落ち着いて出産を迎えるために

こんにちは、副院長の石田です。皆さんリラックスしてますか?

ということで仕事でもスポーツでも適度にリラックスして挑むと良い結果が出やすいと思いますが、これは出産にも言えることです。出産時に不安が強かったり体が過度に緊張していると痛みが強くなったり出産が進まなくなったり、状況によっては赤ちゃんにもストレスが加わりやすくなって帝王切開率が上がることがデータとして出ています 1)。

音楽をかけるといいらしい

普段から音楽を聴く人も多いと思いますが、音楽には様々なリラクゼーション効果があることが知られています。台湾のチームが行ったmeta analysisでは分娩時の女性の不安は音楽をかけると和らげられるということが証明されました 2)。これは何も経腟分娩に限らないみたいで、別の研究では帝王切開でも同様の結果が得られたようです 3)。また、分娩時から産後の痛みに対しても有効な可能性があるということでした 4)。

当院での取り組みとして

そうは言っても出産は痛みを伴うイベントなので緊張するなって方が無茶だろ!って思う人もいるかもですが、妊娠中に各自治体や病院が開催している母親学級は妊娠中から出産、最初の子育てまでを事前に見通すことができるため緊張を和らげるのに効果があることが知られています 5)。当院では全4回の両親学級を用意していますが、お母さんの参加はもちろん、お父さんの参加も大歓迎です。特に+@で用意している「俺のお産講座」と題した講座ではお父さんがいかにお産に関わるかということをテーマにしてお話しさせていただいています。また、よりリラックスした環境でお産の瞬間を迎えていただくために普段からアロマセラピストが皆さんに最適な香りとマッサージをお届けしています。

更に言うと、当院の1番の強みはクリニックというコンパクトな規模で診療を展開していることから病棟も外来も、あるいはアロマセラピスト、事務、そして清掃スタッフに至るまで全員が皆さんのことを直接的、間接的に知っていて、最前のケアを普段から話し合っているということです。患者さんが病院に来ていただいた時に普段から顔を知っているスタッフがいること。それによって入院時もシームレスに皆さんにケアを提供できることは大きな病院には難しい一人ひとりに寄り添った診療を可能としていますし、それは医学的な見地からも皆さんにできるだけリラックスしていただきながらお産をスムーズに進めるのに効果があると考えています。

最後に

にしじまクリニックでは院長をはじめとして、全てのスタッフが患者さんが無事に出産を終えて退院されるためにこういったきめ細やかな心配りを心がけています。もちろん状況次第では難しいご対応もありますが、何かご希望があれば是非お気軽にご相談ください。

1) Mehdizadeh A, et al. Am J Perinatol. 2005; 22: 7-9

2) Lin HH, et al. PeerJ. 2019 May 15; 7: e6945

3) Hepp P, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2018 Nov 3; 18(1): 435

4) CH Chuang, et al. J Adv Nurs 2019 Apr; 75(4); 723-733

5) M Firouzbakht, et al. Ann Med Health Sci Res. 2015 Sep-Oct; 5(5): 348-352

つわりのあれこれ

あけましておめでとうございます、副院長の石田です。今年もよろしくお願いします。

年末年始で食べすぎてしまった方もいる反面、今回は『つわり』について投稿しようと思います。

妊娠初期の方の共通した悩みはつわりですね。食欲低下、嘔気、嘔吐はイメージにあると思いますが、その他頭痛や唾液量の増加、眠気など人によって様々な症状が出ます。何でせっかく妊娠したのにこんな苦行を強いられるのかと元気な旦那さんを横目に理不尽さを感じている世の女性も多いかと思います。

つわりとは何なのか

人によって程度の差はありますが、何らかのつわりの症状を呈する妊婦さんは全体の50〜80%くらいと見積もられています。特に3%くらいの妊婦さんでは健康に支障を来すような体重減少や脱水症状になる妊娠悪阻という状態まで発展することがあります。個人差も去ることながらマクロで見るとアジア人と中東人で特に多いと言われていて、中国の統計では10%の方が妊娠悪阻に罹るというデータもありますが、実際のところつわりと妊娠悪阻の境界線は曖昧で、国際的に統一された診断基準があるわけではないため実態は不明です。ただ、共通した認識として若年、初産婦、有色人種などがリスクファクターになると言われています 1)。その他うつ病の人は重症化しやすいとか、ホルモンが関係しているとか、ピロリ菌や遺伝子的な関連も示唆されていますが決定的なことはほとんど分かっていないようです 1)2)3)。

