子宮頸がんワクチンは接種した方がよいのか?

こんにちは、副院長の石田です。

とくに何かきっかけがあったわけではないんですが、今日は子宮頸がんワクチンについて書きたいと思います。

子宮頸がんとは

ご存知の方も多いと思いますが、子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因として知られています。身近なところではイボの原因としても知られるウイルスですが、30タイプあるHPVの中でも15タイプが子宮ガンと関係していると言われており、その中でも1番多いとされているのが16型、2番目が18型です。

主な感染経路は性交渉であり、がん?性病?と身構えてしまいますが性交渉の経験がある女性であれば50~80%が生涯で一度は感染すると言われているくらいありふれたウイルスです。通常は感染しても勝手にいなくなってしまうことが多いのですが、一部の女性は持続的な感染状態となり、数年かけて段階的にがんへと進行していくことがあります。

子宮頸がんワクチンとは

子宮頸がん検診ががんになりかけからなってしまった病変を早期に発見することを目的としているのに対して、ワクチンはそもそもこのウイルスの感染自体を予防してがんにならなくするためのもので、現在国内で使用できるものには16型と18型に有効な2価ワクチンであるサーバリクス®︎と、尖圭コンジローマという性病にも併せて有効なガーダシル®︎という4価ワクチンがあります。いずれにしてもこれらのワクチンを接種することで60~70%の子宮頸がんを予防できると考えられています1)2)3)。

実際どのくらい自分に関係があるのか

「がん」というと中高年の病気なイメージが一般的ですが、子宮頸がんは20〜40代に急激に増えている病気で、中には妊娠、出産を経験しないまま子宮を摘出しなければいけなくなる方もおられます。年間で約1万人が診断され2900人が死亡しており4)、全体から見るとそれほど大きい割合では無いように思われるかもしれませんが、部位別、年代別でみると子宮頸がんが占める割合は若年者ほど大きくなることが明らかになっています。万が一診断されてしまった時のライフプランに対するインパクトが大きいことを考えると軽視できる病気ではないでしょう。

結局接種した方がよいのか

子宮頸がんワクチンの接種は性行為を経験する前の10代前半がメインターゲットとなります。そんな若い女の子にとっては「がん」など遠い話なので、実際に接種を判断するのはご両親になることも多いと思いますが、そんな皆さんにとって一番の懸念は副反応でしょう。発生機序は不明であるものの、ワクチン接種後に体の激しい痛みやしびれ、脱力などを起こす患者さんがいらっしゃったことから全国的に話題となりました。その後 の研究でワクチンと副反応の因果関係が否定されたこと、ワクチンが実際に子宮頸がんの発生率を下げていることなどを踏まえてWHOからも接種を推奨する声明が出されていますが、未だに患者さん達の不安は根強いように感じます。

いくら科学的に立証されないとは言え、実際に症状が出て苦しんでいる方がいらっしゃるのは事実ですし、WHOや日本産科婦人科学会が「副反応は存在しない」と断定できていない中でお子様の将来を思って悩まれるのは当然です。そのため最終的な判断はそれぞれのご家庭に委ねられることとなりますが、一般的な産婦人科医の多くは接種するべきだと考えています。それは我々が、妊娠を一度も経験することなく子宮を失った患者さん、妊娠初期から中期にかけて子宮頸がんが見つかり赤ちゃんごと子宮を摘出しなければならない患者さん、そして治療を延期して無事ご出産を終えた後にがんが進行して命を失った患者さんなど、その他にも多くの悲しみと直面してきた経験が強く残っているからだと思います。

予防接種に関するご相談は厚生労働省が相談窓口を開設しており5)、電話でのご相談が可能ですが、当院の外来でもご希望であれば直接対面でご相談いただくことが可能です。(※)もしご希望があればお気軽にお問い合わせください。

