COVID-19 まとめ②:症状、重症化のリスク

こんにちは、副院長の石田です。

前回の記事の続きです。本日は臨床的な側面からの記事です。どういった症状が出て、どういった人たちが重症化しやすいかをまとめてみました。

COVID-19の症状

人種によって微妙に違う可能性もありますが、最も多く見られる症状は発熱(83-99%)です。次いで咳(59-82%)、倦怠感(44-70%)のような症状も一般的です。その他、一部の人達に食欲不振(40-84%)、呼吸困難感(31-40%)、痰(28-33%)筋肉痛(11-35%)などが見られます 1)。武漢大学病院の報告で印象的だったのは上気道感染なのに意外と咽頭痛が少ない(17.4%)ことと、下痢(10.1%)、吐き気(10.1%)などの消化器症状が出る人がいることでしょうか 2)。ただ、この感染症は無症状で経過する方も多いという特徴があります。国民全員に対して検査をしている国が存在しないことから感染者の何割が本当に症状を呈するかはわかりませんが、数少ない全数検査をしたダイアモンドプリンセス号の例で見ると約半数が無症状であったことが分かります 3)。飽くまで定点観測であること(検査時点で無症状のまま陽性が出た後に発症した可能性がある)、また年齢比が実際の社会と同じでは無い(実社会より高齢者の割合が断トツに高い)ことを考えるとこの数字をこのまま受け取ることはできませんが、参考にしてみてください。

ちなみに巷では味や匂いが分からなくなったら確定みたいな風潮がありますが、味覚障害や嗅覚障害はインフルエンザなどの上気道感染でも起こり得る症状でコロナウイルスに特徴的なわけではありません。メカニズムとしては上気道の炎症により一時的に味覚や嗅覚を司る細胞への血流障害が起きるため感じにくくなるんですね。って思ってたら日本耳鼻咽喉科学会も同じこと言ってくれてました 4)。(もちろん、こちらに書いてあるように感覚障害を含めて体調不良を感じたら何らかの感染症を疑う必要はあります。)

重症化のリスクについて

中国で行われた44672例の患者さんを対象にした研究では81%が軽症、14%が中等症、そして5%が重症となりました。感染が確認された場合の致死率は2.3%ですが、80歳以上では14.8%、重症の患者さんだけで見ると49.0%となります 5)。アメリカ疾病予防管理センターでは重症化するリスクとして高齢者(特に65歳以上)であるということ以外に肺疾患、心血管疾患、糖尿病、肝疾患、悪性腫瘍、人工透析を要する腎不全などの基礎疾患を持っている方や、喫煙者、肥満症(特にBMI>=40)などの生活習慣的な部分を挙げています 1)。もちろんリスク要因が多い人の方が危険ということになりますが、ある報告によれば重症化した人達は平均して2.7個のリスクを保有していたということでした 6)。

まとめ

症状だけで見ると、軽症で済めば本当にただの風邪って感じですね。無症状の人が少なからずいること、軽症者が多く動き回れてしまうこと、人によっては潜伏期間が2週間程度まであることなどから感染が拡がりやすいというのはやはりありそうです。年齢や基礎疾患などは今更慌ててもどうにもなりませんが、とりあえず今からできるリスク対策は禁煙です。タバコの危険度についてはデータによって幅がありますが、2月の終わりに発表された中国からの論文では喫煙者だと重症化のリスクが非喫煙者に比べて14倍以上になる可能性も示唆されています 7)。加熱式タバコや受動喫煙も十分に良くありませんので、この4月から受動喫煙を取締る改正健康増進法や関連条例も施行されましたし、喫煙者の方におかれましてはこの機会に禁煙されることを強くお勧めいたします 8)9)。

1) CDC: Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)

2) Wang D, et al. JAMA. 2020 Feb 7.

3) 国立感染症研究所:ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例

4) 日本耳鼻咽喉科学会:嗅覚・味覚障害と新型コロナウイルス感染について

5) Zunyou Wu, et al. JAMA. 2020 Feb 24.

6) Graziano Onder, et al. JAMA. March 23, 2020.

7) Liu W, et al. Chin Med J. 2020 Feb 28.

