新生児の問題ない皮疹

あけましておめでとうございます、副院長の石田です。

お産が終わった後も1ヶ月健診までは産婦人科に通うのが一般的ですが、産後健診で永遠に聞かれる質問シリーズの一つが赤ちゃんの皮疹です。以前もこのブログの何かの記事で言及しましたが、私は「永遠に聞かれ続ける質問には永遠に答え続ける」と決めているので毎度外来でもお話しさせていただいています。しかし外来の限られた時間では言葉が足りないこともあるかと思うので、本日は新生児に見られるあっても問題ない皮疹についていくつかご紹介したいと思います。

新生児中毒疹

もう言葉が怖いですよね、中毒疹。英語でもerythema ”toxicum” neonatorumという「中毒」的な名前がついているのでこれを日本語訳してそう呼ばれているってことなんだろうか。
周りに赤くて丸い班を伴うニキビのような盛り上がりのある皮疹で、生後72時間以内に20%~70%程度の赤ちゃんにできると言われています 1)2)。出生体重が大きかったり出生時の妊娠週数が進んでいるほどよく見られるとされている一方、低出生体重児や早産児では少ないことが分かっています 2)3)。原因は不明ですが、一説によると無垢な皮膚に常在細菌叢を形成し始める時の免疫反応とも言われており、通常は2週間以内に勝手に消失します 4)。

脂腺増殖症

産まれたばかりの赤ちゃんの鼻の頭をよく見ると1mm程度の白い平坦なポツポツが無数に見られることがあります。これは脂腺増殖症と言って、中高年にも見られる皮膚変化ですが、一方で新生児の半数程度にも出現することが知られています 5)。こちらも多くの場合で生後数週間で消失することが知られており、治療は不要です。

稗粒腫(ひりゅうしゅ / はいりゅうしゅ)

小さなニキビの白いとこみたいなやつが主にほっぺや鼻にできることがよくあります。これは稗粒腫といって、雑に説明すると毛穴にケラチンとか皮脂が詰まるのが原因です。こちらは生後数ヶ月程度で勝手に消えるので心配要りません。

まとめ

本日は赤ちゃんのによく見られる心配ない皮疹について解説しました。本当は写真とか載せられれば良かったんですが、著作権とか大丈夫そうなのが見つからなかったので、それっぽい皮疹を我が子に見つけたらかかりつけの施設で「これ何?」って聞いてみてください。

参考文献
1) Roques E, et al. Treasure Island (FL):StatPearls Publishing;2024 Jan-.
2) Reginatto FP, et al. Pediatr Dermatol. 2017;34(4):422. Epub 2017 May 25.
3) Harshita B Reddy, et al. Curr Pediatr Rev. 2017;13(2):136-143.
4) Marchini G, et al. Pediatr Res. 2005;58(3):613.
5) Fabiola Farci, et al. Treasure Island (FL):Stat Pearls Publishing;2024 Jan 2023 Sep 4.

うちの赤ちゃん、男の子なのにおっぱいがある?って思った時の話

こんにちは、副院長の石田です。

年に何回か、産後健診でご両親から「うちの子、男の子なのにおっぱいがあるんですけど…。」とご相談をいただくことがあります。触ってみると少しコリコリしてて、ひょっとして何かの病気じゃないかとご心配になる方も少なくないでしょう。そこで本日はこの件について解説したいと思います。

女性化乳房とは

皆さんは女性化乳房という言葉をご存知でしょうか?乳汁を分泌するための乳腺組織は女性ほどではないにしても、実は男性の胸にも存在しています。この男性の乳腺組織が乳首を中心に増殖し、ゴムのような硬い塊として触れるようになるのが女性化乳房です。新生児から高齢者まであらゆる男性に発症するとされていますが、新生児に関して言うと統計的には65〜90%に女性化乳房が見られるとも言われており、比較的よくあることのようです 1)。

新生児の女性化乳房

新生児が女性化乳房になる理由は、主に子宮内環境が原因と言われています。ちょっと難しい話をすると、胎児の副腎から分泌されたデハイドロエピアンドロステロンという物質が胎盤を経由してエストロゲンという女性ホルモンに変換されて大量に生成されます。このエストロゲンが胎児に影響を及ぼすため、男の子であっても女性のようにおっぱいが大きくなってしまうんですね。しかも、5%くらいの子では実際に乳汁が出ることもあるようです 2)。ただ、新生児の女性化乳房は通常、生後数週間〜1年程度で退縮すると言われており、ずっと戻らなかったり、後遺症が残ったりということはほとんど無いと言われています。

まとめ

本日は男の子のおっぱいについてお話ししました。そんなわけで赤ちゃんのおっぱいが腫れていてもあまり気にする必要はありませんが、それでも心配になってしまう場合にはかかりつけの産婦人科や小児科に気軽にご相談ください。

参考文献
1) GA Kanakis, et al. Andrology. 2019Nov;7(6):778-793.
2) Madlon-Kay DJ. Am J Dis Child. 1986;140(3):252.

