当院での胎児心スクリーニングについて

にしじまクリニックでは20週台と30週台の2回にわたって胎児心(臓)スクリーニングを行います。私院長と副院長石田が交互にスクリーニングを行い、診断精度を上げています。

妊娠20週健康診査(健診):日本胎児心臓病学会が定める胎児心スクリーニングのレベルⅠ〜Ⅱに相当したチェックとその他胎児臓器のチェック行います。当院では超音波外来として設定しております。

胎児の位置などの影響で全てのチェック項目を見きれなかった場合は、次回の妊娠24週の健診で見直します。

24週健診の終えた後、全症例に対し電子カルテへ取り込んだ画像の再チェックを行います。チェック項目に対し、画像が不鮮明の場合は妊娠26週の助産師外来で、GCT採血の合間に再度医師が胎児心エコーを見させてもらいます。

妊娠30週健康診査(健診):胎児心スクリーニングレベルⅡ相当の見直しを行います。週数が経つことで心臓も大きくなり、心臓の壁に小さな穴が見つかる場合もあるためです。

妊娠20週健診の超音波外来同様に見きれなかった場合は、次回の妊娠32週の健診で見直します。

以下、当院のスクリーニング用紙を添付しておきます。

胎児に心臓の異常が見つかったり、もしくは気になる所見があれば埼玉医科大学総合医療センターや県立小児医療センターの超音波外来を紹介させていただきます。

参考)

日本胎児心臓病学会 https://www.jsfc.jp/index.html

ガイドラインに基づく胎児心エコーテキスト

月の満ち欠けは陣痛、出産と関係があるか

こんにちは、副院長の石田です。

満月の夜、夜勤スタッフは緊張の面持ちで出勤してきます。「今日は荒れるよ…。」

いにしえより人類は闇夜を照らす月の不思議な魅力に時にどうしようもないほど惹きつけられ、時にその姿に魔力を感じ恐れてきました。そして潮の満ち干きはおろか、出産すら月の影響を受けていると考えてきたのです。実際に産婦人科にかけられているカレンダーには月の満ち欠けが記載されていますし、マタニティーアプリの中にはやはりその日の月の状態を確認できる機能が付いているものもあります。そういえば数年前のスーパームーンの時にうちの奥さんが「お金が貯まるから」とか言って月に向かってお財布を振ってたら、気がつくと隣で知らないインド人が同じように真似して振っていました。

というわけで今日は月と陣痛、出産などの関係に関してお話ししたいと思います。

そもそもなんで月と出産数に関係があるのか

地球上にある様々なものは直接的、間接的に月の影響を受けています。例えば満月のときは太陽、地球、月が一直線上に並ぶことで地球に及ぼす影響が最も強くなるためその辺りで海は大潮を迎えます。人間の体も6割は水分でできており、同じように太陽と月の影響を受けやすいというわけです。

実際どうなのか

いや、それ本当なの?ってことで皆様に代わって調べてまいりました。まず、アイルランドより18ヶ月間で10,027件の分娩に対して月のサイクルと出産件数の関係を調べたやつ1)、続いてイタリアより327件の分娩に関するretrospective analysis 2)、そしてさらには1997年から2001年までの実に564,039件という膨大な数の分娩を月の満ち欠け62周期にわたり検証したアメリカの研究3)。そう、その全てが結論づけています。

「月とお産は関係なし」

無関係かよ!!!いやいや、これだけ言ってたら何かしら関係するものあるでしょ?例えば月がどうだと赤ちゃんが元気に生まれてくるとか、満月だと女の子が多いとか。

「それも関係なし」4)

その他にも世界のあちこちから調べてみたよって研究がいくつも出ていましたが、ことごとく関係ありませんでしたという結論で締めくくられていました。ふと思ったんですが、この言い伝えって日本だけじゃなくて世界中で言われてるんですね。月、すごい。

ちなみに生理はどうなの?ってことで調べてみたところ、1980年代に出た古い研究が月の周期と生理周期がある程度同期する可能性があるようなことを示唆していました5)6)。まぁ、古すぎるしfull textも読んでいないので実際どうなのかはよく分かりませんが…。