8) 厚生労働省:受動喫煙対策

9) 東京都福祉保健局:東京都受動喫煙防止条例

COVID-19 まとめ①:コロナウイルスについて

こんにちは、副院長の石田です。

コロナウイルス、いよいよエラいことになってきましたね。皆さん既に医療者並にたくさんの知識を備えていらっしゃることとは思いますが、色々と情報も出揃ってきているので改めてこのブログでまとめてみようと思います。というわけで今回はコロナウイルスについてです。

コロナウイルスとは

コロナウイルスとは動物と人間の双方に感染することができるエンベロープウイルスでウイルス表面に独特なスパイクを持っているのが特徴です。その形が王冠に見えることからラテン語で王冠を表す「コロナ」が名前になったんですね。ちなみにエンベロープとはウイルス表面を覆っている膜のことで、感染対象の細胞内に侵入したり免疫による攻撃を回避する役割を持っていますが、それ自体は脂質でできていることからアルコールなどで容易に破壊されるため消毒が楽です。風邪の10〜15%、特に流行の最盛期には大人の上気道感染症の1/3はコロナウイルスが原因とされているくらいありふれたウイルスなので、それ自体は目新しくありません。

※写真は国立感染症研究所のウェブサイトからお借りしてきました。

新型コロナウイルスはどのように発見されたのか

2019年12月、湖北省武漢で肺炎の集団発生が確認されました。そこで原因微生物を特定するべく患者さんの検体より採取されたゲノム配列を解析したところ、新型のコロナウイルスが発見されたということです。このウイルスはSARS-CoV-2 (Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2) と名付けられました。これにちなんでよくある誤解ですが、COVID-19というのはウイルスの名前ではなくウイルスが引き起こす「病気の名前」です。エイズを起こすのがHIVというウイルスであるのと一緒ですね。

感染経路

疫学調査により武漢にある海鮮市場から発生したのではないかと考えられていますが、本当の発生源は未だによく分かっていません 。ただ、現在は人から人への感染がメインと考えられています 1)2)。今のところ有力視されている感染経路は飛沫感染と接触感染です。患者さんの咳やくしゃみなどにより体外に出た小さな粒子が他人の口や鼻などの粘膜に付着することで伝染していくんですね。飛沫感染の場合、通常2m以上は飛ばないので他人との距離を保つことが予防にとって重要になります。ただ、空気中でウイルスが3時間程度漂ったという報告もあり、今後この知見は変わってくるかもしれません 3)。以上のことから予防には手洗い、うがい、マスクの他、不要不急の外出や他人との接触を避けること、またよく手が触れる場所は積極的に消毒することが勧められているわけですね。

潜伏期間

感染から14日間が潜伏期間と考えられていますが、これは最長14日間というだけで実際には5.2日間くらいがウイルスへの暴露から発症までの平均的な時間と考えられています 4)5)。なので「本日の新規感染者は2週間前の感染状況を反映している」というのは誤解のある部分で、実際には検査に最長で数日かかることを考えても概ね1週間〜2週間前くらいにウイルスをもらった人達の人数ということになります 6)。

まとめ

今回はコロナウイルスの特徴をご紹介いたしました。皆さんが既に知っている情報も多いとは思いますが、参考になったら幸いです。次回はCOVID-19について症状を含め臨床的な話をご紹介しようと思います。

1) 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 第1版

2) WHO: Novel Coronavirus Situation Report-1

3) van Doremalen N, et al. N Engl J Med. 2020 Mar 17

4) Special Expert Group for Control of the Epidemic of Novel Coronavirus Pneumonia of the Chinese Preventive Medicine Association. Zhonghua Yu Fang Yi Xue Za Zhi. 2020 Feb 14; 41(2): 139-144

5) Li Q, et al. N Engl J Med. 2020 Mar 26; 382(13): 1199-1207

6) 厚生労働省:新型コロナウイルスに関するQ&A

月の満ち欠けは陣痛、出産と関係があるか

こんにちは、副院長の石田です。

満月の夜、夜勤スタッフは緊張の面持ちで出勤してきます。「今日は荒れるよ…。」

いにしえより人類は闇夜を照らす月の不思議な魅力に時にどうしようもないほど惹きつけられ、時にその姿に魔力を感じ恐れてきました。そして潮の満ち干きはおろか、出産すら月の影響を受けていると考えてきたのです。実際に産婦人科にかけられているカレンダーには月の満ち欠けが記載されていますし、マタニティーアプリの中にはやはりその日の月の状態を確認できる機能が付いているものもあります。そういえば数年前のスーパームーンの時にうちの奥さんが「お金が貯まるから」とか言って月に向かってお財布を振ってたら、気がつくと隣で知らないインド人が同じように真似して振っていました。

というわけで今日は月と陣痛、出産などの関係に関してお話ししたいと思います。

そもそもなんで月と出産数に関係があるのか

地球上にある様々なものは直接的、間接的に月の影響を受けています。例えば満月のときは太陽、地球、月が一直線上に並ぶことで地球に及ぼす影響が最も強くなるためその辺りで海は大潮を迎えます。人間の体も6割は水分でできており、同じように太陽と月の影響を受けやすいというわけです。

