まれたことに気付いて大声で泣いてくれます。そうすればまずはひと安心です。

2)保温

赤ちゃんは体温調節機能が未熟です。ビショビショに濡れた状態で出てきたのをそのままにしておくとみるみる体温が奪われていきますが、これは命に関わります。まずは乾いたタオルや、無ければ自分のきている服を脱いで使ってもいいので押し当てるようにして体表の水分を拭き取ってあげましょう。この時に擦りすぎると弱い赤ちゃんの皮膚を壊してしまうので注意が必要です。赤ちゃんを十分に乾かせたら、お母さんの胸をはだけさせてうつ伏せで乗せ、裸と裸でピッタリと抱きしめます。これをカンガルーケアと言いますが、お母さんの人肌で赤ちゃんを適温に温めることができるため非常に有用です。もともとは医療設備の乏しい途上国で赤ちゃんを効果的に温めるために開発された医療技術なんですね。この時のポイントは病院に着くまで赤ちゃんが呼吸をしているかどうか確認し続けることです。

3)へその緒

基本的には2番までできていれば十分ですが、もし余裕があれば思い切ってガーゼなどの薄い布を使ってへその緒を縛ってみてください。ぎゅっと締めて大丈夫です。赤ちゃんは痛くありません。うまくキツくできなくても大丈夫です。へその緒は意外と太いこともあるので縛るのは難しいもんです。縛る場所はどこでもいいですが、あえて言うなら真ん中あたりでやっときましょう。

その後

ここまでできていればあなたは十分役目を果たしたと言えます。落ち着いて医療機関にお母さんと赤ちゃんを連れてきていただくか、周囲に助けを求めて医療者を探してきてもらいましょう。赤ちゃんに続いて胎盤が出てきた後に出血するかもしれませんが驚かないで大丈夫です。ほとんどの場合、その出血は勝手に止まります。もし出血がジャバジャバと出続ける時には試しに臍の下あたりを手の平でグリグリと撫でてみてください。恐らくコリコリの硬い子宮が触れるようになり、それとともに出血も治まってきます。逆にそれでも治らない場合は専門的な介入が必要になってきます。

まとめ

というわけでいかがだったでしょうか?意外と簡単じゃないですか?もちろんそうならないで済むのが一番ですが、日本は災害の国なので時としてそういった場面に出くわすかもしれません。でも、元来お産はほとんどの場合何も手を加えなくても自然に進行し、無事に終了します。万が一の時には上記を思い出しながら落ち着いて対応してみましょう。もちろん可能であれば災害時でもできるだけ病院で出産しましょう。

※上記は飽くまで院外でできる処置を簡潔にまとめたものであり、赤ちゃんやお母さんの健康を保証するものではありません。

赤ちゃんの進み方①、エンゲージメントを知る

『経験だけに頼らず、エビデンスをベースとした診療』を実行すべく、にしじまクリニックではエビデンスをベースとした当院の診療マニュアルを各スタッフと共有し、知見や技術に偏りのない医療をどのスタッフからも提供できるように心がけています。

近日アップデートするマニュアルの一部から、本日のブログの内容を決めました。それは『赤ちゃんの進み方』です。本日を含め3回にわたって私院長がこの内容をブログにポストします。テクニカルな単語も多いので少し難しい内容ですが、このブログは当院の妊婦さんや患者様、当院スタッフのみならず他の医療関係者も見ているので是非ともお付き合いください。

赤ちゃんの進み方①、本日は

「エンゲージメント (Engagement)を知る」

です。

『Engagement』、日本での産科用語として『嵌入(かんにゅう』と呼ばれ、赤ちゃんの骨盤内へ進んだ位置の状態を表すために使われる用語の一つです。

『Engagement』もしくは『嵌入』とは坐骨棘(ざこつきょく)の高さに児頭先進部、いわゆる赤ちゃんの頭の先がある位置を表すのです。

『坐骨棘(英語ではischial spine)』と言葉が出てきました。これは骨盤を構成する左右の坐骨の内側に窪みがある部分をさします。この場所から仙骨に向かって仙棘靭帯が走り、坐骨と仙骨内を支えています。

「赤ちゃんの頭がだんだん骨盤内へ進んでいる・降りてきている」判断の一つに”DeLeeのstation”という内診による評価があり、赤ちゃんの頭の先の位置を高さ別に「−5〜+5」と表記します。

エンゲージメント(Engagement)のstationはちょうど”0″となります。まとめますと、

エンゲージメントは嵌入と同じ意味で児頭先進部が坐骨棘レベル=station 0

となります。

教科書には「嵌入(Engagement)を確認するために坐骨棘を触知する」とよく書いてあリますが、今日実際の診察・内診で意識している助産師および産科医師はどれほどいるでしょうか?実はこの坐骨棘、分かりづらいのです。でも分かりづらいから適当にstation、特にstation 0の位置を把握するのではなく、解剖学的に坐骨棘がどこなのかを知っておくべ必要があります。もしわからなかったとしても、坐骨棘の触知以外にEngagementを知る方法を知っておかなければなりません。