結論

お産と月のコンディションは関係ないみたいですので皆さん安心してください。でも、高層ビルが増えたりして夜空を見上げる機会が少なくなっている現代で、月の具合をみながら「赤ちゃんまだかなー?」って家族でお月様を眺めるのはきっとステキな思い出になるのでおススメです。

あと、夜に月に向かってお財布を振るのはお勧めしません。悪い奴が近くにいたらひったくられます。どうしてもやるならご自宅の安全な場所でお願いいたします。

1) Ong S, et al. J Obstet Gynaecol. 1998 Nov; 18(6): 538-9

2) Lagana AS, et al. Kathmandu Univ Med J (KUMJ). 2014 Oct-Dec; 12(48): 233-7

3) Arliss JM, et al. Am J Obstet Gynecol. 2005 May; 192(5): 1462-4

4) Staboulidou I, et al. Acts Obstet Gynecol Scand. 2008; 87(8): 875-9

5) Law SP. Acta Obstet Gynecol Scand. 1986; 65(1): 45-8

6) Friedmann E. Am J Obstet Gynecol. 1981 Jun 1; 140(3): 350

妊娠とカフェイン

こんにちは、副院長の石田です。

妊娠中のカフェイン摂取はほぼ100%の妊婦さんが気にしていますし、外来でもよく聞かれる質問の一つです。そこで本日はカフェインと妊娠の関係についてお話ししたいと思います。

なぜ妊娠中にカフェインを取るのは良くないのか?

カフェインは胎盤を通過することができるため、お母さんが摂取すると赤ちゃんにも移行して影響を及ぼすと考えられています。カフェインを代謝する酵素はCYP450といって肝臓由来ですが、胎児は肝機能が未発達なので大人と比べてカフェインの滞留時間が長いとされているんですね 1)2)。カフェインの作用の一つとして精神刺激作用がありますが、これらは体内のセロトニンやアドレナリン受容体を刺激することで起こると言われています。この機序によるものかは分かりませんが、妊娠中に摂取されたカフェインは胎盤の血流速度を低下させる可能性が示唆されている他、早産や発育不全、流産などの原因になるかもと考えられているため摂取は控えた方が良いとされているわけです 3)4)5)6)。

食品中のカフェイン含有量

身近な飲み物で考えると100ml辺りで計算するならコーヒー:60mg、玉露:160mg、紅茶:30mgとなります。ちなみにエナジードリンクでは商品にもよりますが最高で300mgとか入っているものもあるそうな 7)。その他量は少ないですが、コーラやチョコレートなんかにもカフェインは含まれています。

カフェインの摂取量に安全域はあるのか

上記のようにカフェインと妊娠中の良くないイベントとの因果関係が示唆されているもののいずれのデータも質、量ともに確定的とは言えず未だに結論が出ていません。アメリカ産科婦人科学会(ACOG)では「1日200mg以下のカフェイン摂取では胎児に対する明らかな害は証明されていない」としていますし、世界保健機構(WHO)もカフェインの摂取をOKしているわけではないんですが、「1日300mg以上は摂らないでね」と勧告しています 8)9)。

まとめ

以上のことを踏まえると今のところの考え方としては、カフェインの摂取は赤ちゃんに良くない影響が考えられるからお勧めしないけど、どうしてもの時はコーヒーなら2〜3杯程度、緑茶なら1杯程度にしといてね」って感じでしょうか。麦茶やルイボスティー、十六茶®︎などカフェインフリーのお茶なんかもたくさんありますので、カフェイン愛好家の方もこれを機に自分の中で新しい飲み物を開拓してみてはいかがでしょうか?