1) Miura S, et al. Int J Cancer 2006; 119: 2713-2715

2) Konno R, et al. Vaccine 2008; 26: M30-M42

3) Matsumoto K, et al. J Obstet Gynaecol Res 2013; 39: 7-17

4) http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4

5) https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/inful_consult.html

(※)診察料が発生いたします。

はしか(麻疹)の流行にも注意

先日、2週間健診の褥婦さんに麻疹と風疹の混合ワクチンを摂取しました。風疹のみならず、麻疹にも気にかけていて、教養の高い方なんだなと思いました。

麻疹(はしか)とは、ウイルス感染症で、ヒトからヒトへ感染します。妊娠中に麻疹にかかると症状が重症化しやすく、さらに流産や早産、低出生体重児を引き起こす危険性があります。

世界保健機関(WHO)と厚生労働省のページから麻疹の症状を要約すると、

・ウイルスにさらされてから約10日後に発熱や感冒症状が出現

・口腔内に小発疹が出現後、皮膚に発疹が3日ほどで拡がる

というのが特徴です。

また幼少期にかかりやすい感染症でもあるので、よってワクチンの接種をしましょうね、ということになります。

麻疹含有ワクチン(主に接種されているのは風疹との混合ワクチン)を接種することによって、95%程度の人が麻疹ウイルスに対する免疫を獲得することができると言われています。また2回の接種を受けることで1回の接種では免疫が付かなかった方の多くに免疫を付けることができます。

麻疹も風疹も、抗体価が少ない方は、妊娠前もしくは産後にワクチン摂取を勧めしたいのです。胎児の先天性感染症の予防効果や、出産後の赤ちゃんへの感染の予防、また他人へ移すことへの予防。このような先手の好循環を増やすことが重要と考えます。

WHOは昨年8月、昨年1月から7月の世界の麻疹感染者数が一昨年同時期に比べ3倍近く増加したと発表しています。WHOの基準で、地域内で麻疹の伝搬が12ヶ月以上確認されれば、その国は「麻疹排除」の認定を受けます。しかし英国、ギリシャ、チェコ、アルバニアの4カ国は麻疹の感染者数が増加しており、これらの国はもはや「麻疹排除国とはいえない」と警告しています。

先日、職員検診での採にて私院長の麻疹抗体価は8倍で多くはありませんでした。私院長はワクチンを接種します

東京オリンピック・パラリンピックイヤーの今年、様々な方々が日本へ訪れます。最近話題になっている新型肺炎のみならず、様々な感染症が伝搬するリスクがあります。ワクチンで自分の身を守る、ひいては他人へ移すリスクを抑える、そんな意識が大切だと感じます。

参考)

NICUマニュアル第4版

厚生労働省 麻しんについて https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html

WHO Measles https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/measles

NHS Measles in pregnancy https://www.nhs.uk/conditions/measles/complications/

Forbes はしかが繰り返し流行する日本 https://forbesjapan.com/articles/detail/25800/1/1/1

ユニセフはしか世界で流行 https://www.unicef.or.jp/news/2019/0175.html

緊急避妊薬について

こんにちは、副院長の石田です。

全ての女性にとって妊娠するかしないかの選択は社会的にも身体的にもとても大きな決断の一つですが、デリケートな話題であるほか文化的な要素も影響して日本では女性が主導権を取ってコントロールするのが難しい場面もあるかもしれません。本来は男性がしっかりと自覚しなければいけない部分ではありますが、いざという時には女性のためのレスキュープランが存在します。ということで本日はアフターピル、モーニングピルの名前でもお馴染みの緊急避妊薬についてお話ししたいと思います。

どんな人が緊急避妊をするべきか

基本的には妊娠を希望しないにも関わらず、適切な避妊方法が取られない性交があった全ての生殖可能な女性が対象となります。具体的には単純に避妊しなかった、ピルを飲み忘れた、コンドームが破損した、腟外射精のみしたなどが挙げられますが、その他にはもちろん性暴力被害者の方も含まれます。

緊急避妊の方法

以前はYuzpe(ヤッペ)法という2回の内服が必要な方法が採られていましたが、2011年からはレボノルゲストレルというお薬を1回飲めばよい方法(LNG単回投与法)が認可されて主流になりました。いずれも性交があってから72時間以内の内服で有効とされており、妊娠阻止率は85%前後と言われています。「意外と低いじゃないか」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、これに加えて元々1回の性交で妊娠する確率が10%前後しかないことを計算に入れると結局緊急避妊薬を使った後の避妊成功率は97%以上に昇ります 1) 。内服後は95%の女性に予定月経日の7日以内で月経が来ますのでそれが確認できたら避妊成功ということになります。逆に月経が来ない場合には避妊失敗の可能性がありますので妊娠反応を確認する必要があります。