実際どうなのか

いや、それ本当なの?ってことで皆様に代わって調べてまいりました。まず、アイルランドより18ヶ月間で10,027件の分娩に対して月のサイクルと出産件数の関係を調べたやつ1)、続いてイタリアより327件の分娩に関するretrospective analysis 2)、そしてさらには1997年から2001年までの実に564,039件という膨大な数の分娩を月の満ち欠け62周期にわたり検証したアメリカの研究3)。そう、その全てが結論づけています。

「月とお産は関係なし」

無関係かよ!!!いやいや、これだけ言ってたら何かしら関係するものあるでしょ?例えば月がどうだと赤ちゃんが元気に生まれてくるとか、満月だと女の子が多いとか。

「それも関係なし」4)

その他にも世界のあちこちから調べてみたよって研究がいくつも出ていましたが、ことごとく関係ありませんでしたという結論で締めくくられていました。ふと思ったんですが、この言い伝えって日本だけじゃなくて世界中で言われてるんですね。月、すごい。

ちなみに生理はどうなの?ってことで調べてみたところ、1980年代に出た古い研究が月の周期と生理周期がある程度同期する可能性があるようなことを示唆していました5)6)。まぁ、古すぎるしfull textも読んでいないので実際どうなのかはよく分かりませんが…。

結論

お産と月のコンディションは関係ないみたいですので皆さん安心してください。でも、高層ビルが増えたりして夜空を見上げる機会が少なくなっている現代で、月の具合をみながら「赤ちゃんまだかなー?」って家族でお月様を眺めるのはきっとステキな思い出になるのでおススメです。

あと、夜に月に向かってお財布を振るのはお勧めしません。悪い奴が近くにいたらひったくられます。どうしてもやるならご自宅の安全な場所でお願いいたします。

1) Ong S, et al. J Obstet Gynaecol. 1998 Nov; 18(6): 538-9

2) Lagana AS, et al. Kathmandu Univ Med J (KUMJ). 2014 Oct-Dec; 12(48): 233-7

3) Arliss JM, et al. Am J Obstet Gynecol. 2005 May; 192(5): 1462-4

4) Staboulidou I, et al. Acts Obstet Gynecol Scand. 2008; 87(8): 875-9

5) Law SP. Acta Obstet Gynecol Scand. 1986; 65(1): 45-8

6) Friedmann E. Am J Obstet Gynecol. 1981 Jun 1; 140(3): 350

当院での消毒対応とご家庭でのヒント

にしじまクリニックでは『エビデンスの基づいた診療を提供する』事をモットーに、私院長と副院長石田はディスカッションを日々重ねています。

新型コロナウイルスに対し情報が錯綜していますが、『本当の知るべきこと』は先人達がエビデンスを積み重ねた医学書などからも十分参考になります。

例えば消毒に関して、にしじまクリニックでは、通常の感染予防策として以下添付したマニュアルで運用しています。これは新型コロナウイルスであろうとも十分対応が可能なのです。

このマニュアルのタイトル表記で『MRSA』とありますが、これは抗菌薬に耐性のあるブドウ球菌(Methicillin Resistant Staphylococcus Aureus)を指し、ウイルスの他、院内の感染・伝搬を絶つべき菌の一つです。

『消毒薬の抗微生物スペクトラムと適応対象』の表をご覧いただけますか。ここに菌とウイルスに対し消毒効果のある薬剤一覧が確認できます。

ウイルスは構造からエンベロープウイルスとノンエンベロープウイルスに分けられます。新型コロナウイルスはエンベロープ(いわゆる膜のある)ウイルスで、アルコール消毒剤がこのウイルスにダメージを与えることができます

ちなみに胃腸炎を引き起こす『ノロウイルス』はノンエンベロープウイルスで、アルコール消毒剤が有効ではありません。ではどのウイルスにも有効なのは何か、それは

次亜塩素酸ナトリウム

です。ちなみに哺乳瓶の消毒などに用いる

ミルトン(またはピジョン哺乳びん除菌料1%次亜塩素酸ナトリウム

(液体漂白剤のハイターは5%)

です。経済産業省のホームページ

0.05%次亜塩素酸ナトリウムで机やドアノブを消毒

を新型コロナウイルスに対し推奨しています。これは当院の消毒マニュアルでも濃度がほぼ一致します。

ミルトンを0.05%へ希釈するには20倍希釈になります。上の表をご確認ください。

*取り扱いを気をつけていただきたく、使いきる、ということで500mLペットボトルで用意するならミルトン25mL(ミルトンのキャップ1杯)を入れ、水で薄めて(希釈して)ください。要するに