1) Sara Morgan, et al. Can Fam Physician. 2013 Apr; 59(4): 361-362

2) Yu T, et al. J Clin Pharmacology. 2016 May; 56(5): 590-6

3) Kirkinen P, et al. Am J Obstet Gynecol. 1983 Dec 15: 147(8): 939-42

4) Li J, et al. Int J Gynaecol Obstet. 2015 Aug; 130(2): 116-22

5) Chen LW, et al. Public Health Nutr. 2016 May; 19(7): 1233-44

6) Modzelewska D, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2019 Feb 26; 19(1): 80

7) 食品安全委員会ファクトシート:http://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_caffeine.pdf

8) ACOG Committee Opinion. Number 462, August 2010

9) WHO: https://www.who.int/elena/titles/caffeine-pregnancy/en/

難産とは②

先日、私院長の投稿で分娩第1期の難産についてご説明しました。

https://nishijima-clinic.or.jp/blog/2020/02/25/難産とは①/

今回は分娩第2期の難産についてご説明します。

まず分娩第2期とは

子宮口全開大(10cm)から児が娩出するまで

をさします。1)

そして分娩第2期の難産とは

子宮口が全開大してから3時間経過しても児が娩出しない(初産婦)

(経産婦は2時間経過しても児が娩出しない)

状態です。原因として

・胎児の位置異常*

・子宮収縮が弱い

・母体の疲労

が考えられます。母体疲労と子宮収縮はお互い相関する因子であることは想像がつくのではないでしょうか。

胎児の位置異常*について、これは赤ちゃん(胎児)の頭蓋同士の骨の隙間や縫合線を触診(内診)することで児の向きを確認し判断します。比較的多いのは『不正軸』と呼ぶ位置異常で、産道に対して赤ちゃんがど真ん中を通ってない状態をさします。内診すると赤ちゃんの頭のが左右に寄っていることで診断します。

この対処として、上の図の”lunge(ランジ)の姿勢”が有効とされています。これは海外のお産に関わる教科書やサイトによく載っています。医師もしくは助産師が母胎の状態に問題ないと判断しかつご本人ができそう(気力と体力、痛みの程度を勘案してから)ならトライする価値があります。片脚を台などに乗せるだけで、赤ちゃんの軸が修正できる可能性があります。2)

難しかったら四つん這いの体勢を取ってみるのも手です。これは経産婦さんのどなたかに経験があるかもしれません。分娩第2期で胎児の位置異常があれば、自分も体位を変えてみる、コレを覚えておいてください。

分娩第2期の難産に対し、ご本人も大変なのですが、赤ちゃん(胎児)も頑張っていることを忘れないでください。胎児の状態悪化を防ぐために

・いきみの間の休息を意識し

・分娩脚台から脚を動かす

ことを心がけましょう。3)

いきみっぱなしだと赤ちゃんに酸素を供給できませんし、同じ脚の位置と体勢は大静脈を圧迫し、胎盤循環を阻害するのです。

難産、もう読んで想像するだけでも嫌ですよね?それでは最後に、分娩前に難産をご自身で予防できることは何か、それは

・過剰な体重増加の防止し

・早めの計画出産を控える

ことです。妊娠経過中の体重増加は妊娠糖尿病や巨大児のリスクが増えます。それらのリスクが増えれば胎児の位置異常*にもつながります。分娩時間が延長することで補助経膣分娩や帝王切開の可能性が高まり、実際それらが行われると、傷が増えるわけです。

また、医学的適応のない誘発分娩(計画出産)は39週以降に実施すべきで、かつ対象者は子宮頸部の熟化が良好な経産婦が望ましいとされています。4)これに関しては赤ちゃんの成熟やお産に向けて状態の把握という観点からも私も同感する所です。もちろんご家庭の事情も考慮し計画出産の日をご相談しますが、入院日の日数も医療介入も増えてしまう可能性があります。

これら難産に対する上記対策と予防が、にしじまクリニックと妊婦さんでコンセンサスが得られれば、実際のお産の時に『安産』という言葉を用いることができるかもしれません。

参考)

1)ウィリアムズ産科学原著 24版

2) https://www.babycentre.co.uk/l25025610/16-birthing-positions-for-labour-images

3) ALSOチャプターF

4) Choosing wisely® https://www.choosingwisely.org/patient-resources/scheduling-early-delivery-of-your-baby/

難産とは①

「難産になりたくない」、これは間違いなく全妊婦さんがお産の前に思うところでしょう。ではいったい『難産』ってどういうことなんでしょう?私院長が最新の知見も交えてお話しします。

