ブライダルチェックを受けようか悩んだ時の話

こんにちは、副院長の石田です。

にしじまクリニックに来られる患者さんたちの中で、「結婚を控えているのでブライダルチェックを受けたいです」という方が少なからずおられます。もちろんそう言ったご相談にものるのですが、当院ではいわゆるセットとしてのブライダルチェックのご用意は無く、院長や私が患者さんのお話を伺ったうえで必要と思われる診察や検査をご提案する形にしています。そこで本日はブライダルチェックについてお話ししたいと思います。

ブライダルチェックとは

そもそもブライダルチェックとは何でしょうか?実はこの言葉自体が医学的な言葉ではないため定義も曖昧なのですが、試しにchat GPTに聞いてみたところ「結婚を控えたカップルが、将来の健康や妊娠・出産に関するリスクを確認するために行う健康診断の一種です。特に女性向けに行われることが多いですが、男性も対象にする検査も増えています。この検査は、結婚や妊娠の前に自分やパートナーの健康状態を知り、将来の家族計画や健康管理に役立てるためのものです。」とお答えいただきました。おぉ、なんだかそれっぽいこと言ってきたな…。
実際、ブライダルチェックを提供している施設のサイト見てみると、身体診察、超音波検査、子宮・卵巣のがん検診、性感染症、血液検査などが取り扱われており、病気の有無や将来の妊娠可能性について診ているようです。
ちなみに症状が無い健康な人たちに一律に検査をして隠れた病気を探すことを「スクリーニング検査」と言います。

ブライダルチェックは受けた方が良いのか?

結論から言うと、私は「ブライダルチェック」という形で一律にみなさんが婦人科の検査を受ける必要は無いかなと思っています。婦人科の悪性腫瘍に関して言うと、スクリーニング検査による早期発見が患者さんの予後を改善するエビデンスがあるのは今のところ子宮頸がんのみですが、これはほとんどの自治体で2年に1回の定期検診が組まれているためそれを使うのが効率的です。腫瘍マーカー検査を提案する施設もあるようですが、腫瘍マーカーは飽くまで診断の補助や治療効果の評価に使用される程度のものでありスクリーニング検査としての有用性は期待できず、むしろ闇雲な検査には有害性が示唆されています1)2) 。性感染症のスクリーニングは日本では規定がありませんが、アメリカだと性交経験のある25歳未満および25歳以上でハイリスクな女性は毎年クラミジアと淋病の検査を受けることが勧められています。また、HIVは13〜64歳の全ての女性に対して検査が勧められています 3)。実際、性感染症のスクリーニングの有用性は私も感じるところではありますが、そもそも症状があれば保険で調べられますし、婦人科で受ける以外にも地域の保健所で無料かつ匿名で行えることが多いためそちらに問い合わせてみても良いかもしれません。将来の妊孕性やホルモンバランスを調べるとして血液検査をすることがありますが、血液検査だけでそれらの状況が正確に分かることはほとんど無いためスクリーニングする意味があるのかは疑問です。

まとめ

ということで本日はブライダルチェックについての話題でした。そうは言ってもブライダルチェックを受けるという行動は、自分の健康やキャリア・ライフプランと向き合う一つのきっかけにもなるので可能であれば受けてみるのも悪くないかもしれません。ただ、自己都合で検査をする場合は全て自費になりますので、その際にはどの検査が自分に必要か担当医としっかりご相談されると良いと思います。また、上記の検査以外には風疹抗体検査なんかも一般的ですが、こちらは埼玉県では公費で受けられる可能性がありますので、お住まいの市町村のウェブサイトなどで是非確認してみてください。

参考文献
1) Pinsky PF, et al. Gynecol Oncol. 2016;143(2):270
2) NIH. National Cancer Institute. Ovarian, Fallopian Tube, and Primary Peritoneal Cancers Screening.
3) CDC. Screening Recommendations and Considerations Referenced in Treatment Guidelines and Original Sources.