つわりの治療

嘔気に対して吐き気止めのお薬を出すこともありますが(欧米では対抗癌剤用の強いやつを使うこともあります)、妊娠が根本原因なので結局治療は対症療法のみです。中には分娩までずっと気持ち悪さが残る人もいますが普通は妊娠中期頃には良くなってくるのでじっとそれを待つことになります。最も気をつけなければいけないのは脱水で、生命維持に必要な水分やミネラル、ビタミンなんかが足りなくなってしまう時は点滴をして補います。また、ビタミンB6が症状を和らげるというデータもあるためご相談の上で処方することもあります。個人でできることとしてはショウガが吐き気を減らすのに効果があると言われているので試してみるといいかもしれません(食べられればだけど。)4)5)。

まとめ

というわけで分からないことだらけのつわりのお話でした。周りの人からは「つわりなんて皆乗り切ってるんだから頑張って!」とか言われるかもしれませんが、本人からしたら「そんなの分かってるけど他人とか関係なく私は今しんどいんだよ!」というのが本音でしょう。私たちから言わせるとつわりの症状の重さやそれぞれの妊婦さんの耐性は様々であり、人と比べてどうとかいう話ではありません。当院では患者さんの症状とご希望に応じて外来での処方、点滴から入院まで柔軟に対応できますので、特にかかりつけの方はお気軽にご相談いただければと思います。

最後に

私の奥さんは妊娠中に出産まで吐き気が抜けず辛そうにしていました。初期に唐揚げは食べられたのでずっとそればかり口にしていたのですが、生まれた子供が3歳くらいになった時に初めて唐揚げを食べさせたところ、「ぼく、この味知ってる!」と言い出してびっくりしたことがあります。知り合いのところもリンゴで同じ現象が起きたと言っていました。本当に関係があるのかは分かりませんが、今つわりで苦しんでいる皆さんにも近い将来にそういうこともあるかもしれませんので苦しい中でもそれを楽しみにして食べられるものを探してみてはいかがでしょうか?

1) London V, et al. Pharmacology. 2017; 100(3-4): 161-171

2) Grooten IJ, et al. Am J Obstet Gynecol 2017; 216: 512. e1-e9

3) Li L, et al. Gastroenterol Res Pract 2015; 2015: 278905

4) Viljoen E, et al. Nutrition J 2014; 13: 20, 2891-13-20.

5) ACOG Practice Bulletin. Number 189, January 2018

硬膜外麻酔(概論)

硬膜外麻酔とは、硬膜外腔に局所麻酔薬を注入して分節麻酔を行う方法です。硬膜外腔とは背骨の中を通る脊髄という太い神経の膜一枚外側にある空間で、この場所に麻酔薬を注入します。英語では”epidural”なので、医療者には「エピ」と呼ばれることもあります。

無痛分娩に硬膜外麻酔を使用する時には、本格的に陣痛がついてきたら(目安としては子宮口4~5cm開大時)カテーテルと呼ばれる細い管を背中から針を刺して硬膜外腔に留置します。その際に誤ってクモ膜下腔(硬膜外腔の先)に入っていないかの確認をしたり、試験投与として少量の麻酔薬を注入して異常が出ないか確認します。その後患者さんの状態に問題なければ本格的に鎮痛用量のお薬を使用していくことになります。

帝王切開の術後鎮痛を目的に使用する場合には、手術前に脊椎クモ膜下麻酔と一緒に導入します。お腹を切る手術の後は通常痛みが強くなりがちですが、硬膜外麻酔があると特に手術日をとても楽に過ごすことができます。

リスクとして特に気にしなければいけない重篤なものは薬のアレルギー、局所麻酔中毒、全脊髄麻酔、硬膜外血腫・膿瘍や脊髄損傷による下肢の感覚障害など、なんだか恐そうなものが並びますが、いずれも頻度の違いはあるものの数万〜数十万分の1程度と、とても稀です。

にしじまクリニックでは日本産科麻酔学会に所属する、経験を積んだ常勤の医師が麻酔を行なっており、施設としても埼玉県では最も早くJALA(無痛分娩関係学会・団体連絡協議会)に登録されております。 ご希望の際は無痛分娩、帝王切開ともお気軽にご相談ください。

(副院長執筆、一部院長加筆。12月2日公表)

妊娠糖尿病(序論)

妊娠糖尿病とは「妊娠中はじめて発見された糖代謝異常」1)のことをいいます。妊娠におけるホルモンのバランス変化などにより2)、妊娠中は血糖値が上がりやすいのです。採血の値で妊娠糖尿病を診断します。

実際の妊娠と出産に関して、血糖および体重管理がなされていない場合は、難産のリスクが高まります。例えば陣痛・分娩時間が長引いたりすることです。児(赤ちゃん)が大きくなりすぎて産道に対し児の頭が大き過ぎたり、児が姿勢を変えながら出口に到達するのに位置(回旋)異常を起こしたり、ご本人の腟および会陰の一部を含む軟産道3)が相対的に狭くなり、傷を深く負ってしまうこともあります。

私院長が国境なき医師団の医師としてナイジェリアへ派遣された時、妊娠糖尿病の管理がなされていないための産道通過障害と、おそらく妊娠糖尿病に伴うものであろう赤ちゃんの奇形が多いのに驚きました。これらは母児の命に関わることがあるのです。