LNG単回投与法は副作用もほとんど無く、アレルギーがあったりしなければまず安全に使用できる避妊方法ですが、授乳中の方に限っては内服後24時間授乳を中止していただく必要があります。ちなみに海外では2010年頃からUlipristalというレボノルゲストレルと同じくらい安全なのに性交後120時間まで有効なお薬 2) が出て主流になっています。日本でもどこかの製薬会社が販売しようとしているという噂を聞きましたが、まだよく分かりません。

処方の受け方

海外では町の薬局で手軽に買える国も多いですが、日本ではまだ産婦人科を受診しないと薬を手に入れることはできません。また、大きい病院では救急対応などを優先させるために原則として緊急避妊薬は処方していないことも多く、主にクリニックで取り扱われている傾向があります。24時間いつでも処方を謳っている施設もありますが、上記の通り72時間以内に内服すれば良いので落ち着いて最寄りの産婦人科へ診療日に受診されるということで大丈夫です。(事前に薬の取り扱いがあるかどうか、電話やホームページなどで確認しましょう。)そうは言っても大型連休中はうっかり72時間以内に診療日が無い場合もあります。そういう時にはお近くの「お産を取り扱っているクリニック」に問い合わせてみると良いでしょう。「お産を取り扱っている=24時間必ず医師が常駐している」ということになりますので休日でも処方を受けられる可能性が高くなります。

ちなみに処方を希望される女性が未成年の場合、どうしたら良いのかパニックになってしまうかもしれませんが、原則的には保護者の同意などは必要ありませんので安心してお問い合わせいただければと思います(※)。ご両親としてはお子様が薬を必要としている状況はとても気になるかと思いますが、成人しているかどうかに関わらず避妊に関しては全ての女性に平等に自己決定権があるというのが基本原則です。病気ではないので自費診療となりますが、逆に保険を使用することもないためプライバシーは守られます。当院では避妊指導料込みで¥15,000(税別)で処方をお受けしていますので必要な場合はお気軽にご相談ください。

また、不幸にも性犯罪に巻き込まれてしまった被害者の方に関しては、警察に被害を届け出ていただくと診察、検査、緊急避妊薬の処方、中絶などにかかる費用を公費で負担してもらえる制度があります 3) 。被害を訴え出るのはとても勇気の要ることですが、そういった選択肢があるということも皆様には知っておいていただきたいです。

(※)病院によってポリシーが異なる場合がありますので必ずご自身の責任で各受診先へお問い合わせください。

1) Novikova N, et al. Contraception 2007 Feb; 75(2): 112-8

2) Glasier AF, et al. Lancet 2010; 375: 555-562

3) https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/whitepaper/w-2019/pdf/zenbun/pdf/hd1s.pdf

NCPRインストラクター更新講習で感じたこと

先日、NCPR(Neonatal CardioPulmonary Resuscitaion:新生児蘇生法)インストラクターの更新のため、講習を受けてきました。

以前のブログで、にしじまクリニックでのNCPRに関する朝練の様子をお伝えしました。

朝練、NCPR編

蘇生手技が適切にできなければ、新生児仮死の赤ちゃんは救えません。逆を返すとNCPRのキーマニューバー(手技)である『人工呼吸』を確実にできれば、新生児仮死の90%は蘇生可能といわれています。

下に添付した写真の道具が赤ちゃんに人工呼吸を行うための器具・バッグで、このバッグから赤ちゃんの気道へ適切な空気および酸素を送ります(『陽圧換気』と呼ばれます)。

赤ちゃんの口にマスクをあてながらこのバッグを扱い、確実で有効な人工呼吸を行うことは手技の難度が高いのです。

お産に関わる医療従事者は、NCPRは必須の資格といえます。しかしながら適切に行えるかどうかは普段から設備や道具・器具に触れていることが重要で、『Low dose, High frequency training in hospital』が望まれています。よって当院での『朝練』の取り組みに間違いはないと確信した講習会でもありました。もちろん今後もNCPRに限らずこのような取り組みを続けていきます。