まずは解剖学的説明から、

添付した図にⅠ P〜Ⅳ Pと平行に4つの線があります。

恥骨上縁から1番上の仙骨上縁を結んだ線がⅠ P

その下縁同士をパラレル(Parallel)に結んだ線がⅡ P

尾骨ラインがⅣ P、そして

Ⅱ PとⅣ Pの間がⅢ Pとなり、この線上にischial spine(坐骨棘)があるのです。

坐骨棘は左右あり、間は約10cmです。

左右坐骨棘同士を線で結び、さらには恥骨を頂点とし坐骨棘へと結ぶ(青色線です)と、三角形ができます。

空間で考えると、診察・内診時の正面像では三角形の坐骨棘同士の線が仙骨側へ倒れるイメージとなります。これをイメージして内診時に坐骨棘を探します。

もし坐骨棘が内診でわからない、正確なstation 0がわからないのでEngagementかどうかわからない、そのような場合は

上の図のように、内診時に指を進めていき

腟の奥のスペースがなく、児頭先進部が指の上で触れていればEngagementです(Engaged)。実際その側には坐骨棘もあるはずなのです。

どうでしょうか。ちょっと難しい内容ですが、医療従事者はこれらを把握できてこそ、次回ポストする児頭の回旋(かいせん)の仕方と児頭骨盤内進入の総合評価、ひいては吸引分娩や鉗子分娩の適応が見えてくるのです。

妊娠中のペットとの関わりについて

こんにちは、副院長の石田です。

外来でよく聞かれる質問シリーズの一つとして、ペットに関するものがあります。自分で飼っていなくても里帰り先の実家で飼っているパターンなんかもあり、それらのペットと妊娠中や出産後を通じてどのように距離を取るべきかというのは難しい問題ですよね。ペットフード協会の全国犬猫飼育実態調査(平成30年)によると全国の犬の飼育頭数は推計で約890万頭、猫は約965万頭であり、この2種類に限っても日本にはたくさんのペットがいることが分かります 1)。というわけで本日は妊娠とペットについて書いていきたいと思います。

「妊娠」「ペット」でネット検索すると何をおいても出てくるのが猫の情報です。猫はトキソプラズマという寄生虫の宿主として有名です。トキソプラズマは猫の糞に排泄されるため、猫のトイレを掃除したり、猫の糞が付着した土を触ったりすると人間に感染する恐れがあります。妊娠中にトキソプラズマに感染すると胎盤を介して赤ちゃんにも感染し、脳や目、肝臓などに障害を起こす可能性があることが知られています。妊娠初期の胎児感染で重症化しやすい反面で妊娠後期の方が胎児感染の確率自体は上昇することも知られており、妊娠期間を通して注意が必要です。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)でも妊娠中の猫との接触は気をつけるようにと勧告しています 2)。

ハムスター、ネズミ

意外と知られていないのがハムスターなどの危険性です。齧歯類の動物はリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(Lymphocytic choriomeningitis virus: LCMV)を保有していることがあります。このウイルスがネズミの糞尿や唾液などを介して子供や成人で感染すると軽い髄膜炎を起こすことが知られていますが、万が一妊娠中に感染してしまうと胎児の小頭症や脳室周囲の石灰化、視力障害などを引き起こすことが知られています。先天性のLCMV感染症の場合、生後21ヶ月までの死亡率は35%になるというデータもあり、これらの動物を飼っている場合には妊娠中は極力接触を避けた方が良いとされています 2)3)4)。

その他に気をつけること

ペットにされる動物は様々で、爬虫類や鳥類、魚類、大型動物なんかがそれぞれに媒介する感染症を言い出すとキリがありませんが、そもそもの衛生状況への配慮はもちろん動物のメンタルコンディションも気にかけてあげることが重要なようです。新しい家族が増えることでペットもストレスを感じることがあるらしく、それまで温厚だった動物でも赤ちゃんを襲ってしまう可能性もゼロではないため赤ちゃんとペットが部屋に2人きりみたいにならないように気をつけましょう。

まとめ

ペットは大事な家族の一員ということで妊娠したせいで距離を取ることになるのは抵抗があるかもしれませんが、動物を飼う時にはお互いのためにも妊娠した時にどのようなリスクが発生するかを事前に想定しておくようにしましょう。

1) https://petfood.or.jp/data/chart2018/3.pdf

2) CDC: https://www.cdc.gov/healthypets/health-benefits/index.html

3) Wright R, et al. Pediatrics 1997; 100: 1-6

4) Daniel JB. Semin Pediatr Neurologic. 2012 Sep; 19(3): 89-95