無痛分娩・硬膜外麻酔を希望されている方は、体格から麻酔処置が困難な場合があります。

切迫早産薬として使われている塩酸リトドリン(商品名ウテメリン)も、糖尿病合併の場合は原則禁忌4)なので、早産のリスクも高まります。

妊娠糖尿病、まずはご自身の食生活から見直されてみる事をおすすめします。ただ何事も『バランス』が大事ですので、気になった方は当院スタッフへお声かけください。

1)妊娠の糖代謝異常 診療・管理マニュアル(メジカルビュー社)

2)妊娠・分娩・産褥の生理(メディカ出版)

3)西島重光 コンパス産婦人科(メック)

4)今日の治療薬(南江堂)

妊娠中の体重管理

こんにちは、副院長の石田です。

妊婦健診ではお母さんや赤ちゃんのコンディションを様々なデータを使って評価しています。エコーや血液検査だけでなく診察前に皆さんに行っていただく血圧、体重測定や尿検査などは重い妊娠合併症を防いだり見つけたりするのに非常に有用です。そんな中で皆さん女性ということもあり体重はとても気にされている項目の一つだと思いますが、実際にどのくらいなら増えてもいいんだろうと悩んでいる方も少なくないようです。というわけで本日は妊娠中の体重管理に関してお話ししたいと思います。

妊娠中の体重増加の内訳

多くの方がご存知の通り妊娠末期には妊娠前に比べて平均で10kgくらい重くなりますが、この内訳としては半分くらいが赤ちゃん、羊水、胎盤などで、残りの半分はお母さんの血液を含めた水分や脂肪の増加分、それに子宮が大きくなった分だと言われています。なので出産直後に妊娠前の体重まで落ちるかと聞かれればそうはならないということになります。

実際にどのくらいまで増えていいのか

これはお母さんの妊娠前の体型によって決められます。具体的にはBMI(体重(kg)÷身長(m)÷身長(m))の数値によりやせ〜肥満までが国際的に定義されており、それに基づいて日本ではBMIが18.5未満のやせている人は9〜12kg、18.5以上25.0未満の普通体型の人は7〜12kg、そしてそれ以上の肥満体型の人は個別対応となっています 1)。個別対応というのは分かりにくいですが、一応5kgぐらいを目安にすることになっているものの、実際には妊娠終了までほとんど体重が変わらない人もいたりします。体重増加基準は国が違えば数字も変わってきます。例えばアメリカではやせの人は12.5〜18kg、普通の人は11.5〜16kg、肥満の人は5〜11.5kgということになっており、日本よりもやや甘めです 2)。上記を考慮すると、妊娠の時期によって違いはあるものの、1ヶ月に2kg以上体重が増える場合には気をつけなければいけません。

体重が増えすぎると何がいけないのか

まず、イメージ通りかもですがお母さんの体重が増えすぎると赤ちゃんも育ちすぎることがあります 3)4)5)。また、妊娠高血圧症候群や帝王切開の可能性が高くなったりもしますし、その他出産後にお母さんの体重が戻りにくくなったり、赤ちゃんが生まれた後肥満児に育つ危険まであるようです 4)5)6)。また、体重が増えなさすぎた場合も逆に赤ちゃんが小さくなるようで注意が必要です 3)。

まとめ

妊娠中の体重増加は頑張っている方でも思ったようにいかないことがあります。ただ、体重増加は理論的には摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスで決まるので、病気とかでなければ意識せずに間食などで食べすぎていたり、糖質や脂質の多いバランスの悪い食事を摂っていることが多いです。逆にもともと運動習慣のある女性では筋肉量が多いため基礎代謝が高く太りにくい素養ができており妊娠に有利と言えるでしょう。今妊娠されている方はバランスの良い食事と適度な運動を心がけていただくことが大切ですが、今後妊娠をご希望されている方も是非、自分とまだ見ぬ赤ちゃんのために健康的な生活を心がけてみてください。

ところで今回の記事を書くにあたって色々と調べていたら、海外で書かれた論文の一つに「巷では自分と赤ちゃんの2人分食べなきゃ!と言って好きなだけ食事を摂る妊婦がいるが…」という前置きが書かれたものがあって、これ言うのって日本だけじゃないんだなーとちょっと微笑ましくなりました。

1) 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/dl/h0201-3a4.pdf

2) Institute of Medicine (US). Weight gain during pregnancy; 2009

3) Siega-Riz AM, et al. Am J Obstet Gynecol 2009; 201: 339. e1-14

4) Langford A, et al. Matern Child Health J 2011; 15: 860-5

5) Nohr EA, et al. Am J Clin Nutr 2008; 87: 1750-9

6) Emily Oken, et al. Am J Epidemiol. 2009 Jul 15; 170(2): 173-180