参考)

インストラクター対象フォローアップコース事前学習資料

NCPR e-ラーニング(https://www.ncpr.jp

つわりのあれこれ

あけましておめでとうございます、副院長の石田です。今年もよろしくお願いします。

年末年始で食べすぎてしまった方もいる反面、今回は『つわり』について投稿しようと思います。

妊娠初期の方の共通した悩みはつわりですね。食欲低下、嘔気、嘔吐はイメージにあると思いますが、その他頭痛や唾液量の増加、眠気など人によって様々な症状が出ます。何でせっかく妊娠したのにこんな苦行を強いられるのかと元気な旦那さんを横目に理不尽さを感じている世の女性も多いかと思います。

つわりとは何なのか

人によって程度の差はありますが、何らかのつわりの症状を呈する妊婦さんは全体の50〜80%くらいと見積もられています。特に3%くらいの妊婦さんでは健康に支障を来すような体重減少や脱水症状になる妊娠悪阻という状態まで発展することがあります。個人差も去ることながらマクロで見るとアジア人と中東人で特に多いと言われていて、中国の統計では10%の方が妊娠悪阻に罹るというデータもありますが、実際のところつわりと妊娠悪阻の境界線は曖昧で、国際的に統一された診断基準があるわけではないため実態は不明です。ただ、共通した認識として若年、初産婦、有色人種などがリスクファクターになると言われています 1)。その他うつ病の人は重症化しやすいとか、ホルモンが関係しているとか、ピロリ菌や遺伝子的な関連も示唆されていますが決定的なことはほとんど分かっていないようです 1)2)3)。

つわりの治療

嘔気に対して吐き気止めのお薬を出すこともありますが(欧米では対抗癌剤用の強いやつを使うこともあります)、妊娠が根本原因なので結局治療は対症療法のみです。中には分娩までずっと気持ち悪さが残る人もいますが普通は妊娠中期頃には良くなってくるのでじっとそれを待つことになります。最も気をつけなければいけないのは脱水で、生命維持に必要な水分やミネラル、ビタミンなんかが足りなくなってしまう時は点滴をして補います。また、ビタミンB6が症状を和らげるというデータもあるためご相談の上で処方することもあります。個人でできることとしてはショウガが吐き気を減らすのに効果があると言われているので試してみるといいかもしれません(食べられればだけど。)4)5)。

まとめ

というわけで分からないことだらけのつわりのお話でした。周りの人からは「つわりなんて皆乗り切ってるんだから頑張って!」とか言われるかもしれませんが、本人からしたら「そんなの分かってるけど他人とか関係なく私は今しんどいんだよ!」というのが本音でしょう。私たちから言わせるとつわりの症状の重さやそれぞれの妊婦さんの耐性は様々であり、人と比べてどうとかいう話ではありません。当院では患者さんの症状とご希望に応じて外来での処方、点滴から入院まで柔軟に対応できますので、特にかかりつけの方はお気軽にご相談いただければと思います。

最後に

私の奥さんは妊娠中に出産まで吐き気が抜けず辛そうにしていました。初期に唐揚げは食べられたのでずっとそればかり口にしていたのですが、生まれた子供が3歳くらいになった時に初めて唐揚げを食べさせたところ、「ぼく、この味知ってる!」と言い出してびっくりしたことがあります。知り合いのところもリンゴで同じ現象が起きたと言っていました。本当に関係があるのかは分かりませんが、今つわりで苦しんでいる皆さんにも近い将来にそういうこともあるかもしれませんので苦しい中でもそれを楽しみにして食べられるものを探してみてはいかがでしょうか?

1) London V, et al. Pharmacology. 2017; 100(3-4): 161-171

2) Grooten IJ, et al. Am J Obstet Gynecol 2017; 216: 512. e1-e9

3) Li L, et al. Gastroenterol Res Pract 2015; 2015: 278905

4) Viljoen E, et al. Nutrition J 2014; 13: 20, 2891-13-20.

5) ACOG Practice Bulletin. Number 189, January 2018