今回は分娩第1期の難産についてご説明します。

まず分娩第1期とは、『陣痛が始まってから子宮口全開大までの経過・過程』です。1)

なお子宮口全開大とは、内診で子宮口10cmの所見のことを指します。

どの位の内診所見からお産(分娩)のスピードが進んでくるのか、これを理解していただくことが分娩第1期の難産を知るうえでのキーポイントとなります。ズバリ、

『6cm以上でお産は進む』

コレを覚えておきましょう。

上のグラフをご覧ください。これは陣痛・分娩進行のパターン図で、P0が初産婦、P1が1経産婦、P2が2経産婦の分娩進行の度合いになります。2)

縦軸(y軸)が子宮口開大を示しています。6cmを基準に見てください。3パターンとも、6cm以降はどの産婦も急進しているのがおわかりいただけるでしょうか。

よって内診所見が6cm以上でその後分娩がどんどん進んでいくのです。6cm以降の分娩第1期の過程を『活動期』と呼びます。

[なお、陣痛開始後から6cmまでの過程を『潜伏期』と呼びます。3)]

『活動期』に入ると初産婦や経産婦で進み方に差がありますが、大体1時間あたり2cmの子宮口開大を期待します。

子宮口全開は10cmなので、ということは『活動期』に入ってからどの位で分娩第1期を終え、分娩第2期へ移行するかは・・・、計算してみてください。

最近の研究で現代の分娩は、今から50年以上前の『フリードマン曲線』による定義(4cm以上で『活動期』と呼ばれていた)よりも『潜伏期』が長く、子宮口開大が6cmに達するまで『活動期』に至らないとされています。

上記を踏まえたうえで、では分娩第1期の難産とは何か。ズバリ、

『活動期で分娩が遷延または停止した時

となります。

少し細かく申し上げると、初産婦が活動期に入るも内診所見が1時間あたり0.3cm程度しか進まない状態のことを指します。つまり4時間経っても子宮口開大が7cm、といった状態です。

分娩第1期の難産の定義を文字通り読みとると、活動期ではなく、潜伏期は長くても『難産』とはならないんですね。とういうことは、潜伏期において、旦那さんによる分娩サポートが重要となってきそうですね・・・。

では、長いながい潜伏期、といっても陣痛はあるわけで、ご自宅でできる疼痛緩和は何があるかと申しますと、

シャワーや足浴が痛みを和らげて分娩第1期の短縮にも有効

とされています。

「陣痛が始まってからいつ入院すればよいのか」、これは非常にセンシティブな問題なので正直申し上げますと個々の状態によります。例えば初産婦さんか経産婦さんか、産院到着までの時間(日中と夜間に差が出るのも事実)がどの位か、GBS保菌にて点滴が必要か、痛みに対し無痛分娩の処置が必要か、など様々な要因があるからです。

そしていよいよ入院され、活動期に入るも『難産』となった場合、治療については

・旦那さんによる分娩サポート(ドゥーラ)

・体位変換

・水分摂取、場合によっては点滴

・破膜

・オキシトシン点滴による陣痛促進

が挙げられます。4)

以上、分娩第1期の難産についての解説でした。分娩進行が期待できる『活動期』を妊婦さんも医療従事者も理解する事がやはり大事です。でないと前駆陣痛や長時間の潜伏期を、活動性陣痛や難産と間違った診断をしてしまい、結果、必要のない医療介入や帝王切開の確率が増えてしまう可能性があるからです。

また、先程申し上げました通り、旦那さんなどの分娩サポートが難産の予防の一つに挙げられると思います。先日副院長のブログでも書いてあったように、俺のお産講座を受けていただくことで、より積極的な関わりとサポートを行うことができるのでは、と思います。

次回私院長のブログでは『難産とは②』、分娩第2期の難産についてご説明します。

参考)

1) Essential obstetric and newborn care 2015 edition

2) Zhang. Contemporary Labor Patterns. Obstet Gynecol 2010.

3) Latent phase of labor. UpToDate

4) ALSOチャプターF