ゆう(尤)度比

先日は検査における『感度と特異度』についてお話ししました。

今回は検査の精度・有効性について、もう少し説明をさせていただきます。

検査の精度は疾患の「有病率」と「尤度比(ゆうどひ)」によって左右されます。

尤度比とは

ある事象(病気・疾患)が起きる可能性の大小を示すものとなります。英語表記は”Likelihood ratio”と呼ばれ、こちらの方が意味合いとして理解しやすいかもしれません。

尤度比=疾患ありで検査陽性になる率÷疾患なしで検査陽性になる率であり、いわば感度÷偽陽性率

となります。(*偽陽性率=1−特異度)

上記の式から、分母の偽陽性率が低ければ低いほど、感度は高まるわけです。

カットオフ値から右方向に縦線が入る値だった時、そこの疾患群数÷非疾患群数が尤度比となる

大まかに、陽性尤度比が10以上あれば、有効な検査と言われています。

ちなみに、21トリソミーに対するNT肥厚(適切な検査施行時期においておよそ3.5mm以上)の陽性尤度比は16とされています。

執筆 院長

ロシアのウクライナ侵攻による周産期医療への影響

こんにちは、副院長の石田です。

ロシアがウクライナへ侵攻を開始してから2年半以上が経過しています。この間首都であるキーウを含む多くの街でロシアからの攻撃による甚大な被害が出ていますが、この侵攻が周産期医療に関して国際的な影響を及ぼしていることは日本ではあまり知られていません。そこで本日はその件についてお話ししてみようと思います。

代理懐胎とは

皆さんは「代理懐胎」をご存知でしょうか?「代理母」「代理出産」という言葉に置き換えるとピンとくる方も多いかもしれませんが、不妊に悩むカップルが手を尽くしても授からない場合、主に二人の精子と卵子を使って体外受精で作成した受精卵を第三者の女性の子宮内に移植し、妊娠から出産までを代わりにやっていただくという医療です。医学的には一定の有用性があるものの、当然そこには宗教や倫理、法律など様々な問題があるため国や地域で見解や扱いは大きく異なります。また、どうしても商業的な要素が入るため先進国から新興国、あるいは富裕層から貧困層への合法・非合法を含めた搾取に発展する可能性もあり、国際的にもどう取り扱うべきか共通見解は得られていません。ちなみに代理母になる女性や生まれてくる子供の健康リスクについては一般的な不妊治療と比較してあるとも無いとも言われており、まだよく分かっていないようです 1)2)。日本では今のところ代理懐胎に関する法律はありませんが、日本産科婦人科学会が会員に対して代理懐胎への関与(斡旋を含む)を禁止しているため基本的に国内でこの医療を受けるのは難しいです 3)。

なんでウクライナ侵攻と関係があるのか

実はウクライナは世界で最も代理懐胎に関する医療技術や実務運用、法整備が進んだ国の一つとして知られています。また、ウクライナでの代理懐胎は一部の先進国で行われているものと比べて半額以下の値段で行えるため、世界中から希望者が集まってくるのです。公的な統計は無いものの、ロシアによる侵攻以前には国内外から集まった患者さんに対して年間数千件の代理懐胎が実施されていたそうです 4)。しかし今回の紛争によって依頼者がウクライナに入れなくなる、凍結保存された受精卵が電力不足による融解や攻撃による破壊のため使えなくなる、妊娠中の代理母が避難などで行方不明になる、新生児の受け渡しが難しくなるなど様々な問題が発生しているようです。また、妊娠した代理母の避難先がウクライナ国外だった場合、出生地によっては代理懐胎で出生した新生児の親権に関する法的な問題も出てくるため代理懐胎を考えていた人も、現在妊娠が進行中の当事者たちも非常に困難な状況にあるということでした 5)。

まとめ

というわけで本日は周産期医療と国際情勢にまつわる世間話でした。代理懐胎の是非はさておき、普段から目にするニュースの向こうにはこんな話もあるんだと知ると、その解像度も少し変わるでしょうか?いずれにせよ、ウクライナや中東だけでなく世界中の人たちの健康と幸福が、戦争や紛争によって理不尽に脅かされないことを祈るばかりです。

参考文献
1) Shinya Matsuzaki, et al. JAMA Netw Open. 2024 July 1;7(7):e2422634
2) Maria P Velez, et al. Ann Intern Med. 2024 Sep 24.
3) 日本産婦人科医会ウェブサイト
4) S Marinelli, et al. Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2022;26:5646-5650
5) The Guardian. ‘The bombs won’t stop us’: business brisk at Ukraine’s surrogacy clinics