出産時に立ち会うお父さんたちに写真撮影のアドバイス

こんにちは、副院長の石田です。

出産の立会いに臨まれるお父さんたちの最も重要な役割の一つに写真撮影があります。その日、その時間にしかない最高の瞬間を切り取って思い出として残しておくことはお産の痛みを代わることができない我々男性にとって、妻と子供のためにできる数少ない大切な仕事の一つですよね。しかしその一方で、(自戒の意味でも)これほど男性がしくじることが多い場面もありません。そこで今回は何一つ客観的な根拠はありませんが、私の個人的な思いのみで皆さんにアドバイスを送りたいと思います。

撮影量が少ない

まず99%くらいの男性に言えるのですが、撮影量が圧倒的に少ないです。自分では結構撮ったつもりでも、後で見返してみるとよく撮れている写真は思った以上に少ないんですね。でも後悔してもあの瞬間は撮り直すことができません。だから皆さんには是非自分で思っているのの10倍くらいは撮影して欲しいです。
とは言え自分も男性ですし、正直皆さんの気持ちも分かる気はするんですよ。一部の医者を除けば自分以外は全て女性なうえに、分娩中の奥さんは一人称の当事者で、それを囲む医療者は全て出産の専門家です。一通りの両親学級は受けたし本も何冊か読んだけど、それでも圧倒的なアウェー感を感じながらどう振る舞ったら良いか分からない男性がほとんどだと思います。ましてや写真と動画を撮りまくって妻や赤ちゃんの処置の妨げになったらどうしよう?写真や動画を夢中で撮りすぎた結果、後で医者や助産師から笑われてたらどうしよう?などご不安は尽きないかもしれません。でも大丈夫、写真も動画もいっぱい撮ってあげてください。もし撮影に適さないような、医学的に危険だったり緊迫した状況になる時はちゃんとお伝えするのでご安心ください。もちろんご自身の肉眼で赤ちゃんを見てあげることも大事ですが、家で固唾を飲んで待っているご家族や友人のためにもその瞬間をできるだけ記録して持って帰ってあげましょう。

奥様の撮影

出産直後の奥様の姿を撮影する方も非常に多いです。こんなに可愛い赤ちゃんを産んでくれた最愛の女性の勇姿を残したいと考えるのは当然ですよね。でもちょっと待っていただきたい。我々男性にとって命を賭けて出産をやり遂げた妻の姿は、美と戦の女神であるアフロディーテを凌駕するほど美しいと感じるでしょうが、一方で女性側からすると滝汗+髪ボサ+ノーメイクという極めて無防備な状態です。人によっては最も撮影されたくない瞬間かもしれません。そのためかお産でぐったりしている奥様を無断撮影して強めの怒られが発生していることが少なくないです。男性の皆様におかれましては臨月に入ったら奥様に分娩直後の撮影許可を得ておくか、あるいは最低限その場で「写真、撮っていい?」と聞くようにしましょう。くれぐれもいきなりレンズを向けることのないようにしていただくのが無難です。

まとめ

本日は分娩立会い時の男性へのアドバイスを書かせていただきました。色々と書きましたが、分娩室の父親は身の置きどころの無い中でそれでも必死に妻と子の無事を祈り続けていますし、にしじまクリニックはそんなお父さんたちが少しでもお産の輪に入りやすいようにマッサージなどのお手伝いをお願いしたり、写真撮影のタイミングで積極的にお声掛けしたりしています。当院で立会されるお父さんにおかれましては、分娩室での過ごし方について分からないことや不安なことがあればいつでもスタッフにお声掛けください。

18トリソミーと13トリソミー

ヒトの染色体は通常46あり、そこから1〜2本の増減を伴うのは異数体(heteroploid)と呼ばれる数的異常です。

羊水検査の迅速検査”Rapid FISH”は染色体が1本多いトリソミー、その中で21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーを対象としています。

出生前遺伝学的検査において、なぜ3つのトリソミーが迅速診断の一つとなっているのか

出生児の4%(出生時に確認できるものが2〜3%。生後に診断・確認されるもの全てを含めると3〜5%)は先天性疾患をもち、先天性疾患の中で染色体疾患は25%を占めています。