ミルトン(1%次亜塩素酸ナトリウム)25mL +水475mL=0.05%次亜塩素酸ナトリウム希釈液500mL

となります。

その他注意点として、次亜塩素酸ナトリウムは金属腐食性と漂白作用があります次亜塩素酸ナトリウムで清拭(せいしき)し数分後、さらに水拭きすることも覚えておいてください

まとめとして、新型コロナウイルスに対する消毒は市販の手指アルコール消毒剤で対応可能なのですが、最近はマスクより市場に出回っていない気がします。それならハンドソープを用いてしっかり手指を洗いましょう。ただし、お子さまを含め『手洗い』を完璧にできる方々は少ないです。手洗いに合わせて、お互い触れる機会が多い物には0.05%次亜塩素酸ナトリウムで清拭しましょう。

参考)

サラヤホームページ https://pro.saraya.com/kansen-yobo/bacteria-virus/2019-nCoV.html

ミルトンホームページ https://milton.jp/ekitai/index.html

新型コロナウイルス感染症 市民向け感染予防ハンドブック(第2版)http://tmpuh.net/第2版新型コロナウイルス感染症_市民向けハンドブック_20200316.pdf

*下線で強調しましたが、『次亜塩素酸ナトリウム』と『次亜塩素酸水』は異なります。

妊娠とカフェイン

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠中のカフェイン摂取はほぼ100%の妊婦さんが気にしていますし、外来でもよく聞かれる質問の一つです。そこで本日はカフェインと妊娠の関係についてお話ししたいと思います。

なぜ妊娠中にカフェインを取るのは良くないのか?

カフェインは胎盤を通過することができるため、お母さんが摂取すると赤ちゃんにも移行して影響を及ぼすと考えられています。カフェインを代謝する酵素はCYP450といって肝臓由来ですが、胎児は肝機能が未発達なので大人と比べてカフェインの滞留時間が長いとされているんですね 1)2)。カフェインの作用の一つとして精神刺激作用がありますが、これらは体内のセロトニンやアドレナリン受容体を刺激することで起こると言われています。この機序によるものかは分かりませんが、妊娠中に摂取されたカフェインは胎盤の血流速度を低下させる可能性が示唆されている他、早産や発育不全、流産などの原因になるかもと考えられているため摂取は控えた方が良いとされているわけです 3)4)5)6)。

食品中のカフェイン含有量

身近な飲み物で考えると100ml辺りで計算するならコーヒー:60mg、玉露:160mg、紅茶:30mgとなります。ちなみにエナジードリンクでは商品にもよりますが最高で300mgとか入っているものもあるそうな 7)。その他量は少ないですが、コーラやチョコレートなんかにもカフェインは含まれています。

カフェインの摂取量に安全域はあるのか

上記のようにカフェインと妊娠中の良くないイベントとの因果関係が示唆されているもののいずれのデータも質、量ともに確定的とは言えず未だに結論が出ていません。アメリカ産科婦人科学会(ACOG)では「1日200mg以下のカフェイン摂取では胎児に対する明らかな害は証明されていない」としていますし、世界保健機構(WHO)もカフェインの摂取をOKしているわけではないんですが、「1日300mg以上は摂らないでね」と勧告しています 8)9)。

まとめ

以上のことを踏まえると今のところの考え方としては、カフェインの摂取は赤ちゃんに良くない影響が考えられるからお勧めしないけど、どうしてもの時はコーヒーなら2〜3杯程度、緑茶なら1杯程度にしといてね」って感じでしょうか。麦茶やルイボスティー、十六茶®︎などカフェインフリーのお茶なんかもたくさんありますので、カフェイン愛好家の方もこれを機に自分の中で新しい飲み物を開拓してみてはいかがでしょうか?

1) Sara Morgan, et al. Can Fam Physician. 2013 Apr; 59(4): 361-362

2) Yu T, et al. J Clin Pharmacology. 2016 May; 56(5): 590-6

3) Kirkinen P, et al. Am J Obstet Gynecol. 1983 Dec 15: 147(8): 939-42

4) Li J, et al. Int J Gynaecol Obstet. 2015 Aug; 130(2): 116-22

5) Chen LW, et al. Public Health Nutr. 2016 May; 19(7): 1233-44

6) Modzelewska D, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2019 Feb 26; 19(1): 80

7) 食品安全委員会ファクトシート:http://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_caffeine.pdf

8) ACOG Committee Opinion. Number 462, August 2010

9) WHO: https://www.who.int/elena/titles/caffeine-pregnancy/en/