感度と特異度

先週から当院でもNIPTの運用が始まりました。皆さん、NIPTは従来の検査に比べて精度が高いもの、という認識だと思います。今回は「感度」と「特異度」についてご説明します。

病気があるかどうかを調べる検査では、

検査が陽性であれば、その病気があることが多い(A)ですが、ない場合もあります(B)。

Aを真陽性、と呼びます。

Bを偽陽性、と呼びます。

検査が陰性であれば、その病気がないことが多い(D)ですが、ある場合もあります(C)。

Cを偽陰性、と呼びます。

Dを真陰性、と呼びます。

「感度」は、病気の人を検出する高さを示します。

「特異度」は、病気でない人を検出する高さを示します。

この2つの指標で検査の特性を判断します。

感度はA/ A +C

特異度はD/ B +D

で計算されます。

Down症候群のそれぞれの検査感度は

・クアトロテスト:80〜85%

・NIPT:99%

となります。

またNIPTの特異度は99.9%(13, 18, 21トリソミーの場合)を超えており、感度と特異度が高いNIPTは精度の高い検査と言えるのです。

執筆 院長

NIPTをどこで受けるべきか悩んだ時に読む話

こんにちは、副院長の石田です。

NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)は妊娠初期から妊婦さんの採血を行うだけでダウン症候群を含む一部の染色体異常の有無を調べられる検査です。近年、晩産化の影響もあってか妊婦さんとそのご家族からのニーズの高まりを感じますが、この検査を提供する医療施設に認証施設と非認証施設があるのはご存知でしょうか?そこで本日はこの件に関して少しお話ししようと思います。

認証って何?

NIPTを実施するための認証は日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会というところが一定の基準を満たした施設に対して申請に応じて出しています。認証施設では検査前後で正しい情報に基づいた遺伝カウンセリングを行うことで夫婦が検査を受けるべきかどうかを決めるお手伝いや、検査結果を踏まえて取るべき選択肢の提案、そして意思決定後の支援などを様々な職種が連携しながら包括的に行っています。認証施設には高度なカウンセリングを行う専門性の高い基幹施設と、そのもとで幅広く必要とするご家族に検査を提供する連携施設があります。

認証施設と非認証施設の違い

認証と非認証の大きな違いはご夫婦に対する支援体制です。施設認証を受けるには医師だけでなく、倫理・法律の有識者、障害福祉関係者、患者会など様々な職種や立場で構成される上記委員会のとても厳しい審査に時間をかけて通る必要がありますが、そうやって認証を得た施設では患者さんに正しい情報と手厚いサポートを提供する体制が整っています。一方で非認証施設では検査をしても結果をそのまま報告するだけでその解釈を説明しないことが多いです。加えて本来NIPTで高い精度で調べられる13トリソミー、18トリソミー、21トリソミー(ダウン症候群)だけでなく、それ以外の質が確保されていない検査項目も同時に行われることが多いため、場合によっては妊婦さんとそのご家族を混乱させてしまうようなことも起こり得るのです。非認証施設の全てが無責任な検査をしているわけでは無いと思いますが、その一方で認証施設では確実に適切な対応を受けられます。

検査施設は慎重に選びましょう

遺伝情報というのは医学だけでなく、法律や社会制度、倫理的側面など扱いや解釈に多面的なアプローチが必要であり、適切なサポートが無いと結果を受け取った後に最適な行動を取れなくなる恐れがあります。非認証施設で検査を受けるのが悪いということではありませんが、値段が安い割に検査項目が多いという見た目のお得感だけで施設を選んでしまうと思いもよらない後悔につながる可能性もありますので、検査施設を選ぶ際には慎重に検討していただくのが良いかもしれません。

まとめ

本日はNIPTの検査施設について解説いたしました。そうは言っても施設認証獲得のハードルは高く、社会的ニーズの高まりに反して検査を受けられる認証施設はまだまだ足りていない状況です。そこでにしじまクリニックは1年弱の準備期間を経てこのたび無事に連携施設の認証を受け、2024年10月15日より当院でもNIPTの提供を開始することになりました。検査をご希望の方は是非お気軽にスタッフへお声掛けください。