染色体疾患をもつ出生児の

53%は21トリソミー、

13%は18トリソミー、

5%は13トリソミーであり、

染色体疾患全体でおよそ70%を占めているのです。

21, 18, 13番染色体は保有する遺伝子数の少ない常染色体であり、そのため流産の経過を辿るほか、出生児でもみられます。

今回は18トリソミーと13トリソミーの臨床症状について列記します。

18トリソミー症候群(エドワーズ症候群)

・頻度:1/3500〜1/8500出生

・男女比:1:3

・主な合併症:先天性心疾患、肺高血圧、小顎、食道閉鎖、腎尿路異常

・転機:1年生存率は(医療介入を行なって)25%、18トリソミー児の多くが心疾患を合併しているため、心臓の手術にて生命予後は上昇(2年生存率50%)

13トリソミー症候群(パトー症候群)

・頻度:1/5000〜1/12000出生

・男女比:若干女児が多い

・主な合併症:中枢神経系異常(全前脳胞症)、頭皮欠損、小眼球、口唇口蓋裂、先天性心疾患、停留精巣(男児)

・転機:1年生存率は10%、経過や治療に応じて20〜50%

妊娠中の検査に関する情報サイトでは、トリソミー児の多様な成長と暮らしの事例紹介が公開されています。よろしければご覧になってみてください。

執筆 院長

ロシアのウクライナ侵攻による周産期医療への影響

こんにちは、副院長の石田です。

ロシアがウクライナへ侵攻を開始してから2年半以上が経過しています。この間首都であるキーウを含む多くの街でロシアからの攻撃による甚大な被害が出ていますが、この侵攻が周産期医療に関して国際的な影響を及ぼしていることは日本ではあまり知られていません。そこで本日はその件についてお話ししてみようと思います。

代理懐胎とは

皆さんは「代理懐胎」をご存知でしょうか?「代理母」「代理出産」という言葉に置き換えるとピンとくる方も多いかもしれませんが、不妊に悩むカップルが手を尽くしても授からない場合、主に二人の精子と卵子を使って体外受精で作成した受精卵を第三者の女性の子宮内に移植し、妊娠から出産までを代わりにやっていただくという医療です。医学的には一定の有用性があるものの、当然そこには宗教や倫理、法律など様々な問題があるため国や地域で見解や扱いは大きく異なります。また、どうしても商業的な要素が入るため先進国から新興国、あるいは富裕層から貧困層への合法・非合法を含めた搾取に発展する可能性もあり、国際的にもどう取り扱うべきか共通見解は得られていません。ちなみに代理母になる女性や生まれてくる子供の健康リスクについては一般的な不妊治療と比較してあるとも無いとも言われており、まだよく分かっていないようです 1)2)。日本では今のところ代理懐胎に関する法律はありませんが、日本産科婦人科学会が会員に対して代理懐胎への関与(斡旋を含む)を禁止しているため基本的に国内でこの医療を受けるのは難しいです 3)。

なんでウクライナ侵攻と関係があるのか

実はウクライナは世界で最も代理懐胎に関する医療技術や実務運用、法整備が進んだ国の一つとして知られています。また、ウクライナでの代理懐胎は一部の先進国で行われているものと比べて半額以下の値段で行えるため、世界中から希望者が集まってくるのです。公的な統計は無いものの、ロシアによる侵攻以前には国内外から集まった患者さんに対して年間数千件の代理懐胎が実施されていたそうです 4)。しかし今回の紛争によって依頼者がウクライナに入れなくなる、凍結保存された受精卵が電力不足による融解や攻撃による破壊のため使えなくなる、妊娠中の代理母が避難などで行方不明になる、新生児の受け渡しが難しくなるなど様々な問題が発生しているようです。また、妊娠した代理母の避難先がウクライナ国外だった場合、出生地によっては代理懐胎で出生した新生児の親権に関する法的な問題も出てくるため代理懐胎を考えていた人も、現在妊娠が進行中の当事者たちも非常に困難な状況にあるということでした 5)。

まとめ

というわけで本日は周産期医療と国際情勢にまつわる世間話でした。代理懐胎の是非はさておき、普段から目にするニュースの向こうにはこんな話もあるんだと知ると、その解像度も少し変わるでしょうか?いずれにせよ、ウクライナや中東だけでなく世界中の人たちの健康と幸福が、戦争や紛争によって理不尽に脅かされないことを祈るばかりです。

参考文献
1) Shinya Matsuzaki, et al. JAMA Netw Open. 2024 July 1;7(7):e2422634
2) Maria P Velez, et al. Ann Intern Med. 2024 Sep 24.
3) 日本産婦人科医会ウェブサイト
4) S Marinelli, et al. Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2022;26:5646-5650
5) The Guardian. ‘The bombs won’t stop us’: business brisk at Ukraine’s surrogacy clinics